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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
61/233

58 当日

2019/1/11 見直し済み


『いよいよ選抜戦が始まります。今回の戦いでも黒き鬼神が異様な力を発揮するのか。それとも上級生が意地を見せるのか。実に楽しみな戦いとなりますね』


『何を言ってるんだ! タクが殲滅するに決まってるじゃないか!』


 控室に置かれたモニターに解説者が映し出されているのだが、その横には、ゲストとして呼ばれたララカリアの姿があった。

 どこに設置されているかも解らないスピーカーからは、解説者の言葉を頭ごなしに否定するララカリアの台詞が聞えてくる。


 ――おいおい、訓練校内の模擬戦で殲滅してどうするんだよ!


 思わず、拓哉がツッコミを入れる。もちろん心の中でだ。

 その横では、仲が悪いはずなのに、クラリッサは納得の表情で頷いている。

 左側では、カティーシャが少し緊張した面持ちでモニターを見ているのだが、それ以外の九人はガチガチとなっているようだ。

 これもお決まりの光景かもしれない。なにしろ、過去に一回生が校内戦に参加した事実はないのだ。

 誰もが緊張して当然だろう。いや、それは二回生も同じだ。おそらく、この場で緊張していないのは拓哉とクラリッサの二人くらいのものだろう。


 選抜戦に参加する訓練生の控室の中を、さり気なく視線を巡らしてその様子を見て取る。


 ――ふ~ん。一回生は俺達十二人だけか……まあ、それも仕方ないな。クラレの話では初めてのことみたいだしな……


 表情を強張らせつつも敵意を放つ上級生の視線を無視して、そんな思考を巡らせていると、キャスリンが背後から拓哉の背中をつつく。


「ねえ、タクヤ君。私達、本当に大丈夫かな?」


 自信のなさそうな顔で、ガクガクと震える彼女は、不安をありありと見せていた。

 拓哉としては、その様子を見る限り、それは自分の台詞だと言いたくなる。

 それでも、彼女を突き放す訳にもいかない。それに、怯えた表情を見せているのは彼女だけではないのだ。

 ここは何とか元気づけてやるべきだろう。ただ、せっかくなら一度に済ませるかと考え、キャスリン以外の面子も手招きで呼ぶ。

 すると、ぎこちない動きで残りの八人が拓哉の周りに寄ってきた。


 ――お前等、どんだけビビってんだよ。


 彼等彼女等の表情を見て、思わず溜息を漏らしそうになるのだが、それを堪えて九人に向けて小声で話し掛ける。


「お前等と戦った俺が保証してやる。絶対に勝てるから自信を持っていけ!」


 拓哉自身が自信ありげに断言すると、不思議なことに誰もが、一気に安堵の表情をみせた。

 それは、鬼神から認めてもらったことによる変調だった。

 それを察して、拓哉は少なからず胸を熱くした。


 ――少なからず信用されているのかな。


 ムズ痒くも嬉しくなる反応に、心を温かくしたのだが、釘を刺すのも忘れない。


「だが、くれぐれもチョンボするなよ?」


 安堵していた面々の表情が、今度は苦虫でも噛み潰したかのような面持ちとなる。

 それがやけに可笑しくて、思わず吹いてしまったのだが、クラリッサから肘鉄を喰らって真顔に戻す。

 その光景が面白かったのか、リディアルを始めとした九人の緊張がぼぐれたようだ。

 意図した訳ではないが、結果良ければ全てよしということで頷く。


「トップバッターはリディとメイのペアだな。昨日の話を覚えてるな? 一回戦の相手は長距離攻撃が得意だ。くれぐれもボ~っと突っ立つなんてことはするなよ。いつもの調子でかく乱してやれ」


