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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
227/233

224 仁義なき戦い

2019/3/22 見直し済み


 ミリアルの連絡は、現在の状況において最悪だった。


『街に残っている者が居るみたいなの』


 彼女の手腕は素晴らしく、既に移民者の出発は終わっていた。

 この短期間に全ての者を送り出すのは、並大抵のことではない。小さい街だといっても、万単位の住民が暮らしているのだ。

 その背景には、度々、ヒュームによる危険にさらされていることもあるだろう。

 それでも、短期間に移民者を送り出したのは、間違いなく彼女の功績だ。恐らく、本人も満足していたはずだ。

 それ故に、彼女の申し訳なさそうな声を聞いて、さぞ無念だろうと感じた。


『前回の戦いの所為で、街の人口が正確に把握できていないのよ。だから、移民者からの声で、やっと気づいたの――』


 残ったのは年寄りが多く、移民してまで長生きしたくないと考えた者達らしい。

 更に悪いことは、既にミラルダ基地の兵も撤退しており、その者達だけが孤立化していることだ。


『まあ、勝手に移民しろという私達の主張も自分勝手だし、どちらが迷惑かなんて言えないけど、できるなら一人として被害者を出したくないの』


 実際のところ、ミリアルがどういう心境なのかは解らない。ただ、その声色からは必死さが伝わってくる。

 少なからずそう感じた拓哉は、何とかしたいと考えて、残った者の人数を確かめる。


「それで、何人くらい残ってるんですか?」


『さっきも言った通り、正確な数は解らないわ。ただ、数百人は居るらしいわ』


「す、数百人!? そ、そんなに……」


 申し訳なさそうに告げてくるミリアルの言葉を聞いて、あまりの数の多さに驚きを隠せなくなる。


『そうなの。でも、その高速飛空艇なら、なんとか収容できると思うの』


 ――ふむ。どうやらこの高速飛空艇に乗せろということのようだが、嫌がる者をどうやって乗せるんだ? というか、時間もないし……


 物理的に問題のないことは理解したのだが、精神的な問題と時間の制限が気になる。


「正直言って、嫌がる者を連れ出す自信なんてないですよ」


『そうよね……ただ、移民すれば遊んで暮らせると伝えて欲しいの。それはモルビス財閥が保証すると言えば、来てくれるような気がするわ』


「そんな約束をしてもいいんですか? どんな要求を出されるか分かったもんじゃないですよ?」


『心配しなくても、それくらいで潰れる財閥じゃないわよ。それに、遊んで暮らせると言っても、過剰に与えるつもりはないわ』


 ――まあ、それが妥当だろうな~。あとは、時間か……なんといっても、奴等は目と鼻の先まできてるんだし……


 ミリアルの説明を聞いて、拓哉は瞬時に思考を巡らせる。


 ヒュームの位置は理解しているし、行動開始時間はサラリーマンと同じ朝の八時だ。

 このままいけば、拓哉は朝の六時くらいに到着できるだろう。あとは、説得して乗せる時間なのだが、そうなると問題は残留者の居場所ということになる。

 都合の良いことに、この高速飛空艇は、垂直着陸と垂直上昇が可能だ。降りられるスペースがあれば問題ない。しかし、そうでなかった場合には、徒歩で飛空艇まで移動することになる。


