表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
31/233

28 公認

2019/01/01 見直し済み


 濡れた手からこぼれ落ちた雫が、チャプンっとお湯を跳ねあげる。

 身体を沈めた所為で、浴槽に並々と張られたお湯が、波打つように揺らめく。

 温かなお湯は心地よく、身体の疲れのみならず、気分までも癒してくれる。

 今日は色々なことがあった。ただ、こうやって温かな湯船に浸かっていると、何もかもが忘れられそうだと感じていた。

 夕食を食べ損ねたクラリッサは、保存食でお腹を満たし、今はゆっくりとお風呂に入っているところだ。

 通常であれば、訓練生は二人でひと部屋なのだが、拓哉を連れてこの世界に戻って来てからは、なぜか一人部屋に変更となった。

 もしかしたら、隔離されているのかも知れない。なんて思うこともあったが、現在の状況が居心地よいだけに、敢えて異議を申し立てるようなことはしない。


 ――それにしても……今日のことは……


 背中をゆったりと浴槽にもたれていたクラリッサだったが、今日の出来事を思い出して、伸ばしていた脚を抱えてしまう。


 ――さすがに、あれはやり過ぎたかも……タクヤ、ドン引きしてないかしら……何もかも隠さずに見せつけてしまったし……


 クラリッサは今更ながら顔に火がつくほど恥ずかしくなっていた。

 思わず両腕で身体を抱きしめて、身を捩らせてしまう。

 そう、彼女のは何もかもをさらけ出してしまったのだ。

 その豊かな胸のみならず、全てを明け透けに見せてしまった。これ以上隠すところなんてないほどに。


「きゃーーーー! もうダメだわ。お嫁に行けない……というか、タクヤに嫁ぐしか……もらってくれるわよね?」


 思い起こせば、思い起こすほどに身体が熱くなってくる。

 温かい湯に浸かっているが故に、既に茹でタコのように赤くなっていた。

 ただ、それ以上に身体の芯がうずくような気がして、彼女は落ち着きなく身体を動かした。


 ――どうしたのよ。なんでこんなに身体が反応するの……もしかして……私はタクヤに抱いてもらいたいの?


 彼女は思わず自分で身体を触ってしまう。それも拓哉のことを考えながら。あの男性の身体を思い出しながら。彼女は抱いて欲しいと思った。彼に触って欲しいと思った。

 胸を優しく撫でながら、自分が強く拓哉を欲していることを理解した。

 あの時、彼女は今更ながらに気付いた。カーティスが拓哉を誘惑する姿を見て、初めて気付いた。自分は拓哉のことが好きなのだと。いつの間にか彼に惚れてしまっていたのだと。

 その理由は解らなくも無い。

 地震と呼ばれる災害で、拓哉が執った行動は、彼女を守るためのものだった。

 あの時、彼女は身を挺して自分を守ってくれる拓哉こそが、愛すべき相手なのだと本能的に感じたのだ。

 それ故に、今日のことはとても恥ずかしく思ったが、良い切っ掛けだったのかも知れないとも感じていた。ただ、ちょっと、いや、かなり慎ましさが足らなかったかも知れない。


「だって、明けっ広げに見せてしまったのだもの……でも、タクヤは自分のものだと言ってくれたわ。きっと、ふしだらな女だなんて思ってないわよね? 彼の下半身も凄く反応していたし……ふふふっ」


 拓哉の身体を思い出し、ダメだと思いつつも我慢ができなくなったクラリッサは、いつまでも湯船の中で彼に抱かれる妄想に浸ってしまうのだった。









 今朝は、何故か朝から爽快な気分だった。


 ――もしかして、昨夜のアレのお蔭かしら……初めてだったけど……結構スッキリするものなのね。って、朝から何を考えてるのよ。バカっ! 今日は叔父様……校長に呼ばれてるんだから、シャキッとしないと……


