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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
59/233

56 噂話

2019/1/11 見直し済み


 食堂で夕食を摂っていると、周囲の噂話が聞えてくる。

 ただ、それは以前のものとは違う。

 拓哉やクラリッサに対する嫉妬や悪意といった感情から、別のものに移行したようだ。


「1D5の奴等が選抜戦に出るらしいぞ」


「奴等? エロ鬼神以外もでるのか?」


「今頃なにを言ってるんだ? 他の奴等も出るんだってさ」


「一回生にそれだけの実力があるとは思えんが……」


「それにD5のクラスだろ? 最低級じゃないのか?」


「いや、それが、鬼神が加わってからというもの、ここ一ヶ月、負けなしらしいぞ」


「はぁ? マジか? 負けなし? 鬼神ならまだしも他の奴もなんて在り得んぞ。いや、エロ鬼神が狩ってるだろ」


「いや、エロ鬼神は大人しいらしい。確かに、最近は痴漢行為もなくなったしな」


「それに、他の一回生に聞いたところからすると、事実みたいだな」


「なに言ってんだ。今じゃその話は有名だぞ。そもそも完全勝利すら当たり前なんだろ?」


 そう、噂の対象は拓哉からリディアル達に遷移した。

 ただ、時折、放たれる言葉が拓哉を苛立たせる。


 ――だれがエロ鬼神だっての! ふざけやがって……スカートだって……


 いまや、黒き鬼神という二つ名は、完全にエロき鬼神に移行していた。

 ただ、何にしても反論で居ないでいる。なにしろ、隠れてサイキックの鍛錬をしているものの、不可抗力とはいえ、一部の者のスカートを未だに捲っているからだ。

 その被害者は、クラリッサであったり、キャスリンであったり、ティートであったり、メイファであったり、ルーミーであったりする。

 その結果、メイファのキャラクター入りのお子様パンツが露見した。


 それはそうと、選抜戦が二週間後に近付き、出場者が公表されたことで、周囲は拓哉とクラリッサに対する下賤なネタを保留にしたようだ。

 噂を一気にリディアル達に持っていかれてしまったのだが、いつも噂話を鬱陶しく思っていた拓哉としては、諸手を振って喜びたいところだった。

 実際、最近では拓哉とクラリッサを対象にした噂も随分と減った。所謂、人の噂も七十五日という奴だろう。

 ただ、噂されることに慣れていない本人達は、とても居心地悪そうにしていた。


「なんか、みんながあたし達を見てるんだけど……」


「キャス、ビビってんじゃね~ぞ」


 おどおどするキャスリンをリディアルがたしなめているのだが、彼女としては食べ物が喉を通らないといった感じだ。

 それに落ち着きがないのは、キャスリンだけではない。

 機体に乗らない時は、まるでお嬢ちゃんのようなファングもその一人だ。


「周りがジロジロ見てる。恥ずかしい……」


「おい! シャキッとしろ! キン〇マついてるんだろ!」


 ――いやいや、ティト、もしかしたらお前にも付いてるんじゃいか?


