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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
206/233

203 上映会では

2019/3/15 見直し済み


 モニターを見詰める者達は、喝采の声を上げるどころか、その異様な強さに静まり返っていた。

 それは仕方ないのかもしれない。なにしろ、その戦闘は、子供と大人の戦いにすらなっていないからだ。まさに、赤子と大人の戦いに等しいと言えるだろう。

 誰もが声すら発することを忘れてモニターを見入っていた。

 そんなタイミングで、キルカリアの耳に驚きを露にしたルーファス=ティノスの声が届く。


「凄い凄いとは聞いていたが、これほどとは……」


 ――これしきで驚くのは少しばかり早いんじゃないかしら。彼が本気を出せば、既に戦いは終わっているはずよ。そうしないのには、何か理由があるのかしら? そう言えば、出撃する前にミリアルさんと色々話していたわね。


 拓哉が手を抜いているのには理由がある。しかし、キルカリアはそれを知らなかった。

 ただ、圧倒的な戦いぶりは、彼女の心を熱くする。


 ――さすがはタクヤね。早く身も心も一つになりたいわ。


 邪な思いを抱くキルカリアを他所に、将軍たちが盛り上がっている。


「いやいや、あんなものではないぞ。ヒュームを退けた時はもっと凄かったからな」


「確かに、序の口だな」


「艦隊をも軽く殲滅したほどだからな」


 魂消たまげているルーファスに向けて、キャリックが首を横に振ると、ダグラスとドランガが口を揃えて同意した。


「これでも序の口なのですか?」


「ああ、恐らくは、まだ本気で戦っていないはずだ」


「えっ!? あれで本気ではない? あ、在り得ない……いや、少し飲み過ぎたのだろうか……これは現実か?」


 キャリックから否定されたルーファスは、もはや顔を引き攣らせることしかできない。

 あまりにも非現実的なことだと思えたのか、しまいには、自分の正気を疑い始めた。


 ――まあ、それも仕方ないわよね……こんな圧倒的な戦いができる者なんて、私も数えるほどしか知らないもの。


 ルーファス将軍に同情したくなるのだが、そこでキルカリアの時が止まった。いや、拓哉からすれば、全ての者の時が止まっていたはずだ。

 しかし、キルカリアの時が止まった理由は別にある。


 ――何、今の……今、何をしたの? ねえ、タクヤ!


