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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
54/233

51 放課後

2019/1/9 見直し済み


 ――お腹が空いた……


 拓哉にとって、今日は厄日と言いたくなるほどに最悪の一日だった。

 それに付き合わされているクラリッサとカティーシャも、現在の心境は似たようなものだった。


「さすがに、お腹が空いたわね」


「ボクも腹ペコだよ」


 医療棟から解放された拓哉だが、今更ながら空腹感に襲われている。

 まあ、それも仕方ない事だろう。昼食を摂ってないのだ。

 そう、食堂に入る前から問題が発生し、入った時点で災害が起こったのだ。食事を摂るどころか、注文すらしていない。


「さすがに、もう食堂は閉まっているわよね?」


「ぐるるるる~~」


 クラリッサが少し情けない表情を見せると、カティーシャは言葉ではなくお腹の音で答えた。

 行儀の悪いカティーシャに、クラリッサは眉をひそめて冷たい視線を向けるのだが、拓哉はさすがに可哀想だと感じながらも、彼女をたしなめることなく、腹を満たすための手段を考える。


「売店とかないのか?」


「そういえば、そんなモノもあったわね」


 ――おいおい、使ったことがいのか?


「そうだね。売店にいこうか」


 思わず疑問を抱く拓哉だったが、その口振りからして、カティーシャも利用したことがないようだった。

 それを不思議に思いながらも、三人で売店へと向かったのだが、結局はカロリーメイトのような保存食しかなかった。

 それでも食べないよりはマシだ。それを購入して食べたのだが、想像以上に美味しかったのでよしとした。

 因みに、拓哉はお金を持っていないので、クラリッサが肩代わりしてくれたのだが、これではヒモと変わらない。


 ――くそっ、いて~~~っ! いつか酷い目に――いや、ナノマシンが……ちっ……


 尻の痛みを感じて心中で悪態を吐くが、直ぐにナノマシンのことを思い出して思考を止める。

 そう、拓哉の思考はリカルラに筒抜けなのだ。

 文句すら言うこともできない拓哉は、硬いベンチから立ち上がり、痛みを和らげる。

 実際、保存食の味はまだしも、拓哉にとって最悪なのは、今使っている硬いベンチだ。

 食事を手に入れたのは良いが、食べるところがなくて、広場のベンチを利用したのだが、やたらと尻が痛むのだ。

 すると、いつまでも尻を気にする拓哉に、クラリッサが心配そうな表情を向ける。


「それはそうと、タクヤ、午後は実技だけど、お尻は大丈夫?」


 正直って、全く大丈夫ではない。ただ、それを口にするとクラリッサ達が心配するので、男の我慢がまんを発動させた。

 まあ、見栄を張りたくなるのも、幼い証拠かもしれないが、あまり格好悪い姿ばかり見せるのもどうかと考えた結果だ。


「も、問題ないぞ。これくらいへっちゃらさ」


 ベンチから立ち上がり元気な素振りを見せたのだが……意地悪なカティーシャがお尻に軽い蹴りを入れてきた。


「あうっ! いてーーーーっ! カティ、何するんだ!」


 お尻を押さえて悶絶もんぜつしてしまう拓哉。

 カティーシャはぺろりと舌を出して楽しそうにダメ出しする。


「ぜんぜん大丈夫じゃなさそうだね」


「カティ、意地悪しすぎよ」


 クラリッサは口元を手で隠しながらカティーシャをいさめているのだが、恐らくその顔は笑っているのだろう。

 というか、誰が見ても歴然としている。彼女の手は全く役に立っていなかった。


「ちぇっ~、そろそろ時間だな」


 休憩時間の終わりを知らせるチャイムが鳴り響き、拓哉はヘソを曲げながらも、頼りない足つきで三時限目に向かった。









 シミュレーターを使用する三時限目を何とかこなし、四時限目にはお尻の調子も落ち着き、問題なく授業を終えた。

 話をサラリと流したが、今日も拓哉は無敗であり、他の者達を圧倒した。

 というか、他の者達は昼食時の出来事で、対戦する前からドン引きしていたこともあって、初めから負け犬の如く尻尾を股の間に入れていた。

 もちろん、それは比喩であるのだが、対戦相手の者達はあからさまに怯えていた。


 その件は置いておくとして、授業を全て済ませた拓哉は、現在、第三倉庫――第三格納庫の前に来ている。

 ただ、格納庫の前に立っているのは、拓哉だけではない。しかし、いつものクラリッサとカティーシャの二人という訳でもない。いや、その二人が居るのは、いまや当然なのだが、今日は少しばかりメンバーが違っていた。

