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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
46/233

43 三時限目

2019/1/6 見直し済み


 悪夢の昼食を終わらせて、拓哉はリディアルと共に、次の授業が行われる施設へと向かった。

 午後の授業は講義ではなく、シミュレーションと実機の訓練だ。三時限目がシミュレーターを使った訓練であり、四時限目が実機訓練となる。


「タクヤはシミュレーターの経験はあるのか?」


 拓哉が設置されているシミュレーターの台数におののいていると、リディアルがニヤリとしながら尋ねてくる。


「何を企んでいるのかは知らんが、シミュレーターの経験はあるぞ?」


「いやいや、何も企んでなんていないさ。ただ、今日は勝てると思ってな」


「ん? 勝てるって、なんにだ?」


 リディアルの言葉の意味が解らなくて、拓哉は思わず怪訝な表情を見せるのだが、そのあとの説明で直ぐに理解することになった。

 どうやら、訓練生の向上心を促進そくしんするために、この時間はクラス対校戦となっているらしい。


「くくくっ、見てみろよ。他のクラスの奴等、お前を見てビクついてるぜ。気分爽快だぜ」


 リディアルが顎をしゃくり、その意図を察した拓哉が周囲を見回す。

 同じクラスの者はみんな意気揚々としているのだが、離れた場所に居る訓練生たちが、チラチラとこちらを見ながら厳しい表情で話し合っている。

 それを何気なしに眺めている拓哉の横では、リディアルが鼻息荒く息巻いている。


「く~~っ! 今日こそは奴等をキャインと言わせてやるぜ! 頼むぞ、タクヤ! お前にかかってるんだからな!」


 リディアルがそう言うと、なぜか同じクラスの面々もキラキラした瞳で拓哉を見詰めている。

 中には、声に出ている訓練生もいた。


「こっちには黒き鬼神がいるんだ。今日こそギャフンと言わせてやるぜ」


「きゃぁ! 鬼神様、私達の救世主様、宜しくお願いします」


「もう、この時をどれほど待ちわびたか……」


「これに勝てたら、私を自由にしていいからね」


「ちょ、なに、ドサクサに紛れて擦り寄ってるのよ」


 既に、拓哉のクラスは完全にお祭り騒ぎだった。

 それに比べると、他のクラスはまるでお通夜のような状況だ。


 ――なんとなく分からんでもないが、そんなに負けてんのか?


 周囲の様子に、俺は呆れてしまうのだが、溜息を一つ吐くと、リディアルに対戦の内容を尋ねる。

 リディアルはというと、待っていましたとばかりに、シミュレーションの内容を細かく説明しはじめる。


「――という訳で、遠距離武器ありの二十五人対二十五人の対戦で、全滅した方が負けなんだ。戦場は幾つもパターンがあるけど、恐らく今日は市街地戦だ」


 ――まあ、それなら俺一人が勝ち残れば勝利だし、割と簡単なことなのだが……


 単に勝ち負けだけを考えれば、拓哉の判断は間違っていない。しかし、闇雲に戦っても被害が大きくなるだけだし、クラスの者達の雰囲気からすると、それでは収まりそうにない。

 そこで、拓哉はクラス(・・・)が勝つための作戦を考える。


 ――ここはいっちょ俺TUEEEじゃなくて、頭を使った戦い方をするか。そうなると……よしっ、これでいこう。


 今回の作戦を思いつき、即座にリディアルの耳元で囁く。


「リディ、ちょっといいか」


「ん? どうしたんだ?」


「クラスの訓練生を五組に分けた班を作りたいんだ」


「また、なんでだ?」


 拓哉の要求を不審に思ったのだろう。リディアルはいぶかしげにする。

 しかし、拓哉は構うことなく自分の考えを伝える。


「いや、俺一人が勝ち残るのは簡単だが、それじゃ意味がないだろ? だから、みんなで勝った方が良いと思うのだ」


「ま、マジか! オレ達でも勝てるのか?」


 リディアルは驚愕しつつも、信じられないと声を上げる。

 驚くリディアルに頷きつつ、拓哉は自信ありげに肯定してやる。


「そこは、まあ、絶対とは言えんが、多分、面白い結果になると思う」


「よし、解った。直ぐに段取りするぜ」


 それを聞いたリディアルの顔ときたら、もう最高に幸せそうな表情を作り出していた。そして、次の瞬間にはクラスの面々を集めてヒソヒソと相談をはじめる。


 ――よしよし、なんか面白くなってきた。


 拓哉は密談を続けるクラスの面子を眺めつつ、他のクラスとのシミュレーション戦に心を躍らせるのだが、その時の彼の表情を見た誰もが、鬼が嫌らしい笑みを浮かべていると感じていた。









