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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
24/233

21 兄様

2018/12/30 見直し済み


 いつものように教室に入り、モニターの組み込まれた座席に腰を下ろすと、周囲から相変わらずの噂話が聞えてきた。

 当初こそ、多少は面白いと思わなくもなかったのだが、ここ最近はさすがに鬱陶しく感じている。

 そもそも、氷の女王に興味をもっていたこともあり、噂話も情報源としては悪くなかったのだが、ここ最近の話は恋愛ものになってきたし、その内容がいささか下種な勘繰りになっている。それ故に聞くに堪えないものとなってきていた。

 噂ではあるものの、その内容次第では、話している方の品性が問われるというものだ。


 ――まあ、良くも悪くも人間なんて、こんなものか……


 金髪碧眼の青年が溜息を吐きつつも、授業の準備を進めていると、彼の隣に親愛なるナビゲーターがやってきた。


「ガク、おいっす」


「おはよう。ベルニーニャ。でも、私の名前はガクではなく、クーガーだよ?」


「いいじゃん。そんな細かいこと気にするなよ。ウチらはペアリングじゃないか。それにウチのことはベルでいいって、いつもいってるじゃんか」


「分かっているよ。ただ、私の性格がそれを許さないのだよ」


「ちぇっ、相変わらず几帳面なんだから。てか、ワザとだよね」


「くくくっ。すまん。ベル」


 ペアリングという呼び名の通り、クーガーの専属ナビゲータであるベルニーニャは、相も変わらずガサツな少女だった。


 ――せっかく、可愛い顔をしているのだから、もう少しお淑やかにできないものだろうか。それこそ氷の女王のように……


 なんて、クーガーが思うほどに、彼女はおてんばな娘だった。

 クーガーが心中でそんな愚痴をこぼしているのだが、彼女は勝手に話を続ける。


「そう言えば聞いたかい? あの召喚者を編入させるための模擬戦をやるんだってさ」


「ああ、そのことか。一応は教官から打診があったよ」


「おお、さすがは影の三回生主席ドライバー。それで受けることにしたのか?」


「いや、断ったよ」


 クーガーが教官からの打診について話すと、ベルニーニャは瞳をキラキラさせていた。

 しかし、彼が肩を竦めてみせると、彼女はガックリと肩を落とした。


「ええ~~~っ! なんで受けないんだよ。面白そうなのに~」


「いや、彼は弟のお気入りだからね。私が手を出すと怒られてしまうよ」


「嘘つけ~! 本当のことをいえ~~~~!」


 どうやら、彼のナビゲーターは見た目と違って賢いらしい。いや、勘が働いているだけかもしれない。

 ただ、それぐらいでないとナンバーワンナビゲーターは名乗れないだろう。

 そんな彼女に、クーガーは小声で正直な気持ちを話すことにした。


「くくくっ、悪い悪い、本当のことを言うとね。あんなのには勝てないよ」


「マジで? ガクが勝てないのか?」


 ベルニーニャはクーガーに合わせて声のトーンを落とす。ガサツに見えても多少は空気の読める女なのだ。


「ああ、弟と一緒にこっそりと見てきたが、あれは人間業ではないよ」


「う~む。ガクがそこまで言うのなら、相当なものだな」


「ああ。だから丁重にお断りしたのさ。みすみす勝てない戦いを演じる必要もないだろ? それに、あまり目立ちたくないのだよ。将来のこともあるからね」


「そうだね。ガクの実家のことは知っているし、無理は言わないよ。でも、その冷静過ぎるところは直した方がいいぞ。もう少し熱くなっても良いと思うけどな」


 正直に話したのに、最終的にはダメ出しを喰らってしまう。

 クーガーは思わず苦笑してしまうのだが、彼女は既に気分を入れ替えたのか、続きを気にした。


「じゃ、模擬戦の相手はどうなるのさ」


「多分、ランディー辺りがでるんじゃないのかな?」


 ランディーの名前を出した途端、ベルニーニャは嫌そうな顔を見せた。

 その気持ちは、誰もが理解するところだ。なにしろ、三回生の嫌われ者――訓練校の嫌われ者と言えば、誰もがその名前を上げるほどだ。


 ――でもさ、噂話をするのは良くないと思うよ。


「おい! クーガーさんよ。模擬戦を断ったらしいじゃね~か、怖気づいたのか?」


 嫌な予感に襲われていたクーガーに、噂のランディが背後から話しかけてきた。

 朝から嫌な空気を吸うことになるなんて、本当に勘弁して欲しいものだと思いつつ、クーガーは身体の向きを変える。


「そうだね。怖気づいてしまったよ」


 何と答えても煩くなるのが分かっているので、適当に頷いて終わらせる。


「けっ、天下のモルビス財閥の御曹司がこれか! ほんと糞だな」


 ランディーは腹立たしげに罵声を浴びせかけると、興味をなくしたのか、その場から立ち去っていく。


「うっせ~っての。くそゴミ。さっさと消えろ!」


