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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
63/233

60 妨害

2019/1/12 見直し済み


 予想もしていない展開となったのか、二回生は落ち着きをなくしていた。

 事前に情報を集めた二回生は、苦労こそあれども、負けるとは思っていなかったのかもしれない。

 なにしろ、この展開を予想していた拓哉ですら、出来過ぎだと言いたいくらいだったからだ。


「どうなってるんだ。一回生がこんなに強いとか……」


「くそっ! 唯の噂だと思ってたのに……」


「異常だわ。あの動きとか、三回生よりも速いんだけど……」


「やっぱり、鬼神が教えているって、本当だったのか」


「てか、鬼神が生徒になってまだ二ヶ月しか経ってないんだぞ」


「なんか、本当はズルでもしてないか?」


「確かに……ララカリアがプログラムした機体だし、性能が違うんじゃないか。これって不公平だろ」


 控室の中では、顔を青くした二回生のコソコソ話が飛び交っている。

 挙句は、機体の違いだと言い出す者も居た。

 それも仕方ないのかもしれない。なにしろ、三試合が終了して一回生の三組が勝ち上がっているのだ。嫌な現実から目を背けたくなるのも当然だろう。

 ただ、三試合とも一回生が勝利したことで、驚きだけではなく、疑惑まで持たれているようだった。


 ――まあ、そう思いたくなるのも仕方ないか……あれだけの戦闘を見せられたら、誰でもそう思うわな。でも、この人達って、そんな考えでこれからやっていけるのかな? 機体云々の前に、身の程を知るべきだと思うんだけどな。


 少し不憫ふびんには思うが、これは勝負の世界だし、強い者が勝って当たりまえなのだから、文句を言われてもどうしようもない。しかし、それと同時に憤りを感じる。

 戦争の少ない世界からやってきた拓哉でさえ、その破壊がもたらす結末は知っている。飽くまでも歴史資料や紛争地域のニュースで得たものだが、自分がその場に居なくても、戦争が如何に悲惨であるかは想像できる。それが知識だけだとしても。そして、この世界はその戦争の最中であり、今この時も戦場に送られる可能性すらあるのだ。


 周囲の声を耳にして、思わず溜息を吐いてしまう。

 そんなタイミングで、唐突に控室の扉が開かれた。


「一回生はいるか?」


 入ってくるなりそう言い放ったのは、実機授業の教官だった。

 その教官を目にした途端、拓哉の表情が険しさを見せる。

 そう、その教官は、拓哉を目の敵にしている節があるのだ。

 そのことを知るクラリッサは、チラリと拓哉を見るが、直ぐに澄ました表情を教官に向けた。


「演習場に居る者以外は、全員揃っていますが……突然、どうされたのでしょうか?」


 彼女は興味がなさそうにしているが、明らかに怪しんでいた。

 どうやら、彼女は彼女で何か思うところがあるようだ。というのも、どれだけ澄ましていようとも、拓哉には分かったからだ。彼女の顔が胡散臭いと口以上に述べていると。

 しかし、それを知ってか知らでか、教官は気にすることなく言ってのけた。


「一回生が使っている機体だが、今後は使用不可となる」


 ――そうきたか。ほんと、誰が裏で糸を引いているのやら。


 行き成りの機体使用禁止命令に慄くが、拓哉は直ぐに思考を切り替えた。

 教官の言葉はどう考えても、普通ではないからだ。

 だいたい、対応が早過ぎる。機体の使用を禁止するなど、それほど簡単に決められることではないはずだ。

 それこそ、それを検討した途端、ララカリアが発狂して、しっちゃかめっちゃかにするだろう。

 拓哉の思考は、ララカリアが暴れる姿を映し出したところで終了する。

 というのも、クラリッサが反応したからだ。彼女は突然の使用禁止命令にも拘わらず、気にした様子もなく振る舞う。ただ、最低な人間でも見るかのような眼差しを教官に向けていた。

 そう、クラリッサは、その教官をブラックリストに書き込んだのだ。


「それはどういうことでしょうか? なにゆえ初級訓練機を使用不可とされたのですか? それに、それは校長命令でしょうか?」


 堂々と大きな胸を張りつつ、蔑みの視線を向けるクラリッサを目にして、一瞬だけ、教官は苦虫でも噛み潰したかのような表情となったが、直ぐに平静を装うと「もちろん、校長命令だ」と告げてきた。

