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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
202/233

199 宴の舞

2019/3/13 見直し済み


 悪党とは、実に面白い行動を執るものだ。

 物語などでよく登場する悪役は、大抵が直ぐに戦闘を始めずに口上をのたまう時間を用意する。

 その例に漏れず、ここを襲撃した主犯たちも典型的な悪役を演じてくれるようだ。

 不謹慎にも、そんなことを考える拓哉だが、彼等としては、自分達の思想や立場を公にすることが大切なのだ。

 しかし、拓哉の隣には、襲撃の事態にまったく動じていない者が居る。


「あら、アームスまで持ってきたのね。なんとも準備の良いことね。こちらと同様に、向こうも初めから予定していたのかしら」


 典型的な悪役を目にして、ミリアルが感心している。


 ――おいおい、感心している場合じゃないだろ!?


 本来であれば、顔を引き攣らせるところだが、ミリアルはまるでハエでも紛れ込んだかのような態度だ。

 そんな彼女にツッコミを入れたくなるのだが、空気を読んで口をつぐむ。

 そもそも、それどころではないのだ。


 ――それにしても、非戦闘員が多いからな。こりゃ、厄介なことになったぞ。


 実際、非戦闘員を守るために戦うのは、想像以上に難しい。

 しかし、現状はといえば、パーティーに参加していた者達は、誰もが入り口から離れているものの、襲撃者の危険にさらされている。

 一応、支給服を着た男女が壁となって参加者をかばっているが、焼け石に水だと思えた。

 ただ、拓哉の見解は、少しばかり外れている。


 ――支給服を着た者は、モルビスの人間だから分かるけど、なんで参加者まで銃を構えてるんだ?


 そう、支給服を着た者達は、参加者の盾になりつつも、襲撃者に銃を突き付けている。ただ、その後ろで庇われている参加者も銃を手にしているのだ。


 ――おいおい、ドレスを着た女性まで銃を持ってるぞ! どこに隠し持ってたんだ?


 女性の誰もがドレスの下にレッグホルスターを装着しているのだが、拓哉がそれを知るはずもない。ただ、なんとも恐ろしい世界だと感じる。

 下手にナンパなんてしようものなら、ベッドを前にして凍り付いてしまうだろう。

 しかし、相手はアームスを従えている。銃でなんとかなる話ではない。

 それもあってか、悪役の一人が一歩前にでると、嫌らしい笑みを浮かべた。


「ティノスのジジイはどこだ! それと、モルビスの小生意気なバカ娘を出せ!」


 二十台以上のアームスと完全武装の兵士を背にした男が吠える。

 偉そうに吠える男は、服装からして軍属の者のようだが、その男の周りには、兵士とは違う六人の男達が居た。


「グレッグ家の者か……これも因縁かのう」


「あらあら、リルラ財閥の当主もいるじゃない。なんとも愚かなことね」


 ガリアスとミリアルは、呆れた様子で肩を竦めると、動揺することなく壇上から降り始める。

 ただ、ミリアルはチラリと拓哉に視線を向けた。


「タクちゃん。ついてらっしゃい」


 ――おいおい、俺も行くのかよ! 俺は呼ばれてないぞ? ちぇっ、しゃ~ない。


 ミリアルの言葉に愚痴を零しそうになるが、ラティーシャのことを考えると、断る訳にもいかない。渋々と後を追い始める。

 すると、何を考えたのか、彼女は待っていましたとばかりに、拓哉の腕に自分の腕を絡めてきた。


 ――なに腕を組んでるんだよ! 周囲の目を気にしろよ! てか、俺が気になるし……


 慌てて、クラリッサ達に視線を向けると、案の定、冷たい眼差しを向けてきた。

 ただ、カティーシャだけは、申し訳なさそうに縮こまっている。


「きたな! ジジイと小娘! ん? 鬼神も一緒か! くくくっ。丁度いい、手間が省けた」


 ――なんの手間が省けたんだ? まさか、俺を始末する手間という話か?


 偉そうにする男は、ガリアスが口にした通り、グレッグ家の現当主であるギランダ=グレッグであり、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。

 その嫌らしい笑みは、既に自分達が勝利したと確信しているのだろう。

 しかし、ガリアスとミリアルは全く気にしていないようだ。


「さて、この老骨を呼び出してどうする気かのう」


「きたわよ? それで、何かしら? 招待した覚えはないのだけど。悪いけど呼ばれざる客は帰ってくれないかしら。あっ、お呼びでないのだから、客でもないわね」


 ガリアスは未だしも、ミリアルは完全に毒づいている。


 ――カティの母ちゃん、やっぱり凄いな。普通ならビビッて命乞いをするところだぞ。


 動じていないどころか、悪態を吐くミリアルに感心してしまう。

 しかし、罵声を浴びせかけられた方は、もちろん穏やかではいられない。


「やかましい! 小娘! だいたい、お前のような小娘が偉そうにしているのが気に入らないんだ。だが、まあいい。今からお前達の死刑執行が始まるんだ。これで少しはマシな空気になるさ」


 ギランダは毒づくミリアルを罵ると、予想通りの展開となる。

 鈍い拓哉でも、さすがにこの展開は読める。そして、憤りを感じる。


 ――こいつ、完全に狂ってるな……薬でもやってるんじゃないのか? というか、俺も死刑なのか? 駄目だな、こいつ、終わってるぞ!


