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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
40/233

37 黒い鬼神

2019/1/4 見直し済み


 透明、いや、半透明の膜で覆われる訓練場。

 対戦相手である五機の機体は三百メートルほど離れたところで陣形を組んでいる。

 それは菱形陣形であり、中央の仲間を死守する形となっているが、何故なにゆえそんな陣形を執るのだろうか。

 拓哉はそんな疑問を思い浮かべていた。

 彼からすれば、自分には飛び道具がないのだ。バラケて遠隔攻撃に専念した方が良い気がするのだ。


 ――まあいい。奴等がなにをしようと結果は同じだ。鉄屑にするつもりで撃破してやる。


 クラリッサを辱める会話を聞いてしまったことで、最大限に燃え上がっている拓哉は、模擬戦の開始を今か今かと待ち構えている。

 しかし、まだまだ前置きが続く。その証であるかのように、解説者がルールの説明を始めた。


『それでは、今回の模擬戦のルールを説明します。まず、今回の模擬戦は初級機体を駆るタクヤ=ホンゴウ君のドライバー科編入を選考するものであり、対戦相手とのハンデが設けられています。ホンゴウ君の機体は接近戦武器のみであり、一機のみで戦うことになります。対するPBAは五機です。遠距離装備を含め実践に近しい装備となっていますが、実弾ではなく圧力弾が装填されており、この攻撃を受けると、機体に損傷はないものの、衝撃が加わることになります。そして、気になる勝敗の判定は戦闘不能のみとなってます。質問がある方は手を上げてください』


 ――この解説者はアホだな。手を上げられても困るだろ! まあ、空気を読んで手を上げる者などいないと思うが……って、いるのかよ!


『はい! ミス・リカルラ、どうぞ』


 リカルラはミスと言われたことに憤慨ふんがいしたようだ。一気に顔を曇らせた。


『あなた、ナビ科の三回生……確かレーテルさんね。模擬戦が終わったら診察室に来なさい!』


『あ、あ、あう……あの~注射だけは、ご勘弁を……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい』


 リカルラの特大注射器が見舞われるのを恐れ、解説をしていた訓練生が半ベソで必死に謝っている。


「てか、リカルラさん、これ以上引っ張らないでもえますかね……てか、早く開始して欲しいんだけど……」


 聞こえないとは知りつつも、拓哉はコックピットでリカルラに対して苦言を漏らす。すると、なぜか、彼女はその途端に拓哉の機体を睨んだ。


「ええ!? まさか、聞こえてるのか? いや気のせいだ。気のせい」


 驚いて周囲を見回すが、怪しそうな物はなにもない。モニタに映るリカルラ以外の人間は、全く気にしている風ではない。それ故に、単なる偶然だと自分に言い聞かせる。

 しかし、一〇一号機に視線を向けていたリカルラが、ニヤリと嫌らしい表情を浮かべた。


 ――マジで聞こえてんのか?


