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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
216/233

213 舞い踊る羞恥

2019/3/19 見直し済み


 それは、とても懐かしい香りであり、記憶のどこかに残っている優しく柔らかな温かさだった。

 そんな木漏れ日を浴びるような清々しさに、ゆっくりとまぶたを開く。しかし、そこには生い茂る緑葉もなければ、差し込む日差しもない。


 ――ん? ここは……カプセル?


 透明の窓に遮られつつも、差し込むライトの光を見詰めてそう感じる。


 ――なんでこんな処に? そういえば、あっ、クラレ! ミルル!


 記憶を呼び起こす。

 脳裏には、無残にも横たわるクラリッサとミルルカの姿が浮かぶ。

 途端に、心臓が張り裂けんばかりに鼓動しはじめる。そして、そのガラスかアクリルか分からない透明の窓を両手で殴りつける。

 拓哉はこんなところで呑気にしている暇などなかった。

 二人のことが気になって仕方ないのだ。

 次の瞬間、その遮蔽物は、激しい音を立てて砕け散る。

 それでも、ちっとも悪いと思えない。それほどまでに、二人のことが気になっているのだ。

 ところが、それらの器具は、恐ろしく精密で高価だ。


「こら! なに壊してるのよ! 高価な代物なのよ!」


 自分の行動を遮るものがなくなり、すぐさま身体を起こすのだが、叱責の声が耳に届く。


 ――リカルラ? ここはどこだ? なぜ、彼女が? いや、そんなことはどうでもいい。


「あ~あ、こんなにバラバラにしちゃって! どうするのよ、これ! 後で掃除してちょうだいね。というか、弁償しなさいよ」


 腕を組んだリカルラが肩を竦めて苦言を漏らす。

 弁償と言われて、普段であれば顔を引き攣らせるところだが、今の拓哉にとっては些事でしかない。


「クラレは? ミルルは?」


 鬼気迫る勢いの拓哉を目にして、リカルラは処置なしと判断したのか、ひとつ嘆息すると、まるでついて来いとでもいうようにきびすを返す。

 二人のことが気になる拓哉だが、今はそれに続くしかない。しかし、心臓は今にも破裂しそうな状況だ。


「二人の容態は、どうなんですか?」


 彼女の後を追いながら、居ても立っても居られない拓哉は、しつこく尋ねる。ところが、リカルラは落ち着いていた。振り向くことなく肩を竦めた。


「自分の眼で見なさい。どうせ、そうしないと安心できないでしょ?」


 彼女の言葉も一理あると思いつつも、最悪の事態を想像しそうになって、必死に何も考えまいとする。

 そんな拓哉がリカルラに連れられて二部屋ほど移動すると、そこには四つのカプセルが並んでいた。ただ、その内の二つは使用されていないのか、ハッチが開けられたままとなっている。

 それを目にした途端、拓哉はハッチの閉まっている二つのカプセルに走り寄る。

 それは、拓哉の入っていたカプセルとは似て非なる物だった。

 というか、その用途は全く違っているようだ。なぜなら、二人の入ったカプセルには、培養液のような薄青い液体が満たされていたからだ。そsちえ、酸素供給を可能にするためのマスクが取り付けられている。

 カプセルの中で横たわる二人の姿、その二人の状態を知らせる装置、その両方を見た時、拓哉はホッと一息つく。というのも、その装置の中には心電図も設置されており、力強く跳ね上がる二人の脈動が表示されていたからだ。


「二人の容態は?」


「かなり酷いわね。特にクラレに関しては、とても危険な状態だったわ」


「だった? それは、もう大丈夫ということですよね?」


 薄い医療着を身に付けた二人が薄青い液体に浸かっている姿を見詰めつつも、肯定の返事を期待して尋ねてみたのだが、あまり芳しくない内容だった。酷いと言われて、心が凍り付きそうになる。

