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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
55/233

52 高望み

2019/1/9 見直し済み


 女の子らしく可愛い悲鳴が上がるのなら、拓哉も本望といえるのだが、この耳を突き破るような絶叫は、いささか頂けないと言わざるを得ない。

 ヘッドシステムをしているお陰で、肉声は何割かカットされているのだが、それは全く意味がなかった。

 なにしろ、悲鳴をあげているキャスリンもヘッドシステムを装着していて、それにはマイクが内蔵されている。

 それ故に、彼女の悲鳴はダイレクトに拓哉の耳を突き刺している。


「キャーーーーーーーーー! キャーーーーーーーーーーー!」


 うぐっ。耳が痛い。もう勘弁してくれ……キャス、恐ろしいほどの高音域だな。


「タクヤ君、もう無理、無理、無理、無理、キャーーーーーーーーーー!」


 まるでジェットコースターに乗った女性のようだな。あの場合はスリルを楽しんでいるのだが、もしかして、実はこれもイヤよイヤよも好きのうちなのだろうか。

 こうして、新たにオムツの必要なパイロットがもう一人誕生した。

 もちろん、後で掃除をする訳だが、残りの面子には初めから対策を執った方が良いかもしれないと考えていた。

 というか、機体から降りるキャスリンは、フラフラしながらも「タクヤ君の意地悪!」と顔を俯かせていた。おそらく、失禁したことを恥じているのだろう。

 実を言うとコソコソと「責任を取ってくれ」とも言っていたが、それはあまりにも声が小さくて、拓哉の耳に届くことはなかった。


 ――悪いな……でも、仕方ないよな?


 申し訳ないと思いつつも、手を抜くことができない。

 というのも、鬼軍曹が見張っているからだ。

 それが誰だと言わなくても、誰もが理解しているだろう。そう、クラリッサ軍曹だ。


『拓哉、手を抜いてはダメよ。これも鍛錬たんれんなのだから。ああ、キャスリンは訓練が終わったら、残って機体の掃除をしなさい』


「うい~す!」



『はい……』


 その鬼軍曹から無線で連絡が入ってきたので軽く返したのだが、続けてキャスリンの声も聞こえてきた。酷く恐縮しているようだ。


 ――てか、早く着替えた方がいいぞ。風邪ひくぞ……って、この世界に風邪なんてないのか……


 少し場違いなことを考えながら、チラリとサメインモニターで外を確認すると、そこにはガタガタ震える残りの面子めんつが映し出されていた。


「じゃ~つぎ~~~!」


 おびえる面子に無線でそう告げると、誰もが尻込みをしていた。

 その光景は、まるでエビのようだ。一斉に後退りを始める。


 ――おいおい! さっきの威勢いせいは何処に行ったんだ? だいたい、お前達が望んだことだよな?


 一歩、二歩と後ろに下がる男子、抱き合って首を横に振っている女子、そんな面子をモニターで見遣りながら溜息を吐く。


『それじゃ、次はファングね』


 誰も名乗り出ないので、クラリッサが勝手に順番を決めたようだ。

 というか、かなりイラついているようだ。おそらくナビ席を汚されたのが原因だろう。


『ぼ、僕は……だ、ダメ、許して……』


『何を言っているの! さっさと搭乗なさい!』


『む、無理だから……無……ああああああ~~~~~』


 必死にレスガルの腕にしがみ付いていたファングだが、無情にもクラリッサのサイキックでコックピットにぶち込まれる。


「おっ、おい。ク、クラレ、危ないじゃないか!」


 ハッチを開けていた拓哉も悪いのだが、彼女はそこにむけて投げ込んだのだ。

 拓哉からすれば、行き成りファングが突っ込んできたので、慌てて受け止めるしかないのだが、危うく口付けを交わすところだった。

 そんなこともあって、ファングを両手で支えながら、クラリッサに苦言を申し立てのだが、ノーレスポンスだった。

 ただ、目の前のファングが機体に乗った途端に豹変した。いつもの臆病な様相と相反あいはんしてキリッとした男に変身する。


「タクヤ! 頼むぜ! 全開でぶん回してくれ」


 ――おおお! この変貌ぶりは凄いな!


「じゃ、いくぞ!」


 ファングがナビシートに身体を固定したのを確認して、ハッチを閉じつつ彼に声を掛ける。


「何時でもOKだぜ! ひゃっほ~~~!」


 ――中々、骨がありそうだ。今回は真面に終わりそうだな。


 一気にやる気になる拓哉だったが、五分後――


「ギブ! ギブだ! タクヤ! 拙い、これ以上は、ぐお~~~! ……」


「あれ? 気を失った?」


 ナビ席を映しだすサブモニターを確認すると、既にファングは泡を吹いてお亡くなりになっていた。


「お、おい、ファングが!」


『ど、どうしたの?』


「失神した……」


 さすがのクラリッサも慌てた様子だ。

 彼が意識をなくしたことを伝えると、クラリッサではなく、カティーシャからの指摘があった。


『本当に根性が無いよね』


 ――いやいや、お前も気を失ったよね……てか、失禁もしたし……


 自分のことを棚上げするカティーシャに呆れつつも、継続の合図を送る。


「じゃ、つぎ~~~~! 次は誰だ? ああ、誰かお迎えを頼むわ」


 拓哉は救護班の手配を頼みつつも、機体を皆の居る場所に一瞬で移動させると、コックピットのハッチを解放しつつお代わりの声をあげる。

 どうやら、今度はルーミーが挑むようだ。ただ、本人はあまり乗り気ではないようだ。みんなに背中を押されているが、必死に首を横に振っている。その姿が、どこか動物的で可愛いと感じてしまう。