 昨日の悶々とした気分が嘘のようになくなったクラリッサは、食事を終えると校長室へと向かった。

 余談ではあるが、整備班の拓哉とは時間が合わなくて、朝は一緒に食事を摂ることができない。

 それも、彼女の不満の一つではあるが、もう直ぐドライバー科に移ってくると決めつけているので、最近ではあまり気にしていない。

 そんなクラリッサは、校長室の前まで来ると、自分の身形を確認して備え付けのモニターに手を伸ばした。


「1N2、18NS、クラリッサ=バルガンです」


 校長室に居るのは、クラリッサの叔父であるものの、彼女は正規の手順を踏んで校長室に入った。

 そこには、いつものように機密情報を確認しいる叔父――キャリックがいた。


「おはようございます」


 彼女が先に挨拶をすると、キャリックは視線をチラリと向けたところで、少し驚いたような顔を見せた。


「ああ、おはよう」


 数瞬の間、固まっていたキャリックだったが、思い出したように挨拶を返した。

 そして、手にしていた書類を机の上に置くと、いつにも増して嬉しそうな笑顔を見せた。


「どうしたんだい? 今日は一段と綺麗になってるじゃないか。とても女性らしくなったよ」


 キャリックは素直に嬉しく思い、素直に褒めているのだが、彼女はそれを不満に思う。


「叔父様、それではいつもの私が女らしくないみたいではないですか」


 彼女は頬を膨らませて、思ったことを口にした。

 キャリックはそれに焦りを感じるが、そこは年の功か、拓哉とは一味も二味も違っていた。


「そういう訳ではないよ。以前は、少しばかり鬼気迫るものがあったからね。でも、今はとても女らしいし、とても美しく思うよ。奴に見せてやりたいくらいだ」


 両手を机の上に組んで、そこにがっしりとした顎を乗せたキャリックが微笑む。

 その笑顔からは、嘘偽りのないことが感じさせられて、彼女は思わず恥ずかしくなった。


「お、叔父様ったら……なにを、何をおっしゃってるんですか。もう!」


 恥ずかしそうに身を捩るクラリッサに、キャリックは追い打ちをかけるが如く、とんでもないことを口にする。


「いや、とうとうか。よしよし、二人とも一人部屋にしたのが……おっと、ところで、いつ孫が見れるんだい?」


「はぁ? 孫……。もう、叔父様のバカっ!」


 朝から訳の分からないことを言ってくる叔父を見詰めたまま、クラリッサは話の内容を脳裏で分析し始める。そして、答えに到達する。


 ――叔父様、まさか……でも、それしか考えられないわ。


 そう、キャリックはクラリッサと拓哉をくっ付けるつもりなのだ。

 そして、男女の仲になり易いようにと、一人部屋に変えたのだろう。


 ――まだ十五なのに、いったい何を考えているのかしら。でも、これって公私混同よね?


 キャリックの行動は特権を乱用しているとしか思えない。

 恥ずかしさを誤魔化すために、彼女がそれに言及しようとした時だった。インターホンの音が鳴り響く。


「はいれ!」


 キャリックが端末に向かってそう言うと、入り口のドアがゆっくりと開いた。

 その途端、クラリッサは驚きで瞳を見開く。


「た、タクヤ!」


 そう、誰かと思いきや、拓哉が入ってきたのだ。


「あ、クラレ! お、おはよう」


「お、おはよう」


 拓哉も彼女に気付いて少し驚いていたが、頭を掻きながら朝の挨拶をしてきた。

 その声を聞いて、固まっていた彼女も慌てて挨拶を返す。

 拓哉も呼ばれていたことを不審に思い、クラリッサは視線を叔父に移す。そこには満足そうな叔父の顔があった。


「おはよう。ホンゴウ君、今日は二人に話があってきてもらった」


 どことなく居心地の悪そうな二人を前にして、微笑みを浮かべたキャリックは、挨拶と前置きをしてから話を続けた。


「昨日の事件だが――」


 その言葉を聞いて、二人は一気に表情を強張らせた。というか、拓哉は瞬間接着剤で固着したかのように微動だにしない。まるで呼吸まで止まっているかのようだ。

 二人が驚いたのは簡単な理由だ。あの赤裸々な事件をキャリックに知られてしまったと考えたからだ。

 焦ったクラリッサがチラリと視線を向けるが、拓哉は石像と化したままだ。

 ところが、キャリックは全く異なる話を口にした。


「怪我がなくて何よりだ。あの照明器具の落下については、現在調査中なのだが、恐らくはサイキックよるものだと思われる。犯人が分りしだい厳しく処分をするつもりだ。ただ、これで終わりになるとは限らない。申し訳ないが、これからも気を付けて欲しい。クラレも気を付けてな」