 そんな拓哉に向けて、リカルラが眉を吊り上げる。


「もう! 感謝しなさいよね。私じゃなかったら、死んでいたかもしれないわ。本当に危険な状態だったのよ。それなのに――」


 彼女はブツブツと文句を垂れ流しているが、感謝しなさい以降は全く耳に入らなかった。


 ――そうか……命に別状はないのか……それならいい。


 彼女達が生きてさえいてくれたら、それで良いのだ。仮に何らかの後遺症がったとしても、自分が彼女達の手となり脚となり支えて行けば良いのだ。

 二人の命に影響がないと聞いて、歓喜の涙を流す拓哉にとって、次に気になることは、二人の回復だ。

 未だにブツブツと愚痴を垂れ流しているリカルラの気持ちなんてそっちのけだ。


「どのくらいでカプセルから出られるんですか?」


「そうね、クアントは四日、クラリッサは、一週間では無理かも」


「そうですか……」


 その返事を聞き、彼女達の柔らかな肌に触れられないのを残念に思いつつも、カプセルを優しく撫でる。そして、涙を拭う時間すら惜しんで踵を返すと、力強く踏み出す。

 行先は決まっている。なぜか直ぐに黒鬼神で出撃しなければならないと感じていた。


「ちょ、ちょっと! 感謝の言葉くらいないの? というか、キルカリアといい、あなたといい。少し周囲のことも考えなさい」


 リカルラの愚痴を聞いて、先を急いでいたにもかかわらず、慌てて振り返る。


「キルカリア? キルカがどうしたんですか?」


「どうもこうもないわ。突然入って来たかと思ったら、行き成りあなたのカプセルを開けて口付けしたのよ! そう、ぶちゅ~~っと! 最近の若い子ときたら、本当に、もう!」


「はぁ?」


「はぁ、じゃないわよ! こっちが呆れたんだから……でも、不思議ね。彼女が口付けした途端、あなたのサイキックが物凄い勢いで復旧し始めたわ。あれは、いったい……」


 ――そうか……キルカが……じゃあ、あの柔らかい感触は、キルカの……


 懐かしく感じた香りや感触を思い出し、それを不思議に思う。しかし、それを深く考え始める前に、リカルラが尻を叩いてきた。


「ほら、行くんでしょ! どうも、このホテルに敵が攻めてきてるらしいわよ。今はキルカリアが防いでいるようだけど」


 ――まじか……それで胸騒ぎが止まらないんだな。


「ありがとう御座います」


 リカルラに感謝の気持ちを伝えると、まるで稲妻となったかのような速度で格納庫に向かう。

 それが、自分の成すべきことだと感じていた。









 デクリロからキルカリアがピンチだと聞いて、慌てて黒鬼神を出撃させた。

 今日のナビ席には、誰も座っていない。しかし、そのことが、余計に拓哉の闘志を燃え上がらせた。いや、上がるのは自分自身だった。何を血迷ったのか、またまたカタパルト発射で投げ出された。

 それでも問題なく黒鬼神を空に舞い上がらせると、既にホテルは包囲されていた。

 正面ではキルカリアの機体が仁王立ちをしている。その光景は、唯でさえ燃え盛っていた拓哉の心に無限の燃料を注ぐ。


 ――タイムストップで片付けた方が早いが……いや、あれはキルカから止められているし、それじゃ俺の気が済まん。


 タイムストップの使用を迷うが、即座にその考えを捨てる。


「今日は流石に容赦できないな……悪いが、後悔はあの世でやってくれ! 黒鬼神、参る!」


 あまりの怒りに、想いが肉声になる。

 管制の反応がないことから、聞こえていなかったと判断する。

 実のところ、ナビゲーターが居ないこともあって、黒鬼神内の音声は連絡用チャンネルでオープンとなっていた。それもあって、指令室では、拓哉からの通信がスピーカーモードになっていた。

 もちろん、拓哉の台詞は、誰もが耳にすることになる。

 ただ、その台詞が、その声色が、あまりに鬼気迫るもので、誰もが凍り付いていた。

 それと知らない拓哉はというと、気にすることなく両手の神撃をぶちかます。


「消えろ! 消え失せろ!」


 その攻撃で、ホテルの背後に回り込んでいた敵が、四機まとめて消滅する。

 ホテルの敷地には小型のクレーターができあがるが、今日の拓哉はそれを全く気にしていない。それどころか、ますます血気盛んになる。


「今日の俺は、喜んで鬼神となろう。さあ、裁きだ! お前達は、クラレとミルルに死んで詫びろ!」


 怒りの炎そのものと化している拓哉は、閻魔大王よろしく、無慈悲な裁きを下す。それはエネルギーの渦となって敵を消滅させ、それだけでは飽き足らず、再びクレーターを作り上げる。


