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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
203/233

200 悪夢の掃討劇

2019/3/13 見直し済み


 拓哉の決断は、普通の者からすれば信じられないものだった。

 そもそも、アームスと戦うだけでも異常なのだ。

 それを軽く超えるRBA(ライトバトルアーマー)と生身の人間が戦うなど、常軌を逸していた。


「さすがに、あれと生身で戦うのは無謀じゃぞ」


「本当に大丈夫なのかしら。PBAと生身で戦ったことがあると、報告は受けているけど、あの時は倒れてしまったのよね?」


 クラリッサとミルルカに守られている元帥とミリアルだったが、相手がRBAであることを気にしている様子だ。

 しかし、クラリッサは確信していた。

 なにしろ、彼女はその目でPBAと戦う拓哉の姿を見ているのだ。


「タクヤなら大丈夫です。彼ならどんな窮地きゅうちでも切り抜けますから」


 気休めかも知れないと思いつつも、クラリッサが本心を伝えると、二人は感心した様子で頷く。


「うむ。素晴らしい関係じゃな」


「カティも、これくらいになってもらわないとね」


 何をどう思ったのかは知らないが、どうやら二人にとって、クラリッサの発言は感じ入るところがあったようだ。

 二人から称賛されたクラリッサは、拓哉から恩恵をもらっているミルルカに攻撃を任せると、二人を庇いながらみんなのところに戻る。

 そこでは、カティーシャ、キャスリン、ガルダルの三人が見事な障壁を展開していた。


 ――ちぇっ、私だって恩恵さえあれば……


 その素晴らしい障壁の原動力となっている源を知るクラリッサは、とても残念な気持ちになる。

 それは、もちろん恩恵だけの問題ではない。拓哉と愛を確かめ合いたかったのだ。

 ただ、ここに残っていた者達は、そんな余裕など微塵もない。


「クラリッサ! タクは大丈夫なの? あれ、RBAだよね?」


「まさか、あれと戦う気なの?」


「確かにたっくん(・・・・)のサイキックは凄いけど、いくらなんでもあれは辛いと思うわ」


「大尉……いえ、准将はあれと戦うんですか? アームスをバタバタと倒した姿は圧巻でしたが、あれは、さすがに拙いような気が……」


 カティーシャ、キャスリン、ガルダル、ルルカ、残っていた者達からすれば、クラリッサとミルルカの二人が拓哉に丸投げした格好だ。

 憤りこそ見せないが、拓哉が一人で戦うことに不安と不満を露わにした。

 しかし、ここで揉めている訳にはいかない。それこそ拓哉の想いを無にする行為だ。

 それを理解しているクラリッサは、苦言に付き合うことなく、やるべきことを進める。


「みんなをRBAから遠い場所に移動させるわ。手伝って! あと、攻撃役がミルル一人だと辛いの。誰か手伝ってあげて」


 拓哉を心配する者達の声をさらりと流してしまったクラリッサに、不服そうな視線が集中する。

 彼女としても、その不満は理解できるところだが、まずは決起会参加者を守ることが先決だ。

 ただ、空気を変えるものが現れる。いや、クラリッサの願いを聞き届けてくれたのかもしれない。


「絶対に許さないですニャ。うちの料理がめちゃくちゃですニャ。唯じゃ済まさないですニャ! ミケコ、タマコ、クロコ、やるですニャ!」


 襲撃者の攻撃で飛び散る料理を目にしたレナレは、怒り心頭といった様子だ。そして、何を考えたのか猫の名前を叫んだ。

 その途端、室内の隅から小型の物体が飛来してくる。


 ――ちょ、ちょ、ちょっと、あれって小型だけど、アタックキャストよね? 何を考えてるのよ!?


 クラリッサの驚きを他所に、それこそ猫サイズのアタックキャストがパーティー会場を縦横無尽に飛び回ると、ミルルカと銃撃戦を繰り広げている敵に向けてサイキック弾を放ち始めた。


「行くですニャ! ミケコ! そこニャ! タマコとクロコは側面からやるですニャ!」


 ――いつの間にあんな物を作ったのよ!? というか、予め用意しておいたの?


