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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
48/233

45 仲間

2019/1/7 見直し済み


 マップに表示された敵の数は二十四、ところが味方の数はゼロだ。

 とはいっても、味方が全滅した訳ではない。

 なぜかお手本ということで、拓哉の機体だけで敵を殲滅しているのだ。

 ああ、既に倒した数はその三倍に上る。


「右十五度、三機……二機……あう、一機」


 ナビゲーターシートに座るクラリッサが、接近する敵の数を知らせているのだが、敵を倒す速度が速過ぎて、慌てて残数を訂正している。


「左二十一度、敵……もう、なによ! 倒すのが速過ぎるわ!」


 通知がある前に、エネルギー銃で次々に倒していくと、彼女は憤慨しはじめた。


 ――いやいや、敵を速く倒して文句を言われても……


 そう、ここは訓練校と言えども、戦士を育てる機関だ。

 敵を速く殲滅して褒められることはあれども、文句を言われる筋合いはない。

 心中で愚痴りながらも、拓哉は遠慮することなく機体を自由自在に操り、現れる敵を殲滅していく。


 ――やっぱり、シミュレーターより、こちらの方が、感度がいいな。あのシミュレーターのプログラムよりも、ララさんが作り上げたこの機体の方が高性能なんだろうな。


 ララカリアに感謝しつつ、まるで疾風となったかのように戦場を駆け巡り、周囲を包囲する敵を各個撃破していく。

 まさに鬼神と呼ばれるのにふさわしい戦いだった。

 他の訓練生がモニターでその映像を目にして、今更ながらに息を呑んでいた。


「敵数ゼロ。戦闘終了。お疲れさま」


「ああ。クラレもお疲れさま」


 クラリッサが発した終了報告と労いに対して、労いの言葉を返したところで、シミュレーション終了の連絡が入る。


『よし、ホンゴウ、バルガンペアは戻れ』


「「ラジャ!」」


 教官からの連絡を聞き、速やかに待機場所へと戻るのだが、その動きも半端なく華麗だ。

 まったくの狂いもないほどに正確な動作で、迅速に元の位置へと戻った。


『こら! ホンゴウ、待機場所へ戻るときはもっと慎重にやれ!』


 あまりに素早い帰投に、教官が魂消たまげた様子で叱責しっせきしてくる。


「すみません」


 一応は謝るが、それは完全なるポーズであって。全く悪いと思っていなかったりする。


「この帰投は拙かったのかな? 普通だと思うんだけど」


 教官には謝りつつも、思わず機内で愚痴を溢す。

 すると、クラリッサがフォローする。


「まあ、周りはひよっ子ばかりだから慎重にやらないと、真似をする人が現れるでしょ? そうすると、他の人の場合、訓練とは別のところで機体を壊したりするのよ。ただ、タクヤだと、そんなことになり得ないでしょうから、叱責する方がどうかしていると思うわ」


 ――ふ~む。難しいもんだな。でも、一応、決まりみたいだし……


 クラリッサの言葉は嬉しいが、決まりは守るべきかと考える。

 その決まり自体が初心者に向けたものなら、今後の見直しに期待するしかない。

 なんて考えていると、教官からの連絡が入る。


『よし、みんな見てたな。あの要領だ』


「ぷふっ!」


 その教官の連絡は全員に向けた通信だった。ただ、それを聞いたクラリッサが噴き出している。


「クラレ?」


「ごめんなさい。だって、あれを見ただけで真似ができるようなら、私は異世界になんて行ってないわ。ちょっと酷だと思うけど……他の人達が唖然としている顔が浮かぶわ。ふふふっ」


 その話が事実かどうかは知らないが、拓哉は彼女を小悪魔のように感じてしまう。

 ただ、サブモニターに映る彼女をチラリと見やるが、直ぐにメインモニターに視線を戻す。

 そこには、他の機体がシミュレーションを行っている様子が映し出されている。

 それを目にして、クラリッサの気持ちを少しだけ理解する。


 ――ぐはっ! これは酷いな……まあ、一回生だと、こんなもんなのか……


「ほらね。もう撃墜されたわよ」


 それ見たことかと、クラリッサがモニターを眺めながら声を漏らした。


「それに、タクヤがやったシミュレーションとレベルが違うわね。こっちは設定イチくらいかしら。多分、タクヤがやったのはマックスレベルだと思うわ。敵の数が全部で百二十だったし、今の敵とは動きが違うもの」


 確かに彼女の言う通りだった。

 現在行われているシミュレーションは、敵の数はさて置き、その動きや攻撃速度が異常に遅い。

 拓哉はそれに気付いたが、直ぐに別のことに意識が向く。


「おいおい、敵を二機しか倒してないのに、こっちは七機もやられているぞ?」


「まあ、今戦っている人達の腕が異様に低いのもあるけど、一回生なら上手な人でもあれに毛が生えた程度よ」


 クラリッサの言葉に愕然がくぜんとしていると、外部からの通信が届いた。


『クラリッサ、交代だよ。今度はボクがナビ席に座るからね』


 どうやら、後退の時間のようだ。しかし、モニターに映るクラリッサの表情が、かなりやばい。

 その表情からして、席を譲るのがそれほど嫌なのだろうかと考えていると、彼女はその理由を口にした。


「タクヤ、程々にしてね。またナビ席を掃除するのは勘弁よ」


 ――う~む。席を譲りたくない理由は、汚されたくないという物理的なものなんだな……でも、手を抜いても訓練にならないし……


「まあ、次は自分で掃除させるさ、ここはトイレじゃないしな」


 クラリッサの言葉に頷きつつ、拓哉はそんな言葉を返してしまったのだが、その所為で訓練が終わったあとに、カティーシャが悲しい顔でナビ席を掃除していたのは、いまさら述べるまでもないだろう。