 そのやり取りを眺めていた拓哉は、即座に拙いと感じる。クラリッサの乱が起ると思ったのだ。

 ところが、予想に反してクラリッサは至って冷静な様子だった。いや、それどころか、訝しげにしていた表情を笑みに変えて冷静に接した。


「分りました。それで、理由は教えてもらえるのでしょうか?」


 ――そんな理由なんて聞かなくても分かるよ。


 拓哉にとって理由は明白だった。

 二回生が立て続けに負けたのだ。いや、ついさっき二回生が口にした言葉こそがその理由だ。

 裏で画策している者は、ララカリアの機体が特別だと考えたのだ。まあ、確かに特別ではあるが、だからと言って実力以上の力を発揮できるという訳ではない。

 しかし、クラリッサはその明白な理由を問うた。

 その意図が分からず、拓哉は彼女に視線を向ける。

 教官はといえば、クラリッサがキャリックの威を借りていると感じているのか、少し嫌そうな顔を見せながらも、淡々と答えてくる。


「機体が違うのは不公平だというクレームが入ったのだ。それもララカリアのプログラムだからな。そもそも、これまでの異常な戦闘を見れば解るだろ。一回生がこんなに強いはずがないのだ」


 ――おいおい、こんなはずはないって、どういうことだ? かなりムカついたぞ。


 拓哉は一回生が弱くて当たり前だという教官の言葉に憤慨した。

 そして、思わず言わなくていい言葉を口にしてしまう。


「それなら、二回生も同じ機体を使えばよいのではないですか? その方が楽しそうですね。是非とも戦ってみたいです。ああ、もちろん、今回は控えめにするつもりです。スクラップになんてしたら、ララさんに怒られますからね」


 もちろん今回の装備は模擬専用なので、機体がスクラップになるようなことはない。しかし、拓哉の嫌味は教官の表情を引き攣らせるだけではなく、この場に居る二回生を凍り付かせた。