 因みに、ファングはクラリッサのサイキックで難なく下したので、大して時間は食っていない。


「だ、だめ、ダメなの。無理なの! 今はとっても眠いの……お前、噂によると、なかなかやるそうじゃないか! オレが見定めてやるぜ!」


 ――おいおいおい!まるっきり別人になったぞ! てか、完全に男口調じゃね? まるでララさんみたいだ。


 嫌がっていたはずが、無理やり機体に乗せられた途端、あからさまに豹変した。というか、完全に人格が変わっている。

 拓哉はルーミーの変貌ぶりに驚きながらも、コックピットのハッチを閉じる。


「じゃ、ハッチを締めるぞ」


「ああ、構わん! よっしゃ~! やる気になってきた~! 鬼神! 全開で頼む!」


 ――いやいや、さっきもその台詞を聞いたよ。まあいい、同じ結果にならないことを祈ろう。


 デジャヴを感じながらも、ルーミーが準備を済ませているのを確認して、胸で十字を切りながら試練を再開する。というか、完全に罰ゲームになりつつある。

 もちろん、拓哉はキリスト教徒という訳ではないが、なぜかそうしたくなっただけだ。


「始めるぞ~!」


「ひゃっは~~! 楽しいじゃね~か~!」


 ――おいおい、お前はどこの世紀末からきたんだよ!


 脳内で昔見たアニメを思い出し、心中でツッコミを入れつつ試練を開始する。

 何分持つのやらと考えつつ、機体を一気に加速させる。

 その途端、通常では体現できないGジーが、身体をシートに押し付ける。

 それはジェットコースターどころの話ではない。おそらく一般の人間が体現することのできないものだ。

 耐圧スーツを着ているとはいえ、サイキックシステムのない機体だ。彼女にとっても初めての体験だろう。


 三分後――


「タク、す、すまん。オレが悪かった。オレが悪かったんだ。もう……うお~~~~! もう、許してくれ~~~! お願いだ~~~~~~~~~~~~ぁ!」


 ふむ、きっかり四分で逝ってしまわれた。挙句に、この処は慣れてきた臭いがする。

 女子ばかりが失禁するのには何か訳があるのだろうかと考える。ただ、今はそれを解明する時間ではない。肉体的な問題かもしれないと結論付けて終わりにする。

 そして、皆のところに戻る。三回目の帰還となる訳だが、回数が進むにつれて残りの面子の顔色が悪くなっているように思う。

 というか、いまや誰もがイヤイヤをするように首を横に振っていた。

 それでも、誰も逃げ出さないところが立派だ。と思ったのだが――


「みんな、嫌がる割には諦めないんだな」


 身体を硬直させて首だけを振っている面子をモニターで見やり、思わず何かの人形かと思うのだが、その独り言がきこえたのだろう。律義にクラリッサがその理由を教えてくれた。というか、恐ろしい事実が判明した。


『ああ、あれね。敵前逃亡しようとしたから、サイキックで動けないようにしてあるの』


 さらりと凄い事実を告げてくるクラリッサ。

 もちろん、動けなくしたのも彼女だろう。

 ただ、拓哉は別のことを考えていた。


 ――五人を一人でやったのか? 凄いな……


 残りの面子は五人だ。それを何食わぬ顔で石像に変えるサイキックの力量は、半端ないものだ。

 そもそも、サイキックを知らなかった拓哉は、講義でそれを学び始め、実はそれほど便利で簡単なものではないのだと知った。

 初めは魔法のようなことができるのかと、楽しみにした拓哉だったが、実際はそれほど便利な代物ではないし、体力と精神力を異様に消費するのだ。

 拓哉が知る限りでは、五人の動きを封じるなんて信じられないものだった。

 それでは、PBAでサイキックを使うなんて無理だと思いがちだが、そっちは増幅装置があるので、普通の能力者でもある程度は使用可能だ。もちろん、能力が弱ければ、戦闘中に体力と精神力を消費し尽くしてダウンするのが早いという結果になる。