 顔を引き攣らせる拓哉だが、リカルラは視線を切って解説者に向けた。

 そして、きっぱりと自分の質問を叩きつけた。


『ちょっと、聞きたいのだけど。ホンゴウ君の編入だという理由だったわよね。そもそも、ここまでのハンデを付ける必要があるのかしら。その理由を教えて欲しいわ』


 リカルラが効き難いことをズバリと尋ねるが、それを解説者が答えられるはずもない。

 それと知ってか、映像が解説席から貴賓席へと移動した。

 カメラを向けられた校長――キャリックは全く表情を崩すことなく、副校長へと視線を向けた。

 その態度で、今回の模擬戦については副校長が仕切っていること、誰もが知るところになる。

 しかし、副校長――ラッセル=ボーアンは動揺することなく対応する。


『通常では編入など在り得ないのです。だから余程の実力がなければ、認める訳にはいかないのです。これでご理解頂けますか』


 ゆっくりと立ち上がったラッセルは、リカルラに向けてそう言うと、何事もなかったかのように腰をおろした。

 ただ、その態度は逆に恐れを感じているようにも見える。

 その証拠に、ラッセルの表情は僅かに引き攣っている。

 実際、ラッセルが口にした理由は、全く理由になっていないのだが、リカルラは素直に折れることにしたようだ。分りましたわと一言だけ告げると、自分も着席した。

 彼女が何を考えてそうしたのかは知らないが、これで今回の件がラッセルの思惑だという事実が確定した。

 そう、副校長が一枚かんでいると、誰もが認識した。いや、公式の記録として残った。

 実際、それに関しては、拓哉的に何の興味もないので、どうでも良いことなのだが、そうでない者達も居るのだろう。

 それ故に、リカルラはその理由を公の場で明確にさせたかったのかもしれない。

 しかし、拓哉にとっては、そんなことよりも早く模擬戦を開始したかった。


「てか、いい加減に始めないか?」


 もどかしさが、そのまま口から這い出る。

 すると、モニターに映っているリカルラの口が「そうね」と動いた。


 ――おいおいおい、完全に盗聴されてるぞ。しかし、どうやって……まあ、今は考えても仕方ないか……戦闘に集中しよう。


 盗聴されていることを確信し、拓哉は焦りを募らせる。

 しかし、そこでやっと、解説者が模擬戦開始の合図を鳴らした。

 それは、まさに空襲警報を思わすようなサイレンだったが、戦闘を開始するにはもってこいの雰囲気をかもし出していた。

 しかし、それに感じ入る時間さえも惜しむ拓哉は、即座に機体を矢のように走らせた。









 疾風となった機体が、まるでツバメが低空飛行するかのように、颯爽と地上を駆け巡る。

 それは、観戦者から見れば、異常な光景だった。

 誰もが驚きで息を呑む。声を発する余裕さえない。まるで弾丸の如く移動している機体を食い入るように見つめている。

 そんな者達が視線を向けた先では、機体がまるで人間の如く、いや、人間以上に滑らかに動き、華麗に舞っている。

 これこそが、ララカリアが作り上げたプログラムの真価であり、桁外れた操作能力を持つ拓哉の力量だった。

 空を飛ぶ能力を保持していない機体が、まるで宙を舞うかのように突き進んでいる。

 もちろん、ただ機体を走らせている訳ではない。

 対戦相手が放つ圧力弾を華麗に躱しつつ、距離を詰めているのだ。


 ――ふむ、さすがはサイキックシステムを使っているだけはあるな。なかなか正確な射撃だ。だが……


「ただ、正確な射撃だけに予測し易い」


 拓哉が口元をニヤリとさせる。

 どこかで聞いたことのあるような台詞だが、ここは敢えてツッコミを入れないでおこう。

 それはそうと、拓哉が装着するヘッドシステムは、なぜか実況放送まで拾ってくる。


『す、す、すごいです! 全ての攻撃をかわしてます。あれにサイキックシステムが搭載されていなとは……本当ですか? ミス・ララカリア』


『うむ。一ミリも乗ってないぞ?』


『では、あれは機体の能力と操縦者の技量ですか……』


 解説というよりは、驚きを伝えているだけだ。

 そんな解説者に、リカルラが説明する。


『恐らくは、操縦者の技量でしょうね。きっと、彼は今頃「正確なだけに予測し易い」なんて言っているのではないでしょうか?』


 ――いやいや、お前は聞いてたよね? 絶対に盗聴しているよね?


