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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
29/233

26 大ピンチ

2019/01/01 見直し済み


 どうしてこうなってしまったのかと、拓哉は神をも呪いたい気分になっていた。

 彼の目の前には、タオル一枚を身体に巻いた少女が座っている。

 これが拓哉の卒業式であるならば、どれほど喜ばしいことであっただろうか。

 しかし、世の中は理不尽なのだ。非情にも世知辛いのだ。

 可愛い女の子の裸体を拝んでしまったことは、確かに男である拓哉としては少なからず喜ばしいことだったかもしれない。いや、異性に強い興味を抱く年頃だと考えれば、間違いなく眼福だったと断言できるだろう。

 元気溌剌げんきはつらつ興味津々(きょうみしんしん)なお年頃だ。女の子の裸体を見たくない訳がない。いや、世間の目が見逃しさえしてくれるのなら、凝視したいはずだ。


 ――ゴチでした。堪能させて頂きました。ありがとうカティ!


 感謝の言葉を述べたいところだが、まさかそれを本人に言う訳にもいかない。

 それどころか、拓哉は沈黙を守るカーティスに恐れをなして怯えていた。

 そこへ、俯いたまま黙り込んでいたカーティスが、ゆっくりと顔を上げた。

 ただ、その表情は虚ろで、視線が定まっていない。


「ねぇ、どこまで見たの?」


「な、なにも見てません……」


 何でも正直に言えばいいというものではない。

 時と場合によっては見て見ぬ振りができないと、立派な大人には成れないのだ。しかし、これには無理がある。

 なにしろ、彼女が目覚めた時にはすっぽんぽんだっただ。誰もがどの口がそれを言うかと突っ込むところだ。

 おまけに、男であることを立証するために隅々まで確認してしまったのだ。

 その詳細に関しては、とても説明できるものではない。それほどに彼女の身体を分析してしまったのだ。

 それこそ、地球なら犯罪で逮捕されてもおかしくない。


「それ……どう考えても嘘だよね? 切り落とすよ?」


「ぐはっ! それだけは勘弁してくれ! まだ一度も使ってないんだ!」


 彷徨っていたカーティスの視線が拓哉に絞られる。その大きな瞳は蔑むように細められる。

 拓哉は正座のまま、思わず後退るが、彼女は容赦なく尋問を始めた。


「で、どこまで見たのかな?」


「む、胸を少し……」


「はぁ!? 胸が少ししかないって言ったのかな?」


 ――ちげーーー! くそっ、言葉のチョイスをしくじったか……


「いえ、胸を少々拝見させて頂きました」


「それ、嘘だよね? そんな嘘、子供でも言わないよ? 正直に言わないと、サイキックで本当に切り落としちゃうからね?」


「まて! 早まるな!」


 結局、その一言で拓哉は撃墜されてしまった。そう、物の見事に爆散してしまった。本郷機大破の巻き。


 ――仕方ない。仕方ないよな。まだ未使用で新品同様なのに、こんな処で落とされるなんて悲しすぎる……


 そんな訳で、彼女の前で洗いざらいゲロすることになってしまった。

 好奇心に負けた拓哉の行動を全て知られることになった。

 有りの侭を聞かされた彼女がどうなったかというと、再び心此処こころここに在らずという感じで放心した。

 拓哉はそんなカーティスを心配するのだが、彼女はもう一度くしゃみをしたところで正気に戻った。そして、復帰したところで口にした言葉は、冷たい響きをはらんでいた。


「もちろん、責任を取ってくれるんだよね? お嫁に行けない身体になってしまったんだけど、責任を取ってくれるんだよね? だって、隅々まで見たんだよね? その……あの……さ、触ったんだよね?」


「で、でも、カティだって女だなんて言わなかったじゃないか」


「黙る! ちょん切るよ?」


「うぐっ!」


 カティの迫力に負けて、拓哉は思わず押し黙ってしまった。

 現在の彼は、恐らくこの世界で最弱の生き物と化しているだろう。

 縮こまる拓哉に向けて、カーティスは溜息を一つ吐くと、公序良俗に反するような台詞を吐いた。


「タク、タクも脱いでよ」


「えっ!?」


「えっ、じゃないんだよ? ボクだけが見られたなんて、恥ずかしいじゃないか。要はヒフティヒフティになればいんだよね」


 そう言って、彼女は全裸になることを強要した。

 さすがに、どうしたものかと悩んでしまうのだが、既に選択肢がないのではないかと感じていた。

 すると、ウダウダと悩む拓哉に向けて、苛立ちを露わにしたカーティスから催促の声が発せられた。


「あら? じゃ、ボクと結婚するんだね? ああ、ちょん切る方でもいいよ?」


「あ、あう、でも、ちょっと見ただけだし……」


 苛烈なカーティスの台詞に、思わず弁解してみたのだが、それは逆効果だった。


「ちょっと? どこがちょっとなのかな? 胸は見た?」


「あ、ああ」


「じゃ、下半身は見たの?」


「あ、ああ」


「それも念入りに見ちゃったんだよね?」


「あ、ああ」


「もちろん、触ったんだよね?」


「あ、ああ」


 もはやカティからの口頭尋問に対して、「あ」以外の言葉を返せなくなっていた。

 なにしろ、それが事実だからだ。

 もはや虫の息となっている拓哉に、まなじりを吊り上げたカーティスが判決をくだす。


「はい! ギルティ! さあ、テキパキと脱ぐ!」


 ――くそっ、裸を所望か? わかった。脱げばいいんだな。脱げば!


