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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
201/233

198 知らぬは何時も俺ばかり

2019/3/12 見直し済み


 世の中とは、これほど狭いものなのだろうか。

 日本に居た頃は、知り合いの知り合いが親戚だったなんて、そうそう怒らないものだ。しかし、どうやらこの世界では違うらしい。


「ボクの父親がティノス家の息子で、ダグラス将軍の奥さんがティノス家の娘なんだよ。まあギルルにティノス家の血は流れてないけど、遠い親戚といえなくもないよね」


 拓哉の挨拶が終わり、バルガン、ダグラス、ドランガの三将軍が、ティノス家の爺さんに挨拶をしている。


 ――凄いな。あの将軍達がめっちゃ緊張してるじゃん。ああ見えても、あの爺さんの威光って凄いんだな。唯のエロジジイじゃなかったんだ……


 カティーシャの説明を聞きながら、拓哉は直立不動の三将軍を眺めて感心していた。

 そんな三将軍を他所に、カティーシャの祖母が拓哉の肩に手を乗せる。


「思ったよりも可愛いのね。鬼神なんて言うから、どんな厳つい男かと思ったのだけど、本当に食べちゃいたいくらい可愛いわ」


 ――おいおい、エロいのは爺さんだけじゃないのか?


 怪しい瞳の輝きを見せる祖母におののくのだが、そこにティノス将軍――ルーファス=ティノスがやってきた。


「こう見えてもなかなか芯のある少年ですよ。あの時の態度はしっかりしたものだったよ。それに、父上が好みそうな考えの持ち主だ。まあ、兵士としてはどうかと思うがね」


 肩をすくめつつも、ルーファスの物言いから、反感を持たれてはいないようだと安堵する。


「それにしても、カティもいよいよ奥さんになるのか……あの幼かったカティがな……」


「お久しぶりです。叔父様も元気そうで何よりです」


 カティーシャは嬉しそうにしながらルーファスに接する。

 そんな彼女の態度を不思議に思う。


 ――ん? カティって普通の話し方もできるんだな……いつも僕っ子口調だったから、あれが地なのかと思ってたんだが……


 カティーシャの普通の態度――この場合は、普段とは違う一般的な態度を目にして、拓哉は少しばかり感心する。

 そんな彼女に、異様に見た目の若い祖母が微笑みを向けた。


「もう男の振りはいいのかい?」


 その質問は、祖父――ガリアス=ティノスに返事をしていた。

 ただ、祖母はそれを聞いていなかったようだ。そして、ミリアルが頷く。


「ええ、男の振りをするのは配偶者が決まるまでなので。婿さえ決まれば、クーガーを襲う者も居なくなるでしょう」


「ああ、久しぶりの男子だったからね。暗躍する者が現れてもおかしくないね。それに、婿にしがらみがないのは良かったね。変に介入されるのも厄介だし」


 根本的な理由を聞かされた祖母は、尤もだと頷く。

 そう、カティーシャの男装は、クーガーを守るためだ。

 珍しく男子が生まれたことで、クーガーに悪影響があるのではないかと考えたのだ。

 それ故に、カティーシャを男子と公表することで、クーガーに対する影響を逸らそうとしたのだ。

 もちろん、それを考えたのは、ミリアルだ。


「それはそうと、ミリアル。今日は決起会なんじゃないのかい?」


「そうね。そろそろ始めましょうか」


 ティノス将軍の言葉に頷くと、ミリアルは三将軍の元に脚を向ける。


 ――決起会? いったい、このパーティーには、どんな意味があるんだ? 何をおっぱじめる気だ?


 二人の会話を聞いて、拓哉は嫌な予感に襲われるのだが、カティーシャが耳元で囁く。


「みんなを連れてきた方がいいよ」


「どうしてだ?」


「それは、これから必要だからだよ」


 詳細な理由の含まれていない返事に首を傾げる拓哉だが、女性陣の様子を覗う。

 そこでは、様々な光景が作り出されていた。

 まるで親の仇かといわんばかりに山盛りの料理を食べまくるレナレ。

 ひたすらデザートに食らいつくトト。

 その二人を呆れた様子で眺めるガルダル。

 二人ほどガッついてはいないものの、料理に舌鼓を打つキルカリア、キャスリン、ルルカの三人。

 他の者とは違って、真剣な表情で話をしているクラリッサとミルルカ。

 それは、予想通りの光景と思える。ただ、そこで自分が何も食べていないことに気付く。


「てか、俺も腹減ったぞ……」


「無理無理。タクはご飯なんて食べる時間はないよ」


「マジか!?」


「大丈夫、部屋に食べ物を用意させておくから」


「おお、それは助かる。さすがだな。サンキュ。カティ」


 気を利かせてくれたカティーシャに感謝の気持ちを伝えると、彼女は頬を赤く染めて嬉しそうにする。

 そんな和やかな雰囲気に幕を引くかのように、スピーカーからミリアルの声が聞こえてきた。


「本日は、お忙しいところお集まりいただき、本当に感謝しております。それではパーティーの主題に入りたいと思います」


 前置きとなる挨拶を済ませると、広いパーティー会場には、拍手が鳴り響く。

 それを嬉しそうに見渡していたミリアルは、拍手が収まるのを待って話を進めた。


「有難う御座います。それでは主題であります。『平和の象徴』の決起会を始めます」


 その言葉で、場内で割れんばかりの拍手が巻き起こる。


 ――平和の象徴? なんだそれ……決起会って、もしかして新しい組織の立ち上げか? おいおい、ミクストルはどうなったんだ?


