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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
218/233

215 ならば諸共

2019/3/20 見直し済み


 その報告は、カルラーンの思考を麻痺させた。

 六十機も投入したというのに、何の成果もあげることができず、それどころか僅かな時間で消滅してしまった。

 そう、全滅どころか、跡形もなく消滅してしまったのだ。


 ――ありえん……なにをどうすれば、こんな悪魔のような所業が行えるのだ。鬼神の降臨だと騒いでいる奴等がいたが……眉唾だと……いや、頭を切り替えねば……向こうが消滅したということは、こちらに向かってきているはずだ。しかし……情報が……


 同志であるカトル=リストンからの連絡が途絶えて、既にかなりの時間となっていた。もはや捕まったと考えるべきだ。その所為で、これまでのように詳細な情報を得られないのは、思いのほか大きな痛手だった。


「カルラーン大佐。ホテルから高速で向かってくる機体があります。というか、PBAにしては速過ぎますが……」


 ――いや、奴に間違いあるまい……報告では飛行機能も有していると聞いている。六十機ものPBAをあの短時間で殲滅するのだ。普通のPBAと比べることが間違っている。それよりも……どうするか……いや、こちらには人質がいるのだ。慌てることはない。


 オペレーターからの報告は、カルラーンの心を揺さぶる。しかし、ここで怖気づくわけにはいかない。自分自身を奮い立たせて、これからの策を立て直すことにした。


「周囲の敵は?」


「約三百メートル先で様子を覗っているようです。いまだ動く気配はありません」


 ――ふむ。こちらが会議場を占拠していることで、迂闊うかつに手を出せないと判断しているのだな。狙い通りだ。あとは、地下か……


 地上の状態から相手の動き読みつつ、地下に潜り込んでいる部隊の様子を確認する。


「地下で争っているアームスはどうなっている?」


「未だ交戦中です」


 ――くそっ! なにを手間取っておるのだ。まあいい。取り敢えず、黒い機体の対処に注力すべきだな。


 思わず罵声を吐き出したくなるが、それを我慢して指示を飛ばす。


「いつでも撤退できるようにしておけと伝えろ。それと、オープンチャンネルで回線を開け」


「はい」


 オペレーターに指示を出すと、予備の簡易ヘッドシステムを取り付け、自分達の要求を一方的に突き付ける。


「愚かな者達よ、聞こえているか! こちらは純潔の絆だ。黒き機体が現れたようだな。こちらは会場を包囲している。中に閉じ込められた者達の命が惜しくば、黒い機体と共にタクヤ=ホンゴウを差し出せ。繰り返す――」


 脅しを三回ほど繰り返し、ヘッドシステムを取り外す。


「黒い機体が敵部隊と合流したようです」


 ――ふむ。丁度よかった。こちらの要求は間違いなく聞いているだろう。これで、奴等もそう簡単には手出しできないはずだ。


「黒い機体の拘束準備をしろ。四機も向かわせれば十分だろう」


「はい。直ぐに準備させます」


 ――まあ、幾らなんでも、向こうからノコノコと投降してきたりはしないだろう。ならば、こちらから拘束に向かうしかあるまい。散々と釘を刺したのだ。攻撃してくることはないだろう。


 相手の反応を読みつつ、次の手を進める。


「爆破準備を進めろ」


「えっ!? 目的が達成されても会議場を爆破するのですか?」


「何をいっているのだ。当たり前ではないか。ゴミ共は残らず始末するのだ。不要な者は、綺麗さっぱりこの世界から消し去るのだ」


「りょ、了解しました」


 オペレーターの反応は、カルラーンの機嫌を損ねる。

 そもそも、自分達の目的が敵の殲滅であることを忘れていると感じたのだ。

 ところが、当たり前のことを尋ねてくるオペレーターを叱責した時だった。モニターに映る黒い機体を注視していたカルラーンの思考が凍り付く。


 ――な、なに? 消えた? 消えたぞ? そんなバカな……


 黒い機体が一瞬にしてモニターから姿を消した。

 もちろん、拓哉的には普通に移動しただけだ。


 ――どこだ? どこにいった? いや、隠形か?


