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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
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204 キルカリアからの要求

2019/3/15 見直し済み


 人間、慣れないことをすると、より一層疲れるものだ。

 ただ、戦闘よりもパーティーの方が疲れるというのも、いささか常軌を逸しているようにも思う。

 それでも、襲撃を簡単に収めた拓哉は、それ自体に大した疲れを感じることはない。ただ、異様に重たい気分でパーティー会場に戻った。

 そして、パーティー参加者の相手をすることで、極度の疲労に襲われたのだった。


「ふっ~~! クタクタだぞ。もう、暫くはパーティーなんてやるなよ! いや、やってもいいが参加しないからな」


 似合いもしないタキシードからパイロットスーツ、更にタキシードと、短時間に何度も着替えを行った拓哉は、そのタキシードを脱ぎながら愚痴を零す。

 すると、逸早いちはく着替えを終わらせたキャスリンが、拓哉の服を片付けながら労う。


「お疲れ様です。そうですよね。あたしもクタクタですよ。やっぱり慣れないことをすると、疲れがどっと押し寄せてきますよね」


 彼女は彼女で、称賛を浴びて居心地悪そうにしていた。

 襲撃者からパーティー参加者を守るためにシールドを張っていた姿が印象的だったようだ。

 もちろん、拓哉のお陰でパワーアップしていたので、普通の者から見れば、桁外れのサイキッカーに思えて当然だ。

 ただ、彼女にとっても、大掛かりなパーティーは初めての体験だった。それもあって、沢山の参加者に囲まれた彼女は、顔を引き攣らせてカティーシャに救援の視線を投げかけていた。

