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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
20/233

17 事件

2018/12/29 見直し済み


 駆動系コーティング、姿勢制御、重力制御、減速制御、装甲強化、いや、まだまだある。


「あ~~~~~~~、多すぎるだろ!」


 ララカリアが開発するSBAことスペシャルバトルアーマーの開発に必要な情報を得るために、PBAの情報を漁っているのだが、恐ろしいほどにサイキックを多用していた。

 それ以前に、サイキックバトルアーマーと呼ばれるだけあって、PBAはサイキックがなければ成り立たない代物だった。


「おいおい、光学迷彩ってのもあるぞ」


 別に誰かと会話をしている訳ではない。拓哉は唯単に膨大な情報に埋もれて、誰にともなく愚痴を溢しているだけだ。そう、所謂、独り言と呼ばれる行為だ。

 確かに、拓哉には特異な能力、見れば何でも記憶する力があるが、それと仕組みを理解するのは別物だ。

 それ故に、脳内に押し込めた情報から、その仕組み、効果、発動条件などを組み立て、サイキックシステムが作り出す恩恵を解析しているのだが、なにせサイキックに対する科学的根拠がないのだ。作業が進むはずがない。

 あるのはサイキックの使用方法ばかりで、その根底となる要素や条件が何もわからない。

 そんなサイキックを科学的に立証するための検証は、数多く行われているようだが、どれも解明には至っていない。それこそ、人体と精神の神秘や魂の存在みたいなものだ。

 それ故に、サイキックシステムは科学的ではなく、どちらかというと魔法的な要素で運用されいるのだ。


「こんな物をどうやって、プログラムで組み込むんだ?」


 そう、飽く迄もプログラムは論理の産物であって、装甲を硬くしたり、重さを変化させたりすることはできない。

 そうなると、必死にサイキックを使用しない機体を作っても、唯の人形でしかないと言えるだろう。

 何故ならば、それは実戦闘に耐えられない機体となるからだ。


 昨日はSBAの模擬戦闘テストで、この訓練校の障壁をぶち破るという惨事を引き起こしたのだが、怒られるどころか、SBAの開発を本格的に進めることになってしまった。

 その原因――壁をぶち壊した拓哉はというと、今更ながらに露呈したSBAの欠点を改善するために、ララカリアからサイキックシステムについて調べるように言いつけられ、膨大な資料を読み漁っているところだ。


 そんな拓哉は、現在、訓練校の地下にある資料室へと来ている。

 というのも、さすがに最重要機密だけあって、その辺りの資料室に並べる訳にはいかないし、携帯端末から覗くと言う訳にもいかないのだ。

 とはいったものの、部屋に沢山の書架が並び、所狭しと資料が保管されいる訳ではない。

 あるのは、完全スタンドアローンのコンピュータシステムと、それにアクセスするために置かれている幾つかの端末だけだ。


「まだやってるの? もう夕食の時間よ?」


「おわっ! クラレか……びっくりした~先にノックくらいしてくれよ。心臓が止まるかと思ったぞ」


 情報収集に集中していた拓哉だったが、突如として背後から声をかけられて飛び上がってしまった。

 拓哉から言わせれば、これがこの最先端技術で織り成される建造物の悪い処だと悪態を吐くだろう。

 というのも、扉は開く音すらしないし、床は絨毯でもないのに足音すら消してしまうのだ。

 とはいっても、全ての場所がという訳では無い。

 どれだけ技術が進んでも、ことを成すにはお金が掛かるのだ。

 結局、どんな世界に行っても、世の中は金という事らしい。世知辛いものだ。


 悪態を吐きながらも、拓哉はニヤニヤとするクラリッサを見て肩を竦める。


「あんまり驚かすなよ」


「うふふ。ごめんなさい。でも、ちょっと人間らしいところを見たくて」


 クラリッサは素直に謝るのだが、不可解な言葉を付け加えた。


「なに言ってるんだ? いつも人間らしいじゃないか」


 不可解だと感じたのは、彼女の台詞が自分を人間扱いしていなかった所為だ。


「だって……SBAを操縦している時のあなたって、まるで機械みたいだったわ」


 ――おいおい。ロボットがロボットを操縦してるとでも言いたいのか?