 黒鬼神の行動に驚きつつも、よもや攻撃してくるとは思っていないカルラーンの耳に、オペレーターが発した驚愕の声が届く。


「黒い機体が味方機に高速で近づいてきます。というか、この速度は……在り得ない……これではPBAではなく、高速ミサイルだ……」


 それは報告というよりも、単に驚きを声にしているだけだった。

 それに不満をぶつける間もなく、カルラーンは凍り付くことになる。


「あっ! 味方機が……二機撃墜されました」


 ――な、なんだと! 攻撃をしてきたというのか? 人質はどうでも良いということなのか? くそっ! そんな行動を執るとは思ってもみなかったぞ……なんて卑劣な……


 人質を取るという自分達の行動は、完全に棚上げされているのだが、彼等にとっては、自分達の行動は全て正義なのだ。

 そして、自分達の意思に背くものは、全てが悪であり、嫌悪の対象だ。

 拓哉の行動に怒りを禁じ得ないカルラーンは、即座にヘッドシステムを手に取ると、唾を飛ばして警告する。


「き、貴様! 人質がどうなっていいのか!」


『人質よりも自分の命を気にしてろ! いや、首を洗って待ってろ。見つけしだい叩き斬ってやる』


「ぐぬぬぬ」


 攻撃を止めるどころか、恫喝どうかつの声を返してきた。いや、それどころか、カルラーンに向けて引導を突き付けてきた。

 ミクストルの一員というだけではなく、若造から好きに言われて、カルラーンの血液が沸騰していく。

 しかし、拓哉はダメ押しを入れてきた。


『ぐぬぬぬじゃね~! お前はやり過ぎた。骨の一ミリも残さずこの世界から消し去ってやる!』


 ――くそっ! 若造が! 見てろよ!


 歯噛みをしながらヘッドシステムを床に叩きつけると、怒りに任せて怒鳴りつける。


「アームスを撤退させろ! 各機体は会場を攻撃! 爆破の準備はまだか!」


「りょ、了解しました」


 本来の予定とは異なるが、怒りが収まらないカルラーンにとって、もはやどうでもよかった。

 どのみち、全てを葬り去るのだ。順番を入れ替えても、大した問題ではないと判断した。

 そもそも、それが大間違いなのだが、怒れるあまりに冷静な判断ができなくなっていた。


「爆破準備完了には、今しばらく掛かります」


「急がせろ! 爆破と同時に全機撤退だ」


「「了解しました」」


 二人のオペレーターに向けて怒鳴り散らし、司令官席に腰をおろす。


 ――くそ! くそ! くそ! 何もかも破壊してやる。そうだ!


 収まらぬ腹立たしさに、周囲の視線を気にすることなく司令官席の肘置きを叩いていたが、そこで名案を思い付く。


「基地の占拠はどうなっている?」


 名案を思い付き、ルキアス基地の状況を確認する。


「先程から連絡が途絶えています」


 ――そうか……恐らくは掃討されたのだろうな……ならば尚更良い。こっちの部隊さえ撤退してしまえば……


 オペレーターの返事は期待するものではなかったが、自分の案に影響するものではなかった。逆に、ルキアス基地に味方が残っていた方が厄介だった。

 ただ、ことが自分の案を後押しるかのように進んでいく。それが可笑しくて、思わず笑みを浮かべてしまいそうになる。しかし、ここで気を緩める訳にはいかない。大どんでん返しなど起こっては、自分の進退問題、いや、命が危うい。緩む頬を引き締めて、思い浮かんだ案を実行に移す。