 その言葉で、これまで正座をしていた拓哉は立ち上がり、覚悟を決めて全裸になる。もはや自棄やけっぱちだったのは言うまでもないだろう。









「へ~、男の人の身体って、こんな風になるんだ」


 カーティスは下半身を隠す拓哉の手を無理矢理に退け、感心しながら観察している。


「てか、いつもこうなの? これじゃ歩き辛いよね?」


 カーティスは興味津々といった様子で、いつもよりも元気になっている拓哉のブツを指で突く。


「こらっ! 触るな!」


 拓哉は必死に抵抗するが、途端に彼女の表情が変わった。


「タクだって触ったんだよね? 不公平じゃないか。それよりも被告人はテキパキと答える!」


「うぐっ……い、いや、普段は……こうじゃないんだ……」


 取り付く島もないほどの剣幕に負けて、拓哉が渋々と申し開きをすると、彼女は再び興味有りげな表情をみせた。


「それじゃ、どうして今はこうなってるの?」


「……」


「被告人は、ギロチンの刑が望みなのかな?」


「ち、ちげーーーー! ち、ちょっと、こ、興奮したからだ」


 彼女の強い口調で、思わず本当のことを口走ってしまう。

 すると、彼女はニンマリと顔を歪めた。まさに、狼が獲物を前に舌なめずりするかのようだ。


「それって、もしかしてボクの所為? ボクの裸をみたからかな?」


 ――それはそうなんだが……そんなこと言えね~し……でも、このままじゃ……え~い、くそっ!


