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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
45/233

42 両刀使い

2019/1/6 見直し済み

 

 クラリッサやカティーシャと合流した拓哉が食堂に入ると、いつももと様子が違っていた。

 噂話は相変わらずだが、それを無視して席を探していると、どこからか声がかかったのだ。


「やあ、ホンゴウ君、こっちが空いてるよ」


 周りの視線を気にすることなく声を掛けてきたのは、カティーシャの兄であるクーガーだった。

 彼は振っていた手を降ろすと、拓哉達に小さく手招きをした。


 ――こっちが空いていると言われてもな~。


 カティーシャは問題ないとして、クラリッサとリディアルが気になるところだ。

 拓哉は背後にいるクラリッサをチラリと見やった後に、リディアルに視線を向けた。

 彼は少し首を傾げたが、直ぐに察したのか、コクリと頷く。


「悪いな、リディ」


「いや、お前が三回生と知り合いだったのを驚いただけさ。オレは問題ないぜ」


 カティーシャの兄の勧めを無碍にする訳にもいかず、リディアルに謝りつつ、拓哉はクーガーとベルニーニャが座るテーブルに同席することにした。

 クーガーはといえば、とても嬉しそうにしている。


「凄かったね~! 解説に呼ばれたんだけど、さすがに声が出なかったよ」


「あれは、凄すぎるぞ。オマケにナビもナシだったんだよな?」


 椅子に腰を下ろした途端、クーガーとベルニーニャが先日の模擬戦について感想を述べてきた。


「ま、まあ……」


 実のところ、振り返って考えると、クラリッサの件で切れていて、戦闘については些か杜撰ずさんだったように思っていたので、返事にも悩んでしまう。

 それ故に、曖昧な返事になってしまう。

 ただ、特に追及がないことから、その話はそれで終わりだと感じたのか、端末を操作して鳥の唐揚げのような定食を頼む。

 すると、既に注文を済ませたのか、向かい側に座ったクラリッサが視線を向けてきた。


「ところで、午前の授業はどうだったの?」


「変なメスに言い寄られたりしてないよね?」


 クラリッサに関しては至って真面な質問なのだが、眉を顰めたカティーシャの方はと言えば、完全に異なる心配をしていたようだ。

 もちろん、特に問題なかったので、拓哉はありの侭を答えようとするのだが、そこでリディアルが割り込んだ。


「別に――」


「ああ、確か、女子からは結構な人気だったぞ」


 ――おいっ、リディ。火種をバラ撒くのをやめてくれ。


「違うんだ――」


 拓哉が慌てて誤魔化そうとするが、クラリッサの表情は一瞬にして険しくなる。


「それはどういうことかしら? ちょっと、リディアル君、その話を少し聞きたいのだけど」


「いやいや、そんな事実はないから! 大丈夫だって」


 リディアルがドン引きするほどの剣幕で詰問しはじめたクラリッサに、拓哉が焦りながらも誤解だと告げるが、彼女の隣に座るカティーシャから半眼を向けられる。

 間違いなく、カティーシャは信じていないのだろう。もちろん、拓哉の言葉を。


「怪しい。間違いなく、何かあるよね」


「ほ、ほんとだから、だいたい、リディ以外とは、一言も喋ってないぞ?」


「あ、ああ、まあ、それは本当かな」


 リディアルも自分の発言が災厄を巻き起こしていると認識したのだろう。直ぐにフォローにまわった。

 それはという言葉が気になるクラリッサとカティーシャだったが、一応は矛先を収める。

 しかし、他人の不幸は蜜の味ではないが、他人の困った姿を見て楽しむ悪趣味な者も存在する。


「まあ、ホンゴウ君ならしかないよ。恐らく女の子が放っておかないだろうね」


 ――こらーーー! なに、火に油を注いでるんだ!