 どこに仕舞ってあったのか、ヘッドシステムを装着したレナレが、腕を振り回しながらアタックキャストに指示を送っている。

 どんな被害がでるかと心配したクラリッサだったが、やはり小型版だけあって、出力されるサイキック弾は、銃と変わらない程度であり、殺傷能力は高くなかった。

 それでも、アタックキャストがパーティー会場を縦横無尽に飛び回る光景は圧巻だ。思わず唖然としてしまう。

 それを操るレナレの頭上では、もう一人の食いしん坊が怒りの声を上げる。いや、暴走し始めた。


「うちのデザートが木っ端微塵になったんちゃ! だから、奴等も木っ端微塵にするんちゃ! ミルル、融合なんちゃ!」


「ちょ、ちょっとまてーーーー! ここで融合は勘弁してくれ!」


 拓哉に可愛いと言ってもらえて、以前より抵抗がなくなったとはいえ、こんな大勢の前で美少女戦士に変身するなど、ミルルカにとっては黒歴史以外の何物でもない。

 なにしろ、服の面積が少なすぎるのだ。

 ただ、クラリッサからすると、焦る理由が解らない。

 というのも、融合は合言葉を唱える必要があるのだ。

 ミルルカが合言葉を唱えなければ、変身することはない。

 ところが、融合も日々進化しているようだ。


「四の五の言わんのっちゃ! きょ~せ~い融合なんちゃーーーー!」


「ちょ、ちょっとまてーーーーーー!」


 ――強制融合? そんな話は聞いてないわよ? いつの間に?


 必死に静止するミルルカだが、赤いドレスがあっという間にミニスカートの美少女戦士風になってしまう。


「ぐあっ! 悪夢だ……とうとうやっちまった……大衆の面前で変身するとは……」


 自分の衣装を見て人生の終わりだと言いたげな表情を作るミルルカだが、融合の恩恵は大きい。クラリッサからすれば、その効果は絶大なるものだった。ただ、さすがに、大衆の前で半乳を晒したくない。どちらかと言えば、後者の思いの方が強いだろう。

 しかし、少しだけ羨ましく思ったのが間違いだったのか、クラリッサも光に包まれてしまった。


「ちょ、ちょっと、なんで、私まで?」


 どういう訳か、ミルルカのみならず、クラリッサも美少女戦士風に変身させられた。

 その衣装は、レナレが大好きな美少女戦隊モノアニメに登場する戦士そっくりなのだが、トトの好みが付加されている。それが、超ミニのスカートであり、半乳というあられもない姿を生み出していた。


 ――確かに、パーティーの会場でこの格好はないわ……これだと、逆に動けないわよ。胸や下着が見えてしまうわ。というか、もしかして……


 涼しくなったお腹を気にしつつも、嫌な予感に襲われて、今まさにRBAと戦おうとしている拓哉に視線を向ける。そして、自分の嫌な予感が的中してしまったことを残念に思う。

 RBAを前にした拓哉は、物凄い慌て振りを披露していた。

 この場合、それも仕方ない。なにしろ、戦ってる最中に黒猫の着ぐるみになれば、誰でも驚くというものだ。いや、見ているパーティー参加者も眼を丸くしている。

 きっと、拓哉が異世界の技だと思っているはずだ。


 レナレが参戦してくれたお陰で随分と楽になったのだが、公衆の面前で美少女戦士姿を披露する羽目になるなど、考えても居なかったクラリッサは、少なからず、今だけはミルルカに同情してしまう。









 突然のことに、驚きを隠せない拓哉だが、直ぐに事態を理解した。


 ――マジかよ……俺まで融合に含めるなよな。


 トトが融合を発動させたことは、自分の手を見れば分かることだ。

 なんてったって、見慣れた五本の指がなくなり、漫画のような肉球に変わっているのだ。

 そう、現在の拓哉は、黒猫の着ぐるみ姿だ。

 ただ、そのお陰で様々な能力が向上している。そして、驚きよりも嘲りの声をありありと拾ってしまう。


 ――ああ~、笑えばいいさ! 好きなだけ笑うがいいさ! ただ、そのお代は払ってもらうことになるからな!


 襲撃者の笑いは、拓哉に開き直りを提供してくれる。

 それと同時に、怒りを抱く拓哉は、黒猫の着ぐるみとなった太い腕を感情のままに振り下ろす。

 黒猫の着ぐるみから放たれたファントムブローは、狙い通りにRBAの腕関節に決まる。

 やはりアームスよりかなり硬いようだ。腕が吹き飛ぶようなことは起きなかった。

 それは、RBAが持つサイキックシールドのお陰だ。

 ただ、黒猫の着ぐるみという不名誉な代償を払ったお陰で、様々なものが見えるようになっている拓哉は、RBAが展開してるシールドまで見ることができた。


 ――ちっ、小型とは言え、さすがにバトルアーマーということか……さて、どうしたものかな……全力でやればダメージを与えられるか? まあ、銃を使ってこないのが救いだな。


