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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
197/233

194 ルキアス到着

2019/3/10 見直し済み


 五日間の旅は、今世紀最大の波乱になると思っていた。

 今世紀最大という表現には、いささか語弊があるかもしれない。

 というのも、世界には西暦なるものは存在しないからだ。

 そんなヘリクツは良いとして、なにゆえ、過去形かというと、今まさに、その五日間を凌駕りょうがする波乱が起きようとしていたからだ。


「タクヤ! これは、どういうことだ?」


 いきどおりを露にしたミルルカが詰め寄ってくる。

 ミルルカの剣幕は、大抵の者ならたじろいでしまうものだったが、拓哉は怯んでいなかった。いや、別の意味で慄いていた。


 ――詰め寄るのはいいが……いや、良くないが……そんなに胸を押し付けるなよ! みんなが見てるじゃないか!


 軍服の上からでも感じられるミルルカの柔らかい胸の弾力に、思わず意識を奪われるが、すぐさま周囲の目を気にする。


「クラリッサが付いているから、新規参入者については心配してなかったんだけど、これはどういうことかな?」


 なぜか、カティーシャは拓哉にではなくクラリッサに冷たい視線を向けていた。

 クラリッサはといえば、その突き刺さるような視線を躱そうともしない。それどころか、逆ギレする。


「私に言わないで欲しいわ。タクヤに聞いてちょうだい」


 ――おいおい、援護射撃どころか、これじゃ後弾じゃないか!


 正直言って、自業自得だ。キルカリアの要求を拒否できない拓哉に問題がある。

 それでも、クラリッサの頑張りで、一線を越えることはなかった。

 思わず悲痛な叫びを上げそうになる拓哉だが、逃げ場を求めて視線を問題となっている人物――キルカリアに向ける。


「そんなに触ったらだめニャ! くすぐったいニャ! ああっ、尻尾はダメニャ!」


「うわっ! やめるんちゃ! そんなに力を入れて頬ずりしたら首の骨が折れるんちゃ」


 猫人族や妖精族が珍しかったらしく、憤りを見せているミルルカやカティーシャをそっちのけで、レナレやトトをいじっている。


 これがいかなる状況かというと、拓哉達は朝一番にルキアスの空港に到着した。

 そこには、拓哉の妻を名乗る、いや嫁と認めた女性及び、その相方が待ち構えていた。

 それ自体は問題ない。問題は拓哉の方にあった。

 そう、キルカリアの存在だ。いや、それも問題ではないだろう。一番の問題は、キルカリアの態度だった。

 嬉しそうに拓哉と腕を組むキルカリアを目にした途端、ミルルカを始めとした四人の妻たちが、一斉に顔色を変えたのだ。


 ――駄目だ。無理だ。これは切り抜けようがない。別に妻にしたわけではないし、何とか貞操を守ったし、問題ないことを伝えればいいだけだよな?


 貞操を守ったのは、クラリッサであって、拓哉の自制心ではない。

 その辺りを少し勘違いしている拓哉は、すぐさま弁解する。


「あ~、お前達、勘違いしてるだろ? 別にキルカを妻になんてしてないぞ? 肉体関係もないからな」


「「「「えっ!?」」」」


 事実を知らしめた途端、カティーシャ、キャスリン、ミルルカ、ガルダル、四人の驚きの声が重なった。

 彼女達からすれば、間違いなく誑し込まれていると思えたのだ。

 それほどに、キルカリアの態度は馴れ馴れしかった。

 四人は驚きを収めると、直ぐにクラリッサと視線を向けた。


「それだけは死守したわ。その代り、私も出来なかったけど……地獄だわ」


 溜息を吐きながら心境を語るクラリッサだったが、四人からすると、全く同情の余地はなかった。

 その証拠に、カティーシャが目を吊り上げる。


「そんなの当たり前だよ。ボク達だってご無沙汰なんだから、自分だけいい想いをしようとした罰さ。いや、ボク達が居ない間に、いったい何回したのかな?」


 ――何回って……そんなの解らん。沢山やったし……


 いちいち回数なんてカウントしている訳ではない。それに、数えきれないほどしてしまったのだ。数えられるはずがない。朝から、昼間から、夜も、時間があれば、裸のスキンシップに勤しんだのだ。カウントしていたとしても、数え間違えが起きそうだ。

 そんな訳で、カティーシャの質問には答えられない。

 そして、それは肯定として受け止められる。いや、事実を読み取られてしまう。

 もちろん、四人の冷たい視線が、クラリッサに集中するのも必然だろう。


「ちょ、ちょ、ちょこっとよ。ほ、ほんの数回しかしてないわ」


 ――それは嘘だな……あれが、ちょこっとなら、クラレの沢山は一体どうなるんだ?