「あの~、残留者の居場所は分かっているのですか?」


『それが……いくつかのポイントに分かれているみたいなの。一応、予想ポイントは押さえてあるから、送るわね』


 ――ぐあっ! 一ヶ所じゃないのか……これはかなり拙いじゃないか。


 複数の場所だと聞かされ、思わず呻き声をあげそうになるが、それを堪えて送られてきた予想ポイントをスクリーンに映し出す。そして、ガックリと肩を落とす。


「最悪だ……」


『無理を言ってごめんなさい』


 地図上に表示されたポイントを見て、その最悪さに思わず声を漏らすと、ミリアルが平謝りしてくる。


「いえ、別にミリアルさんが悪い訳じゃないんで――」


「ミリアルさん? なにそれ!? お母様でしょ? ん~、ママも可よ?」


 落ち込んでいるミリアルを慰めるつもりだったのだが、とんだ藪蛇となってしまう。

 結局、色々と考えることが山積みなのに、お母様と呼ぶまでネチネチとしつこく責められて、拓哉は途方に暮れることになった。









 残念ながら到着時間が早まることはなく、ミラルダに到着したのは、予定時刻である朝六時だった。

 そこで目にした光景は、自分の知るミラルダの風景であり、まるで今にも人が現れそうに思えてくる。

 全てを放置したまま逃げ出したことで、通ったままの電力が街頭を灯し、信号機を動かしている。

 ただ、さすがに全ての建物に明かりが灯っておらず、全く行き交う車もないことで、捨てられた街なのだと実感する。


「もぬけの殻といっても、朝早い時間だとそんな感じがしないわね」


 拓哉とあまり変わらない感想を抱いたのだろう。キルカリアが眠そうな表情を隠すことなく、後ろからやってきた。


「確かにそうだな。でも、呑気に街の感想について語り合ってる場合じゃないぞ」


「それもそうね。ところで、説得部隊は?」


 彼女が口にした説得部隊とは――


「うんじゃ、行ってくるぜ!」


「僕も行ってきます」


「タク! 無茶すんなよ!」


「みんなも無理しないでくださいね」


 エアバイクに跨るクロート、トニーラ、デクリロの三人を見送ると、キルカリアに答えることなく、愛機――黒鬼神に足を向ける。

 そう、この飛空船には、最低限の人員しか乗っていない。それ故に、黒鬼神の整備班であるクロート、トニーラ、デクリロの三人が残留者の説得に向かったのだ。


「説得が上手くいけばいいんだけど」


 先に踵を返した拓哉の背後から、キルカリアの不安そうな声が届く。


「彼等なら何とかしてくれるさ。一応、餌も用意されてるし。それよりも、問題は距離だ」


「確か、クロートが向かった場所が最悪なのよね」


 渋面を作ったキルカリアの言う通り、トニーラとデクリロが向かった先は、徒歩でも十分といった距離なのだが、クロートが向かった先は、徒歩だと三十分は必要だ。況してや、年寄りの脚となると、もっと時間が掛かることを見込む必要がある。


「そうなんだが、俺が奴等を蹴散らせば、時間なんて関係なくなるだろ?」


「あら、強気ね」


「強気というか、負ける気はない」


「ふ~ん。じゃ、私は見ているだけでも平気よね?」


「おいおい、そんなことを言わずに手伝ってくれよ。戦い手が一人でも多い方が助かるだろ?」


「分かったわ。手伝ってあ・げ・る」


 茶化してくるキルカリアに、苦笑いを見せる拓哉だったが、直ぐに頭を下げる。


「すまない。本当はコロニーにも向かいたいんだが……」


「その件なら、仕方ないわよ」


 本来なら、移住が完了していた場合、そのままコロニーの救援に向かうはずだった。しかし、残留者が居たことで、それが儘ならない状況となってしまったのだ。

 それを気にして、拓哉は謝罪したのだが、彼女はあまり気にしていないようだ。


「それに、こちらを早く終わらせられたら、向こうにも行けるわよ。だから、機体を壊しちゃだめよ?」


 色々と話し合った結果、ミラルダから『親愛の徒』が暮らすコロニーまでは、それほど遠くないことから、高速飛空艇はディートに向けて出発させ、拓哉は黒鬼神を飛ばしてコロニーに向かうことにした。

 ディートへの帰還に関しては、こっちに向かっているクラリッサ頼みとなる。


「もちろんだ。というか、この後がなくても機体を壊す気なんてないけどな」


「あら、聞いたわよ。これまで散々と機体を壊してきたらしいじゃない?」


「うぐっ!」


 格好良く決めたつもりだったが、彼女の台詞は思いっきり拓哉のボディーを抉る。


 ――誰だ? 何でもかんでも暴露する奴は……


 誰だと言いつつも、レナレとトトの姿を思い浮かべる。

 心中で罵り声をあげるが、そのまま黒鬼神に乗り込む。

 もちろん、クラリッサの居ない現在のナビゲータシートは空席だ。キルカリアは自分の機体に搭乗している。

 実は、キルカリアが「黒鬼神のナビゲータシートに座るわ」と、言い出すのではないかとハラハラしたのだが、それは取り越し苦労に終わった。

 ただ、その理由は簡単なものだった。ララカリアからアタックキャストシステムを自分の機体に組み込んでもらったからだ。彼女は嬉々として自分専用の機体に向かった。


「メインモーター起動。出力正常。システムエラーなしっと。さすがだよな。これまでエラーなんて見たことがないぞ」


 異常知らずのシステムチェッカーを見て、改めてララカリアの凄さを思い知る。


「さて、レーダー情報同期と……きたきた。ふむ。まだ動き始めてないな。予定通りだ」


 高速飛空艇のレーダー情報と同期させ、敵の位置を把握した拓哉が満足げに頷いていると、ヘッドシステムにキルカリアの声が届いた。


『こっちは、何時でも出られるわよ。作戦はどうするの?』


 ――作戦って、そんなの決まってるじゃないか。


「もちろん、先制攻撃だ」


『ちょっと、卑怯だけどね』


「確かにそうだが、そんな条約がある訳じゃないだろ? てか、奴等が人類側の条約に則って無益な殺生をしないのなら考えなくもないが、そうでないなら、仁義なき戦いに徹するさ」


『まあね。そういう意味では、彼等の都合に合わせる必要もないわね』


 奴等がサラリーマン勤務なのは、奴等の都合であり、拓哉がそれに合わせてやる必要はない。

 守るべき戦いの場合は、こちらも都合が良いから待っているだけで、攻めるのであれば、卑怯だと言われようとも時間外に強襲するのが得策というものだ。


「それじゃ、いっちょ暴れるぞ」


『もちろん、運んでくれるのよね?』


「ああ、分かってるって」


 実は、飛行機能も欲したキルカリアだったが、さすがにそこまで機体を見直す時間はなかった。そんな訳で、彼女の機体は空を飛ぶことができない。


 ――さて、二度と侵略なんて演算結果をはじき出せないくらいのダメージを与えてやるか。


 キルカリアの機体を後ろから抱くような体勢で固定すると、拓哉は一気に黒鬼神を大空高く舞い上がらせた。


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