 見た目と違って中身が男らしいティートを見て、拓哉は失礼なことを考えるが、間違っても口にはできない。というか、公衆の面前で、女の子が口にする言葉ではないだろう。

 、今度はメイファがブルっと震えたかと思うとボソリと溢した。


「なんか、緊張してきた~」


「メイ、ここでお漏らしはダメなの」


「せ~へんわ! ルミ。失礼やで」


「でも、この前してたの」


「そんなん……あんたもや!」


「ルミは、ちょっぴりなの。メイはびっちょりなの」


「あんたかて、めっちゃビチョビチョやったやないか!」


 どうも、メイファは今更ながらに自分達の願いが大それたことだと気付いたらしい。

 ところが、眠そうなルーミーが不毛なツッコミを入れたものだから、お互いで女のサゲ合いを始めてしまった。

 ただ、見るに堪えないと感じたのか、トルドが割って入った。


「二人ともやめろよ。お互いに自分の首を絞めてるぞ」


「トルドかて、泡吹いとったやないか」


「トルドは、気を失ってたの」


「うっ……うっさいぞ!」


「三人とも、周りが見てますよ」


 諫めようとしたトルドだったが、見事にミイラになった。

 簡単に脚を引っ張られて三つ巴の戦いとなったのだが、冷静沈着なレスガルがツッコミを入れることで幕を閉じた。

 やっとのことで騒ぎが終息したはずなのだが、新たな火種がくすぶりはじめた。

 何が楽しいのか、不毛な戦いをニヤニヤしつつ眺めていたトーマスが、自分の金髪を指でクリクリしながら、意味不明なことをいいはじめる。


「これで、女の子を選びたい放題だね。いつまでもタクヤの独占は許さないよ」


 ――ぐはっ! なんかガ○マかと思ったが、あっちの方がマシだった……そこまで女にモテたいか? いや、独占なんてしてないし……


 その仕草から某アニメに登場するナルシストみたいだと思うが、どうやらこっちの男の方がイレギュラーなようだ。

 あまりの発言に、拓哉は思わず呆れてしまう。

 ただ、目が点になったのは拓哉だけではなかったようだ。

 他の仲間もトーマスへ白眼を向けている。

 ところが、リディアルだけは相手にするつもりがないようだ。真剣な表情を拓哉に向けた。


「なあ、タクヤ。俺達ってどれくらい強くなったのかな?」


 どうやら、ここにきて怖気づいてしまったようだ。

 その表情からして、本当に心配しているのだろう。


「どうしたんだ、いまさら。その返事は、数日前にもしたと思うんだが」


「分かってるんだけどさ~。いつもタクヤが相手で、一発も当てられないんだ。心配にもなるだろ?」


 そう、今回の問いは、自分達の実力が向上しているとは思えないことが原因だった。

 なにしろ、この五組は拓哉を相手にして、未だに完敗状態なのだ。誰一人として、拓哉の機体に一撃を掠らせることすらできないでいた。

 不安にならない方が嘘だろう。故に、拓哉は飴を与えることを考えた。


「心配すんなよ。絶対に勝てるとは言わないが、チョンボさえなければいい戦いになるはずだ」


 実際、異常ともいえる拓哉の戦闘に何度も同乗し、毎日のようにクラリッサから指摘を受けているのだ。これで成長しなければ諦めるしかないだろう。

 それを理解していないのか、リディアルは拓哉の言葉を聞いて喜色を見せた。


「マジか? 信じていいのか?」


「ああ。飽くまでも、チョンボしなければだがな」


「うぐっ……」


 どうにも、渋い飴になったようだ。

 拓哉としては甘い飴を与えたつもりだったのだが、リディアルはまるで梅干しでも食べたかのような表情となっていた。


「そんなことよりも、あと二週間しかないんだ。俺に一撃でも入れてみろ」


 その一言で全員が酷く嫌そうな顔をした。

 それを見たクラリッサがクスクスと笑い始める。何が彼女の琴線きんせんに触れたのかは解らない。

 それでも、場の空気が変わったことを理解した拓哉は、ホッと安堵の息を吐くと、残り二週間という短い期間で、彼等彼女等の技能を向上させる方法について思考しはじめた。







 コックピット内にモーター音が鳴り響く。

 本来、遮音性の高く作られているだけに、異常な状態であることは、機体の状態を管理するナビゲーターでなくても知ることができるはずだ。


「駆動系の稼働率九十八パーセント。関節部の温度上昇が止まらないわ」


 悲鳴をあげそうな機体の状況を、クラリッサが冷静な声で伝える。

 ただ、過度の負荷については、機体を操る拓哉にも理解できていた。


「あと少しの辛抱だ。この調子でどれくらいもつ?」


 リディアルの攻撃を素早く躱しつつ、拓哉はクラリッサに問う。

 その問いは、彼女にとって当然の結果なのだろう。速やかに予測値を口にした。


「十五分。いえ、十分が限界かしら。それ以上は関節部が破損する恐れがあるわ」


「十分だ!」


 返事をしつつも、ティートの攻撃を躱してエネルギー弾をぶち込む。

 もちろん、模擬弾の攻撃なので物理的損傷はない。


『くそっ! あと少しだったのに!』


 戦闘不能と診断されて動けなくなった機体からは、ティートの悔しがる声が聞こえてくるが、それに構っている暇はない。


 ――あと、三機。次はファングだ。


 既にトルドは戦闘不能となっている。残っているのは、リディアル機、キャスリン機、ファング機だ。


「右方二十五度、ファング機。左方十九度、リディアル機。まずいわ、キャスリン機が見当たらない」


 ――ちっ! カティのサイキックで光学迷彩か! 厄介極やっかいきわまりないな……


 心中で舌打ちしつつも、リディアルが発したエネルギー弾を躱して、瞬時に反転する。

 すると、拓哉の動きが読めなかったのか、ファングの回避行動が遅れる。

 拓哉は隙ありとばかりに、すかさず中距離銃(ミドルアタッカー)でエネルギー弾をぶち込み、クラリッサが告げる着弾報告を聞く前に、機体を降下させながらも旋回する。


『畜生! またやられちまったぜ!』


 行動不能となった機体からファングの声が聞こえてくる。これも、ティートの時と同様にスルーして次のターゲットに向かう。

 ところが、そのタイミングで無線からリディアルの声が聞こえてくる。


『もらったぜ!』


 ――いやいや、その台詞は死亡フラグだぞ。だから、チョンボに気を付けろって言っただろ?


