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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
58/233

55 経過

2019/1/10 見直し済み


 マップの状況を確認すると、味方の機体が次々と敵を殲滅せんめつしていく。

 その様は、拓哉の目で見ても圧倒的と言えるほどの戦闘だった。

 しかし、拓哉が活躍している訳ではない。どちらかと言えば――ハッキリ言えばサボっている。


『よっしゃ~! 今日も完勝だ!』


『まあ、オレ達だってやればできるんだぜ』


『うひょ~~! 今日はタクヤの出番なしだぞ!』


『とうとうオレ達の実力が日の目を浴びる時がきたようだな』


 そんな声がヘッドシステムのスピーカーから聞こえてくる。

 その声からすると、リディアルから始まり、トルド、ファング、ティートの順番だ。

 どうやら、彼等は拓哉抜きで完勝できたことに大満足しているようだ。

 それについては、拓哉も否定するどころかめても良いと思っていたのだが、そこでキャスリンの声が割って入った。


『タクヤ君、どうだった?』


 その声は、どうだと言わんばかりのもので、自信ありげな声色だった。

 それ故に、褒めてやろうと思っていた気持ちを押し込めて、注意点を述べていく。

 そう、拓哉から見れば、相手が弱すぎることもあるし、まだまだ至らないところばかりで、これくらいで満足してもらっては困るのだ。


「キャスの行動はワンテンポ遅い。もう少し反応速度をあげること」


『あぅ!』


「リディは逆に出るのが速過ぎる。被弾ひだんはどれくらいだ? 実物だと結構なダメージになっていると思うぞ」


『マジか!』


「トルドは無駄弾むだだまを撃ちすぎだ。エネルギー残量を確認しろ。いや、暫くは射的練習だな」


『ぐはっ!』


「ファングは突っ込み過ぎだ。相手が強かったらひと溜まりもないぞ。それこそ特攻でもしたいのか?」


『きゃいん!』


「ティト、いい加減に真っ直ぐ突進するのを止めろ! はちにされるぞ。脳筋じゃないのなら、少しは避けることを考えろ」


『うぎゃ!』


「まあ、それでも前よりは進歩したな! みんな、よく頑張ったよ」


 恐ろしく辛辣な言葉で釘を刺しつつも、最後に褒めてやると喝采かっさいの声が聞こえてくる。

 もしクラリッサがここにいれば、甘いと言いたくなるのだろうが、偶には飴も必要だろう。


『こんな日が来るとは……』


『初めて褒められたわ』


『よし! この調子で頑張るぞ』


『ふふふっ、次はタクヤを倒すぜ』


『くくくっ、このツンデレ野郎が!』


 リディアル、キャスリン、トルド、ファング、ティートが喜びを露わに、感想を述べてくるのだが、最後のツンデレ野郎は頂けない。

 途端に、拓哉の眉がピクリと反応する。

 もちろん、拓哉としては、勘弁しろという思いだ。

 喜ぶのは結構なことだし、彼等が成長したのは事実なのだが、真剣に鍛錬たんれんを始めてから既に一ヶ月の時が経っている。

 それを考えると、これくらいで満足してもらっては困るし、まだまだきたえる必要があるのだ。

 というのも、目先の目標である校内選抜戦が、一ヶ月後に迫っているのだ。

 因って、拓哉は締めくくる。


「選抜戦までに、今の三倍は強くなる必要があるぞ」


『マ、マジ?』


『む……無理……じゃないよ?』


『キャス、あぶね~~! 無理だなんて口にしたら大変なことになるぞ』


『女王こえ~~~~!』


『あれは、女王なんてもんじゃないぞ! 悪魔だ! あ・く・ま』


 リディアルが素直に驚きを見せると、キャスリンが思わずギブアップしそうになる。

 それを聞けば、鬼軍曹であるクラリッサが黙っていないのであろうが、ここには居ないし、なんとかギリギリで思い留まる。

 すると、トルドが口を滑らせ、その滑走にファングとティートが合い乗った。


 ――おいおい、当の本人がここに居ないからと思って、ファングとティトは少し口が軽くなってるぞ。それこそ、その台詞を聞かれたら鬼軍曹にコテンパンにやられるぞ。


