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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
220/233

217 ルキアス大脱出

2019/3/20 見直し済み


 己の姿を目にして、思わず叫び声を上げたくなったのだが、直ぐにそれどころではないと気付く。

 融合によって得られた拓哉の視野には、ピンチとなっているドールの姿があったからだ。


 ――あれは……ガルダルが操るドールか? 他の機体は全て潰れているが……いや、それを考えると、彼女としか考えられないな。残りの敵は……八機か……


 敵を葬りつつも、瞬時に判断する。

 今まさに押し潰されそうなシールドの中で、その状況に恐怖している者達を救うことにしたのだ。


 ――シールドで包むのは成功したけど……このままじゃ……しかし、どうやって……


 何とかシールドで参加者がいる場所を守ったのだが、このまま俺の力が尽きれば同じことだと考えて、どうしたものかと思案する。すると、頭の中にトトの声が響てきた。


『持ち上げればいいんちゃ』


「持ち上げろと言っても、どうやって?」


 相変わらず慣れないテレパシー的な声に違和感を抱きながらも、その方法が気になるところだ。


『シールドをそのままを維持して、機体を飛ばすんちゃ』


 ――ああ、なるほどな……てか、気付かない俺がアホなのか……


 自分の知恵の無さに呆れつつも、言われた通りにする。

 その所業は、本来であれば、とてもではないが不可能な行為なのだが、融合している現在の拓哉にとって、それほど難しいことではなかった。

 黒鬼神をゆっくりと上昇させ、円球となったシールドで参加者が存在する床ごと持ち上げる。

 その有様に驚く参加者たちをモニターで確認しながら、今度はその円球をどうしたものかと考える。


 このまま、ここに下ろす訳にはいかないよな……そうなると……少し残念だが、残りの敵は任せる他ないか……


 さすがに、救助者を連れたまま戦う訳にはいかない。

 残りについては、待機していた部隊に任せることにする。


「残党狩りは任せた」


 救出した者達をこのままホテルに移動させることにした拓哉は、味方の部隊に後事を託す。すると、すぐさま呆れた声が返ってきた。


『了解です。というよりも、もう殆ど残ってませんよ』


 確かに、レーダーに写る敵の数は残り四機となっていた。

 部隊長の返事に肩を竦めつつも、シールドで覆った参加者たちをホテルに運ぶのだが、そこで拓哉の眼が敵の旗艦を捉える。


 ――ちっ、あんなところに隠れていたのか。くそっ……


 街の東側にはグランドキャニオンのような峡谷があり、その谷底に敵の戦艦が存在していた。しかし、現在の状況からすると、掃討しに行く訳にもいかない。

 結局は、戦艦の居場所を指令室に伝えるだけとなってしまう。


「東の峡谷に――」


 ところが、戦艦の位置を知らせようとした時だった。トトの力を借りた拓哉の眼に、街に向かってくるに異物が映る。


 ――あれは何だ?


『兵器みたいなんちゃ! なんか、鉄の臭いがするんちゃ』


 拓哉の思考を読んだのか、トトが自分の考えを伝えてくる。


『東の峡谷がどうしたの?』


 途中で話を止めたことが気になったのだろう。ミリアルが続きを尋ねてきた。

 そんな彼女に、兵器のことを伝える。


「いえ、東の峡谷に敵の戦艦が居るのですが、そちらから地中を進んでくる物体があるんです。トトは兵器じゃないかと言ってますが」


『何ですって! それの形状はわかる?』


 ミリアルは想像以上に慌てた声色で、兵器の存在について確かめようとする。

 彼女の態度は、拓哉に不安を抱かせる。


 ――それほど拙い物なのか?


