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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
195/233

192 戦いの目的

2019/3/9 見直し済み


 きっと甘い顔をしたのが拙かったのだろう。

 彼女はあからさまにアピールを始めた。いや、要求したと言った方が適切だろう。

 もちろん、彼女というのはキルカリアのことだ。


 彼女は周囲の目もはばからず、場所も選ぶこともなく性的な欲求をぶちまけた。

 それだけでも、クラリッサにとっては問題なのだが、それにも増して大問題が浮上する。

 なぜか、拓哉は拒否しないどころか、素直に応じてしまったのだ。


 ――タクヤ、一体どうしたのよ! そんなに彼女が魅力的なの?


 これまで誰が現れようともそれほど気にしていなかった。

 カティーシャとキャスリンは置いておくとして、ミルルカは粗暴な印象を持つ反面、その美しさやボリュームのある身体つきを持っている。

 ガルダルは女らしさと優しさや女性を象徴するかのような美しいスタイルをしている。

 それでも、クラリッサはそれほど不安を感じていなかった。

 というのも、拓哉がのめり込むように見えなかったからだ。

 しかし、今回は違う。どう見ても、拓哉が彼女に惹かれているような気がするのだ。

 それも、無意識に反応している節が見て取れた。


 ――拙いわ。拓哉の女が増えるのは許容するけど、独占されるのは許せない。このままだと、彼女の虜になってしまいそうだわ。


 拓哉とキルカリアの反応を見て、そんな不安に駆られたのだが、実は他にも気になることがあった。

 それはキルカリアの話の中にあった禁断や禁忌と言われている科学のことだ。いや、それ自体には何の興味もない。

 気になっているのは、その科学で人工的に造られたキルカリアの存在だ。

 彼女と色々な対戦を行って分かったことだが、正直言って普通の人間では在り得ないと感じた。

 思考の速さ、判断力、身体能力、どれを取ってもずば抜けている。

 なにしろ、オセロゲームでは、コンピュータよりも優れているヒュームに勝ってしまったのだ。

 そんな彼女の話を聞いていて、クラリッサはあることに気付いた。

 それは、拓哉の存在だ。

 どう考えても在り得ないほどの能力を持っている。

 サイキックの能力は置いておいても、その思考能力、判断力、記憶能力、治癒能力、どれを取っても人並み外れているという言葉では表現できないほどだ。

 率直にいって異常であり、尋常ではない。

 それだけでも人外と呼べる存在なのだが、極めつけは、タイムストップなる能力まで持っている。

 そう、タイムストップこそが、人外の象徴とも言えるだろう。

 あの能力は、別に周囲の時間を止めている訳でもなければ、サイキックによる産物でもない。

 彼自身の能力が加速されることで、周囲との時間差が生まれているのだ。

 その異常さたるや、人外という表現ですら物足らないと思える。

 まさに、神の技と言わざるを得ない。


 以前、拓哉に尋ねてみたことがあった。


「ねえ、タクヤ。サイキックは別として、あなたの居た世界の人間って、そんなに能力が高いの?」


 クラリッサからすれば、当然の疑問だろう。

 地球で接したのは拓哉だけであり、その拓哉が異常な能力を持っているのだ。地球人が異常な力を持っていると考えるのは自然なことだ。

 しかし、事実は違う。地球人の誰もが異様な力を持っているのなら、もっと発展していておかしくない。


「いや、ゲームだと同じくらいの人はいると思うけど、俺の記憶能力については向こうでも異常だぞ。だから、誰にも教えなかったんだ。あと、集中すると時間が止まったように感じるのも俺くらいだろう。そう言えば、クラレとこの世界に来る切っ掛けになった事故の時も、時間が止まっているような感じだったよ。だいたい、向こうの世界にはサイキックとかないし、こっちの世界の人間よりも能力は劣ると思うぞ」


 拓哉はサラリと答えたのだが、それがどれほどイレギュラーであるかを認識していないようだ。

 それほどの力を持った拓哉が地球に存在すること自体、普通に考えてあり得ないのだ。

 そもそも、そんな異能を持った人間が、突然生まれたりはしない。

 この世界においても、サイキックという力が見つかったのは、歴史的記録が残っている以前からだ。

 そう、突然、サイキックに目覚めた訳ではない。

 現在の学説では、この星に人間が誕生した時から、サイキックが使えていただろうと言われている。

 そうなると、拓哉の存在は、この世界でも、地球でも、イレギュラーだと考えられる。

 その途端、いったいどこの人間なのだろうかという疑問が生まれるのだ。

 そして、キルカリアの説明の中に、気になる部分があったのだ。


 ――もし、タクヤがキルカリアと同じ存在であるのなら、彼が持つ能力に説明がつくわ。でも、そうなると、どうやって異世界に行ったのか、それが疑問だし、この世界のことを憶えていないことも気になるわ。


 クラリッサは拓哉のことを愛しているし、大切な存在だと思っている。

 それ故に、彼がどんな存在であれ、見捨てたりさげすんだりしない。

 ただ、気になり始めると、どうしても知りたくなってしまうのだ。


 ――だけど……当面の問題は、あの盛り女をどうするかよね?