 クラリッサが居ないのを良いことに、誰もが緩みっぱなしなのだが、そこで叱責が飛んだ。


『お前等、私語が多いぞ! シミュレーション終了。全員、シミュレーターから降りろ。交代だ』


 教官からの連絡が入り、これで今日のシミュレーターを使った対戦は全て終わりだ。

 シミュレーターから降りると、他のクラスの訓練生が一斉に引いていた。

 ただ、それを見た教官がニンマリとしている。


「何を恐れているんだ? みんな、やればできることが立証されたんだ。気合を入れろ! あと、D5は良くやった。その調子で頑張れ」


 教官はやたらと満足そうな顔をしている。もしかしたら校長の息でもかかっているのかもしれない。

 そう、拓哉を嫌っている副校長派の教官は、大抵、冷たい対応をしてくるのだが、それ以外の教官は好意的な態度だった。

 その背景には対校戦があるのか、今年こそは何としたいという気持ちが強いのかもしれない。

 シミュレーター授業を担当する教官を眺めつつ、彼等の考えを察していると、笑顔のリディアルがやってきた。


「タクヤ。今のオレ達だと、選抜戦でどれだけ戦えそうかな?」


 それは拓哉にとって難しい質問だった。

 なにしろ、拓哉が知っている上級生の実力は、模擬戦で戦った者達だけなのだ。

 少なからず、他の一回生が参加することはないだろう。それは拓哉の目から見ても明らかだ。

 なにしろ、奴等ときたら、今は負け犬の遠吠えすらなく、水を失って萎れた生花のようになっているからだ。いや、今や生さえ失っているように見える。

 ただ、二回生や三回生の実力は未知数だ。模擬戦で戦った相手がこの訓練校の最高レベルだとも思えないでいた。

 その理由は、クーガーの存在だ。拓哉の勘が、不気味な存在だと告げているのだ。

 しかし、問題はそこではない。


「う~~ん。それを聞いてどうするんだ? それに勝ち残っても対校戦があるんだぞ? お前の目標は選抜戦なのか?」


「そうだな。すまん」


 自分の言葉が失言だったと気付いたのか、リディアルは素直に謝ってきたのだが、いつの間にか背後にきていたキャスリンが割って入った。


「ところでさ~、選抜戦の申請って終わらせてるの?」


「あっ!」


「……締め切り期限は何時なんだ?」


 途端にリディアルが硬直し、拓哉は焦りを見せる。

 すると、キャスリンも表情を曇らせた。


「先週だったはずだけど……」


「ぐはっ!」


「まじか?」


 先週と聞いては、もはや愕然がくぜんとするしかない。

 一生懸命に頑張ってきたのに、これでは全ての努力が無意味だ。いや、意味はあるのだが、活力は失われるだろう。

 それを理解している拓哉は、驚きを隠せずに、あんぐりと口を開けた状態で放心することになった。









 四時限目に入って拓哉達のグループ全員が集まったところで、落ち込む拓哉を見たクラリッサがその原因を知って放課後に話そうということになった。

 今は授業中だし、どのみち鍛錬のために集まるので、拓哉はその言葉にうなずきを返すだけにした。

 彼女が何を考えているかは解らないが、拓哉は悶々とした気分で四時限目を熟した。

 それでもリディアル達の戦いを見た周囲の者は、あまりの強さに、あまりの成長に、思わず息を呑んで見ていた。

 しかし、拓哉からすると、いつのも元気がないように感じられた。

 そんな状態で授業を終えた拓哉が第三格納庫へと集まると、途端に、クラリッサがニヤリとした。いや、ドヤ顔で全員を見渡しつつ、その大きな胸を誇示するように張る。


「申請なら私がやっておいたわよ? だって全員が出るのでしょ? いえ、全員参加よ」


「「「「「お~~~! さすが!」」」」


 参加できると聞いて、リディアル、トルド、ティート、トーマスが喝采かっさいの声をあげた。

 他の者はというと、彼女の機転に驚いて声も出ない様子だ。

 ただ、感謝しつつも、拓哉としては色々と不満がある。


 ――おいおい、それなら先に教えてくれてもいいじゃんか。だって、一言で終わりだろ?