「さすがにそれは酷くないか? 俺だって敏感な年頃なんだから、優しくしてくれよ」


「だって、周りの噂とかにも全く動じてないし、本当は凄く年上なのではないかと、勘繰りたくなるくらいよ?」


 ――いやいや、思いっきり気にしてるんだけど、周りの噂。


 そう、昨日の事件で新たな噂が生まれた。

 それは、横から茶々を入れるララカリアを煙たがったクラリッサが、拓哉と共に訓練校から逃避行しようとするが、見事に失敗したというものだった。


「ほんと、この学校に居る奴等はよっぽど暇なんだな」


「そうね。それはタクヤの言う通りだわ」


 いちいち反応してやるのも、周囲を喜ばせるだけなので、完全に無視することにしているのだが、あることないこと吹聴している奴等にムカつかない訳ではない。

 どうやら、それはクラリッサにしても同様だったようだ。拓哉の言葉に頷いた。

 ただ、彼女はそこで顔を赤くした。


「だいたい、わ、私とタクヤが愛の逃避行なんて……」


 噂の内容を思い出したのか、クラリッサが顔が赤くなるのだが、それに留まらず、身体をモジモジとさせていたりもする。


 ――まさかトイレを我慢してるとか? いやいや、こういう場合は見て見ぬ振りが得策だ。


 クラリッサの態度を訝しむが、拓哉は自分の考えを口にしない。

 というのも、それを口にすると、間違いなくサイキックで吹っ飛ばされることになるからだ。


「てか、クラレ、どうしてここに? 授業は終わったのか?」


「なに言ってるの。さっきも言ったでしょ? もう夕食の時間よ」


 なぜか悶え苦しむかのようにモジモジとしていたクラリッサを見なかったことにして、彼女がここに来た理由を尋ねたのだが、どうやら拓哉は時の流れから取り残されていたようだ。


「そっか、ぜんぜん気付かなかったよ。じゃ、食堂にいくか」


 そう言って席を立つと、クラリッサが嬉しそうに寄り添ってくる。


「そうね。私もまだだから、一緒に食べましょ」


 ――どうしたんだろ。今日はやたらと機嫌がいいな。それに今日はやたらと近いよな。なんか、いい匂いがする……


 彼女は軽い足取りで横を歩くのだが、その距離が何時もよりもやたらと近い。それこそ、今にも腕を取らんばかりの距離だ。

 そんな彼女から甘い香りを感じ取り、拓哉は思わず胸の鼓動を高鳴らせてしまうのだった。







 ガヤガヤと賑やかな食堂だが、拓哉とクラリッサが入った途端に、まるでボリュームをゼロにしたかのような静寂が訪れる。


 ――それこそ、俺達の存在が禁忌と言わんばかりだな……


「はぁ、以前から似たような状態だったけど、ここ最近は輪を掛けて酷いわね」


 クラリッサは周囲のことなどお構いなしに、溜息を吐きつつ愚痴を溢した。

 拓哉は肩を竦める仕草で彼女に答えると、空いている席を探す。

 すると、何時もお決まりといわんばかりに、食堂の隅にある一角だけに空席があった。いや、既に班のメンバが座っていたと表現すべきかもしれない。

 そう、そこは無能者が座り始めたことで、能力者が座らない席となっているのだ。

 恐らく、能力者から言わせると、「無能者の座った椅子に座れるか!」ということなのだろう。


 ――愚かなことだな。


 心中で能力者を蔑みつつ、拓哉は、クロート、トニーラ、デクリロの三人が座る無能者特等席に脚を向けた。

 場が静かになったことで、彼等も拓哉とクラリッサの登場に気付いたのだろう。大声を出したりはしないが、大きく手を振っている。

 それを確認した拓哉は思わず胸を熱くするのだが、なぜか隣からムッとしたオーラを感じ取った。


 ――ん? どうしたんだろ。噂の中にクラレの機嫌を損ねるような内容があったのかな?


