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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
36/233

33 蓄積

2019/1/3 見直し済み


 目覚めると、そこには見慣れた天井があった。

 それは至って普通のことだ。ただ、拓哉はいつもと何かが違うように思えた。


 ――ちょっと窮屈な気がするんだけど……


 割り当てられた部屋のベッドは、実を言うとやたらと大きい。

 今となっては、それがキャリックの策略であることは分かっている。

 ところが、今日に限って、やたらと窮屈なのだ。

 違和感を抱いた拓哉は、未だ覚醒しきっていない頭を横に向ける。

 すると、そこにはよく知っている顔があった。そう、クラリッサの美しい寝顔だ。


 ――まあ、これは普通のこと……じゃないよな? そういえば……そうなると……


 少しずつ昨夜のことを思い出しつつ、顔を反対に向けると、そこにはよく知っているカティーシャの可愛い顔があった。


 ――まあ、これが普通であるはずは……ないか……


 頭を正面に戻して、この状況に陥った経緯が脳裏に浮かぶ。


 ――ああ、そういや、結局、三人で寝たんだっけ……


 昨夜はどっちがどの部位を洗うかで揉めた訳だが、最終的には前後ではなく、左右で分担を決めて、中央は自分で洗うことにしたのだ。

 それで何とか折り合いを付けた。ただ、一人の時はとても恥じらう癖に、彼女達は二人一緒になると、途端にあり得ないほど大胆になるのだ。

 そんな訳で、いつしか二人は身体に巻いていたタオルすら取り去って、拓哉の身体を洗ったのだ。

 そうなると、当然ながらクラリッサの素晴らしき裸体が目に入る。

 さすがに、それを凝視もできないので、徐に視線をずらす。すると、今度はカティーシャの裸が目に焼き付く。


 ――これは極楽浄土なのか? いや、これ以上進展しないことを考えると、これこそが地獄なのかも……


 その光景は男として眼福であり、とても幸せな状況のだが、中途半端というのが最悪だ。

 心身ともに盛り上がった分、どうしても蓄積していくのだ。

 それが何かは、敢えて言わなくてもご理解いただけることだろう。

 ただ、それと知らない二人は、恥ずかしがる様子を見せながらも、全く隠したりしない。


 ――これって、誘ってるのか? もう、やっちゃっていいのか? いいよな? これでやらなったら男が廃るよな? 据え膳食わぬは男恥だよな?


 心中ではそう思いつつも、度胸がなくて踏ん切りがつかない。これもチェリーの定めだろう。

 結局は、なにごともなく風呂を済ませ、全く動揺していないかのような態度を装う。

 実際、心中はドキドキだし、身体も完全に反応している。おまけに、それが二人にバレない訳がない。それは彼女達にとっても、もどかしさと不満に連結している。

 ただ、拓哉はそれを察することができず、彼女達から根性なしと罵られていたりする。


 そんな状況が続き、痩せ我慢もそろそろ限界を迎え、もうマジで勘弁して欲しいと思い始めた拓哉なのだが、今度は抜け駆けという行為を警戒して、二人が一緒に寝ると言い始めた。

 これで拓哉の安らぎの時間は消滅する。一人でのんびりと過ごす余地が脆くも崩れ去ったのだ。

 それこそ、独りで貯蓄を排出する時間さえも失ってしまった。

 そのお蔭でというか、その所為で、拓哉は悶々とした気分のまま、今日の模擬戦に挑むことになる。


「おはよう。タクヤ!」


 拓哉の動きで目を覚ましたのだろう。クラリッサはそう言って軽い口づけをした。


「おはよう」


 ――う~む。めっちゃ嬉しい! でも、これじゃ完全に夫婦だよな? それに、今ので更に十ポイント蓄積しちまった……ヤバイ、もはや倍々ゲームになりつつあるぞ。これは、早急に何とかしなきゃ。いっそ、頭を下げてみるか……