「本艦に積んであるベヒモスを射出しろ」


「えっ! しかし、対都市用殲滅兵器は条約で禁止されているのでは――」


「今更、条約も糞もあるか! さっさとしろ!」


「り、了解しました。射出準備を開始します」


 口答えをするオペレーターを叱りつけ、ベヒモスの射出準備をさせる。


 ――くくくっ。お前が脅威なのは解った。ならば、都市ごと消えてしまえ! 全てがお前の所為なのだ。この都市を墓標に永遠の眠りに就くがいい。


 必死に笑いを押し殺しつつも、心中で黒鬼神を操る拓哉に、手向けの言葉を送る。


「ベヒモス、射出準備が整いました」


「よし、撃て!」


「はい! ベヒモス射出します」


 ――さあ、地の魔獣が襲い掛かるぞ。くくくっ、どうするのか楽しみだ。まあ、逃げなければ間違いなく消滅だが、逃げても頼る処もなく途方に暮れるだけさ。そうなれば討つのも容易いからな。


「ベヒモスが都市中心部に到着する予定時刻は、約二時間後になります」


 ベヒモスは地に潜り、都市の中心部に到達すると、超震動サイキックが発動する。そして、サイキック融合爆発を起こす。それは震動により亀裂の入った大地を割き、都市を跡形もなく粉砕するほどの威力だ。


 ――愉快ではないか。くくくっ! これでなんとか首が繋がりそうだな。


 そもそも、拓哉に恫喝されるまでもなく、今回の作戦を失敗すれば、間違いなく粛清しゅくせいされてしまうのだ。それならば、ミクストルにくみする都市の一つや二つ、消滅させても何の問題もない。逆に喜ばれるはずだと判断した。


「どうやら、会議場にシールドが張られたようです。攻撃が無効化されています」


「ふんっ! 構わん! アームスの撤退と爆破準備を進めろ」


 焦りを見せるオペレーターを他所に、工程を急かす。

 一番大切なのは、ベヒモスの存在を敵に気付かれないようにすることだ。それ故に会場の爆破を続行する。それにどう対処するかは分からない。ただ、その後始末に追われている時間を利用して、ベヒモスを都市の中心部へと潜り込ませる作戦だった。


「PBAが物凄い速度で撃破されています。残り二十五機を切りました」


「直ぐに撤退させろ」


 慌てて撤退の指示を告げる。幾らなんでも被害が大きすぎる。今回の作戦で、既に百二十機のPBAと二百のアームスを投入した。しかし、その八割近くがやられていた。特にPBAの方は信じられないほどの被害だ。

 同志カトル=リストンから送られてきた情報では、黒鬼神を操る拓哉とクラリッサ、それと、あの鋼女が倒れたと聞いて安堵していたというのに、何故か拓哉が出撃してきたことで、予定が大狂いだった。


「撤退出来ないようです。既に敵に囲まれています」


 ――ちっ! 本当に面倒な奴だ。全て奴の所為で……いや、それよりも……ここで援護射撃をすれば、こちらの位置までバレるだろうな……そうなると、都市を壊滅させる前に、こちらが殲滅されるか……


 ベヒモスは地中に撃ち出す兵器だ。そのお陰で、着底している旗艦の置が明るみになることはない。しかし、砲撃となるとそうはいかない。その所為で援護射撃ができず、思わず歯噛みをしてしまう。

 なにしろ、黒鬼神の攻撃力を考えれば、戦艦など一瞬にして葬り去れられてしまうのだ。


 ――仕方ない。残念だがPBA部隊は諦める他ないだろうな……


「アームス部隊、予定撤退ラインに到達しました」


「爆破の準備も整ったようです」


 PBA部隊を見捨てると決断したタイミングで朗報が届く。

 それに頷くと、すぐさま実行させる。


「よし、会議場の爆破!」


「了解しました。爆破します」


 返事が聞こえてくるや否や、艦橋のモニターに会場が土煙をあげる光景が映る。


 ――くくくっ。これが破滅の序章だ。


 崩れ落ちる建物の映像を眺めながら、カルラーンは心中で喝采の声を上げた。


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