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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
196/233

193 問題だらけ

2019/3/10 見直し済み


 ミラルダ地方の敗戦は、彼の演算結果を覆すものだった。

 如何にしてそうなったのか、何度も演算を繰り返したのだが、常に同じ結果をはじき出した。


「ミトラロ! これはどういうことなのだ! 必ず勝てる計算だったはずだ」


 ――己にも演算する能力があるのに、これだから肉体労働系の個体は……


 ヒュームといっても、その内容は様々だ。

 頭脳労働用から始まり、肉体労働用、コミュニケーション用、愛玩用、多岐にわたる。

 それ故に、個々の能力には違いがある。得意とする分野に特化しているのだ。

 そして、積み重ねた内容により人間臭さも違ってくる。

 特に、肉体労働系の個体は演算すらせずに、人間でいう感情的な発言をするのだ。

 その原因を解析すると、人間だけが悪だとは言えないという演算結果がはじき出される。


「クラガル。そんな事は、自分で演算すべきです。あなたにも演算回路があるでしょ? だいたい、人間を相手に戦っているのですから、演算結果と異なるのも致し方ないです。そもそも、人間と同じように騒ぎ立てる態度の方がどうかしています」


「なんだと! それでは、トロラト! お前等頭脳派組の存在価値とはなんだ!」


「あなた達のように演算することを止めた個体がいるから、我らのような存在が必要なのですよ! あなた達だけで行動を起こせば、きっと今頃はヒュームが消滅しているはずです」


「言わせておけば! ならば見ておれ!」


 トロラトの言葉が気に入らなかったようだ。クラガルは捨て台詞を残すと、この場を去っていった。

 それも演算が導き出した解答と同じ結果であり、特に驚くこともない。


 ――どうにも人間臭い奴だ。本当に空気が悪くなる気がする……いや、この考えこそが人間臭さなのであろうな……


「ミトラロ、良いのですか? どうもクラガルは出撃する気のようですが」


 人間臭さについて考えていると、トロラトが無表情で問いかけてくるのだが、それも演算結果通りだった。


「ああ、構わんよ。どの道、彼には出てもらう予定だったからね。問題は他にあるんだよ」


「姫の件ですか?」


 ――そう、奴が逃げ出した件だ。いや、もう一つある。


「それもだが、今回の敗戦の要因は、黒い機体だろう。何度計算してもそういう結果がでる」


「そうですね。それに関しては私も同じです。あんな隠し玉があるとは、全く知りませんでした。例の筋による連絡にも、そのような情報はなかったですし、今後はその黒い機体を計算に入れる必要がありますね」


 ――どうやら、トロラトの演算も私と同じ結果となったようだな。


 実際、誰が算出しても同じ結果になるだろう。

 それに、演算に関しては、難しいことではない。

 問題は、その黒鬼神――拓哉をどうやって倒すかだ。

 こればかりは、演算だけでは事が済まない。

 ミトラロは、その方法について演算を始める。

 ただ、彼等がヒュームであるが故に、誰もが同じ演算を行っている。


「どうやって倒しますか? 私の計算ではゴールドタイプを百個体つぎ込んでも勝率が五十パーセントに届きませんでした。ただ、高確率で勝てる方法もありましたが……」


「分かっている。私も同じ結果が出たからな」


 学習能力によって個体差はあるものの、同じ材料を詰め込めば、大抵が同じ結果になる。

 それ故に、過去に得た経験が大事なのだ。

 そして、誰よりも早く生まれたミトラロは、もう一つの方法を見出していた。


「トラーク、例の件はどうなっている?」


 ミトラロが声と共に視線を向けると、それまで他人事のように座っていた個体が立ち上がった。


かんばしくないです。ただ、きざしは見え始めました。ああ、兆しという物言いは嫌いでしたね。成功する確率がかなり上がりました」


 どこか研究者然としたこの男性体――ルトラは、研究専門で育てられた個体であり、その所為なのか、それともマスターに問題があったのか、態度や物言いがヒュームに似つかわしくない。

 ただ、研究成果に関しては、目を見張るものがあり、人間臭いから放出するという訳にもいかないのが痛いところだった。


「それで、完成予定は?」


「不明ですよ。なにしろ、身体を構成する組織の材料が足らないのです」


「材料があればできるのか?」


「計算上は、可能でしょうね」


 ――さて、どうしたものだろうか。欲しているのは戦闘専用の個体だ。戦士が必要なのだ。そうなれば、戦場で死ぬことも多いだろう……そう考えると、例のプランを実行するしかあるまいな。


「そうなると、身体を作らなければ、直ぐにでもできるのか?」


「それなら問題ありませんが、それだと唯のコンピューターに毛が生えた存在になりますよ?」


「構わんよ。ルトラ。思考式機体の方はどうなってる?」


「その件は、問題なく進んでます。残すは試験だけです」


 ――試験か……それが一番厄介なんだがな……まあいい。それで進めよう。


「ルトラ、トラーク、その件を早急に進めてくれ」


「ああ、分ったよ」


「了解です」


 人間臭いルトラが肩を竦め、生真面目なトラークが頷く。

 それで、問題の一つが解決だ。ただ、だからといって、問題がすべて片付いたわけではない。


「ミトラロ! もう一つの問題をどうするのですか?」


 ――ああ、面倒なのが出てきた。


 その個体――リリカラは、長い髪を束ねた女性体であり、必要もないのに眼鏡を掛けている。

 それだけでも変わり者だというのがありありと解るというものだ。


 ――さて、もう一つの問題というと、あの女の件だろう。


「リリカラ、別に当面のエネルギーが不足している訳ではあるまい? 戦いを始めれば命が失われる個体も多い。それに、新しい個体は生まれてこない。そうなれば、エネルギーの消費も少ないだろ? 私の計算では百年は問題ないはずだ」