 そう、拓哉としては、放課後まで話を持ち越したのが気に入らなかった。

 申請を出してくれたことに感謝しているので、敢えて口にはしなかったが、表情には表れていた。

 しかし、クラリッサはそれに気付いていない。彼女は驚く面子を満足そうに眺めると、表情を引き締めて話を続けた。


「あなた達は、そんな些事を気にする必要なんてないわ。それよりも死ぬ気で強くなりなさい」


「「「「「ぐはっ! さすが!」」」」


 鬼軍曹と化したクラリッサから釘を刺され、リディアル、トルド、ティート、トーマスがうなり声をあげた。

 他の者はというと、硬直から凍結に変化したようで、ピクリとも動かなくなってしまった。

 息こそしているが、ほとんど銅像と変わらない状態だ。


 ――さすがは、氷の女王と言われるだけはあるな……


 クラリッサの二つ名が伊達ではないのだと感嘆しながらも、拓哉は今日の訓練の内容を伝える。


「今日からは実機で戦闘をするからな。俺対全員だ。機体は初級訓練機だが、ララさんのプログラムが組み込まれているから半端じゃないぞ。武器に関しては殺傷能力のないエネルギー反応弾を使うが、実害がないからといって気を緩めるなよ」


 拓哉としては別に釘を刺したつもりはないのだが、今度は凍り付いていた誰もが息を止めたようだった。


 ――おいおい、それほどショックなことか?


 彼等の反応が予想外だったのか、拓哉は思わず眉を顰めてしまう。


「なんでそこで固まるかな~。それとも、もう止めるか? それならそれで、俺も助かるが?」


 さすがに、死ぬ気でやるといった者の態度ではないと感じたのだろう。

 少しばかり頂けない気分になった拓哉が、肩を竦めて毒を吐いた。

 すると、途端に全員の活気が戻った。というか、いきり立った。

 彼等彼女等としても、自分達の決意がその程度だと思って欲しくないのだろう。


「も、もちろんやるぜ! 絶対に選抜戦に勝ち残ってやるからな」


 代表するかの如く、リディアルが焦りつつも右腕を突き出すと、誰もが倣うように右腕を突き出した。

 その行動にどんな意味があるのかは知らない。ただ、迂闊な反応を示すと、この世界の罠に嵌ることを知っている拓哉は、頷くだけで終わらせる。そして、号令を口にした。


「全員、搭乗!」


 その指示に、それぞれがおうの返事をして機体に向かう。

 そんな光景を厳しくも嬉しそうな表情で見詰める拓哉を見やり、クラリッサも表情を緩めた。


「なんだか楽しそうね」


 ――ん? クラレの方が嬉しそうな顔をしてるじゃんか。


 そう思いつつも、拓哉は否定とも肯定ともいえない返事をしてこの場を濁す。


「そうか?」


 実際、自分でも良く分からないでいた。

 確かに心が踊っているのだが、その理由が分からない。

 それ故に、適当な言葉が思い浮かばないのだ。

 なぜか自分の心が満たされているのを感じながらも、拓哉は全員が機体に搭乗するのを眺めていた。

 そんな拓哉の背中をクラリッサの手が優しく叩く。


「さあ、私達も搭乗しましょう。あと、手を抜いてはダメよ?」


 その一言が、これから拓哉との対戦を始める彼等彼女等の運命を悪夢へといざなう。拓哉としてはそういう理由にしたかったのだが、きっと、彼女の言葉がなくても同じオチになったことだろう。


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