 誰もがモニターを見入ったまま首を傾げているのだが、彼女には何が起こっているか直ぐに理解できた。

 ただ、どうやってそれを起こしたかが理解できない。

 モニターには、これまで戦っていた黒い機体が跡形も消えてなくなり、半分ほど残っていた敵が全滅している光景のみ映し出されていた。


「ぜ、全滅しているぞ!? ど、どういうことだ? 准将の機体はどこだ?」


「いつの間に? あれ? この映像ってタイムラグがあるのか?」


「いや、タイムラグがあるにしてはおかしい、録画なんじゃないのか?」


「録画な訳ないだろ!」


「だったら、どうやって?」


「わからん……」


 襲撃者の機体が全滅しているのに気付き、誰もがその理由が解らず疑問を露わにしていた。

 それは、キルカリアの近くにいる将軍達も同じだったようだ。


「これは? 先輩方は、何か知ってますか? 二十機以上の敵が一瞬で全滅しましたよ?」


「いや、ワシもこれは知らんぞ!? キャリックやピート(ダグラス)は知ってるのか?」


 あまりの出来事に、ルーファスはひっくり返らんばかり仰天していた。

 それはドランガも同様だ。すぐさま友人でもある二人の将軍に視線を向ける。


「いや、知らん!? ピートは知っているのか?」


「ん~、私もよくは知らないんだ。ミルル、お前は知っているのだろ?」


 キャリックやダグラスが知らないのは当然だ。タイムストップは内緒にしている能力だからだ。

 ただ、その例外がある。そう、拓哉の嫁達だ。

 ダグラスが渋い表情をしながら己の姪に話を振ると、彼女はもっと渋い表情を返した。


「知ってはいるのですが、タクヤの許可なく口にできません」


「それもそうだな……」


「うむ。後で尋ねることにしよう」


「ああ、私も同席させてください」


「おう、ワシも同席するぞ」


 ミルルカが説明を断ったのだが、その気持ちを察したのかダグラスが頷いた。

 そうなると、本人に尋ねるしかないのだが、キャリックがその役目を買って出ると、即座に、ルーファスとドランガが食いついた。

 そんな四将軍に向けて、ミルルカは申し訳なさそうな表情で一言だけ付け加える。


「すみません。ただ一つだけ言えることは、タクヤは私達と見えている時が違うのです」


「それは、時間を止められるということか?」


 すかさずルーファスが食いつく。しかし、彼女は黙って首を横に振った。

 彼女としても、それ以上は明かすつもりがないのだ。


 ――タクヤの嫁を自負するだけあるわね。きっと、身内でも情報漏洩じょうほうろうえいは厳禁なのね。だけど……


 ミルルカの態度に感心するのだが、キルカリアからすれば、その言葉だけで拓哉が何をしているのかは明白だった。


 ――分かったわ……時を止めるなんて無理だもの。だったら答えは一つしかないじゃない。でも……


 止まった時の中では、生すらも否定されてしまう。

 仮に時を止められたとしても、その中で行動することは出来ないはずだ。

 そうなると、考えられる可能性は一つだ。

 それこそが、ミルルカの口にした言葉の意味であり、真実だ。


 ――彼は誰よりもより早く考え行動することが出来るのね。それも常軌を逸した速さで。それを考えると、私の疑念が確証に変わっていく。彼こそが……ただ……タクヤには、この能力を止めてもらう必要があるわね。


 キルカリアの時が止まった理由。

 それは、拓哉の存在に関してだ。しかし、それよりも重大な問題がある。

 彼女にとってその問題は、彼の存在に関することよりも優先されるのだ。

 なぜなら、それは生命に関わる話だからだ。

 拓哉が戻ってきたら、あの技を止めさせるように進言すると決めたところで、モニターが黒鬼神を映し出した。


 ――あら、ホテルの前で何をしてるのかしら。というか、あの足の下の亀みたいな物体はなに?


 モニターに映し出された黒鬼神は、いつの間にかホテルの前に立っていた。そして、黒っぽい物体が踏みつけられている。

 その状況に幾つかの疑問を感じていると、ミリアルの声が耳に届いた。


「タクちゃん。ちょっと張り切り過ぎよ。これじゃあ、一ラウンドKOの試合を観戦していた気分だわ」


 それは愚痴とも言える内容だったのだが、彼女の笑顔は、これまで見た中でも最高のものだった。

 間違いなく大満足しているのだが、モニターを見ている者達の気持ちを代弁したのだ。


 ――というか、一ラウンドKOってなに?


 世間知らずのキルカリアはといえば、彼女の言葉の意味が解らずに首を傾げてしまう。

 ただ、その疑問は、キルカリアの頭の中から霞のように消えてなくなる。

 というのも、彼女の頭の中は、拓哉――あの子のことで一杯だったからだ。

 タイムストップの件で、彼女にとって、もはや疑う余地がなくなったのだ。

 十中八九、拓哉が最愛の存在だと確信したのだ。

 どういう経緯で異世界に行ったかは解らない。しかし、あの人間の所業とは思い難い戦闘を見せられてしまうと、他の理由が見つからないのだ。


 ――どうしようかな……自制してたけど、フェロモン全開にしようかな~。そうね。それで彼が反応すれば、完全に黒と言えるわよね。でも、そうなると、結婚を誓った彼女達の存在が問題よね……まさか、捨てろとは言えないし……どうしようかしら。てか、だんだん腹が立ってきた! 私がずっと寂しい想いをしていたのに、あの子は沢山の女の子とイチャイチャしてたなんて! これは、ちょっとお仕置きの必要があるわね。ふふふっ、見てらっしゃい!


 色々考えている間に、身の内にメラメラと燃え上がるものを感じ始める。そして、あの技を止めさせること以外に、キルカリアは新たな決断を下した。









 外は真っ暗であり、空には星が輝いている。

 昼間の温かさが少しずつ奪われ、肌寒い気温になっている。

 しかし、機体の中にいれば、寒さなど感じるはずもない。


「ハッ、クション!」


「どうしたの? 風邪になんてなるはずないし……ああ、タクヤは別だったわね……」


 突然のクシャミに、クラリッサが心配そうにする。

 なんといっても、拓哉はこの世界で風邪になる数少ない存在なのだ。


 ――ああ、そういえば、この世界に風邪という病気はなかったのか……いや、その言葉には語弊ごへいがあるな。


 実際、日本にも風邪という病気はない。

 日本の風邪に関しては置いておくとして、この世界では風邪を患う者が居ないだけであって、細菌やウイルスは存在する。気を付けないと風邪になってしまうのだ。もちろん、異世界人限定だ。


 以前、クラリッサから聞かされた話を思い出しながら、鼻をすすっているのだが、拓哉の直感が風邪ではなく悪い知らせだと囁いている。

 拓哉からすれば、ミリアルの策略を心配したいところなのだが、実際はキルカリアが手ぐすねを引いて待っていたりする。

 それとは知らないクラリッサは、早々に戻りたいと考えているようだ。もちろん、パーティー会場にだ。


「タクヤ。引き継ぎも終わったし、さあ、パーティーに戻りましょ」


 ――ええ~っ! あのパーティーに戻るのか? どうも、嫌な予感がするんだよな~。なんか、戻りたくないんだけど……


 一通り襲撃者の片づけを終わらせた拓哉は、悪い予感を抱きつつも黙って機体を元の場所に移動させ、渋々とパーティー会場に戻ることになった。



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