 クラリッサが不機嫌となった理由を考えながら、班の仲間が待つテーブルへと辿り着いた。しかし、残念ながら、拓哉の思考は、彼女が機嫌を損ねた理由に辿り着くことはなかった。

 間違いなく、クラリッサは拓哉と二人で食事をしたかったはずだ。しかし、女性経験と乏しい拓哉にそれを理解しろという方が無理難題だろう。


「遅いぞ。何をやってたんだ?」


 席に着くなり、クロートが苦言を口にするが、すぐさまデクリロが叱りつける。


「バカ野郎。タクヤはお前と違って忙しいんだよ」


「ぐはっ! オレッちだって忙しいっすよ」


 クロートとデクリロが何時もの騒ぎを始めたので、拓哉とクラレは我関せずと言わんばかりに、携帯端末で夕食のメニューを注文する。


 ――これって、ほんとに便利だよな。


 ここの生活にも慣れつつある拓哉だったが、いつまでも端末を眺めて感心する。

 というのも、ここでの生活は、行動の殆どを携帯端末で終わらせてしまうのだ。

 ただ、逆に人と接することがなくなった分、人々の内向的な性質が促進されているようにも感じなくもない。

 この露骨な噂話もそうだ。人と接する時に行われる気遣を完全に失っている。

 自分達の行為が他人にどういう影響を及ぼすかなんて、全く理解していない。それどころか、他人が不愉快になるような言動を当たり前のように繰り返している。


 ――まあ、奴等について考える時間が一番無駄かもな……


 結局、拓哉は首を横に振って、意識を周囲から切り離した。

 そう、考えたところで何かを変えられる訳ではないし、そんな時間があったらサイキックシステムの仕組みを理解することに費やした方がマシだと考えたのだ。


 そんなところに、ボットアと呼ばれるロボットが料理を運んできた。

 因みに、そのロボットから料理を受け取ったりはしない。というのも、ロボットが注文者の目の前に置くからだ。

 拓哉からすれば、有り難いとも、まどろっこしいとも感じる。


 ――自分で受け取った方が早いような気がするんだが……なにっ!


 絶対に料理をこぼすはずのないロボットが料理をひっくり返してしまった。いや、ロボットが料理をひっくり返したのではない。ロボット自体が引っ繰り返ったのだ。


「危ない!」


 拓哉は意識することなく咄嗟とっさに手を伸ばす。こぼれた料理と皿がクラレへと落下しているのだ。

 しかし、悲しいかな、拓哉の脳がどれだけ記憶力に長けていても、身体能力が上がる訳ではない。拓哉の伸ばした手は無残にも空を切った。

 ところが、落下する料理が彼女の前から消えたかと思うと、食堂の窓がけたたましい音を立てた。

 原因は分からないが、食堂の窓ガラスにヒビが入っている。

 その音で周囲の者達は一気に騒然となり、女生徒からは悲鳴が上がる。


「いったい何が起こったんだ?」


 拓哉が綺麗な服のままのクラリッサに視線を向け、彼女が無事であることに安堵の息を吐く。


 ――理由は分からんが、クラレが無事でよかった……


 そんな拓哉の視線の先では、突然のことで呆然としていたクラリッサが、直ぐに表情を引きしめた。いや、眉間に皺を寄せて怒りの形相を露わにした。


「分らないわ。ただ、誰かがサイキックを使ってボットアを倒したのね。噂話程度ならいざ知らず、ここまでやるなら私にも考えがあるわ」


 彼女は怒り露わにそう言い放つと、まさに自分はここだと言わんばかりに立ち上がり、射殺さんばかりの眼光で周囲の者達を睨みつけた。


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