「ちっ! 調子に乗りやがって……まあいい。とにかく、あの初級訓練機は使用禁止だ」


 嫌味を食らった教官が舌打ちしつつ顔を歪ませたが、なんとか怒りを堪えたようだ。

 その背景には、キャリック、リカルラ、ララカリア、三人のお気に入りという事実があるのだが、拓哉はそれに気付かない。

 ただ、そこでクラリッサが割って入った。


「それで、初級訓練機が使えないとなると、どの機体で戦えば良いのですか? まさか、生身で戦えとか言いませんよね?」


 クラリッサは即座に話しを戻したのだが、どうにも言葉にもとげがある。

 再び教官は顰め面を見せるが、文句を口にすることや、怒鳴り散らすことはなかった。

 校長の姪という立場は、思いのほか教官たちに対して効果があるようだ。


「他の生徒と同じPBAを使え」


「分りました」


 教官の答えに、リディアル達がショックを隠せない様子だったが、クラリッサはそれを横目でチラリと見ただけで、意に止めていない。ただ質問を付け加えた。


「機体はこちらで選んでも構いませんよね?」


 彼女の表情からは何も読み取れない。見事なほどのアルカイックスマイルだ。

 ところが、その表情が破られる。


「ダメだ。機体はこちらで用意する」


「それは――」


「決定事項だ」


 途端に、クラリッサの表情が曇る。

 それに満足したのか、教官はほくそ笑みつつ退出しようとするが、その脚が止められる。


「それは五組目からでよいですか? 四組目は今から演習場に入るところです」


 クラリッサは教官から視線を外し、ティートの操る機体が今まさに演習場に入場している姿を映すモニターに向けた。

 すると、その質問を耳にした教官もモニターを仰ぎ見る。そして、投げ捨てるように一言だけ返した。


「それで構わん!」


 随分と横柄おうへいな態度だが、クラリッサは表情を変えることなく、頷くことで会話を終わらせた。

 ただ、彼女の表情は優れない。それに不安を抱いた拓哉は、彼女の肩に優しく手を乗せた。









 モニターには、ティートが対戦相手を圧倒する場面ばかりが映されている。

 だからといって、そういう風に編集されている訳ではない。

 ただ単に、相手に手も足も出させることなく、常にティートが圧倒しているからだ。

 現在は四試合目が行われている訳だが、教官が出て行ってからそれほど時間が経っていない。

 そして、一方的にやり込められる映像に息を呑む二回生だが、拓哉としてはそれよりも気になることがあった。


 ――PBAか……いや、問題はそこじゃない。向こうが機体を用意すると言うことが一番の問題だ。


 拓哉はPBAを使用すること自体に、それほど問題を感じていなかった。

 しかし、用意された機体に乗るというのが気に入らない。何を仕掛けられているか分かったものではないのだ。それこそ、機体を動かした途端に謎の故障が起ることすら起こり得る。

 そのことに不安を感じていると、リディアル達が拓哉を取り囲んだ。


「どうするんだ? タクヤ」


 代表してリディアルが尋ねてきたのだと思うが、他の面子も神妙な表情で拓哉に視線を向けている。


 ――PBAの使用か……確かにララさんのプログラムは最高だが、能力者が使うのならやはりPBAの方が有利だろうな。そういう意味では、教官たちは勘違いしてるんだろう。俺達がSBAを使っているのは、精密な動作の訓練を行うためなんだけど……仕込みに関しては、悩んでも仕方ない。取り敢えずデクリロさん達に確認を頼むしかない。それに、みんなに不安を煽る必要もないか……


 機体の確認をデクリロに頼むと決めて、不安そうにする面々に肩を竦めてみせる。


「思いっきり勘違いしてるみたいだな。みんなはいつも通りやればいい。ああ、ただ、ちょっと機体の動きの精度は下がるからそこだけ気を付けてくれ。ただ、サイキックが使えるから、いつもよりも楽だと思うぞ」


 慰めではなく事実を淡々と口にすると、誰もが笑みを見せてホッと息ついた。

 ただ、キャスリンはその精度が気になったのだろう。直ぐに笑みを消した。


「タクヤ君。精度がさがると拙いんじゃないの?」


「いや、そこはPBAだというべきだろ。サイキックで補正できるからな。今のお前達なら問題なく動かせるさ」


 そう、そもそもPBAとは、荒いプログラムをサイキックシステムで補っている機体なのだ。そこにドライバーの高い技術が合わされば、鬼に金棒となることは明白だ。

 それに実をいうと、拓哉は、PBAを乗り続けることが悪循環になっていると考えていた。

 というのも、初級訓練機での訓練では、純粋な操作能力が求められるが、PBAになると、途端にサイキックによる操作が求められる。その結果、サイキックシステムの使い方ばかり上達し、基本的な操作が劣化していくのだと考えていた。

 おまけに、初級訓練機を使うのは本当に初めの頃だけで、入校から三ヶ月も過ぎると、誰も乗らなくなる。そんな状況で操作が上手くなるはずがない。

 逆に、サイキックも使えて操縦が上手い人間が乗れば、その強さは倍増すると考えていた。

 そう考えた途端、思わず心中の声が零れてしまう。


「くくくっ。楽しいことになるぞ」


 一人でニヤニヤしながら笑みをこぼす。

 しかし、どうやら、それは減点対象だったようだ。

 クラリッサがすかさずツッコミを入れる。


「タクヤ。ごめんなさい。その笑い方は少し気持ち悪いわ」


 ――ぐはっ! 嫁候補にダメ出しされた……ちっ、それじゃ、この理不尽な想いは、対戦相手にぶつけるとするか。


 拓哉が不穏なことを考えていると、戦闘終了の合図がスピーカーから聞こえてくる。


 ――見なくてもわかるさ。ティトが勝ったんだよな。


 振り返ることなくそれを確信していると、リディアル達が放つ喜びの声が聞こえてくる。


 ――次はカティとキャスのペア。その次は俺とクラレだ。腕が鳴るぜ! おっと、その前に、デクリロさんに連絡だ。


 番が近付いてくるにつれてウキウキしてくる心を抑えながら、拓哉はすぐさまデクリロにPBAの整備を頼み込んだ。


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