 お金であれば貯まるにこしたことはないのだが、アレについては溜め過ぎると色々と不都合がある。

 それ故に、貯蓄の払い出しについて考えていると、眼前のクラリッサが怪訝な表情を見せた。

 どうやら、拓哉の調子が悪そうだと感じたようだ。カティーシャが起きないように小声で話しかける。


「どうしたの朝から暗い顔をして。体調でも悪いの? 今日は模擬戦なのに、大丈夫なの?」


 問いかけるクラリッサは、酷く心配しているようだ。表情が拓哉以上に優れない。


 ――まあ、確かに体調自体は悪くないけど……


 原因が欲求不満をであることから、クラリッサの問いに答えられずにると、彼女は何かを察したらしい。


「もしかして……私達の所為でストレスが溜まってるの?」


 ――いや、溜まっているのはストレスだけじゃないんだ……いっそ……いや、ダメだ。さすがに、格好悪すぎる……


 心中で彼女に答えるが、それを口にできたらどれだけ幸せだろうか。いっそぶちまけたいと思いつつも、それをぐっと堪える。

 しかし、クラリッサは黙り込んでいる拓哉の態度で、何かに気付いたのだろう。申し訳なさそうな表情で謝った。


「ごめんなさい。実は、解ってはいるの。だけど、彼女が……つい、張り合ってしまって……」


 自分でも恥ずかしい行為だという認識があるのだろう。クラリッサは俯く。しかし、チラリと拓哉の向こう側に視線を向けた。

 そこでは、カティーシャが小さな寝息を立てている。

 ただ、拓哉としてはそれどころではない。


 ――なんだって、気付いてんのかよ~。だったら、何とかしてくれよ~。でも……


 思わず頭を抱えたくなるが、口にした言葉は、全く以て違っていた。


「気にするな。別にお前達が悪い訳じゃないんだ……」


 見栄もあるが、本質的に自分が原因だと理解しているのだ。

 自分自身の優柔不断さが招いた問題であり、それを他人の所為にする気にはなれなかった。

 しかし、それだけではなかった。拓哉から見たクラリッサの表情がとても寂しそうに思えたのだ。

 それ故に、理由を口にすることなく、彼女の謝罪を否定した。

 すると、彼女は少しだけ安堵したようだ。小さく息を吐くと、微笑みを浮かべた。


「ほんとに? 無理してない?」


「ああ、無理してないぞ」


 本当はかなり無理している。しかし、武士は食わねど高楊枝を自ら実践してしまった。

 その途端だった。反対側で寝ていたカティーシャが抱き付いてきた。


「おはよ! タク。てか、バルガンさんは馬鹿だな~。もう少し勉強した方が良いよ」


 彼女は朝の挨拶をしたかと思うと、続けて意味深なことを口にした。

 それは幾ら鈍感な拓哉でも、何を意味するかを理解した。

 ところが、クラリッサには解らないようだ。というか、彼女は真面目だからこそ、そんな知識を持っていないのだ。

 それが故に、クラリッサは憤慨して苦言を漏らした。


「な、何が馬鹿なのよ! 朝から失礼ね」


 カティーシャはといえば、怪しい笑みを浮かべて鼻を鳴らす。


「だって、バルガンさんがあまりにも無知だからだよ」


 ――拙い。ダメだ! カティ、それ以上は口にするな!


 カティーシャが暴露しそうで、拓哉は慌てて彼女の口を押えようとしたが、間一髪で間に合わなかった。

 彼女は勢いよく起き上がると、全員で被っている掛け布団を剥ぎ取り、拓哉に指を突きつけた。


「あのね。男の子は溜まっちゃうんだよ。それも女の子の裸を毎晩のように見せられた挙句、それを放出できないと調子が悪くなるんだ。バルガンさんは、ちょっとどころか、かなり勉強不足だよ」


 ――がーーーーん! とうとう言っちまいやがった……


 クラリッサは怪訝な気持ちを浮かべた表情で、ゆっくりと拓哉の下半身に視線を向ける。そして、再び拓哉の顔を見ると、頬を赤く染めた。


「それって、本当?」


 ――そんなの、答えられね~っての……


 拓哉が頭を悩ませていると、彼女はその態度を肯定として受け止めたようだ。


「ごめんなさい。私、何も知らなくて……」


 ――ヤバイ、クラレがどっぷりと落ち込んでる……


「いや、知らなくて当然だし、俺も恥ずかしくて言えない事だし、クラレが悪い訳じゃないからな」


 慌ててフォローするが、彼女は沈んだままだった。

 そんなところに、空気を読まないカティーシャが登場する。


「だから、色々と知っているボクがタクのストレスを解消してあげるよ」


 ――いやいや、この状況で何を言ってるんだ! 空気を読めよな!


 クラリッサが落ち込んでいるのを良いことに、カティーシャはそう言うと、行き成り拓哉に抱き付いた。


「こ、こら! カティ、空気を読め!」


「え~、ボクが甘い空気に換えてあげるよ」


 ――おいおい、何を言ってるのか解ってるのか? てか、甘くするどころか、隣で気温が三度くらい上がったぞ?


 恐る恐る気温上昇の原因へと視線を向ける。

 そこには炎の魔神が降臨していた。


「あ、く、クラレ、落ち着け! か、カティ、もう止めろ!」


「わわわわぁ!」


 ゴゴゴという地響きの聞こえてきそうだった。いや、拓哉の頭の中では、間違いなくその効果音が響き渡った。

 必死にクラリッサを宥めつつ、カティーシャを押し留める。

 これこそがアルマゲドンだと、その時の拓哉は身も凍らすほどの恐怖に身を凍らせる。

 そんなタイミングで、部屋に備え付けられた呼び鈴が来客を知らせる。


「タク~、朝飯に行くぞ~」


 クロートが何時ものように迎えにきたのだ。


 ――やべ~! こんなところを見られたら、なんて言われることか……


 二人を残し、拓哉は焦って部屋を出ようとする。

 ただ、そこで釘を刺すのを忘れない。


「俺は先に出るけど、二人は見つからないようにしてくれよ」


 この状況を周囲に知られる訳にはいかないのだ。

 クラリッサとカティーシャの二人とも朝帰りなのがバレたら、間違いなくとんでもない噂になるだろう。


「おいっす。どうしたんだ、タク。なんか落ち着きがないけど」


「おはよう。タクヤ君、大丈夫? 顔色が悪いよ? 今日は模擬戦があるのに――」


「お、おはよう。だ、大丈夫です。それより行きましょう。腹ペコで」


 クロートとトニーラは、拓哉が普段と違うことを敏感に感じ取った。

 しかし、そんな二人の二人の背中を押すようにして、食堂へと向かう。


「ふ~ん」


「ん?」


「……くしゅん」


 クロートが何かに気付いたのか、嫌らしい笑みを拓哉に向けた。

 その理由が分からなかったのか、トニーラは首を傾げている。

 拓哉は焦りつつも、平静を装って口を噤むのだが、そこで大きなクシャミが出てしまった。


「おいおい、マジで大丈夫か? 頑張り過ぎだぞ」


「頑張り過ぎ? えっ!? もしかして――」


「なにもないで――くしょん……」


 クロートはニヤリと笑んで意味深な言葉を口にする。それでやっと気づいたのか、トニーラが顔を赤くした。

 そんな二人の考えを必死に否定する拓哉だが、再びクシャミが出てしまう。

 そこで初めて、自分の調子が悪いことに気付く。

 拓哉は模擬戦当日だというのに、この世界では既に撲滅されたはずの風邪をひいてしまったのだ。


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