 鳴りやまない拍手の中で、拓哉は突拍子もない発言に驚く。

 ところが、周囲の者は初めから知っていたようで、誰も驚いた様子を見せる者はいない。

 それは、拓哉の嫁となる少女達も同じだった。


「これは?」


うみを出す時が来たんだ」


「膿? まさか……」


 思わず疑問が口からこぼれる。

 すると、隣に立っているカティーシャが頷いた。

 ただ、疑問に対する返事は、いつの間にか戻ってきたミルルカによってもたらされた。

 彼女の言葉は、現在の事態を把握しているものだった。


「これまでのミクストルは、内情が流出していたり、うまい汁を吸おうとするものが沢山いたみたいなのよ」


 クラリッサの補足は、会議のことを振り返れば、拓哉にも簡単に分かることだった。

 そして、会議の前に見せたケルトラの態度の意味を知る。


「どうやら、俺達は出汁に使われたようだな」


「そうなのだ。ケルトラの奴!」


 ミルルカが憤りを見せる。

 そう、彼女達が決起について知らされたのも、つい先ほどなのだ。

 そして、踊らされていたと感じた彼女は、不満タラタラの表情を見せている。


 ――つ~か、なんで、いつも知らされないのは、俺だけなんだ?


 自分だけがいつも最後まで知らされないことに不満を感じていると、集まった者に説明を続けていたミリアルが義父である元帥を呼んだ。


「それでは、平和の象徴の総大将であるガリアス=ティノス元帥にお言葉を頂きましょう」


 ミリアルに呼ばれたガリアスは、すくっと車椅子から立ち上がると、スタスタと壇上にあがった。


 ――おいおい! 歩けるんかい! だったら何のための車椅子なんだ?


 至って健康そうな元帥を見て、思わずツッコミを入れたくなる。しかし、声にならない拓哉の疑問に答える者など居るはずもない。


「及ばずながら総大将の役を頂いたガリアス=ティノスじゃ。宜しく頼む。ここにお集まりの者に、いまさらクドクドと説明する必要もないと思うのだが、これだけは言わせて欲しい。兵士は私利私欲のために戦うのではない。況してや私腹を肥やす者のために戦うなんて以ての外じゃ。兵士とは愛する者のためにのみ戦うのじゃ。以上」


「タクヤが会議で宣言した台詞と全く同じね。ふふふっ」


 微笑みが浮かべたクラリッサが顔を向けてくる。

 少しばかり恥ずかしくなった拓哉は、右手で鼻先を掻くのだが、空いている左腕に柔らかな感触が伝わってくる。


「その通りだからな」


 賛同するミルルカが、拓哉の左腕に自分の腕を絡ませたのだ。

 ミルルカと親密に付き合うようになって知ったことがある。

 それは、彼女が腕を組むのは、親愛の証であり、相手に甘えている時なのだ。


 ――何だかんだ言っても、見た目の美しさに相反して、二人とも可愛いよな……


 見上げてくるクラリッサと腕を絡ませるミルルカを微笑ましく思っていると、ミリアルが将官を次々に呼ぶ。

 呼ばれた者は、盛大な拍手を受けながら壇上に登る。

 決起会だけに、重要人物の紹介が行われるのだ。

 それは、拓哉にも理解できることだ。ただ、ミリアルから予想もしていなかった言葉が飛び出る。


「では、次に、タクヤ=ホンゴウ准将。壇上へ」


 彼女の言葉が場内に響き渡ると、より一層激しい拍手の渦が巻き起こる。いや、それだけではない。歓喜、羨望、期待、さまざまな感情が露わになる。しかし、会議場で感じていた負の感情など微塵もなかった。

 ただ、拓哉としては、それどころではない。

 なにしろ、大尉が准将になるなど、二階級特進なんてレベルではないのだ。


「はぁ? 俺が准将? なんで尉官から行き成り将官なんだ?」


 驚きを隠せない拓哉だが、クラリッサとミルルカが背中を押してくる。


「さあ、若き英雄の登場よ」


「いや、神の降臨だろ!?」


 二人の大袈裟な物言いに異議を唱えたいのだが、そんな時間はなさそうだった。

 拓哉が脚を進めないことで、壇上で進行役をしているミリアルが、頬を膨らませているのだ。


 ――おいおい。あんた、いったい幾つだよ!?


 少女っぽい仕草をするミリアルに心中でツッコミを入れていると、それが悟られたはずもないのだが、すぐさま叱責の声が飛んできた。


「タクちゃん、早く来なさい」


 彼女の苦言は、場内に笑いを振りまく。


 ――おいおい、公衆の面前でタクちゃんは止めてくれよ!