 余りの暴言に正気を疑う拓哉だが、これがギランダの持ち味だ。


「相変わらずじゃの。その性格をなんとかせんと我が身を滅ぼすと、何度も言ったはずじゃが?」


「うるせ! ジジイ! もうお前の時代じゃないんだよ! 老いぼれは、黙って死んでろ!」


 ガリアスに向けて罵声を吐き散らすと、ギランダは行き成り右手に持った銃のトリガーを引き絞った。


「あっ!?」


 その行動が余りにも唐突だった所為で、シールドを展開するのが遅れる。

 しかし、拓哉が出張る必要もなかったようだ。


「ふんっ! この程度か!」


 ――おいおい! マジかよ! 爺さん、あんた、なんで車椅子なんかに座ってたんだ?


 元帥の行動に驚き、思わず心中でツッコミを入れる。

 なにしろ、元帥は撃ち出されたサイキック弾をシールドで回避することをせず、右手ではじき飛ばしたのだ。


「くそっ! この変人が!」


 老人がサイキック弾を手であしらうという異様な光景だったが、ギランダはそれほど驚いていなかった。

 恐らく、ガリアスの能力を知っていたのだろう。ただ、憤慨したギランダは右手に持った銃を乱射する。


 ――まずい! 爺さんは変人だからいいとしても、ミリアルに当たったらことだ。


 ガリアスを庇う必要はないように思える。しかし、ミリアルに関しては、そういう訳にもいかないと判断して、即座にシールドを展開する。

 当然ながら、自分を含めた三人を強力なサイキックシールドで囲った。


「ほ~っ! こりゃ、立派な盾じゃな。さすがは、鬼神と呼ばれるだけはある」


「ちっ! じわじわと痛めつけて楽しもうと思ったが、かまわね~、一斉射撃だ!」


 ガリアスがシールドの出来に感心していたのだが、逆にギランダは焦りを感じたようだ。直ぐに戦闘開始の合図を送った。


 ――おいおい、いくらなんでも、アームス二十機を一人で相手にするのはキツイぞ!


 愚痴を零しながらも、完全武装の兵士の前に出てきたアームスに向けて右手を振るう。

 次の瞬間、一機のアームスが砕け散りながら壁を突き破る。


「やべっ! やり過ぎた」


 壁を壊したことで焦ってしまう。しかし、横に立つミリアルは楽しそうにしていた。


「大丈夫よ。気にせずやっちゃいなさい。どうせ、あなたの持ち物なのだから」


 ――おいおい、壊していい理由はそれかよ! カティ、ごめん!