 そんなツッコミを入れながらも、機体を一気に宙へと飛び上がらせる。

 その途端、今まで勝った気でいたリディアルから絶句の声が聞えてきた。


『と、とんだ! マジか!』


 まあ、信じられないと思うのも無理からぬ話だ。

 なぜなら、拓哉達が使っている機体は、陸専用のものであり、空を飛ぶような機構を備えていないからだ。

 それでは、どうやって飛んでいるかというと、ジャンプしているだけなのだ。

 しゃがみ込んだ状態から、駆動系の瞬発力を使って一気に飛び跳ねただけなのだ。

 ただ、同時に、遠距離銃(クレストゲッター)を地面に向けて放っている。

 そう、射撃時に起る自由反動フリーリコイルすら利用しての効果だ。

 しかし、この陸専用の機体が宙を舞うなんて考えつかないリディアルは、その動きに翻弄されて棒立ちとなる。


 ――ダメだな。この棒立ちも減点対象だ! 戦闘中に呆けてどうする。


 拓哉は心の中でダメ出しを連発しながら、中距離銃(ミドルアタッカー)でエネルギー弾をぶち込み、何事もなかったかのように着地する。

 その攻撃は見事にリディアル機の胸部分――コックピットに直撃した。


『くそっ~~~~~! 今日こそ勝てたと思ったのに~~~~!』


 ――まあ、悔しがるのはいいが、もう少し慎重になるべきだな。はてさて、残ったキャスが……ほんと、カティが厄介だな。


 負け犬(リディ)の遠吠えをスルーして、光学迷彩で姿を消しているキャスリンを探す。

 計器を使って、クラリッサが必死に索敵しているはずだが、拓哉は敵の行動を読むことで、その位置を特定しようとする。

 そのタイミングで、クラリッサから問い掛けがあった。


「残り六分。ここで一旦休ませる?」


「いや、奴等はそれを狙っているだろうな」


「カティのことだからそうでしょうね」


 どうやら、クラリッサも同じことを考えていたようだが、機体の稼働状況も気になったのだろう。

 しかし、拓哉としては、向こうにみすみすチャンスをくれてやる気はなかった。

 ただ、姿を隠したキャスリン機を探すのは、そう簡単なことではなかった。

 それ故に、どうしたものかと思考する。


 ――止まるとこっそり接近されるだろうし……いや、それも悪くないな。


 そう、拓哉は逆にチャンスを与えることで、相手を見つけることにした。

 一見、一か八かに思えるが、拓哉には即座に対応できる自信があった。

 それは、拓哉が接近戦を好むことが起因していたりするが、攻撃が遠距離であるほど対処もしやすい。

 即座にそう判断すると、クラリッサに行動の変更を告げる。


「駆動系を待機状態にしていいぞ」


「えっ!? 大丈夫なの?」


「ああ、その代わり後方をしっかり確認してくれ! 光学迷彩も万能じゃないからな。特に振動センサーと熱源センサーを重点的にチェックだ」


「なるほど、分ったわ」


 クラレは瞬時に拓哉の考えを理解したようだ。直ぐに指示通りに機体の調整を行う。

 サイキックで隠れているとはいえ、そこに存在すれば、必ず音が発生する。そして、音の発生は空気の振動だ。機体を激しく稼働させている時は、検知できない振動であっても、機体を静止させてやれば見つけることができるだろう。熱量に関しても同様だ。


「温度低下。でも、損耗率が凄いわ。これは大きな問題ね」


 それはそうだろう。拓哉が搭乗した場合、関節部や駆動部のサイキックによるコーティングを行っていないのだ。それはオイル切れのエンジンに等しく、機体の損耗が著しいのは、異世界においても当然の原理だ。


「ん? 左後方三十四度」


 クラリッサが異常を検知したようだ。

 ところが、拓哉が全く反応しないので、彼女は怪訝な表情をみせた。


「えっ? 何もしないの?」


「ああ。クラレはしっかりその怪しいモノを見ていてくれ。特に地面な」


「ええ。分かったわ」


 そう、いくら光学迷彩しようとも、地面に跡を付けずに移動することはできない。そして、それを証明するかの如くセンサーが地面の異変を検知した。

 それを確認した拓哉は、即座に機体の駆動システムを全開にする。

 次の瞬間、拓哉が操る機体のあった場所に、エネルギー弾がぶち込まれる。


 ――しびれを切らしたみたいだな。悪いが、もう逃がさんぞ。


 発砲したことにより、既に敵の場所はマッピング済みだ。

 こうなれば、倒すのも難しいことではない。いや、容易いと言えるだろう。

 即座に、機体を高速移動させつつ、透明となっている敵を撃ち抜く。

 その攻撃は、何もない空間を撃ち抜いたかのように見えたが、エネルギー弾は透明の膜にぶつかったような反応をみせた。

 同時に、相手が戦闘不能であることをこちらに知らせてくる。


『ちょっ、ちょっ、いくらなんでも一撃は……』


 キャスリンが無線で愚痴を溢してきたが、それを彼女の後ろに座るカティーシャが諫める。


『タクに場所を察知されたら、見えて居ようが、見えて無かろうが同じだよ。あの一撃を外した時点で負けてるんだよ』


 カティーシャの言葉が正しいと判断したのか、キャスリンの大きな溜息が無線で伝わってくる。それは、まるで肺の中身を全て吐き出すかのような響きだった。


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