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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
35/233

32 仲直り

2019/1/3 見直し済み


 頭上に広がる透き通るような青空。

 それは、誰が見ても美しく綺麗な空だと言うだろう。

 ところが、このところ疲れ気味の拓哉に取っては、曇り空とさほど変わりないように思えた。


「はぁ~」


 拓哉が美しい空を眺めながら溜息を吐いていると、背後から罵声が投げかけられた。


「タク! 幸せ者がそんな溜息を吐くんじゃね~よ!」


 クロートはそう言って拓哉の背中を叩く。

 それを見ていたトニーラが率直な意見を述べる。


「タクヤ君は少し贅沢なんだよ。僕ならクラリッサ嬢から構ってもらえるだけで、浮かれちゃいそうだよ」


 二人の気持ちは分らなくもない。いや、それは正常だといえる。

 なんといっても、クラリッサは、非の打ちどころがないほどの美人であり、可愛くもある少女なのだ。

 さらに、均整の取れたスタイルといい、豊かな胸といい、男なら振り向かずにいられないほどに魅力的だ。

 それなのに、拓哉は溜息で返してしまう。


「はぁ~」


 ――そうなんだけどさ~。ただ、俺にはもう一人の相手が居るんだよ。それも、本人曰く、「これでボク達も許嫁だよね」なんて言っている少女が……その二人が毎日のように喧嘩するんだ。誰でも頭を抱えるってもんだろ?