 笑みを浮かべたミリアルからもたらされたのは、最悪の返事だった。しかし、戦闘を止める訳にはいかない。心中でカティーシャに謝る。

 なにしろ、この建物は、彼女と同じ名前なのだ。


「命が惜しかったら、大人しく尻尾を巻いて逃げ出すんだな」


 拓哉としては、争いなんて起こらないに越したことはない。

 その想いが、脅しとなって吐き出されるが、使った言葉が悪かった。少しばかり逆効果だったようだ。

 襲撃者達の眉が吊り上がる。


「クソガキが! 死ね! ぐあっ! がぐっ……」


 アームスの後ろから拓哉を狙っていた兵士達が弾け飛ぶ。


「タクヤ、雑魚は私に任せて、アームスをお願い」


「さすがは、私の夫となる男だ。素手でアームスと戦えるなんて、お前くらいのものだぞ」


 クラリッサは駆け付けると、直ぐに連携を執る。

 ただ、一緒に現れたミルルカは、やたらと嬉しそうであり、自慢げだった。


「助かる! 俺はシールドを展開しながらアームスをやるから、他は頼む」


「ああ、あそこの七人は殺しちゃダメよ。思いっきり損害賠償させるから」


 救援に駆け付けた二人に感謝するのだが、ミリアルが面倒な注文を押し付けてきた。


 ――なんとも簡単に言ってくれるよな……


 思わず溜息を吐きつつも両腕を振る。

 次の瞬間、ファントムブローが炸裂し、アームスが次々に砕け散る。


「な、なんだと! どうやってアームスを倒しているのだ!? なぜだ。なぜ、こうも簡単にやられるのだ」


 いとも簡単にアームスがやられるのを目にして、ギランダが顔を引きつらせた。

 どうやら、それは元帥の笑いを誘ったようだ。


「かかかかっ! 実に面白い! 実に素晴らしい! まさに鬼神と呼ぶべき存在じゃな」


「報告では聞いていたけど、本当にアームスを物ともしないのね。タクちゃんに掛かったらアームスも子供の人形と同じね」


 高らかに笑い声を上げる元帥に続いて、ミリアルも感心した様子で頷いている。

 そんな二人を他所に、拓哉は次々にアームスを殲滅していく。それと同時に、ミルルカの戦闘力におののく。

 彼女は両手に持ったサイキック銃を連射しているのだが、それは物凄い勢いで敵のシールドを突破して、完全武装の襲撃者を倒しているのだ。


 ――向こうもシールドを展開しているはずだが、なんでミルルの攻撃は筒抜けなんだ? クラレの攻撃は弾かれることが多いのに……それほどミルルの方がサイキックに優れているということか?


 疑問に思う拓哉の考えを読み取った訳ではないだろう。しかし、クラリッサが顔を顰める。


「カティが、私だけ除け者にするから……威力が出ないのよ。こんなことなら、無理にでも参加すべきだったわ。ミルルはいいわよね。沢山受け取ったし……」


「くくくっ! 最高だ。物凄い、凄い恩恵だ! 信じられないほどに力が沸き起こるぞ」


 不満そうにするクラリッサを他所に、ミルルカは喝采の声をあげる。

 威力の違いは、例の恩恵に預かっているかどうかだった。

 まさに、ドーピングによる差だ。


 ――そういうオチかよ……


 二人の会話に汗を掻きながらも、あっという間にアームスを殲滅した拓哉は、ポケットからシリコン弾を取り出すと、次々に指で弾いていく。

 さすがに、ファントムブローを人間に対して使用するのは過剰攻撃だ。

 なにしろ、完全武装とはいえ、アレを生身の人間が食らうと挽肉ひきにくになってしまう。

 さすがに、ホテルのパーティー会場を肉片だらけにするのは気が引ける。


「くそっ! どうなってるんだ! 相手はたったの三人だぞ! こんなことが起こり得るのか?」


「ギランダさん、拙いですよ! このままじゃ、全滅です」


「ちっ! しゃ~ない、例の奴だ」


「承知しました。私だ。やれ!」


 劣勢だと判断したギランダは、仲間に促されて奥の手を投入する気になったようだ。

 すぐさま、部下に指示を送った。


 ――拙いな。銃こそ持っているが、非戦闘員が大勢いるのに……何をやる気なんだ?


 部下が携帯端末で指示を出すのを目にして、嫌な空気と焦りを感じている。

 途端に、激しい振動と爆発の衝撃に襲われた。


「これは、何事だ?」


 何とか爆発の衝撃をシールドで防ぎ、直ぐに発生源に視線を向ける。


 ――マジかよ!


 そこには、五機のPBAが居た。いや、PBAがホテルのフロアーに入る訳がない。

 機体のサイズに疑問を抱く拓哉だが、隣にいるミルルカが歯噛みする。


RBA(ライトバトルアーマー)か!? なんてものを持ち出すんだ!」


 ミルルカはその存在を知っていた。険しい表情を作りつつも、その小型PBAの名前を口にした。


「なんだ、それ。PBAと何が違うんだ?」


 拓哉としては、その機体の性能が気になるところだ。


「その名の通りだ。小型のPBAで、能力も縮小版だ。それでも生身の者が戦える相手じゃない。アームスなんて比べ物にならないほど戦闘力が高いぞ。直ぐにみんなを避難させないと全滅になるぞ」


 顔を顰めたミルルカが、逃げることを推奨してきた。

 しかし、この状況で、すんなり逃がしてくれるはずもない。


 ――ちっ! しゃ~ね~。


「クラレ、ミルル、元帥とミリアルを連れて後ろに下がれ。出来れば、避難しろ」


「タクヤ、あなたはどうするの?」


「タクヤ。お前、何をやる気だ!?」


 避難しろという言葉に、クラリッサとミルルカが不安を露わにする。しかし、拓哉は笑みを浮かべて首を横に振る。


「心配するな。死んだりしね~よ。いっちょ、気合を入れて戦ってみるわ」


 本気になった拓哉の言葉を信用したのか、はたまた、その不敵な笑みに確信を得たのか、二人は黙って頷く。その表情からは、不安が吹き飛んでいる。

 ただ、さすがの元帥とミリアルも、独りで戦うという拓哉の行動に度肝を抜かれていた。



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