「PBAよりも少し大きくて、ドリルのついた円柱です」


『そ、そう……解ったわ。あなたは直ぐに救助した者達をホテルに。その後は、追って伝えるわ』


 気落ちした様子のミリアルは、珍しく真面目な話だけで通信を終わらせてしまった。

 ミリアルの動揺は、これまでにないほどであり、拓哉は直ぐにピンチだと気付く。


 ――どうやら、相当に拙い状況のようだな……


 唯でさえ疲弊しているのに、これから起こるであろう波乱の臭いを感じて、拓哉は少しばかり焦りを抱く。









 頭がおかしくなりそうだった。

 自分でもここまで問題が大きくなるとは、思ってもみなかったからだ。

 それでも、何もかもを捨てて逃げ出す訳にはいかないのだ。


「街に避難警報を発令して! 空輸設備を持っている者達には、救助を求めてちょうだい。恐らく、二時間……いえ、一時間半でこの街から離れないと死んでしまうわよ」


「えっ!?」


 ミリアルの言葉を聞いたメイドが驚きを露にして固まっている。その気持ちは分からなくもないのだが、今は笑って済ませる余裕はないのだ。


「えっ、じゃないの。早くしなさい」


「あ、はい。すみません」


 メイドの尻を叩き、避難警報を急がせる。もちろん、ミリアル達が勝手に行う訳にはいかない。急いで公共機関に連絡するのだが、間違いなく丸々投げで返されるだろう。なぜなら、この街においては、公共機関よりもモルビス財閥の力の方が大きいからだ。


「ミリアル、もしかして……都市破壊兵器か?」


 ミリアルがあたふたしていると、義父であるガリアス元帥が険しい表情を向けてきた。ミリアルとタクヤの会話を聞いて、何かを察したのだろう。


「はい。恐らく……いえ、間違いなくベヒモスでしょう」


「ベヒモス?」


 現役から退いていたキャリックは、その存在を知らないようだ。訝しげな表情で眉を吊り上げた。


「都市破壊兵器です。超振動により大地を震動させ、そこで出来た亀裂にサイキック融合爆発のエネルギーを放出します。そうすると、行き場の少ないエネルギー波は地上に向けて湧き水のように吹き出し、地上の全てを破壊します。その威力は凄まじく、崩壊から生き延びても、そのエネルギー波で消滅するでしょう」


「なんてことを……」


 ベヒモスの恐ろしさを説明すると、キャリックを始めとした四将軍が青い顔で首を振っていた。しかし、それを呑気に眺めている暇はない。


「こうなったら、私とバルガン将軍の提案を飲んでもらう他ないでしょうね」


「そ、そうじゃな……それしかあるまい……」


 ミリアルの要求に、ガリアスが渋々と頷く。

 それは、会合に向かう前に話し合っていた内容だ。その時は判断できないということで保留となったが、こうなっては、嫌でも飲んでもらうほかない。


「では、急いで空輸の準備を進めます」


「ああ」


「お義父様、そんな覇気のない返事では困ります。これからが大変なのですから」


「うぐっ……ミリアルは相変わらず手厳しいのう……」


「さあ、皆さんも避難を。将軍達の仕事はこれから沢山ありますから。ここで息絶えてもらう訳にはいきませんわ」


 ミリアルの雰囲気は、まさに鬼気迫るものだった。

 誰もが一歩下がる。しかし、そこで義兄であるルーファスが、誰もが抱いた疑問を代弁する。


「ミリアル、お前はどうするんだ?」


「私ですか? 私は避難の状態を見届けてから脱出します」


「それは拙いぞ! お前こそ替えの利かない存在だからな」


「いえ、私が居なくなっても、ミッシェル、クーガー、カティが居ますわ。大丈夫です」


「しかし……」


「そんなことよりも、ルキアス基地の反乱は収まっているはずです。直ぐに飛空艦の用意と民間人の収容を。タイムリミットは一時間半です。その間に出来るだけ沢山の住民を街の外に運んでください」


「ぬぐっ……わかった……」


 顔を引きらせつつも、コクりと頷くルーファスに微笑みを向け、きびを返すのを見届けたミリアルは、視線をメイド達に向ける。


「メイド隊。あなた達は避難の誘導に出なさい。それと、工場にある飛空船を全て出してちょうだい。とにかく、街の住民を全て街の外に移動させること。飛空船に乗り切れない住民の街外への移動も考えて! タイムリミットは一時間半! いいわね」


「「「「「はい!」」」」」


 メイド達が高らかに声を上げるが、それに頷くことすらせずに携帯端末を取り出す。接続先はリカルラだ。そう、彼女がクラリッサやミルルカを運び出すのに時間が掛かると思ったのだ。