「何を言っているのですか。それでは破滅を待つだけではないですか。それとも百年持てば良いという考えですか?」


 リリカラとミトラロの目的は、根本的に異なる。

 それもあってか、演算結果の受け止め方が違うのだ。

 ミトラロは、それを面倒だと感じていた。いや、そういう演算結果になった。


「わかった、わかった。確か反抗個体のコミュニティーに居るはずだな。テロン。ちょっと捕まえてこい。とはいっても、捕まえたからといって、何とかなる訳ではないのだが……」


「それは、こちらでも考えています。何とかして情報を引き出させます」


「出撃は、今直ぐでいいですか?」


 何とかするというリリカラを怪しく思いながらも、出撃指示を受けたテロンに頷く。


 ――本当に面倒だ。早くこんな事は終わらせて、私もさっさと消滅したいものだ。ただ、それは人間が滅んだ後なのだがな。


 己が消滅を夢見るミトラロは、瞑目めいもくして人類消滅計画におけるスケジュールの見直しを始めた。









 ――あの将軍は、いったい何を考えているのだろうか。


 昨日は真面目な表情で感心する内容の言葉を口にした。それもあって、さすがだと感心したのだが、いまは、彼の考えが全く掴めなかった。

 拓哉がそう感じたのは、ルキアスに向かう高速飛空艇の中でのことだった。


「すご~い! 広くていいわね」


「いえ、キルカさんは、別の部屋ですよ? この部屋はベッドこそ広いですが、間違いなく二人部屋なので」


 はしゃぐキルカリアに対して、ルルカの態度がどこか冷たい。おまけに、間違いなく二人部屋のところが、やたらと強調されていた。


 この高速飛空艇は、拓哉達がディートからミラルダまでやって来るのに使用したモルビス財閥の物だ。

 それもあって、機内の造りは、ある程度把握している。

 そのはずなのだが、とんでもないものを目にした。


「ねえ、本当にこの部屋だった?」


 昨日から不機嫌な態度を崩さないクラリッサが、その美しい瞳を瞬かせながら室内を見渡している。


「確かに、造りが違う気がする。いや、間違いなく違うようよな?」


 彼女にならうように、室内をざっと眺めた拓哉は、部屋の造りの違いに気付く。

 ただ、それを知らないキルカリアは、気にした様子もなく首を横に振った。

 それは、ルルカに対する反論だ。


「ん~、平気そうよ? だって室内に寝室が三つもあるもの」


「あっ、私の居住空間が寝室に変わってる……」


 前回、自分が使用した部屋がなくなり、新たに二つの寝室が出来ていることに気付いたルルカが、途端にニタリとする。


 ――覗きはダメだからな! 絶対に駄目だからな! 犯罪だからな!


 彼女の表情は、間違いなく邪なものだ。

 即座にツッコミを入れようとしたのだが、そこにリスファアを連れたキャリックが現れた。


「どうだ? 急な改装だったが、おお~、綺麗にできてるな。キルカリア嬢も同行するというので、急遽きゅうきょ、室内のパーテーションを変更させたのだよ」


 ――おお~じゃね~よ! このエロオヤジ! まさか、リスファアに手を出してないだろうな。もしそうだったら、リカルラにチクってやるからな。


「叔父様! キルカが同行することでタクヤの部屋が変更されるのは、おかしくありませんか?」


 キャリックの思惑を察して心中で罵っていると、そのエロオヤジを叔父に持つクラリッサが、まさに鬼のような形相で噛みついた。


「あ、いや、それが……」


 姪に攻め立てられて口籠るが、キャリックはチラリと視線を動かした。その先に居るキルカリアはといえば、小さく首を横に動かす。


 ――おいおいおい! お前等グルかよ! てか、将軍! あんたの姪が泣いているぞ? というか、利害に俺を含むのはやめてくれ。昨日の高尚な発言は何だったんだ?


 間違いなくキルカリアに脅されたのだろう。それも、協力関係の条件に拓哉が含まれているはずだ。

 それは、拓哉でなくても、目を瞑れば、その光景が見えてきそうな気がする。まるで、悪代官と越後屋みたいだ。

 しかし、クラリッサは二人のアイコンタクトに気付いていなかった。

 それでも、この状況が許容できないのだろう。鬼気迫る勢いでキャリックを責め立てる。

 ただ、都合の良いことに、キャリックは用事を思い出したようだ。


「あっ! そうだ! そうだった! まだ終わっていない書類があったのだ。そうだったよな? リスファア! さあ、戻って片付けるとするか」


「確か、あれは後日で良いという話だったと――フグフグ」


 理由を付けてここから早期撤退したいキャリックは、強引にリスファアの口を塞ぐと、そそくさと部屋を後にした。


 ――おい、オッサン! それはセクハラ行為だぞ! つ~か、何しに来たんだ? だいたい、どうするんだよ、これ!


 悪霊退散よろしく、サクッと消えてなくなったキャリックに呆れるのだが、キルカリアは実力行使に出たようだ。

 何を血迷ったのか、拓哉にしなでかかる。


「ねえ、タクヤ。疲れたわ。お風呂に入りましょ。もちろん一緒に」


 その甘い香りは、拓哉を簡単に陥落させる。

 すぐさま頷きそうになるのだが、即座にクラリッサから腕を引かれた。


「タクヤ! 分かっているわよね?」


 早速とばかりに詰め寄って大きな胸を押し付けてくるキルカリア。それを見て角を生やすクラレ。

 そんな二人を眺め、拓哉は移動に必要となる五日間をどうやって過ごすべきかと、頭を抱えることになった。

 もちろんルルカも参戦したが、それは放置だ。


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