 そう、拓哉達三人以外に例の五人組プラス四人の九人なのだ。

 その内訳は、ドライバー科のリディアル、キャスリン、トルド、ファング、ティートの五人以外に、ナビゲーター科のメイファ、レスガル、トーマス、ルーミーの四人だ。

 ナビゲーター科の四人は、二日前にリディアルから話が合った者達であり、全員が同じ戦争孤児施設から来ている。

 科が違うこともあって当然ながら別のクラスなのだが、四人が拓哉を知らない訳がない。

 模擬戦や食堂事件のこともあるが、あれだけ噂になれば、知らない方が異常だろう。

 ただ、拓哉としては、その四人のことを知らないので、自己紹介をお願いすることにした。

 すると、まずは軽い雰囲気の少女が前に出た。


「初めまして、うちはメイファ=トルアラや。メイでええよ」


 ――メイファね~。なんで関西弁風に聞こえるんだ?


 少し女子中学生を思わすような少女が口にした語尾を気にしていると、次の者が前に出た。デクリロほどではないが、少しゴツイ男だ。


「自分はレスガル=デートリスです。噂はかねがね聞き及んでいます。宜しくお願いします」


 喧嘩の強そうなマッチョであるが故に、やたらと丁寧な物言いに違和感を持ってしまう。


 ――それよりもナビ科と聞いたが、この体格でナビ席に収まるのか?


 色々と疑問を感じつつも挨拶を返すと、今度はちょっと軽い感じのミーハー風の男が挨拶をしてきた。


「僕はトーマス=クランだよ。君もモテるらしいけど、そう簡単には負けないからね」


 ――いやいや、女性関係では全く競ってないから……というか、止めてくれないかな。クラリッサの空気が変わったじゃないか。


 トーマスを見て眉を顰めているクラリッサを見ないようにしていると、最後の女の子が話し掛けてきた。


「ふわ~、ルーミー、ルミ……ねむいの」


 ――てか、起きてるのか? ティトにすがり付いて寝ているものだと思ったぞ? というか、本当にやる気がるのだろうか?


 その小柄なぽやんとした少女を見て疑問を抱いていると、代わりにティートが説明してくれた。


「こいつはルーミー=ガルアンだ。ルミでいい。てか、起きろ! ルミ!」


「ふあ~~いいいいいいい。あぅ、気持ちが悪くなってきたの。ティト、やめてなの」


 ティートがルーミーの肩をガクガクとさせながら体を揺さぶると、彼女は気分が悪くなったのか、その場に座り込んでしまった。


 ――おいおい、大丈夫なのか?


 その少女に懐疑的かいぎてきな印象を持ったのと同じ理由だろう。クラリッサの堪忍袋が限界を迎えたようだ。


「やる気がないのなら、帰ってもらっても構わないのだけど」


 なんて大物だろうか、恐ろしく冷たい言葉と突き刺さるような視線を浴びせかけられても、ルーミーは全く動じていない。しかし、周りは違ったようだ。焦ったキャスリンが慌ててフォローする。


「ごめんなさい。この子はいつもこんな調子なの。でもファングと同じで機体に乗るとシャキッとするから、大目に見てあげて欲しいの」


 その話からすると、この少女もファングと同じで二重人格なのだろう。

 それはそれで問題、いや、問題ではないが面倒だと感じる。

 拓哉がこめかみを指で揉んでいると、リディアルが割って入ってきた。


「一応、みんなペアが決まってるんだが、キャスだけナビが居ないんだ……」


 彼の話では、リディアルとメイファ、トルドとルーミー、ファングとレスガル、ティートとトーマスというペアらしい。

 どういう基準でそう決めたのかは知らないが、戦闘の内容しだいで見直す可能性はある。ただ、彼等彼女等がこれで良いというのであれば、拓哉が反対する必要もない。もちろん現時点に限ってだが。