 ――ああ、そっちの話なのね……びっくりさせないでよ。叔父様のバカっ。


 キャリックのいう事件が、昨日の乱痴気騒ぎでないと知って、クラリッサは胸を撫でおろす。


「分りました」


「はい。了解しました」


 どうやら、拓哉も復帰できたようだ。安堵の表情で返事をしている。

 それに続き、クラリッサもホッと一息ついて頷く。

 ところが、キャリックにはまだ話したいことがあるようだ。頷きながらも口を開いた。


「それと、ホンゴウ君は今日から暫くリカルラ博士のところへ通って欲しいのだ」


「えっ!? リカルラ博士のところですか?」


「うむ」


 その理由を察することができなかったのか、拓哉は思わず聞き返す。

 キャリックは和やかな表情を崩さずにゆっくりと頷いた。

 拓哉は未だに首を傾げているが、それを問うことを憚ったのか、それ以上口にしない。

 しかし、クラリッサとしては、どうにも納得できなかった。


「校長、それはどういうことなのでしょうか?」


「うむ。以前、クラレにも話したが、やはりホンゴウ君にはサイキック能力があるのではいかと考えているのだ」


「えっ!?」


「やはり……」


 一人驚いている拓哉を余所に、クラリッサは問いを続ける。


「では、食堂の事件も昨日の照明も、タクヤのサイキックで回避したということですか?」


「調べて見なければ分からないが、恐らく間違いないだろう」


 ――やはり、拓哉にはサイキックがあったのね。そう考えると全て辻褄が合うわ。


 クラリッサは、未だに何が何やらといった表情をしている拓哉の腕を引く。


「取り敢えず、言う通りにしておいた方が良いわ」


「わ、分かった。ただ、あとで理由を説明してくれよ」


 彼女がコソコソと助言すると、拓哉は不服そうにしていたが、小さく頷いた。


「分りました。でも、ララさんの方は――」


「ああ、ララカリアには伝えてあるから大丈夫だよ」


 ――さすがは叔父様。段取りが早いわ。


 結局、用事というのは拓哉がサイキック保持者だという話だけだった。ただ、拓哉とクラリッサが校長室を出ようとしたところで、キャリックから声がかけられた。


「あ~、ホンゴウ君」


「は、はい!」


 未だに緊張しているのか、拓哉はビクリとしながら振り向いた。

 すると、キャリックがこれ以上ないほどの笑みを見せた。


「ワシはね。未成年だとか、不純異性交遊だとか、そんなくだらないことは言わないよ。ガンガンやってもらって構わない。なんといっても、早くクラレの子供を見たいからね。ただ、浮気は良くないよ。もし、愛人にするならきちんとクラレと話し合うべきだね。ああ、避妊の必要はないからね。どんどんやりなさい。それにケチをつける者がいたらワシに言うがいい。速攻で左遷にしてやるからね」


 ――がーーーーん! これって、完全に知られてるわ……隠しカメラでも仕込まれてるのかも……拙いわ。私達の赤裸々な行為が筒抜けなのかもしれない……


 いきなり子作り推奨だと言われて、拓哉は顔を引き攣らせて固まってしまう。

 その横では、怒りが込みあげてきたのか、クラリッサがワナワナと身体を震わせる。

 そして、気付くと、彼女は大きな声を張り上げていた。


「叔父様のバカっ! エッチ! 覗いたら許しませんからね!」


「がははははははははは」


 怒りを露わにしたクラリッサが罵声を浴びせかけるが、キャリックは堪えていないどころか、最高だと言わんばかりに、楽しげな笑い声をいつまでも響き渡らせた。

 こうして拓哉とクラリッサは、子作りを推奨する保護者公認の間柄となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