 カティーシャの粗相などもあったが、なんとか無事に初日の授業を終わらせ、拓哉はいつもの二人にリディアルを加え、四人で食堂にきていた。


「ん? なんか雰囲気が違うくない?」


 そんな言葉を発したのはカティーシャだったが、即座にクラリッサが爆弾を投下する。


「みんなにバレたのでは? 粗――」


「うぎゃ~~~! クラリッサ! すぐさまその口を閉じるんだ!」


 カティーシャが発狂する。というか、物理的にクラリッサの口を両手で押さえる。

 しかし、拓哉の横に居るリディアルには、運よく聞こえなかったようだ。

 意味が分からずに首を傾げている。ただ、直ぐに話を切り替えた。


「あのシミュレーションを見せられたら、何も言えなくなるだろ。その噂が広まってんじゃないのか?」


 何時もなら、冷やかしや下賤な噂話で持ちきりとなるのだが、今日に至ってはまるで触らぬ神に祟りなしといった雰囲気だった。


「タクヤの実力を知って、下種な勘繰りなんてできなくなったのでは?」


「まあ、今度は逆に嫉妬や畏怖いふで凄いことになりそうだけどね」


 リディアルの考えを聞いたクラリッサとカティーシャが、続けざまに感想を述べた。


 ――う~ん。この世界の人達って、どうして普通に接することができないんだ? お互いぎくしゃくしても仕方ないと思うのだが……


 周囲の反応について、心中で愚かなことだと呟く。

 拓哉が思う通り、この世界の者達は、少しばかり日本人と違っていた。

 確かに、日本人にも、嫉妬や嫌悪という感情はある。

 ただ、それを顕著にする者は少ない。いや、日本人の特性上、表立っては口にしないだろう。ネットでは違っているとしてもだ。

 ところが、この世界では、隠すことなくあからさまにしている。

 それは、サイキックという特殊な能力が影響している訳だが、今の拓哉にそれを知るすべはない。

 しかし、誰もがそういった負の感情を持ち続ける訳ではない。その証拠に、今度は別の意味で普段と違うことが起こった。


「タクヤ君、こっちにおいでよ! あっ、女王もいる……」


「おいおい、今のはぜって~聞こえてるぞ!」


「まあまあ」


「はぁ……タクヤ君……ぽっ」


 拓哉が声のする方向に視線を向けると、キャサリンを始めとして、トルド、ティート、クラフト――ファングが中心となり、同じクラスのメンバが沢山集まっていた。


 ――ファングの反応が怖すぎるんだが……


 彼等彼女等は、拓哉やリディアルを呼んでいるのだが、別のクラスのクラリッサやカティーシャも居るので、少し焦った様子を見せていた。

 拓哉は顔を赤くするファングに戦慄しつつも、クラリッサとカティーシャに視線を向ける。

 そう、クラスの者達と席を一緒にしたいのだが、二人のことが気になったという訳だ。

 ただ、今回に関しては、拓哉がクラスに馴染めた方が良いと考えたのだろう。二人は和やかな表情で頷いてくる。

 それを同席することの了承だと判断し、拓哉は二人に感謝する。


「ありがとう。クラレ、カティ」


「いいのよ」


「大丈夫だよ。変な横やりがなければね」


 クラリッサは快く頷いてくれたのだが、カティーシャはさりげなく釘を刺してきた。

 それでも頷いてくれた二人の気持ちを有難く思いつつ、拓哉はクラスメイトの処へ行くと、全員がクラリッサの存在にやや引いていた。

 きっと、彼等彼女等からすれば、氷の女王とは近寄りがたい存在なのだろう。


 ――これって、クラレは気にしてないけど、周りが気にしてるんだよな? 彼女のこれまでがどうだか知らないけど、う~ん。


 クラスメイトの反応を微妙に思う拓哉は、クラリッサの周りを少しでも改善したいと考える。

 それは拓哉の勝手な想いであって、余計なおせっかいかもしれないし、彼女にとっては迷惑なことかもしれない。

 それでも、この先のことを考えると、これまでと同じでは問題があると思ったのだ。


「ああ、クラレとカティも一緒でいいか? てか、みんなが思うほど怖くないぞ?」


 拓哉が笑顔でクラスメイトを見渡すと、全員が何度も頷いていた。


 ――ふむ。どうやら理解してもらえたようだ。


「顔が引き攣っているけどね」


 クラスメイトの反応に拓哉が満足していると、左隣にいるカティーシャがボソリと呟く。

 クラリッサはといえば、カティーシャとは一味違っていた。


「タクヤのペアナビとなったクラリッサです。あと、タクヤと将来を誓い合った仲です。以後、宜しくお願いします」


 そう、彼女は平然とした顔で女子訓練生に釘を刺すと共に、既成事実を自分から広めることで、着実に自分の立ち位置を確立するのだった。


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