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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
60/233

57 前日

2019/1/11 見直し済み


 見るも不憫ふびんな第三格納庫。

そこに並ぶ初級訓練機は、宝石のように輝いている訳ではないが、拓哉にとっては最高の宝物だと言えるだろう。

 それは武骨な造りであり、見るからに日常では不要な存在だと思えるが、己の手足となって意のままに動くその機体は、拓哉にとって何よりも掛け替えのない友だと思えた。

 戦いのみを求められた鉄のかたまりを眺めながら物思いにふけっていると、後ろから声が掛けられた。


「いよいよ明日だが、調子はどうだ?」


 その声を発したのは、どう見ても十歳児にしか見えないララカリアだ。

 相も変わらずサイズの合っていないダボダボの作業服姿で現れた。

 おそらく、拓哉を心配してやってきたのだと思うのだが、その表情からは全く読み取れない。

 なにしろ、彼女の顔にはニヤニヤとした表情が貼り付いているからだ。

 実のところ、拓哉の調子なんて関係ないと思っているのだろう。

 そうなると、彼女の知りたいところは別にある。それは、多分、拓哉以外の五組のことだろう。

 だからといって、彼女が彼等のことを気に入っているのかといえば、それも否だ。

 彼女にとって、彼等は飽くまでも拓哉の付属でしかなく、日々鍛錬に付き合った拓哉を気にしているのだ。

 それも、拓哉が自分の夢を叶える存在だと感じているが故の思考だろう。

 ただ、それと知らない拓哉は、純粋に彼等のことを考える。


 ――俺に関してはその通りだし、あの五組もなんとかなるんじゃないかな。


 拓哉がここまで自信ありげにしているのは、それなりの理由が在る。そして、その裏には、三回生がこぞって参加しなかったという事実もある。

 なにゆえ三回生の上位者が参加しなかったのかは分からない。ただ、これであの五組にもチャンスが回ってきた。

 しかし、拓哉はそこで首を横に振る。そう、選抜戦を勝ち抜くのはオードブルに過ぎない。目標は対校戦であり、その先にある戦場なのだ。


「まあ、何とかなると思いますよ。それよりも機体の方は大丈夫ですか?」


 拓哉はあの五組が搭乗する機体に視線を向けながらララカリアに尋ねる。

 すると、彼女は平坦へいたんな胸を張りつつ自慢げに返してきた。

 唯でさえダボダボの作業着だ。胸なんて見分けがつくはずもない。

 それでも、ララカリアは自信ありげに宣言する。


「誰がプログラムしたと思ってるんだ? 天下のララカリア様だぞ?」


 ――おいおい、自分で言うか?


 呆れる拓哉だが、彼女の痛々しい発言を軽く聞き流しながら質問を重ねる。

 いちいち付き合っていられないのだ。


「あの五機には、通常訓練機と同じサイキックシステムを搭載したんですよね?」


「ああ。まあ、あたいとしては気に入らないけど、今回は目をつむることにした。だから、絶対に負けんじゃないぞ」


「俺に関しては、大丈夫だと言っておきましょうか」


「何を言ってるんだ。全員が勝ち残るんだよ!」


 ――いやいや、それは無理だから……だって、選抜戦は個人戦で、組み合わせによっては、俺と当たるし……


「恐らく、俺と当たらない限りは大丈夫でしょう」


「ちっ、仕方ないな~」


 無謀な発言を口にしたララカリアだったが、どうやら納得してくれたようだ。

 舌打ちしながらも、満足そうな表情をしているララカリアを見やりながら、拓哉は最後の質問を投げかける。


「俺の機体は?」


 その質問を聞いたララは、満足そうな表情を更にニヤリと歪ませた。


 ――ララさん、その顔は気持ち悪いよ!?


 ララカリアの嫌らしい笑みを目にして、心中で腐してみたのだが、当然ながら気付くことのない彼女は、そのままブリッジでもするのかと思うほどに、乏しい胸を反らしつつ口を開いた。


「もちろんだ。例の頼みもしっかりとぶち込んだからな」


「そうですか。ありがとうございます」


 ララカリアの返事を聞いた途端、拓哉が喜色をしめした。

 余程に嬉しかったのだろう。反っくり返りそうな彼女に向けて礼を述べる。

 ただ、そこで、再び後ろから声が掛かった。


「タクヤ、そろそろ夕食の時間よ」


「タク、早く行こうよ。お腹ペコペコだよ」


 二つの声の持ち主は、もちろんクラリッサとカティーシャだ。

 しかし、その声が聞えた途端、ララカリアの眉間みけんしわが寄った。

 ララカリアからすると、この二人はお気に召さないようだ。ただ、その理由については、拓哉にも解らない。

 二人はそんなララカリアに気付いていないのか、気にすることなく拓哉の腕を取ると、そそくさと食堂へと向かおうとする。いや、その態度からすると、わざとやっているのかもしれない。