 初戦は1D1との戦いとなった。

 これに関しては、とくに抽選があった訳ではなく、教官による判断で行われている。

 そして、リディアルの予想通り、市街地の戦場が選択されたようだ。


「あ~あ~、聞こえるか?」


 拓哉が無線で発信すると、五人からの返事があった。


『聞こえるぞ、タクヤ!』


『き、聞こえます……た、たく、ホンゴウ君』


『聞こえるよ。ホンゴウ』


『感度良好! あ、こちらファング! ホワイトファング』


『あ~、また始まったぜ。あいつ、機体に乗るとおかしくなるんだ。全く病気だぜ……ん? あっ、聞こえるぞ』


 リディアルに続き、次々に班長が返事をしてきた。

 班長に関しては、今回用にリディアルとクラスの者達が決めたものだ。

 中には、少し変わった者もいるが、そこは愛嬌というものだろう。

 それぞれに一〇一班から五○五班までの名前を付け、各班に役割を与えている。

 ただ、拓哉だけは、独りであり、役割は遊撃だ。


「マップのポイントを同調させたな。俺が取得した情報を全て送るからな。あと、各班の指示は俺の方からでいいか? ああ、それと、俺を呼ぶ時はタクヤでいいぞ」


『了解だぜ!』


『はい。タクヤ君』


『ああ、分った。タクヤ』


『お、オレのことはファングと呼んでくれ! タクヤ』


『了解だ。タクヤ! 今日こそ奴等に目に物を見せてやるぜ』


 二番目に返事をしてきた者は女の訓練生であり、残りの四人は全員が男だ。

 その五人の声色は、誰もが嬉々としている。恐らくは、今日こそ勝てると考えてウキウキとしているのだろう。

 そこまで負け続けていることに疑問を抱かないでもなかったが、拓哉は別のことを考えていた。


 ――なんか、いいクラスに入ったかも。


『よしっ、訓練を開始するぞ』


 拓哉が自分のクラスに好感を抱いていると、教官からの号令があり、クラス対抗のシミュレーションが始まった。

 その号令と同時に、拓哉はクラスの仲間を残して疾走する。

 そう、敵の索敵および混乱させることが拓哉の役割なのだ。


「よし、まずは五機発見! 標的Aとしてマークする。一〇一班、情報を送る。前進してそれを叩け、三〇三班はそれの五詰めだ」


『OK! タクヤ』


『ラジャ!』


 拓哉は五機の敵に向けて、サブマシンガン型の近距離型エネルギー銃を数発撃ちながら、即座にその場を離れるが、直ぐに次の敵を発見する。


「ちっ、倒せたのは二機か! こっちの敵も五機だな。標的Bとしてマーク! 二〇ニ班、情報は行ってるな。北西方向から回り込んで、それを叩け。四〇四班はそれを後方から支援しろ」


『了解よ。タクヤ君』


『まかせろ!』


 返事を聞きつつも、その五機の敵もエネルギー銃で二機ほど倒し、すぐさまその場を離れる。

 ジャンプしながら低い建物に登り、更に高い建物へと素早く移動して索敵を行う。


 ――ふ~ん、敵も半分が前衛で、半分を後衛にしているみたいだな。


 高い位置から、敵の位置を探って相手の作戦について考える。

 そして、直ぐに、先程と合わせて十機が、拓哉のクラスの機体を釣って戻るつもりなのだと判断した。

 拓哉はポイント表示画面で、味方と敵の位置を確認しながら、先程の六機の敵が消滅したことを確認する。

 このポインター機能だが、レーダーとは違って一度敵を発見しなければ表示できない。それ故に、拓哉が敵を識別して味方に情報を流すことで、彼のクラスの面子は、敵の位置が解るという寸法だ。