 この場に味方がいる所為か、五機のRBAはどの機体も両手にサイキックブレードを装備している。もしものことを考えて、銃を使う気がないらしい。


「生身の人間がRBAに敵うはずがないだろ! 己惚れ過ぎだ」


「己の力を過信し過ぎたようだな。その愚かさを呪いながら死ぬがいい」


「だいたい、その恰好は何だ!? 猫のヌイグルミか? くくくっ。黒い鬼神ならぬ黒いヌイグルミだな」


 どうやって倒すか思案している拓哉の耳に、再び嘲りとも罵りとも言える声が届いた。

 これもトトとの融合のお陰なのだが、この格好を揶揄やゆされて、さらにムカついてくる。


 ――見てろよ! 今に吠え面を書かせてやるからな! こうなりゃ全開攻撃だ! ホテルが壊れませんように……


「好きで着ぐるみ着てるんじゃね~! 食らえや、おら!」


 怒りに満ちた怒声を張り上げながら、渾身こんしんのファントムブローを叩き込む。

 今度は、一瞬だけサイキックシールドとせめぎ合うが、直ぐにそのシールドを突き破った。

 その途端、不快な音と共にRBAの腕が引き千切れて吹き飛んでいく。

 千切れた腕は、物凄い勢いで飛んで行き、ホテルの壁際に飾ってあった彫刻を粉砕する。


 ――ぐあっ! あの彫刻って高いのかな……いやいや、見てない。なにも見てない。壁際に彫刻なんて飾ってなかった。


 着ぐるみ姿というのに、背中に冷たい汗を感じながら現実逃避に走る。

 しかし、どれだけ逃避しても、敵は逃げ出したりしないだろう。平静を装って視線を襲撃者に向ける。


「な~んだ。思ったより柔らかいじゃん。こんなに柔らかくて役に立つのか? つ~か、お前等が弁償しろよな」


 あんぐりと口を開けているギランダとその取り巻きに向けて、わざと聞こえるように大声を張り上げる。

 拓哉としては、まるで酸欠の魚のように口をパクパクさせている襲撃者の姿が最高だった。


 ――よし、気分も乗ってきたし、ジャンジャンいくか! あっ、なるべくホテルは壊さないように……って、運任せだし……神様、お願いします。ホテルが壊れないようにしてください。


 襲撃者の度肝を抜いて良くした拓哉は、立て続けに黒く太い腕を振る。もちろん、ホテルが壊れないように神に祈るのも忘れない。

 そんな拓哉の不安を逆撫でるように、面白いように腕や脚が吹き飛んでいく。そして、その度にホテルの備品が巻き添えを食っている。


 ――ん? これは幾らなんでも柔らかすぎないか? サイキックシールドを突破すればこんなものなのか? てか、ああああ、高そうなつぼが……ない。ない。壺なんてなかった。何もなかった。


 余りの柔らかさに疑問を感じながらも、ホテルの備品が壊れる度に肝を冷やす。

 この時ばかりは、自分の完全記憶能力が恨めしかった。忘れたくても忘れられないのだ。

 それでも、さらっと三体目のRBAを胴体だけにした時だった。


 ――拙い! 何を考えてるんだ!


 あっという間に手足をもがれた仲間の機体を目にして焦ったのか、残りの二機が銃に換装し直す。

 いくらなんでも、こんな場所でバトルアーマーの銃を乱射されては堪らない。


 ――ちっ! しゃ~ない。タイムストップ!


 焦りを感じた拓哉は、即座に決断する。

 但し、マックス状態のタイムストップではなく、かなり抑えている状態だ。

 それもあって、緩慢ながらRBAは動いていた。


 ――バトルアーマーの銃をこんなところで撃たせるわけにはいかないんだよ! てか、お仕置きだ!


 見境なく銃なんて持ち出した機体のコックピットに向けて、ミルルカ直伝の飛び蹴りを叩き込む。

 もちろん、唯の蹴りではない。渾身のサイキックで強化してあるのだ。

 その蹴りは、物の見事にRBAのコックピットにめり込み、大きな窪みができあがる。

 その拍子で中から呻き声が聞こえてきた。

 これもトトとの融合のお陰か、それとも手抜きタイムストップを使っている所為なのか、パイロットの呻き声が普通に聞こえた。

 ただ、気に病むことなく、罵声をお見舞いする。


「暫く病院で反省してろ!」


 恐らく死んではいないだろう。ただ、当分の間は病院生活となるはずだ。

 そもそも、こんなところにバトルアーマーを持ち込み、生身の人間を蹂躙しようなど、非常識極まりないのだ。同情の余地など一ミリもない。

 そんなことを考えながら、スクラップになった機体から離れると、残りの機体にもケリをぶち込む。


 ――まあ、マックスでないにしろタイムストップのお陰で、飛び蹴りで相手を倒す姿を誰にも見られずに済んで良かったな。きっと、この光景はシュールに違いないだろうからな。


 RBAを飛び蹴りで倒す姿なんて見られた日には、さぞかし大騒ぎとなるに違いない。それも、黒猫の着ぐるみ姿だ。間違いなく、この噂は尾ヒレどころか背ビレや尻ビレまでついて流布されるはずだ。


 ――つ~か、黒き鬼神は、黒き猫に変身するとか言われるようになるのかな……


 全てのRBAを倒した拓哉は、飛び蹴り云々以前に、この格好で戦闘を繰り広げたことで、後々起こり得る噂話を思い浮かべて身震いした。


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