 心中で悪態をつきつつも、全く誤ることなく操られる機体は、海を泳ぐ魚の如く敵の放つ弾を避けて進む。

 そのタイミングで、敵の通信内容が耳に届く。


『ランディ、話が違うじゃね~か。全然とまんね~ぞ』


『な、なんなんだあれは! 全然あたんね~。あんなことが可能なのか?』


『ウイルスはどうなったんだ? くそっ! 当たれ! 当たれ!』


『くそっ、なんでこんな至近距離で避けられるんだ? てか、的も絞り難くなってきた』


『うっせ~! 当てちまえばこっちのもんだ。火力はこっちの方が上なんだ。四の五の言わずに撃ちまくれ!』


 ――どうやら、随分と混乱しているようだな。くくくっ! さて、お前達の腐った脳内でクラレを汚した罰を受けてもらおうか。


 先程の会話を思い出しながら、拓哉は不敵な笑みを浮かべる。

 いろいろと水を差されたものの、拓哉の怒りは消えるどころか、メラメラと燃え上がっていた。


「当たらなければ、如何ということはない」


 何処かで聞いた事のあるような台詞パートツーを発しながら、奴等をかく乱する。


 ――こいつ等は既に俺の動きをとらえ切れていない。フェイントを入れるのは逆効果だな。


 的確に相対者の能力を見極め、ただ只管ひたすらに高速稼働を繰り返し、奴等に的を絞らせないように進む。

 そして、距離を一気に縮めると、一機目の側面に回り込み、高周波ブレードを叩き込む。


 ――今の攻撃で、あの機体は動けなくなっただろう。メインモーターをやったからな。


 相手の損傷を確認するまでもなく、高周波ブレードを引き抜くと、それ同時に蹴りを喰らわす。

 実際、蹴りを入れる必要はないのだが、これは不埒な考えを口にした罰だった。


「つぎっ!」


 蹴りを喰らった機体は吹き飛ぶことになるのだが、奴等が密集体型となっていたことが仇となる。

 吹き飛んだ機体が、後ろに居た三機を巻き込んだのだ。


『ぐあっ!』


『あうっ!』


『くそっ!』


 操縦者の呻き声や罵声が耳に入るが、それを無視してバランスを崩した二機目に思いっきり蹴りを喰らわせる。


『ぎゃ! ぐあっ……』


「うっせ~黙って寝んねしてろ!」


 聞こえていないと知りつつも呻き声に罵声を返す。

 拓哉に機体に蹴られた二機目が他の機体を巻き込んでぶっ倒れるのだが、止めは刺さずに次の機体に高周波ブレードを突き込む。


『うあ! くるなーーーー!』


 訓練用の高周波ブレードとはいっても、その攻撃は下手をするとコックピットまで達してしまう。

 それ故に、拓哉は胴体にあるメインモーターに攻撃を集中させている。

 これまでの攻撃で機動不能になった機体が二機。転がっている機体が二機。立っているのは一機だ。

 その一機は、必死に圧力弾を放ってくるが、この至近距離で当たるはずもない。

 なぜなら、拓哉から見て、発射角度がモロ分りだからだ。


『こ、殺される! くるな! くるな! くるな!』


 全く敵の砲撃を喰らうことなく、颯爽と避けきると、怯えた声を発しながらいつまでもライフルを手離さない機体の下方向へ潜り込み、すかさず下方から突き上げるよに高周波ブレードを叩き込む。

 その攻撃で間違いなく行動不能となるのだが、怒りに燃え上がる拓哉が、不逞ふていの輩をその程度で許してやるはずもない。コックピットに向けて容赦なく蹴りを叩き込む。


『ぐはっ! ぐぼっ』


 その反動を使って、立ち上がろうとしている別の機体にも、思いっきり蹴りをぶち込む。


『ぎゃーーー!』


 搭乗者が悲鳴をあげつつ、機体が吹っ飛んで行く。それは、まさに機体が悲鳴をあげているように思えた。

 そんな光景をモニターでチラ見しながら、拓哉は機体を次の敵へと向ける。

 すると、動かなくなった機体の中で、操縦者がブツブツと何か言っているのが耳に入った。


『くそっ、こんな模擬戦なんて出なけりゃ良かった! なんでこんな事になったんだ』


 ――遅いっつ~の! お前も逝ってろ!


 後悔の言葉を吐き出している操縦者を無視して、その機体をまるでサッカーボールのように蹴り上げる。


「つぎっ!」


 宙を舞う機体を確認することなく、次の機体も蹴り上げる。

 その一方的な戦闘は、もはや模擬戦と呼べるものではなかった。

 その証拠に、僅かに聞こえてくる解説者の声が震えていた。


『お、お、鬼です……黒い鬼がPBAを粉砕してます』


 ――少しやり過ぎたか?


 あからさまに戦慄している解説者の声を聞き、少しばかり留飲を下げるのだが、喜びに打ち振るえる者も居たようだ。


『あはははは! タクーーーー! もっとだ! もっとやれ!』


 ララカリアが高らかな笑い声を上げて興奮しているのだ。

 そんな彼女の姿をモニタでチラリと見やる。


 ――めっちゃ絶好調だよな……


 少し呆れてしまう拓哉だったが、まだ戦闘は終わっていない。最後の一機が残っているのだ。


『ちくしょう! なんでだ! 何でこんな奴が! お前なんて消えちまえ!』


 ――声からして、ランディと呼ばれていた男だな。いや、糞ゴミだな。


 奴は、必死になってライフルを射ち捲る。

 しかし、そんな攻撃に当たるようなヘマはしない。


『くそっ! なんで当んね~んだよ!』


「ふっ、頭が悪いからさ」


 ランディの叫び声にそう答えた拓哉は、すかさず奴の機体が持つライフルに高周波ブレードを叩き込む。

 勢いをそのままに、奴の機体に蹴りを喰らわす。

 しかし、それで終わりではない。ぶっ倒れた奴の機体を叩き蹴るべく助走を付ける。


「俺のクラレに不埒ふらちなことを考えた罰だ! 喰らえっ!」


 怒りの叫びをあげつつ蹴りを喰らわせ、ランディの機体が宙を舞ったところで、模擬戦終了のサイレンが鳴らされた。


 こうして拓哉は無事に模擬戦を終了させ、ドライバー科へと編入することが決定した。しかし、その戦い方があまりにも一方的かつ容赦なかったことから、拓哉は周囲から『黒い鬼神』と恐れられることになる。


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