 拓哉自身も贅沢な悩みだということは理解していた。ただ、毎日のように板挟みになっていると、精神的に病んでくるのだ。

 そして、その事実を口にできない理由もあり、周りに相談できないのも、彼の苦悩が和らがない要因となっていた。


「まあ、そうなんですけどね。色々とあるんですよ」


「おっ、それは夜の営みか?」


 内容を言えないが故に曖昧な回答を口にすると、クロートがすかさず食いついてきた。

 クロートからすれば、男と女の悩みとなれば、それしかないのだろう。嫌らしい笑みを浮かべている。

 しかし、相手がクロート達といえども口には出来ないのだ。それに、そんなエロい話ではないのだ。


「それなら、何の問題もないんですけどね……」


 溜息混じりに否定する。

 すると、その反応から拓哉の苦悩を察したのか、トニーラが心配そうな表情を見せた。


「てか、最近のタクヤ君って少し疲れてるよね。大丈夫?」


「少し……少しだけ疲れてますかね……」


 拓哉は少しだけ肩を竦める。その反応からして、明らかに普通ではない。

 実際、トニーラが指摘する通り、拓哉は少し疲れていた。いや、かなり疲れていた。

 なにしろ、校長公認のクラリッサと父親公認のカティーシャが、毎晩のように部屋に来てはバトルを始めるのだ。疲れないはずもないだろう。

 そんな、拓哉を見やり、トニーラは別のことが気になったのだろう。直ぐに話を代えた。


「明後日は模擬戦だよ。そんな体調で大丈夫なの?」


 ――大丈夫か、大丈夫じゃないか、そんなことは、俺にも解らないんだが……


 拓哉はもう一度肩を竦めるが、何も答えない。

 なぜなら、彼にも分からないからだ。いや、彼自身に判断する材料がないのだ。

 そう、未だに模擬戦の内容が決まっていなかった。

 それは拓哉に隠しているだけなのかも知れない。ただ、言えることは、何も知らされていないということだけだ。

 クラリッサやキャリックの事を考えれば、隠されているとは考えづらい。そうなると、単に決まっていないだけかもしれない。

 どちらにしても、何も知らない拓哉からすれば、大丈夫かどうかと尋ねられても、解らないとしか答えられないのだ。


「まあ、機体のプログラムは完了してますし、戦闘自体は大丈夫だと思いますよ」


「あの機体を動かすタクに敵う奴なんて、そうそう居ないね~って!」


 取り敢えず、取って付けたような返事をすると、すぐさまクロートが頷いた。

 あの機体――拓哉の操縦技術を知っているクロートからすれば、初めから負けることなど想像もしていないのだろう。

 それでも、さすがに現状の流れがおかしいと感じているのか、二人は怪訝な表情を見せた。


「それにしても、今回の模擬戦はおかしいですよね」


「ああ、幾らなんでも二日前に対戦内容が決まってないのは異常だぞ」


 トニーラの言葉に賛同するクロートだが、拓哉は逆に通常の模擬戦が気になる。


「いつもはどんな感じなんですか?」


「どんな感じと言われてもな~。校内模擬戦なんて普通にやることだし、そんな特別なことはないぞ」


「そうですね。大抵は一対一か多対多の戦闘ですよ」


 クロートとトニーラが答えてくる。その内容は、拓哉が凡そ予想したものだった。


 ――まあ、それなら、どちらになっても問題ないかな。いや、気を引き締めないと……


 拓哉はホッと安堵の息を吐く。

 というのも、一対一なら負ける気はしないし、多対多でも生き残った方が勝ちだというのなら、何の問題も無いと思える。

 ただ、拓哉が経験してきたのは、飽くまでもゲームの中だ。それ故に、実機だと思うと、不安が拭えない。


「タ~ク~!」


 拓哉が模擬戦について思考していると、後ろからカティーシャの声が聞えてきた。

 振り向くと、そこには元気に手を振るカティーシャの姿と、それを冷たい視線で突き刺しているクラリッサの姿があった。


「もう授業は終わったのか?」


「うん。もう終わりだよ。今日は評価試験しないの? ボク、今度こそ頑張るから」


「いえ、あなたは絶対に乗せません。ナビシートの掃除がどれだけ大変だったか理解しているのかしら」


 授業の終わりにつてい尋ねると、カティーシャが機体に乗りたいと言い出す。

 それに対してクラレが爆弾を投下した。


「そ、そ、それは言わない約束だよ……」


 その爆弾でカティーシャ号は一気に撃沈されるが、その元ネタを知らないクロートとトニーラは首を傾げている。

 しかし、当の本人は、さすがにショックを隠せず、拓哉に泣き付いた。


「うわ~ん! タク~、バルガンさんがボクを虐めるんだよ」


 実際、虐めというよりも、単に事実を告げただけなのだが、この場合は、少しばかり可哀想だと言えなくもない。

 拓哉としては、さすがに今のはちょっと可哀想だと感じたようだ。

 クラリッサに半眼を向けてたしなめる。


「クラレ! それは……」


「あ、ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたわ」


 素直に謝ったものの、クラリッサはわざとらしく澄ました表情を見せた。

 強かな彼女の態度に、拓哉は肩を竦める。

 あからさまに悪意のある態度を執るクラリッサに、棘のある視線を向けたカティーシャは、怒りのあまりに隠形を始めた。

 次の瞬間、風もないのにクラリッサのスカートが見事に捲り上がる。

 クラリッサは驚きで目を瞠り、拓哉は眼福で目を瞠ったのだった。









 明日はいよいよ模擬戦だ。

 その内容に関しては、ついさっき通達があったばかりだ。


「幾らなんでも遅すぎない?」


 カティーシャが苦言を口にしつつ、クラリッサに冷たい視線を向けた。

 その態度の理由は、校長がクラリッサの叔父であるせいだろう。

 しかし、それは彼女の責任ではない。彼女に冷たく当たるのは間違っている。

 そう感じた拓哉は、直ぐにカティーシャを窘める。


「カティ、別にクラレが悪い訳じゃないだろ? そんな態度を取るのは良くないぞ」


「あうっ、ごめん」


「俺に謝っても仕方ないだろ?」


 カティーシャは素直に謝ってくるのだが、それが向けられたのはクラリッサではない。

 そのことに、拓哉は溜息を吐くが、クラリッサはあまり気にした風でもなく、お茶をいれながら何食わぬ顔をしている。


「ん? 大丈夫よ、タクヤ。そんなことなら慣れっこだし、特に気にしてないわ」


 彼女はお茶を拓哉の前に置きながらそう告げる。しかし、拓哉としては色々と不満なのだ。

 というのも、ここは拓哉に割り当てられた私室であり、いつものように二人がいがみ合っているのは、さすがに心が休まらないのだ。

 そう感じて、今日は敢えて二人にハッキリと話すことにした。


「あのさ、ちょっと話があるんだけど、二人ともちょっと聞いてくれないか?」


 そう前置きをすると、二人とも真面目な表情で拓哉に顔を向けた。

 ただ、どちらも口を開くことはない。それが何を示しているのかは解らないが、拓哉は取り敢えず話を進めることにした。


「俺はお前達二人に好かれて、とても嬉しい。それにこうやって部屋に来てくれるのもとても嬉しい。でも、二人が険悪で居られるのは、ちっとも嬉しくない。何が言いたいか解るか?」


 途端に、カティーシャが項垂れた。数秒前の件があったからか、グサりときたのだろう。


「ごめん。バルガンさんもごめん」


 彼女は直ぐに自分の非を認めて、拓哉とクラリッサに頭を下げた。

 すると、クラリッサは驚いた表情を見せたが、直ぐに平静を装って頭を下げる。


「それは私もだわ。ごめんなさい。タクヤ、モルビスさん」


 クラリッサが素直に頭を下げたことで、拓哉はホッと胸を撫でおろす。

 というのも、どちらかと言えば、クラリッサの方が険悪な態度を執りがちだからだ。

 そんな彼女が素直に謝罪してきたことで、拓哉は安堵したのだ。


「二人ともありがとう。理解してもらえてとても嬉しいよ」


 拓哉が笑顔で喜びを露わにすると、二人も嬉しそうに笑顔で頷く。

 そんな二人を見て、拓哉はこれからのことに想いを馳せる。


 ――これで、少しは真面になるだろう。二人が喧嘩さえしなければ、最高に幸せな生活になるはずだ。


 二人が理解してくれたことで、想像以上に気分が軽くなった拓哉だったが、世の中とはそんなに甘くないと思い知る。


「じゃ、俺はちょっと風呂に入ってくるから、二人で仲良くしていてくれよ」


「あ、タクヤ、風呂なら私が背中を流すわ」


「あ、だったらボクが前を流すね」


 風呂発言が拙かったのか、それとも二人が理解できていなかったのか、行き成りどっちが前を洗うかで揉め始め、火花を飛ばす勢いで睨み合いを始めた。


「いやいや、前は自分で洗うから」


「だめよ! 私が洗います」


「何を言ってるんだい。ボクが洗うに決まってるじゃないか」


 ――つ~か、自分で洗う事を禁じられても困るんだが……


 拓哉は今にも取っ組み合いを始めそうな二人を眺めつつ、さっきの返事はどうなったんだとか、明日は模擬戦なのにとか、ボソボソと呟きながら大きなため息を吐いた。


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