 ところが、リディアルが予想外の言葉を口にした。そして、この場が一気に緊迫きんぱくすることになった。


「でな、頼みがあるんだけど、臨時でいいからカーティスにキャスのナビを頼みたいと思ってな」


「それなら問題ないわ。良いわよ」


「駄目に決まってるじゃん」


「はぁ? カティ、なぜ断るの?」


「てか、なんでクラリッサが勝手に即答してるんだよ」


 そう、リディアルの頼みに即答したクラリッサに対して、カーティスが噛みつき始めたのだ。


 ――まあ、この展開だとそうなるわな。いやいや、納得している場合じゃないか……


 拓哉は、自分の両サイドで何時もの口喧嘩を始めた二人をなだめるべく声を上げる。


「取り敢えず、それについては自主訓練が終わってからにしよう。今は時間が勿体ないからな」


「誰が何と言おうと、ボクはタクのナビなんだからね」


「往生際が悪いわね」


 拓哉が取り敢えずお開きにしようとするが、カティーシャは怒りの形相で訴えてくる。しかし、クラリッサは小さな子供の我儘の相手をするが如く、まるで子守りに疲れた母親のような態度で溜息を吐いた。


 ――ほんと、困った奴等だ……


 何とか収まりを見せたところで、拓哉は二人を見て一つ溜息を吐くと、今日の訓練の説明に取り掛かった。









「ぬお~~~~~~!」


 可愛くない絶叫がコックピットに響き渡る。

 これが可愛い女の子ならスピードを緩めなくもなるが、相手が男となれば特に気にすることもない。いや、拓哉の場合は、これが可愛い女の子でも同じだろう。それは既に証明されていて、カティーシャにとって黒歴史となっているはずだ。


「マジか~~~~~~~~~~~~ぁ」


「リディ、喋ると舌を噛むぞ」


 絶叫を上げるリディアルに危険を知らせつつも、全く変わることなく限界寸前の領域で操作する。

 もちろん、限界は機体の性能であって、拓哉の操作能力ではない。

 急加速からの刺突、続けてフェイントを入れた急激な方向転換、更にはロボットとは思えないジャンプ力を利用した跳躍と空中での姿勢変更、そして最後に急停止。


「やべっ、吐きそう」


「おいおいおい! コックピットで吐くのは止めてくれよ。間違いなく、クラレが発狂するからな」


 直ぐに機体のハッチを開け、リディアルをコックピットから強制排除する。

 二度の失禁事件があったとはいえ、そうそうコックピットを汚してもらっては堪らない。

 拓哉は敢えて氷の女王を武器にして釘を刺す。

 ただ、リディアルにその忠告は届いていないようだ。

 彼は昇降ケーブルで機体から降りると、一目散にトイレへと走った。しかし、その足取りはふらつき、結局はグランドに吐しゃ物を撒き散らすことになった。


 強い要望で始めた自主教科訓練なのだが、いきなりリディアルのゲロスタートとなった。

 今頃は、今更ながらに黒き鬼神の異常さを知り、自分達が拓哉に願い出たことが、どれだけ無謀だったかと考えているだろう。いや、もしかしたら、グランドに膝を突いたまま、後悔の念にとりつかれているかもしれない。

 なんともお粗末なスタートなのだが、これには理由がある。

 というのも、今日の放課後スパルタ訓練は、異常な世界に慣れることがテーマだ。


 ――俺が決めた訳じゃないぞ? 俺だって、こんな訓練はどうかと思うんだ。でも、クラレがこれしかな~~い! って言うもんだからつい……


 九人のヤル気のある同回生に「根性出せよ~~~! 半端じゃないからな!」と、気合を入れさせた。その時は全員が「おーーー!」なんてやる気を出していた。

 ところが、一番バッターが十分でゲロッた。

 メインモニター機体の外を確認すると、リディアルはグランドにゲロを撒き散らしたあと、ふらふらとしながら何歩か進んだところでバタリと倒れた。

 それを見た八人の仲間は慌てて駆け寄るのだが、彼等彼女等の表情には戦慄せんりつの二文字が張りついていた。

 こうして彼等彼女等の無謀な戦いが、いつまでも語り継ぐ悪夢の物語が、今まさに始まった。


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