 参加する者達の対策は既に終らせている。

 どこから仕入れてきたのか、カティーシャが持ち込んだ訓練映像を分析し、それぞれの対戦相手の癖や得意技を徹底的に洗い出したのだ。

 もちろん、全員がそれを全て頭に叩き込むことは難しい。ただ、自分の対戦相手だけとなると、そう困難な行為でもない。

 拓哉は思い出せと念を押しながら、リディアルたちと対戦する二回生の情報を伝えるが、なぜかメイファが首を傾げた。


「ねえ、タクヤ君。トップバッターって、なんのこと?」


 ――ぐはっ! そういえば、この世界に野球は無かったんだ……


 全く関係ない所で、世界の違いによるギャップを踏んだのだが、リディアルはそのネタを気にすることなく、力強く頷いた。


「大丈夫だ! そんなヘマはしね~よ」


「それならいい」


 彼の自信ありげな返事に満足する。ただ、一回生が落ち着きを取り戻したことで、逆に周囲の二回生は不安な顔を強めていた。

 おそらく、二回生は二回生で、拓哉達の情報をかき集めたのだろう。

 その内容は、すこぶる二回生に不利なものだったのか、誰もが渋い顔をしている。


 ――まあ、下級生からコテンパンにされたくないのだろうな~。二回生には申し訳ないが、今回は俺達で総なめしてやるさ。


 心中で完勝を宣言していると、今度は顔見知りが近寄ってきた。


「やあ、お手柔らかに頼むよ」


「知り合いのよしみだし、少しは手を抜けよ!」


 まるで緊張感のない雰囲気で話し掛けてきたのは、カティーシャの実兄であるクーガーとその専属ナビゲーターであるベルニーニャだった。

 というか、この二人が参加することが、拓哉には不思議だった。

 実力があるのは察していたのだが、クーガーがあまり表に出るような派手なことをしないと、カティーシャから聞いていたこともあって、今回も参加しないものだと考えていた。


 ――大財閥の御曹司だからな。というか、なんでここに居るのやら……


 正直な話、そんな御仁がなにゆえ選抜戦に参加したのかも不明なのだが、三回生が揃って不参加となったのも不思議だと感じていた。

 ただ、今更それを言っても仕方ない。

 それよりも、考え事をしていたせいで、クーガー達への返答すら忘れてしまい、クラリッサとカティーシャから怪訝に思われてしまう。


「タクヤ、どうかしたの?」


「タク、大丈夫?」


 ――ああ、これは失礼なだけじゃなく、周りを不安にさせてしまったな……


 二人の声で現実世界に戻って来た拓哉は、まずはクーガーとベルニーニャに謝ることから始めた。


「すみません。少し考え事をしていて……でも、手は抜けませんよ?」


 この辺りが拓哉の融通の利かないところかもしれないが、それも生まれ持った性格なので致し方ない。

 ただ、そんな拓哉を後押しするかのように、カティーシャが強気な態度にでた。


「兄様には申し訳ないですが、今回は勝たせてもらいます」


 まさか妹からしてやられるとは思ってもみなかったのか、クーガーが少し驚いた表情を見せる。

 しかし、彼は驚きの面持ちを直ぐに収めると、ニヤリと歪ませた。


「ふふふっ。カティも成長したのだね。なかなか良い傾向だ。でも、私も本気でやるからね。負けても父上に泣き付かないように」


「うぐっ!」


 強気で立ち向かったカティーシャだったが、まだまだ、兄の方が一枚も二枚も上のようだ。

 お互い負けん気を見せているモルビス兄妹の遣り取りを眺めていると、室内放送でリディアル達と対戦相手の二回生の名前が呼ばれた。


『――今呼ばれた者は、直ぐに機体に搭乗後、合図がありしだい第一演習場に入場してください――』



「うっし! やるぜ! メイ、ガツンといくぞ!」


「もちろんや! うち等の凄さ見せてやろう」


「その意気だ! でも、チョンボに気を付けろよ!」


 気合いの入ったリディアルとメイファの台詞を聞き、拓哉が声を掛けると、二人ともガックリと肩を落とした。

 しかし、残りの仲間は気にするすることなく、全力で二人を励ましていた。









 今回の選抜戦は、五十組のトーナメントとなっているが、その組み合わせは学校側が勝手に決めたものだ。

 その所為か、一回生同士が早い段階でぶつかることはない。

 おそらく、学校側が平準化へいじゅんかを考慮したものだと考えられるが、悪意を以て表現するなら、二回生が有利になるように仕込まれているようにも思える。

 それでも、この組み合わせは、拓哉達にとっては好都合だった。

 なにしろ、一回生が早い段階で拓哉と戦うことがないのだ。因って、上手くいけば彼等の望み通り、全員が選抜に選ばれる可能性もあったりする。


「さて、出だしでつまずくと、後続が緊張するからな。頼むぞリディ」


 待機室に設けられた大型モニターに映るリディアル機を見やり、ここが重要だと思わず独り言を漏らす。

 ところが、二回生の機体に目を向けたクラリッサが、冷やかな笑みを浮かべて意味深な言葉を口にした。


「ふふふっ。今回の策略は裏目に出たわね」


 ――おいおい、声が大きいって……


 思わず、周囲を見回してから、彼女に視線を戻す。


「クラレ、迂闊うかつなことを口にするなよ。校長の立場もあるだろ?」


「そうね。次からは気を付けるわ。というか、カティがサイキックで結界を張ってるから、誰にも聞こえていないはずだけど」


「それならいいんだが……」


 今まさに戦闘が始まろうかというところで、波乱を呼びそうな発言に溜息を吐くのだが、彼女の気持ちも分からないでもない。

 というのも、今回の組み合わせは、怪しい臭いがプンプンする。

 クーガーと拓哉が決勝でしかぶつからない組み合わせだし、二回生は比較的優しい組み合わせと思える内容になっている。

 というか、そうとしか思えないのだ。

実際は、拓哉とクラリッサでしごいたこともあって、リディアルを始めとする九人は、そう簡単にやられたりしないだろう。いや、それこそ拓哉が言うように、勝ってしまうことすらある。

 それを考えると、拓哉は思わず笑いが込み上げてきた。


「くくくっ」


「どうしたの? タクヤ。急に嫌らしい笑い方なんてして……」


 今回の選抜戦で暗躍あんやくしている奴等の苦労が無駄骨になることを考えて、思わず笑いが込み上げてきたのだが、クラリッサはその態度をいぶかしく感じたのだろう。首を傾げて問いかけた。

 訝しげな視線を向けられた拓哉は、笑いで緩んだ口元を隠しながら、自分の思いを伝える。


「いや、犯人は何を考えたか知らないが、有り難い話だなと思ってさ」


「そうね。とても愚かだけど……今は少なからず感謝しているわ。こういうのを裏目というのでしょうけど、まさか策略に感謝することになるとは思わなかったわ」


 皮肉の利いたクラリッサの言葉が放たれたと当時に、控室のスピーカーから試合開始のサイレンが鳴り響いた。


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