 もちろん嘘だ。過少申告も甚だしい。これが税務署なら、間違いなく追徴金を持っていかれるところだ。

 そして、余りにも嘘過ぎて同調できずにいる拓哉は、四人からすれば簡単なウソ発見器だった。


「嘘だね。ちょっと付き合ってもらおうかな。ねえ、クラリッサ」


 こうして拓哉とクラリッサは、ルキアス到着早々に尋問を受けることになった。









 ミクストルの会合には、思ったよりも多くの参加者が居た。

 拓哉の知っている者は、その内の数人というところだろう。

 当然ながら、ミルルカの叔父であるダグラス将軍やドランガ将軍の姿もあった。

 実のところ、キャリック、ダグラス、ドランガ、三人は同期らしく、とても仲が良い。

 それもあって、やたらと嬉しそうにしていた。

 ただ、どうも面倒なのは、それ以外の者も沢山集まっているのだが、誰もが拓哉に話し掛けてくることだった。


「噂はかねがね聞いてるよ! ヒュームの侵攻を退けたらしいな」


「うむ。どうだ。ウチにこないか?」


「いやいや、鬼神の独り占めは、少しばかり問題あるだろう」


「じゃあ、持ち回り制にするか」


「それにしても、こんな少年だったとは」


「でも、これで純潔派をぎゃふんと言わせられるぞ」


「そうだな。奴等の動きも活発だし、ヒュームばかりに構っている訳にもいかんだろ」


「あっ、ホンゴウ君。もしよければ、リルラ財閥の機体にも乗ってもらえんかな?」


 軍服姿の者からスーツ姿の者まで、ありとあらゆる人間が声を掛けてくるのだが、どうも彼等の瞳には私利私欲が混じっているように感じられた。


 ――やっとのことでカティ達の尋問から解放されたと思ったら、今度はこれか……


 四人の嫁からの尋問で、クラリッサとの赤裸々なプレイまでゲロさせられた拓哉は、会合に参加するクラリッサ、ミルルカ、キルカリア、ルルカ、合わせて五人で会場にと赴いた。そして、拓哉が鬼神と呼ばれる存在だと知ると、砂糖に群がる蟻のように人が集まってきて、ウンザリする羽目になった。

 いまだ会合の前の待機時間なのだが、拓哉は既に参加するべきではなかったと後悔する。

 余談だが、他の仲間は会合に参加しないので、別行動となっている。


「なかなか人気者だな。だが、気を付けろよ。どいつもこいつも自分のしか考えていない奴等ばかりだからな」


「お前こそ、どうなんだ?」


 何処からか忽然こつぜんと現れたケルトラがニヤリとする。途端に、顔見知りのミルルカが食って掛かる。


「ああ、クアントか。火炎の鋼女と恐れられたミルルカ=クアントも、もはや形無しだな。鬼神に懸想して、今じゃすっかり骨抜きになったと聞いていたが」


「う、う、うるさい!」


 ケルトラに己が行いを揶揄されて、ミルルカは憤慨する。しかし、恥じらいで顔を真っ赤にしていては迫力の欠片もない。

 そんなミルルカの態度をにこやかに見守るキルカリアだったが、思うところがあったようだ。

 もちろん、拓哉についてではなく、ミクストルについてだ。


「自由と平和を求めるミクストルと言っても、皆が同じ志を持っている訳ではないのね」


「当然だ。それこそが、人間の姿だと思うだろ?」


 ケルトラの皮肉は、的を得ていると言えるだろう。

 不完全だからこそ人間であり、正しき行いと邪な想いを持っているからこそ人間なのだ。


 ――確かに、認めたくはないが、ケルトラの言う通りだろうな。人間なんてそんなものだ。真面目に考える者も居れば、それをネタに私腹を肥やそうとする者も居る。本当に残念だと思うが、それこそが人間のありのままの姿だろうな。