 カティーシャに関しては、普段の僕っ子は何処に? と言いたくなるほど女性らしい振る舞いを見せ、さすがはモルビス財閥令嬢だと感心してしまった。


「まあ、仕方ないよね。ああいう場は疲れるものだと相場が決まってるし、慣れていても疲れるからね」


 いつの間にか僕っ子に戻ったカティーシャが、肩をすくめながらも、拓哉の服を片付けているキャスリンを手伝い始めた。


 ――こうしてみると、モルビス財閥令嬢に見えないんだよな……


「そうだな。それに戦闘の方が、ある意味で健全なような気もするしな。どうも腹の探り合いは性に合わん」


 カティーシャの台詞に頷くミルルカは、少しお酒を飲み過ぎたのか、ほんのりと顔を赤らめた状態でソファーにドカリと座る。

 彼女は既に成人していることもあって、飲酒を断れないのだ。いや、どちらかと言えば、自分から率先して口にしていたような気もしないでもない。


「でも、准将になったし、これからは戦闘と同じくらいパーティーに参加することになると思いますよ?」


 パーティーでも女らしさふんだんに発揮し、多くの男を魅了したガルダルが、静かにミルルカの横に腰をおろした。

 どうやら、彼女は殆どお酒を飲まなかったらしい。その雰囲気は何時もと全く変わらず、拓哉に安心感を与えてくれた。


「マジか? パーティーに参加するくらいなら、ヒュームの本拠地に単独で乗り込む方がマシに思えるんだが……」


「気持ちは分かるけど、平和を願う組織の将官が口にする台詞ではないわ。他では口にしてはダメよ」


 ゆったりとした服をまとったクラリッサが、肩を竦めてたしなめてくる。

 それに抗議の声を上げようと思うが、満足そうなレナレとトトが割って入る。


「パーティーは美味しいものが沢山あるから大好きですニャ。もっと沢山やればいいのにですニャ~」


「そうなんちゃ。あのタルトもゼリーもケーキも、どれもこれも最高だったっちゃ。毎日やって欲しいんちゃ」


「出たな、この食っちゃ寝魔人共が」


「はぁ……私の相方だと思うと、悲しくなってくるわ」


 レナレとトトの発言に、相方であるミルルカとガルダルが溜息を吐く。しかし、場を和ませる二人の反応を、他の者達は楽しそうに眺めている。

 しかし、拓哉の不満は止まらない。そんな空気を無視して話をぶり返す。


「それはそうだが……だいたい、俺が将官とか何を考えてるんだ?」


「特に裏はないと思いますよ? 恐らく、理由はあの説明通りでしょう」


 ガルダルは悪意がないと言いたいのだろう。お茶の用意をしながら肩を竦めた。


「そうだな。それに将官と言っても指揮官をやる訳じゃないし、タクヤの力を考えれば妥当じゃないか?」


 ガルダルの煎れたお茶を有難く頂戴したミルルカが、当然だと言わんばかり頷いた。

 彼女からすれば、自分の夫となる者が、若くして将官になったことが誇らしいのだろう。

 ただ、そこにカティーシャが新たな問題を提起する。


「まあ、将来はモルビス財閥の象徴とするみたいだけどね……」


「はぁ? なんじゃそれ。完全にすり替えられてないか?」


「まあ、叔母様ならやりかねないですね」


「ほんと、困ったもんだな」


 モルビス財閥の象徴と聞いては黙っていられない。

 それだと、完全に私物化されている。

 しかし、すっかりミリアルと仲良くなったキャスリンは、諦めるしかないと言わんばかりだ。

 溜息を吐く拓哉だが、それでも穏やかでありつつも、にぎやかなこの雰囲気を心地よく思っていた。

 ところが、その空気が破られる。

 スタスタとやってきたキルカリアが、拓哉の前で立ち止まる。その表情は、いつになく神妙であり真剣なものだった。


「ねえ、タクヤ。少し話があるんだけど」


 彼女を前にして、拓哉は心を強張らせる。

 というのも、彼女が発しているオーラが、この場の雰囲気とは、全く異質なものだったからだ。


 ――いつものキルカらしくないんだが……いったい、なんの話かな? どう見てもトランプをしたい風ではないし……


「どうしたんだ? そんな真剣な顔をして」


 キルカリアの様相をいぶかしく思い、それをそのまま言葉にすると、彼女はすぐさま自分の要件を切り出した。


「タクヤ。あの力だけど。これまでどれくらい使ったの?」


 あの力といわれて思い当たるのは、タイムストップしかない。

 四将軍が知りたがるので、他言無用と前置きをした上で簡単に説明したのだが、確か彼女もそこで聞いていたはずだ。


「ん~、数回だが」


 これまでに何度かあの状態に陥ったことはあったが、意図して使用したのは数回だろう。いや、シミュレーションで使ったこと考えるとかなりの回数になっているかもしれない。

 意図せずに偽りを口にしてしまったのだが、もちろん、彼女がそれに気付くことはない。

 しかし、キルカリアはその綺麗な顔を歪める。


「あれはもう使ってはダメよ。タクヤなら、あれを使わなくても十分に戦えるでしょ?」


 何を考えたのか、彼女はタイムストップの使用を禁止してきた。

 その表情は真剣なものであり、冗談などではないように感じた。

 ただ、その理由が解らない。


「どうしてだ? 何か問題があるのか?」


「問題なら大ありよ! あなた、あの力を使った時に起こる状況を理解してないでしょ?」


 彼女は珍しく声を大にする。


 ――そういえば、使えるから、使いこなすことは考えたけど、どういう原理なのかは考えたことがないな……


「タクヤ。時が止まるってどういうことだと思う?」


 時間の静止か……何もかもが止まってるんだよな? いや、俺のタイムストップは時間を静止している訳じゃないんだが……


「何もかもが止まってるんだろ? でも、俺のタイムストップは、時間が止まってる訳じゃないぞ?」


「何を言ってるの! 時間を止めている訳じゃなくても結果は同じよ。ちゃんと考えなさい」


 思ったことをそのまま口にしたのだが、それが不味かったのか、こっ酷く怒られてしまう。

 ただ、ちゃんと考えろという割には、彼女は自分から説明を始めた。


「あのね。時が止まるということは、タクヤがいう通り何もかも止まっているの。そうなると当然ながら肉体に必要な酸素の動きや排出すべき二酸化炭素の動きも止まるのよ。だから、時間の静止した世界で人間は生きられないの。じゃあ、タクヤのいう時間を止めた訳じゃない世界では、酸素はどうなっているの? 二酸化炭素は正常に排出されているの?」


 ――そう言われると、彼女の言う通りのような気がしてきたぞ……もしかして、その所為で長時間の使用だと頭が朦朧もうろうとしてくるのか……


 実は、タイムストップには時間の制約がある。

 それは、色々と試している間に気付いたのだが、使用できる時間はものの数分なのだ。

 それでも、大抵はその数分で事が終わるので問題ないと考えていた。ただ、その理由が彼女の説明で初めて明らかになった。


「これまであの力を使った時に異常はなかった? 恐らく呼吸だけではなくて、脳への酸素供給も低下しているはずよ。間違いなく無呼吸運動と無酸素運動を同時にやってるわよ。だから、もうあれを使うのは止めなさい。いつか取り返しのつかないことになるわよ。いえ、今も後遺症が出ているかもしれないわ」


 彼女は心配そうな表情でタイムストップの使用禁止を訴えてくる。


 ――ん~、敢えて使いたいとも思ってないんだが、あれって、そもそも緊急時用だからな……でも、少しくらいなら問題ないんじゃ……確か無酸素運動ってスポーツでは普通にやってるはずだけど……


「なあ、無酸素運動って、特に悪いことじゃないような気がするんだが」


「そうね。無酸素運動って本来は呼吸しているから問題ないけど、あなたの場合は呼吸もままならない状態よね?」


 拓哉の知る知識を口にしたのだが、簡単に論破されてしまう。

 どうやら、彼女と討論をしても勝てそうにない。いや、絶対に勝てないだろう。


「分かったよ。極力使わないようにする」


「駄目よ! 使用禁止よ! それと、今日から私も寝屋を共にするわ」


「な、なにを……わ、分かった……」


 キルカリアはどさくさに紛れて無茶な要求をしてくるのだが、突然あふれ出てきたフェロモンに負けて、拓哉は本能的に頷いてしまった。

 当然なら、この後の事態は、誰もが予想する通りだ。



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