 恥ずかしさで顔を赤くしながら、頬を掻く拓哉はおずおずと壇上に登る。

 そこには、いかにも将軍といえそうな者達が立ち並んでいる。そして、誰もが拓哉の登場を笑顔で迎えてくれる。

 その様子は、会議の時のような嫌な雰囲気など微塵もない。誰もが心から祝福しているかのように思える。

 それに安堵を感じている拓哉の耳に、ミリアルの説明が届く。


「本来であれば准将という階級は存在しないのですが、今回は特例で与えました。それをいぶかしく感じられる方もいらっしゃると思いますので、簡単に説明します。タクヤ=ホンゴウ准将は、会議でもありましたように、単独で何もかもを殲滅するほどの力を持っています。その力は強大であり、間違った使い方をすれば、この世界が滅ぶと言っても過言ではないほどです。それ故に、邪な考えを持った者により、間違った戦いに投入されるのを懸念しております。よって、彼には様々な決定事項の裏側を見てもらおうと思っています。そして、戦闘参加の意思を決めてもらうつもりです。それもあって、彼には賛否権のある階級を与えることになりました」


 拓哉が准将という階級になった経緯が明かされると、場内には再び割れんばかりの拍手が起こる。

 説明を終わらせたミリアルは、とても満足げだ。ただ、彼女はそれだけで終わらせなかった。瞳を輝かせる。


「それでは、若き准将からお言葉を頂きましょう」


 ――えっ!? そんなの聞いてないよ~~!


 思わず、古いネタを口にしそうになってしまうが、なんとか堪えつつ上手い文句を模索する。

 すると、とある故事が脳裏に浮かんだ。


 ――よし、これだ!


 名案とばかりに、心中で喝采の声を上げながら話を始める。


「ただいまご紹介に預かりました。タクヤ=ホンゴウです」


 その時点で、鼓膜が破れそうなほどの拍手が鳴り響く。


「静かに! 静かに!」


 余りの拍手の煩さに話ができないと感じたのか、ミリアルが静粛にしろと告げると、一斉にその場が静まり返る。


 ――静かになったのはいいんだが、これはこれで話し辛いな……


 誰もが息すら止めたのではないかと思うほどに静まり返る会場を見渡して、戦闘よりも緊張している拓哉は、額に汗が浮くのを感じる。

 それでも、話さない訳にはいかない。粛々《しゅくしゅく》と話しの続きを始めた。


「ご存知の通り、俺は異世界からの召喚者です。俺の居た世界でも沢山の戦争がありました。そこでは、ここで問題になっているような欲や憎しみといった人間のわだかまりが未だに後を引いています。ですが、過去を引き摺っていても、何も始まらない。なので、未来に向けて戦いたいと考えてます。それと、俺の世界の著名人の言葉にこんなものがあります。『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』。その意味は、人間はすべて平等であって、身分の上下、貴賎きせん、家柄、職業などで差別されるべきではないということです。これは人間に対して使われた故事ですが、ヒュームも同じだと考えてます。それ故に、俺はヒュームも含め、誰もが幸せに暮らせる世界となることを願っています。以上です」


 話を済ませた拓哉は、会場に居る者達の反応が気になる。

 彼の予想では、わりと上手くいったので、それなりに拍手があるものかと思っていたのだが、話を聞いた者達は静まり返ったままだった。


 ――あちゃ~。はずしちまったかな? ヒュームも同じだと言ったのが拙かったかな? でもまあ、俺の正直な気持ちだし、賛成してもらえなくても構わないよな。


 予想外の反応に、少しばかり顔を引き攣らせる拓哉だったが、一番初めの反応が壇上で起こった。


「ブラボーーーーーーーーー!」※もちろん、英語ではない


 ガリアスが喝采の声をあげ、激しく手を打ち鳴らした。

 その途端、静まり返っていた場内が爆発した。

 もちろん、物理的に爆発した訳ではない。

 喝采かっさいという名の爆発が起きたのだ。


「素晴らしい。実に素晴らしい言葉じゃ。これからは、ワシもその故事を引用させてもらうとしようか。ルーファス! その言葉を我が家の家訓にしようぞ」


 側にやってきたガリアスが、満面の笑みで拓哉の肩を叩いた。


「了解しました。本当にいい言葉ですね」


 ルーファス将軍が何度も頷きながら称賛の声をあげた時だった。会場の出入り口となっている観音開きの扉が爆発した。

 今度は、本当の爆発であり、物理的に扉が吹き飛んだ。

 途端に、爆発の近くにいた女性たちが、悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 ところが、その光景を目にしたミリアルは、全く以て動じていない。それどころか、悪態を吐いた。


「あら、本当に襲撃してきたのね。きっとバカなのね。いえ、間違いなくバカなのね」


 ――おいおい、知ってたのかよ。


 襲撃されることを初めから知っているかのようなミリアルの態度を目にして、拓哉は思わず呆れてしまうのだった。


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