 どう答えたものかと悩むが、いまさら何を言っても遅いと判断した拓哉は、開き直って正直に答えることにした。


「くそっ! そうだよ! お前の裸を見たからだ! 年頃の男なら仕方ないんだ」


 それを聞いた途端、彼女は少し恥ずかしそうにしたが、直ぐにニンマリと笑うと、とんでもない行動にでた。


「あっ! こらっ!」


「うわっ、すごく熱い」


 そう、何を考えたのか、彼女は握りしめたのだ。

 その行動に、拓哉は思わず声をあげる。しかし、彼女は気にせず触り続ける。


「ちょ、ちょっと、やめろ。ダメだ。拙い。拙いって!」


「いいじゃない! ボクのことも触ったんだよね?」


 ――うぐっ、確かにその通りなんだが……


 現在の状態は、超絶ヤバイ状況だった。

 何を隠そう、かなり敏感になってきたのだ。

 それは、拓哉の身体もだが、精神的にも臨界点に近づいていた。

 このままだと、勢いに任せてニャ~ん、なんてことになりかねない。

 そんな欲情を拓哉は必死に抑えつけているのだ。


「あ、こら、それ以上はダメだ」


 いよいよ、カーティスが調子に乗って触る。その所為で、拓哉の身体が完全に反応し始めた。


「すご~い。でも、ちょっと可愛いかも」


 ――う~む、何が可愛いのか全く理解できん。


 彼女は楽しそうに弄ぶ。特に女性と違う部分を確かめるように。

 そして、何を考えたのか、とんでもないことを口にした。


「これの役目が何か知ってるよ? 試してみる? ボクの身体で」


「いやいや、それは拙い。拙いから」


「あれ? バルガンさんに義理立てしてるのかな? 大丈夫だよ。内緒にしてあげるから」


 ――くそっ駄目だ。完全にカティのペースに嵌められてるぞ。いや、このままじゃ身体まで……


 必死に耐える拓哉の反応が楽しいのか、彼女はどんどんエスカレートしていく。

 しかし、そんな時だった。天の助けか、将又地獄の沙汰か、部屋のチャイムが来客の来訪を告げた。


「ほ、ほら、来客だ。急いで服を着ないと……」


「ボク、着る服がないんだけど? この場合は居留守しかないんじゃない?」


 確かにその通りかもしれない。こんな状況を誰かに知られようものなら、食堂での噂話どころの話では済まなくなる。

 しかし、無情にも居留守の効果は発揮されなかった。


「居るんでしょ? ララカリアが遅いって、怒ってるわよ……」


 ――何で入って来れるんだ? いや、なんでクラレなんだ? 駄目だ。終わった……


 拓哉が天を仰ぐかのように、全裸のまま立ち尽くす。更に付け加えるなら、下半身も立ち尽くしている。

 おまけに、カーティスがその下半身をしっかりと握り、言い逃れなんてできない状況だ。

 完全に詰んだとは、これまさにといったところだ。


「えっ!?」


 この状況を目にしたクラリッサが凍り付く。

 それも致し方ない。なにしろ、裸の男女が怪しい行動を執っているのだから。いや、彼女からすれば男二人がという構図だ。


 ――終わった……


 凍り付いたクラリッサを見やり、拓哉は苦汁を飲み込むかのよに苦々しい表情となる。

 しかし、そんな状況でも空気を読めない者は居るものだ。


「バルガンさんは出て行って。今はボクとタクの時間なんだから」


 ――うぎゃーーーーーーーー! この女、火に油を注ぎやがった。


 心中で絶叫を上げる拓哉を余所に、その言葉がクラリッサを現実の世界に呼び戻した。


「あ、あ、あなた達、男同士でなにしてるのよ! 不潔よ! というか、タクヤ、早く服を着なさい」


 息を吹き返したクラリッサは、憤慨の表情を作りながらも目のやり場に困っていた。

 ただ、拓哉の元気な下半身をチラチラと横目で見ている。

 少なからず、クラリッサも興味には勝てないようだ。

 しかし、彼女が発した言葉が拙かった。

 カーティスは拓哉の下半身から手を離すと、一気に立ち上がり、自分の身体に巻いていたタオルを剥ぎ取った。


「もう、この際だよね。あさ、見てよ。ボクのどこが男なのかな?」


「えっ!? な、ない……ある……ない……ある。あなた、もしかして女だったの!?」


 クラリッサは拓哉とカーティスの全裸を交互にみやり、最終的に彼女が女だと理解したのだろう。

 それを理解した途端、クラリッサは鬼の形相を作って拓哉に迫った。


「タクヤ、これはどういうこと! きちんと説明して」


「そ、それは……ぐっあ!」


 拓哉は焦りつつも、直ぐに事情を説明しようとした。ところが、カーティスに下半身を握られて言葉を詰まらせてしまった。

 それに飽き足らず、カーティスはここで炎の中にジェット燃料を注いだ。


「もう、バルガンさんの出る幕じゃないんだよ」


「なんですって~~~! タクヤ、どういうこと!?」


 ――ヤバイ、完全にキレてる……今から冷静にイチから話して納得してもらえるかな……ダメだ。もう終わりだ。いや、諦めちゃダメだ。ここは、きちんと説明しよう。


 これまでに見たことないほどに怒り狂うクラリッサを目にして、拓哉は自分の末路を思い浮かべる。

 それでも、理由を説明を始めようとした時だった。

 再びカーティスが口を挟んだ。


「どういうことって、こういうことだよ」


 彼女は口だけではなく、両手で拓哉の元気な下半身を挟んだ。


「いや、ち、違うんだ。カティ、や、やめろ。やめろってば」


 必死になって弁解するのだが、こういう時の女の戦いは恐ろしいものだと始めて知ることになった。

 なぜなら、クラリッサはショックを受けた表情を見せながらも、次の瞬間にはズカズカと脚を進めたかと思うと、カーティスの手を退けた。そして、これは自分のモノだと言わんばかりに握りしめたのだ。


「ぐあっ! お前等、いい加減にしろ。俺はモノじゃないぞ」


 下半身を確保されつつも、拓哉は男の威厳とばかりに言い放つ。

 しかし、彼女達は全く聞いていない。それどころか、二人は顔を擦り付けんばかりに睨み合っている状態だ。


「そんな貧相な胸でタクヤを虜にできると思ったら大間違いよ」


 まずは、クラリッサが先制攻撃をしかける。しかし、カーティスも負けてはいない。


「あら? 好きな男の前で服も脱げないような女が何を言ってるのかな? ああ、その大きな胸は偽物なんだね。どれだけ盛ってんだか」


「はぁ~!? 偽物ですって! 見てらっしゃい!」


 まさに売り言葉に買い言葉だった。しかし、クラリッサは恥ずかしがることもなく、テキパキと服を脱ぎ始めた。

 どうやら、怒りのあまりに拓哉の存在を忘れているのだろう。

 カーティスでは到底太刀打ちできないゴージャスな胸と、グラビアアイドル級のナイスな身体つきを出し惜しみなく披露した。


挿絵(By みてみん)


 拓哉としては、必死に止める必要があるのだが、男心とはなんて不誠実な代物だろうか。

 クラリッサの裸体に魅せられて、呆然と眺めるままになっていた。いや、食い入るように凝視してしまっていた。


 こうして拓哉達三人は全裸のまま、これから延々と不毛な戦いを繰り広げることになるのだった。


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