 ベルニーニャがボソボソと悪態を吐くが、クーガーは肩を竦めるに留めた。

 奴の態度を不快に感じてはいるものの、この訓練校を出てしまえば二度と会うこともない。それ故に、真面に相手をする必要もないのだ。

 クーガーは自分にそう言い聞かせる。ただ、脳裏に別の存在が浮かぶ。


 ――そう、ホンゴウ君とは違ってね。


 クーガーが例の彼のことを思い出しているうちに、授業のチャイムが鳴る。

 いい塩梅で授業となって胸を撫でおろす。


 ――そろそろ、外野が煩くて鬱陶しくなってきたからね。


 周囲の視線と騒めきを煩わしく思い、クーガーは教官が来るまでの間、耳を塞いで将来について考えることにした。








 三回生ともなると、座学の時間は殆どない。

 訓練校でのカリュキュラムは、午前二時限、午後二時限の一日四時限制だが、午前の一時限以外は全て実技の時間となっている。

 二時限目のサイキック実習を終わらせたクーガーは、昼食を摂るべくベルニーシャと共に食堂に入った。


「ここは相変わらず、噂話の盛んな場所だね」


 入った途端に、ベルニーニャが眉間に皺を寄せて吐き出すように、ここは有り難くもない話であふれかえっている。


「本当に、飽きもせずに、よくもこれだけ他人のプライバシーを侵害できるものだね」


「ほんっと、余計なお世話だよね。おっと、聞こえたかな?」


 クーガーの愚痴に釣られてベルニーニャが毒を吐く。ただ、周囲の者達がそれに気付いたようだ。

 それでも、いまさら以てクーガーとベルニーニャの噂が広まったりはしない。今やそんな勇気のある者は居ない。そう、誰もがタダでは済まないと知っているからだ。

 もちろん、それはクーガーの仕業ではなく、ベルニーニャの行動力の成果だ。


「さあ、そんなことよりも食事にしよう。昼の休み時間もそれほど長い訳じゃないからね」


「そうだね。あそこが空いてるぞ」


 ベルニーニャが空き席を見付けてスタスタと歩き始める。

 クーガーはその後をのんびりと付いて行くのだが、ふと疑問を抱く。


 ――これでは、まるで私が尻に敷かれているように見えないか? まあいい、そんなことよりも、さっさと食事を済ませるとしよう。


 少しばかり不満を抱きながらも、それを棚上げして携帯端末で昼食のメニューを開く。

 いつもの日替わり定食を選択すると、さっさと注文の文字をタッチする。

 そんな時だった。食堂の空気が一瞬にして変わる。


 ――まあ、これも何時ものことだね。氷の女王ことクラリッサ嬢が食堂に現れたのだろう。それも本郷君付で。


 取り立てて驚くこともない思いつつ、クーガーはゆっくりと視線を入り口に向けた。

 そこでいつもと違うことに気付く。


「おいおい。弟君が一緒だぞ」


「そ、そうだね……」


 ――カティ、いったい何をしてるのかな?


 ベルニーニャに突っ込まれて、クーガーは冷静な表情で肩を竦めるのだが、心情的には落ち着きを無くしていた。

 というのも、彼の弟――カーティスが拓哉の左側に寄り添っていたからだ。

 右側のクラリッサについてはいつものことなので、気にする必要もないのだが、拓哉の左側で嬉しそうにする弟には、些か問題を感じていた。


 ――どういうつもりだ?


 カーティスの事情を知る兄としては複雑な気分で、その光景を唖然と眺める他ない。

 ところが、兄を見付けたカーティスが嬉しそうな顔でトコトコと近づいてきた。


「兄様、例の奴はどうなってますか?」


 ――おいおい、その話をここでするんじゃない。


「こらこら、カティ。ダメだよ」


「あぅ……そうでした……」


 クーガーが窘めると、カーティスはションボリと俯く。すると、横に居るベルニーニャが顰め面で突いた。

 恐らく、フォローしろと言っているのだろう。


 ――ああ、分かってるよ。


「でも、準備は進めているから、心配しなくてもいいよ」


「ほ、ほんとですか!? やった~」


 ――カティの奴、本当に大丈夫なのか?


 大はしゃぎで喜ぶカーティスだが、それを眺めるクーガーは、少し釘を刺しておく必要があると考えた。


「カティ、でも、まだ口外しないように」


「あっ、はい。兄様」


 嬉しそうな表情で、一目散に拓哉のところに戻る弟を見やり、クーガーはさらなる不安を募らせる。

 というのも、この計画は彼の実家――財閥における最重要機密であり、最大の開発でもある。それ故に、まかり間違っても、現段階で外部に漏らす訳にはいかないのだ。

 ただ、その開発を成功させるためには、どうしても必要なモノがある。


 ――いや、必要な人材と言わないと失礼だよね。ねぇ、ホンゴウ君! というか、近いよ。カティ……もしものことがあったら……その時は、責任を取ってもらうからね。分かってるよね? ホンゴウ君。


 まるで子犬がじゃれつくかのように、拓哉に纏わりつく弟の姿を見やり、ハラハラしながらも心中で釘を刺すクーガーだった。


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