「リカルラ、時間がないから簡潔に話すわ。一時間で脱出して! そう。もちろん、クラリッサとミルルカを連れてね。人が足らない? 解ったわ。直ぐに応援を出すわ」


 通話を終わらせると、今度は遠隔操作用のカプセルから出てきた娘達に声を掛ける。


「お疲れ様。あなた達のお陰で助かったわ。本当に有難う。でも、もう気付いていると思うけど、この街が終わりを迎えそうなの。直ぐにリカルラを手伝ってクラリッサとミルルカを運んでちょうだい。それとキルカリアにも連絡して、脱出の準備を進めて! 高速艇をこちらに回させるわ」


 街が大ピンチであるとこを告げると、立っているのも辛そうなガルダルが一歩前に出た。


「何とかならないですか? いえ、たっくんなら……」


 彼女にとって拓哉は最後の頼み、いや、神なのだろう。しかし、拓哉も所詮は人間であり、出来ることには限界があるのだ。


「残念だけど……多分、タクちゃんも限界のはずよ。だって、復帰して直ぐにあれだけの力を使ったのだもの。いつ倒れてもおかしくないわ。だから、これ以上、彼に何とかしてくれって言えないわ」


「ママはどうするの?」


 ガルダルがしょんぼりと頷くと、今度は愛娘のカティーシャが焦った表情を向けてきた。


「なに勘違いしてるのよ。私もちゃんと脱出するわよ! ただ、ギリギリまで出来ることをやりたいの」


「だったら、ボクも……」


「カティ! もう子供じゃないんだから我儘をいわないの。あなたには、あなたのやるべきことがあるでしょ? さあ、リカルラの処に。急ぎなさい!」


「……」


 いかにも仕方ないという頷きを見せ、何度も振り返りながらこの場を後にするカティーシャを見送る。そして、再び携帯端末で頼りになるメイド長を呼び出す。


「トーラス? ベヒモスが街を襲うわ。一時間半で脱出するわよ。工場の飛空船を全て使えるようにして……機体は要らないわ。出来る限り住民を収容してから脱出してちょうだい。そうね。時間がないからピストン輸送でもいいわ。とにかく、街の住民を外に運んでちょうだい。あと、ミラルダが使用していた高速艇をホテルに回してもらえるかしら。ええ。お願いね。ああ、あなたもちゃんと脱出するのよ? メイド長の替えは利かないのよ!」


 ――さてと……あとは……あの坊やをどうやって説得しようかしら……ああ見えて情熱的なのよね……


 一通りの段取りを済ませたミリアルは、真実を伝えれば、間違いなく飛び出していきそうな愛娘の夫を思い浮かべ、なんと言って引き止めるかと頭を悩ませる。

 しかし、悩んだことで対応が遅れることこそ愚かだ。

 正直なところを伝えることにしたのだが、案の定、拓哉は素直に受け入れてくれなかった。


 ――ちぇっ、やっぱりこうなったか……フルパワーの彼ならなんとかなったかもしれないけど、今の状態では、どう考えても不可能だわ……さて、どうしようしましょうか。


 愛娘カティーシャ。

 最近ではとても誇らしい娘になって、心の底から喝采の声を上げていた。

 その愛娘が夫に選んだ相手。それは黒き鬼神と呼ばれる若者だった。

 生真面目で、女に甘く、それでいて実は熱血漢。だけど、ちょっぴりおっちょこちょいで、本当に可愛い子だ。


 ――クーガーには申し訳ないけど、あんな息子が欲しかったわ……オマケに最強だしね。あは。


 話を聞いた途端に、有無も言わさず飛び出していった可愛い婿殿のことを考えながら、おもむろに携帯端末を取り出すと、困ったときのメイド長頼みとばかりにトーラスを呼び出す。


「ごめんなさい。追加の用事ができたのよ。というか、これは最優先事項ね。ウチの可愛い婿を回収して来てくれるかしら」


 ――これで良し! トーラスなら何とかしてくれるわよね? それじゃ、張り切って避難活動に精を出しましょう。


 ミリアルは自分自身に喝を入れるように両手で両頬を叩き、視線をモニターに移した。


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