「次は、お前等だ! 黒き鬼神の裁きを食らうがいい」


 拓哉は完全に我を忘れていた。そして、素面しらふでは言えない言葉を吐きながら、両手の神撃で敵を消滅させていく。

 というか、完全に厨二病が発症していた。


 ――これで回り込んでいる敵は全て消えたな。ん? 今、キルカの機体がぐらついたぞ……なんか拙い気がする。


 ウインドウモニターに表示されたキルカリアの機体の変化を見落としたりしない。異常に気付いて、即座に彼女と連絡を取る。


「キルカ、待たせてすまん」


『いいのよ! あとはお願いね。ちょっと疲れちゃったわ』


 取り敢えず、遅くなったことを謝罪したのだが、彼女は怒るどころか楽しげな声色だ。ただ、その声からして、かなり疲れているように感じた。


 ――すまん。今回はお前に無理をさせたようだな。


「ああ、任せろ! お前は、寝ていてもいいぞ」


『じゃあ、お言葉に甘えて、前座の私は仕事が終わったし、少し寝ることにするわ』


 感謝の気持ちと申し訳なさを感じて、全てを引き受けると、余程に疲れていたようだ。彼女は素直に寝ると答えてきた。


 ――あの様子だと、予想以上に無理をしたようだな。じゃあ、その分も奴等に返さないとな。というか、さすがにホテル正面を穴だらけにするもの拙いか……よし、じゃあ、あれだな。クラレ、悪いが借りるぞ。


 カプセルで眠るクラリッサを思い出しながら、勝手に使用することをびる。


「さあ、いけ! フ〇ンネル!」


 あたかも赤い彗星にでもなったつもりで、十機のアタックキャストを射出する。使い方に関しては、既にクラリッサから手ほどきを受けていたので、何の問題もない。


 ――あさ、俺にどこまでやれるかな……クラレのように使えればいいが……


 キルカリアの機体を守る蚊の如く、黒鬼神をホテルの正面に仁王立ちさせ、レーダーに写る敵の位置を全て頭にインプットする。そして、専用のキーパッドに両手を通す。

 これは日本などで売られているゲーミングキーパッドに似ているが、あれよりも恐ろしく複雑で高度な代物だ。

 というか、完全にノリノリだった。台詞までもがパクリだ。


「そこだ! つぎ!」


 初めての実戦でやや不慣れではあったが、敵の位置を記憶しているお陰で、想像以上に容易たやすく扱えた。


 ――かなりいいな! 俺の分も用意してもらおうかな……ただ、機体を動かしながらこれを使うには腕が四本要りそうだな……さすがに、サイキックだけでの操作は難しそうだし……でも、レナレは、やってたし……よし、今度、ララさんに相談してみよう。


 そんなことをすれば、それこそクラリッサの仕事が無くなってしまうのだが、今は気にする余裕もない。ただただ、敵を消滅させていく。

 しかし、あまりに出力を上げている所為か、ヒートの上昇が早い。


 ――それでも、あと、十五機! このまま押し切る!


「さあ、俺の女に手を出す奴は、消し炭になるがいい!」


 その攻撃で更に十機の敵が消えたが、その台詞を聞いたクロートが凍り付いたのは、拓哉の知らないことだ。

 残りの五機となったところで、さすがに敵わないと感じたのか、敵機は慌てて逃げ始める。


「逃がすかよ! いけ! フ〇ンネル!」


 拓哉の声に呼応するかのように、十機のアタックキャストが縦横無尽に飛び交う。そして、敵一機につき二機のアタックキャストが攻撃を浴びせ掛ける。

 その攻撃で、敵機はドロドロに溶けてしまうが、それと同時にアタックキャストも限界を迎えた。


「やべっ! 壊したらクラレに怒られる……」


 ヒートゲージがマックス状態となって、焦りを感じていたのだが、そこで無線通信が入ってきた。


「タクちゃん、お疲れ様! さすがね。あっという間に片付いて、本当に助かったわ。でもね。誰が裏庭を穴だらけにしていいって言ったの?」


 ――ぐあっ! ミリアルが怒ってる……やっぱりやり過ぎだったか……


「い、いや、つ、つい……」


 怒れるミリアルに向けて弁解しようとするが、思うように声が出ない。

 そんな拓哉に向けて、彼女が非情な言葉を突き付ける。


「今日の私は鬼神になるわよ? ウチのホテルの敷地を穴だらけにする奴は、消し炭よ」


 ――ぐあっ! き、聞こえてたのか……ま、まさか、全部?


「ちゃ~んと全部を録音してるわよ。これをバラ撒かれたくなかったら、会議場の救援に向かってちょうだい! さっさとしないと、都市内放送で流すわよ!」


「わ、解りました……」


 閻魔大王よろしく沙汰を下すミリアルに、慌てて返事をするや否や、拓哉は黒鬼神を会議場に向けて全速で飛ばすしかなかった。


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