 それ故に、拓哉は今更ながらにクラリッサの能力に感嘆する。

 ただ、いつまでもそうしていられない。残りが五人もいるのだ。

 確かに、一人当たりの時間は短いが、乗り換えや準備で手間取っているので、それなりに時間を浪費していた。


「それよりも、ルミも意識不明だから降ろしてくれるか?」


『解ったわ。じゃ、ハッチを開けてちょうだい』


「ラジャ!」


 ハッチを開けると、彼女は速攻で宙を飛んできた。


 ――う~む。やっぱり、サイキックってめっちゃ便利かも……


 拓哉は自分が知っているサイキックと彼女の能力のギャップを感じる。

 彼が知らないだけで、能力値が高く技能があれば、それなりに便利なのだ。

 軽々と飛んできたクラリッサをみやり、自分も真面目に取り組む必要を感じる。ただ、そのタイミングで視線が自分の腕に向く。

 拓哉の腕に装着された腕輪。実は能力者用の手錠から鎖を取っただけの代物だ。

 これがなくては日常生活も儘ならない。能力が暴走し、あっという間に痴漢で御用になってしまうだろう。

 腕輪を眺めつつ溜息を吐く拓哉だったが、そこで別の溜息が聞こえてきた。


「はぁ~、またなの? これじゃ、まるでトイレだわ。女性陣はまず括約筋かつやくきんを鍛えるところからスタートかしら。それと、私とタクヤ用の機体は別に用意してもらうしかないわね」


 既に諦めの境地に陥ったのか、一〇七号機が汚れたことに顔を顰めるが、怒りはそれほどでもない。ただ、彼女は「あとで、女性陣は機体の清掃ね」と呟いていた。


 ――いや、それよりも、この後に乗る者が哀れ過ぎるんだが……


 なんて不憫ふびんに思ったのだが、それは取り越し苦労だったようだ。結局、後続の者達も次々と機体を汚したからだ。そういう意味でいうなら、拓哉が一番哀れな存在かもしれない。


「全員終わったけど、これだと公衆トイレと変わらんな」


 拓哉は悪臭漂うコックピットで顰め面をしているのだが、その状況を見て細く笑む者もいた。

 そう、失禁機体の状況を知って、ニンマリとしているのは、元祖失禁女カティーシャだ。

 どうやら、彼女は仲間ができたと思っているようだ。

 クラリッサはカティーシャを舌打ちでもしそうな表情で眺めていたが、なにも言うことなく視線をグッタリとしている九人に移すと、大きく溜息を吐いた。


「取り敢えず、時間的にいっても今日はこれで終わりだな」


「そうね」


 機体から降りた拓哉が声をかけると、彼女が頷いてくる。

 彼女は如何にも「落第ね」と言いたそうな表情をしていたが、文句を言うことはなかった。

 ただ、どこか寂しそうな表情をしていた。

 それを怪訝に思う拓哉だったが、そのことではなく、ずっと疑問に思っていたことを問いかける。


「なあ、なんで全員にやらせたんだ? 何か意味があるんだろ?」


 そう、参考にするならドライバーだけでいいはずだ。なにしろ、クラリッサがいる限り、拓哉が他のナビゲーターと組むことはないのだ。

 それ故に、今回の訓練の意味が解らなかったのだ。

 ところが、クラリッサはニヤリとしたかと思うと、自分の考えをスラスラと話し始めた。


「理由は幾つかあるのだけど、大きな理由は、この人達に目指すところを見せたかったのよ」


 ――おいおい、ここにいる全員にそれを期待するのか? それは幾らなんでも望み過ぎだろ。


 思わずクラリッサの高望みにおののいてしまうが、話には続きがあるようだ。


「いえ、別にあのレベルになれと言っている訳ではないわ。というか、タクヤと同じなんて無理でしょ? でも、高度な技術を知っておくのは、これから鍛錬するのに必要だと思うわ。特に本気で戦う気があるのなら……」


 彼女はそう言ったかと思うと、和やかな表情を暗いものへと一変させた。

 おそらく、あかい死神の事を思い起こしているのだろう。

 それほどに、彼女の心には、その敵のことが刻み込まれているのだ。


 ――朱い死神か……


 拓哉にとっては、その憎しみを理解できても、その度合いを推し量ることはできない。

 ただ、最強最悪と呼ばれる敵を想像し、密かに闘志を燃やしていた。


 拓哉とクラリッサは、一緒に朱く染まった太陽を眺めつつ、異なる目的ではありながらも同じ目標に向かうことを考えていた。

 しかし、いつまでもそうしてはいられない。

 哀愁あいしゅうに満ちたクラリッサだったが、すぐさま片付けに取り掛かることにした。

 ところが、女性陣がみんなグロッキーとなったことで、結局は、カティーシャと二人で機体の清掃を行うことになってしまった。


「どうして私が機体の掃除をしなきゃいけないのよ~~~~!」


「だって、言い出しっぺがクラリッサなんだから、しょうがないじゃん。ボクも手伝ってるんだから文句言わないの」


 思わず苦言を吐き出すクラリッサを、カティーシャがしたり顔で窘める。

 実際は、拓哉の所業なのだが、二人ともそれについて文句を言ったりしない。

 ただ、この苦労が実を結ぶことになるなんて、この時点の彼女達には知る由もなかった。


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