 あと、拓哉が見ているマーキング情報は、その敵と戦っていた味方から送られてきた情報で更新されるので、間違いない情報だ。


『タクヤ、一〇一班、戦闘終了。被害なし』


『タクヤ君、二〇ニ班も戦闘終了です。こっちも戦闘不能の機体はありません』


 ――よしよし、いい感じだ。それじゃ、次の敵を葬るとするか。


 拓哉はほくそ笑むと、次の作戦に移ることにした。

 もちろん、シミュレーションなので、実際に葬ることはできないし、これが実戦であるのなら、こんなに気楽ではいられないだろう。ただ、ゲームの感覚が抜けない拓哉は、いつもの調子でことを運ぶ。


「よし、奇数班はポイントNW149に移動、偶数班はNE132へ移動、そこで俺の合図があるまで待機!」


 そう伝えると、誰一人として反対する者はおらず、各班長から了解の返事を受ける。

 それに頷き、拓哉は正面から敵に向かう。


 ――残り十五機か! 少しは削っておきたいな。


 そう考えた拓哉は、建物を遮蔽物にしながら、素早く前進していく。

 敵の位置情報は、望遠機能による稼働センサーで識別したので、既に機体のポインターにマッピンされている。そして、それは、同時にクラスの面子にも伝わっている。

 今回のシミュレーションでは、レーダーが使えない設定なので、どうしてもポインターを有効活用する必要があるのだ。あと稼働センサーは望遠映像の中で動いたものを識別する機能であり、こういうシミュレーションでは、他に動くものがないので、誤作動も殆ど起きない。


 ――向こうは十五機が固まっているな。少し撹乱かくらんしてやるか。


 そんな独り言を口にすると、背中に担いでいたロケット砲を敵のど真ん中にぶち込む。

 恐らく、敵は拓哉の位置を識別できていない。それ故に、突然の攻撃にぶっ魂消たことだろう。

 案の定、敵は慌てて散開するのだが、それを狙って拓哉が遠距離型エネルギーライフルをぶち込む。


 ――はい。一機! つぎっ! 二機目! はい、つぎ!


 こうして、拓哉は鮮やかに七機の敵を戦闘不能に追いやる。そして、弾切れと同時に近距離エネルギー銃と高周波ブレードに換装し、即座に突撃する。


「今から、俺が突っ込むぞ! 逃げ惑う奴等を仕留めろよ!」


『ひゃっは~~~! オレの時代がきた~~~~!』


 リディアルの喜ぶ声が届く。続けて、女の子の声が聞えてきた。


『タクヤ君、最高です!』


 どうやら、この優勢な状況を見て感無量かんむりょうといった雰囲気だ。


『ほんとだぜ。こんな日が来るとは……タクヤ、お前はオレ達の救世主だぜ』


 三〇三班の班長が、感動に打ち震えるような声で己の気持ちを伝えて来たかと思うと、ファングがそんな三人をたしなめる。


『おいおい、油断するなよ! 今日は無傷全勝するんだからな!』


 どうやら、ホワイトファング君の志はかなり高いようだ。完全勝利をご所望のようだ。


『そうだな。ファングの言う通りだ。最後まで気を抜かずに行こうぜ』


 最後に五○五班の班長が締め括る。


 同僚の無線を聞きながら、拓哉はエネルギーマシンガンからエネルギー弾を撃ち出しつつ、敵を撹乱していく。

 その攻撃は、相手の混乱を誘うものだが、同時に行動を制限するものだ。

 それであるのに、確実に敵を葬っていく。

 対戦相手としては、突如として現れた敵から、恐ろしく正確な攻撃をうけているのだ。混乱しない訳がない。

 右往左往しながら闇雲に攻撃する他ない。いや、それ以外の方法として、逃げるという選択肢もある。

 ところが、その逃げ場には、拓哉のクラスの面子が待ち構えている。いや、そうなるように攻撃しているのだ。

 そんな烏合うごうの衆にエネルギー弾をぶち込みつつ、逃げる敵の位置情報を味方に送る。

 こうして拓哉達は、この日、完全全勝という快挙かいきょを成しげた。


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