 どちらにしても、拓哉にとっては関係ないことだが、二人の態度は少しばかり失礼だと感じたのだろう。


「おいおい、そんなに急がなくてもいいだろ? てか、ララさんに礼くらい言ったらどうだ?」


 その態度があんまりだと思い、そう諫めてみたのだが、二人が反応するよりも先に、ララカリアが不貞腐れた表情で口を開いた。


「もういい。最近の小娘が礼儀知らずなのは理解してる。さっさと行け! だが、女王。絶対に負けるなよ」


 ――いやいや、見た目からするとあんたの方が小娘に見えるんだが……


 その容姿と台詞からして、恐ろしくシュールな光景だと感じている拓哉は、思わず心中でツッコミを入れたのだが、ララカリアの発言が気に入らなかったのか、クラリッサがピクリと反応した。


 ――ヤバイ、こめかみがヒクヒクしている……


 波乱の予兆を察知して恐れをなしていると、当の本人はこめかみをヒクつかせながらも、大人しい口調で対応した。


「ミス・ララカリア。本当にありがとうございます。とても感謝しています。もちろん、負ける気なんてないです」


 ――いやいや、その顔は感謝しているとは思えないんだけど……


 その冷たく白々しい態度は、間違いなく感謝なんてしていない証だろう。

 拓哉がそう感じるくらいだ。ララカリアが気付かないはずがない。

 しかし、見た目とは違って大人――かもしれないララカリアは、そっぽを向いたままそれに返した。


「例には及ばん。そもそも、タクのために、自分のためにやってることだ。お前達小娘に礼を言われる覚えはない」


 ――おいおい、それって喧嘩を売ってるとしか思えないんだが……


 ハラハラドキドキの黒ヒゲ危機一発状態となっている拓哉を他所に、今度は怪しい笑顔を作ったカティーシャが口を動かした。

 因みに、どうでも良いことだが、最近ではピカ〇ュウ版の危機一発が販売されていたような気がする。


「さすがは、天下の天才プログラマだよね。とても心が広いや」


 ――ぐはっ! 今度は貧乳対決なのか? この三人はどうしてこんなに仲が悪いんだ?


 以前はそれほど気にならなかったのだが、ここ最近はこの三人の不仲が顕著けんちょになってきている。

 ただ、その理由を知らないのは、この中では拓哉だけだ。

 クラリッサ、カティーシャ、共に女の勘が察知していた。

 そう、ララカリアが拓哉に依存していることを。

 それは現段階で恋ではない。しかし、それがいつ変化してもおかしくないと考えているのだ。

 それと同時に、ララカリアが二人を邪険にしている理由も似たようなものだ。それは言わずと知れた嫉妬によるものだ。

 しかし、それと知らない朴念仁である拓哉は、日々頭を悩ませているのだが、助けてくれる者もなく、いつ大戦争が起こるのかドキドキしつつなだめているのが現状だ。


「くっ、小娘が……一丁前の口を利くのはオムツが取れてからにするんだな」


「ぐはっ!」


 この戦いは、どうやらララカリアに軍配が上がったようだ。

 例のお漏らし事件を持ち出されて、カティーシャは舗装された地面に膝を突いて白い灰と化した。

 それを目にしたクラリッサがフォローするのかと思えば、不敵な笑みを見せている。


 ――おい。お前等、仲間意識とかないのか? ちょっと、引くぞ?


 あまりの態度に呆れてしまうのだが、そんな拓哉を無視して、残るクラリッサとララカリアが竜虎りゅうこのように睨み合う。


 ――勘弁してくれよ~~。


 睨み合う二人を覗い見ながら、絶望という気分を噛み締めていると、神からの救いの手が差し伸べられた。


「あっ、リディから連絡だ」


 ブルブルする携帯端末を取り出し、液晶に表示された名前を確認した拓哉が、わざと大袈裟に声を上げる。


「どうしたんだ? リディ」


『タクヤ、いつになったら食堂にくるんだ? みんなお腹を空かせて待ってるんだぞ?』


 リディアルの口振りからすると、どうやら、みんなは拓哉達を待っているようだ。

 その言葉に「しめた!」と思いつつ、なるべく顔に出さないように返答する。


「悪い。直ぐに行くから」


『頼むぜ! ティトなんて発狂寸前だぞ?』


「マジか!? 速攻で行くわ」


『了解!』


 あからさまに三人の戦士に聞こえるようなトーンで会話を終わらせ、休戦状態をつくり上げようとしたのだが、一人の戦士は灰のままだし、竜虎は全く耳に入ってないようだった。


 ――明日はいよいよ選抜戦なんだけど、こんなんで大丈夫なのかな?


 三人の姿を眺めつつ、拓哉は溜息を一つ吐いてから口を開く。


「はぁ~、俺は行くからな! 後は勝手にやってくれ! じゃ~な~~~~~」


 そう、拓哉は卑怯だと思いつつも、敵前逃亡を決め込み、さっさとその場から撤退することにしたのだった。


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