 心中で絶叫する拓哉を他所に、クーガーはニヤリと嫌らしい笑みをみせた。

 どうやら、その表情からすると、わざとやっているようだ。

 案の定、クラリッサとカティーシャは獣の如き視線を周りに向ける。それこそ、いつ威嚇を始めてもおかしくない雰囲気だ。


「おいおい、クラレ、カティ、やめろって!」


 そんな二人を慌てていさめるのだが、そんな拓哉の肩を叩く者がいた。


「すまん、オレの誤解だったみたいだ。これはこれで、かなり大変そうだ。火種を撒いちまって、本当にすまん」


 リディアルはあからさまに同情したような表情を見せると、拓哉の耳元で詫びの言葉を口にした。









 料理が届く頃には、クラリッサとカティーシャもなんとか落ち着きを取り戻し、現在は世間話をしつつ食事を進めている。

 そこで、拓哉は気になっていたキーワードを口にした。


「そういえば、対校模擬戦って、なんのことですか?」


 誰ともなしに問いかけてみると、眉を寄せたクーガーがそれを拾い上げた。


「そうか、そろそろだね。三ヶ月先くらいかな?」


「過去五年間、全敗していると聞いたんですが」


 対校戦という言葉から、沢山の訓練校から猛者が集まって、誰が強いのかを競うのだとは想像できた。

 ただ、これまで一勝もしていないというのは、拓哉にとって理解不能だった。


「あははは。まあ、そうだね。でも、それも仕方ないさ」


 クーガーは苦笑いを浮かべて肩を竦めた。その向かいではベルニーニャが悔しそうな表情を見せている。

 ただ、それだけを聞いても、さっぱり解らない拓哉は首を傾げるしかない。

 すると、カティーシャが自分の兄を窘めた。


「兄様、それでは、何のことだか分りませんよ。もちろん、ボクは分かりますけど」


「そうだな、クーガ! それじゃタクヤ君には分からんだろ」


 拓哉が右手にホークを持ったまま時を止めているのを見やり、ベルニーニャもクーガーに物申した。

 すると、妹と相方から責められた彼は、申し訳なさそうにしながら頭を掻く。


「ごめんごめん。ホンゴウ君は何も知らないんだよね? じゃ、君はここが初級訓練校だと言うことは知っているかい?」


 拓哉はチラリとクラリッサに視線を向け、彼女が頷いているのを確認してから視線をクーガーに戻した。


「それで、ここの他にも沢山の訓練校があるんだけどね。PBAの訓練を行っているのは、この国では我が校を含めて八校しかないんだ」


 拓哉にとって、それは初耳だった。

 そもそも、この大陸はアメリカ大陸以上の広さがある。それなのに、国が一つしかないという事実にも驚いたのだが、そこにPBAの訓練校が八校しかないというのも、少なすぎると感じてしまう。


「まあ、地域的な問題はクラリッサ嬢やカティにでも聞いてもらうとして。それで、八校のうち初級訓練校は二校なんだ。うちともう一つの訓練校がある。だけど、それ以外は全て上級訓練校なんだよ。要は、好成績でうちの訓練校を卒業した訓練生達がそういう上級訓練校に入るんだよ。だから、根本的に実力が違い過ぎるのさ」


 その説明を聞いて理由は解ったものの、拓哉は更に首を傾げてしまう。

 というのも、地球においては、大抵のスポーツでクラスという存在がある。ウエイトであったり、年齢であったり、ランクであったりだ。

 例えば、アマチュアとプロの違いもあるし、ボクシングだと階級が決まっているのだ。

 それ故に、初級訓練校と上級訓練校が競い合うことに疑問を抱いたのだ。


「それなら、そもそも、土俵が違いますよね。どうして参加しているんですか?」


「どうも、うちの校長は色々なところうとまれているようでね。参加したくないのが本音のようだけど、どうやら辞退する訳にもいかないらしい。現に、もう一校の初級訓練校にはお呼びも掛からないらしいからね」


 ――なるほど、因果関係があるのか。それも、良くない方の……でも、対校戦か……


 手にしたホークを見詰めたまま、拓哉が対校戦について考えていると、そこにカティーシャが割って入った。


「でも、今年は大丈夫だよ。ボクとタクが居るからね。どんな上級訓練校でもギッタンギッタンにしてやるんだよ」


 彼女は腕を振りながら自慢げにするが、それは先に内戦が勃発するはずだ。

 それを理解している拓哉が、慌ててクラリッサを押し留めようしたのだが、時すでに遅く、既に彼女は右手のスプーンでカティーシャの頭を叩いていた。


「いった~~! なにするんだよ! クラリッサ!」


 叩かれたカティーシャが即座にクレームを入れるが、クラリッサは気にした様子もなく立ち上がる。そして、有無も言わずカティーシャの鼻先にスプーンを突き付けた。


「どうして、あなたとタクヤなのよ! タクヤの相方は、私に決まっているわ! 周囲が誤解するようなことを言うのは止めてちょうだい! 今日の夕方には、私とタクヤのペア申請をするのだから、あなたの入り込む余地はないわ」


 クラリッサが憤慨すると、一瞬にして食堂が凍り付いた。

 周囲は一瞬にして静寂を創り上げ、誰もが恐る恐る様子を覗っている。

 その異様な空気を察して、拓哉がすみやかにクラリッサを宥める。


「く、クラレ、少し騒ぎ過ぎだ」


「な、なによ! まさかタクヤも異議ありなんて言わないわよね?」


「いやいや、そんなことはないんだが、目立ち過ぎだって……」


 そこまで口にすると、さすがに怒りマックスのクラリッサも気付いたのだろう。

 周囲を見回すと、表情を少しだけ強張らせてストンっと椅子に腰をおろした。

 どうやら、自分でも恥ずかしかったのだろう。彼女の頬が少しだけ赤らんでいる。

 そんなクラレを見遣りながら、拓哉は収まりがついたことにホッとしたのだが、周囲では再び噂話で盛り上がり始めた。


「やっぱり、あの黒き鬼神は両刀使いだったみたいだな」


「もしかして、鬼神の取り合いをしてるのか?」


「それにしても、氷の女王の執着振りも半端ないな」


「もしかしたら、夜も黒き鬼神なのかな? いえ、夜は黒き鬼根かも……」


「きゃっ! 使い込まれた黒い奴でガツガツとやられるの?」


「いや~ん。わたし、想像しちゃった……」


「もしかして、あっちも尋常じゃないのかな? 一回お目に掛ってみたいわ」


 ――おいっ! 黒き鬼根ってなんだよ! 使い込まれたってなんだんだよ! それは俺に対する嫌味か? 未使用ですが……何か? そこまで言うなら……今夜だ! 今夜こそ卒業してやる。


 周囲の会話を耳にして、今度は拓哉が顔色を変える。

向かい側では氷の女王ことクラリッサが俯いている。

 そんな彼女からはボソボソと謝罪の言葉がこぼれ出るのだが、既に妄想の世界に突入した拓哉の耳に届くことはなかった。


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