 誰もケルトラの言葉を否定しない。いや、否定できないだろう。

 なにしろ、人間を突き動かすのは、想いであり、それは人それぞれ、千差万別だ。


「タクヤ。今日は、好き放題ぶちまけていいぞ」


 何を考えたのか、ケルトラは不敵な笑みを見せた。

 しかし、彼の考えが全く理解できない。

 ただ、何かの思惑があるよう感じられた。


「それは、どういうことですか?」


「どうもこうもない。そのままだ。きっと、お前が発言する機会が生まれるだろうからな。ああ、クアントも暴れていいぞ」


「な、なぜ、私が暴れないといけないのだ!?」


 憤りを見せるのだが、どうやらミルルカも意図が掴めないようだ。

 それが悦に入ったのか、ケルトラは再びニヤリと顔を歪める。


「放って置いても、バルガンもクアントも言いたいことを口にするタイプだからな。間違いなく暴れることになるだろうさ。くくくっ」


 笑いにミルルカが憤慨するが、それ以外の者はただただ首を傾げている。

 そのタイミングで、場内にアナウンスが響き渡る。


『これから会合が始まります。参加者の方は速やかに指定された席に移動してください』


「どうやら始まるみたいですね。私達も移動しましょう」


 アナウンスが終わると、会場の前に設置された広いスペースで世間話に花を咲かせていた者達が移動を始める。

その状況を見回したカリナが、拓哉達を促す。

 それに頷き、拓哉達も会場に入るのだが、その席順を知った途端、ミルルが不満を露わにする。

 どうやら、ミルルカは予めもらった座席表を確認していなかったようだ。今更ながらに不平をぶちまける。


「どうして、私だけが違う席なんだ?」


 座席表では、拓哉達の席順は右から順番に、ミリアル、キャリック、リカルラ、リスファア、クラリッサ、拓哉、キルカリア、ルルカの順となっていた。ミルルカに関しては、ダグラスの隣となっている。


「それは仕方ないわよ。部隊の配置と同じになってるし、ギルルは、これでタクヤとも疎遠ね」


「ぬぬぬぬっ! 駄目だ! 私もそっちの部隊に入るぞ! というか、ギルルいうな! お前の方がギルティだろ。なんてったって――グゴホゴ」


「ちょっ、ちょっと、こんなところで、やめてよ」


 クラリッサの人には言えない性癖を知ったミルルカは、即座に有罪判決を蒸し返した。

 しかし、さすがに周囲に聞かれる訳にはいかない。

 焦ったクラリッサが、すかさず彼女の口を物理的に塞ぐ。

 ミルルカの軽はずみな発言は、拓哉としても勘弁して欲しいところだ。ただ、ここでその話に触れたくはなかった。それもあって、正当な理由で彼女をなだめる。


「いやいや、それだと戦力が偏り過ぎるだろ」


 ただでさえ、拓哉の舞台にはガルダルも居るのだ。そこにミルルカが加わると、完全に戦力が集中してしまう。

 悲しいかな、他に名立たるパイロットの名前が挙がってこないのだ。

 もしかしたら、凄腕のパイロットが他にもいる可能性はあるが、現時点で拓哉の耳には届いていない。


 ――つ~か、いいのか? ミルル。テリオスさんが泣くぞ? 確か、裏で必死にミルルの代行をしているはずだよな?


 今更ながらに、ミルルカの副官であるテリオスの存在を思い出して肩を竦める。

 ただ、テリオスなら「会長が居なくても問題ありません」なんて言うのだろと考える。


「ミルル! 違う席と言っても、俺の直ぐ後ろじゃないか! そんなに膨れることはないだろ?」


「そういう問題ではないのだ! このままだと、私だけが除け者になってしまうんだ」


 拓哉としては、全く除け者にする気はないのだが、どうやら彼女は会合の席の問題ではなく、拓哉の側に居られなくなると考えているようだ。


 そんなミルルをなだめつつも席に向かったのだが、拓哉はケルトラの言葉を思い出して、これから始まる会合に不安を抱く。


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