 会議中だというのに、拓哉の左側でベタベタとへばりつく美しきも腹立たしい女と、それをたしなめたりしない拓哉にいきどおりを感じつつも、クラリッサは当面の対処について考え込む。









 全く以て、困り果てたと言わざるを得ない。

 公衆の面前でアピールされると、拓哉も人目をはばかるのだ。

 ただ、困ったことがある。

 それは、公衆の面前であるのにも拘らず、キルカリアの要求をNOと言えないことだ。


 ――なんで拒否できないんだ? いや、俺の本能はどうなってるんだ? 求められると、口が勝手に返事をしてしまう。クラレから氷の視線で突き刺されているというのに……


 キルカリアの要求はさることながら、拓哉が拒否できないことに、クラリッサはご立腹だった。

 それも仕方ないだろう。逆の立場なら拓哉でも憤慨するはずだ。


「それで、今後の方針なのですが……」


 考え事をする拓哉の耳に、リスファアの声が届く。

 ただ、なにか不都合があるのか、彼女は言い淀んでいた。


 キルカリアの暴走をなんとか収めた拓哉達は、ミクストルとしての活動について話していた。


「ハッキリいって、目標はあっても、その方針や方向性が決まってないのだ。それを話し合うために、旧ラルカス連合国のルキアスで会合を開くことになった」


 言い辛そうにしているリスファアを援護するかのように、キャリックが今後の予定を告げた。

 しかし、会合と自分達が呼ばれた関係性が分からない。

 拓哉からすれば、それに自分が参加するとも思えないのだ。

 ところが、クラリッサが質問したところで、予想外の返事を耳にする。


「その会合に、誰が参加するのですか?」


「参加者を全て決めた訳ではないが、最低でもワシとホンゴウ君は行くことになるだろう」


 ――お、俺か? その内容に関心はあるのだが、俺が行って何か意味があるのか?


 思わず焦ってしまったのだが、なぜか、クラリッサは当たり前だと言わんばかりの表情だ。おまけに、自分も参加する気でいるようだった。


「そうなると、私が一人でここに残っていても仕方ないですね。タクヤと同行します」


「大尉が行くのなら、側近である私もルキアスに行きます」


 便乗するかのように、ルルカが業務だと断言する。その表情は、やたらと嬉しそうだ。

 クラリッサやルルカの反応は、少なからず当然というか、必然だろう。

 そこまでは予想の範疇はんちゅうだ。

 ところが、爆弾マン――キルカリアが同行の許可を求めてきた。


「もし差し支えないようであれば、私も参加したいです」


 その瞳は爛々《らんらん》と輝いている。どう見てもその目的が会合でないと、誰もが察する。

 そうなると、クラリッサが理由をつけて拒否するのも必然だ。


「一旦は撤退したけど、まだヒュームが完全に諦めた訳ではないわ。そう考えると、ここを守る人員が必要だし、タクヤが居ないとなれば、キルカにお願いするしかないのだけど」


 的確かつ妥当な考えに、誰もが頷く。主張したクラリッサは、やたらとドヤ顔だ。

 ところが、至極真っ当な理由に、諦めるかと思いきや、キルカリアはあっさりと退けた。


「大丈夫よ。蘭を残していくから」


「キルカリア様、もしかしてお一人で同行するつもでしょうか?」


「そうよ? 何か問題ある?」


「さすがに、それは危険です」


「大丈夫よ。タクヤが守ってくれるから。いえ、それ以前に、私を倒せる者がそうそう居るのかしら」


「それは、そうですが……」


 ――その「そうですが」は、俺が守るという台詞に関してじゃないよな? てか、あの能力から考えたら、確かに簡単にやられそうには見えないが……それでも、危険なことには変わりないよな?


 ミラルダの守りにはオーキッドを残し、自分は単独でついていくというキルカリアを制止することができず、クラリッサは表情を険しくする。

 その表情からして、ピンチだと考えているのだろう。

 確かに、拓哉が言うのもおかしいが、このままだと、まるで何かの中毒のようにのめり込んでしまうだろう。


「それで、何時、ルキアスに向かうのですか?」


「明日にでも出発する必要があるだろうな。なにしろ、会合が開かれるのは、一週間後だからな」


 ウキウキした様子のキルカリアは、旅行気分にしか見えない。

 そんな彼女を拒否できないことを申し訳ないと感じているのか、キャリックの態度はどことなく物憂げだ。

 ただ、クラリッサからすると、その態度よりも、スケジュールの背景に意識が向く。


「急な話ですが、何か理由があるのですか?」


「実を言うと、純潔の絆の行動が活発化しているのだ。それ故に、迅速に今後の方針を決める必要があるのだよ」


 真面目な話に突入したせいか、キャリックは顔を顰めた。

 純潔の絆が起因であれば、迅速な対応が必要なのも道理だ。誰もが黙ったまま頷く。

 特に、キルカリアにとっては、対応の内容が気になるところだ。


「将軍は、彼等をどうするつもりですか? 根絶やしにできるとお考えですか?」


「それを話し合う会合でもあるのだが……ただ、ワシの勝手な考えだが、多分、無理だろうな。もちろん、表舞台から引きずり下ろすことはできるだろう。だが、この問題は思想以外にも金銭まで絡んでいるからな。全てを排除することは、不可能だと思う」


 キャリックの言う通り、思想の問題だけではない。裏では金の亡者たちが蠢いているのだ。

 ただ、キルカリアも理解しているようで、反論することなく黙って頷いた。

 しかし、拓哉としては、具体的な目的が見えないのだ。それが指針のない不安に繋がっていた。


「会合で決まる話かもしれませんが、ミクストルはこの世界をどうするつもりですか? ああ、これは親愛の徒にも言える話だと思う。正直言って、俺は自分や自分の大切な者のために戦っているつもりです。逆に言えば、大切な者が守られるのであれば、戦う意味はないのかもしれない。そんな中で戦うには、それ相応の目的が必要だと思うんです。それも、自分自身が納得できる理由が……」


 誰もが黙って聞いていた。

 拓哉自身、自分勝手な考えだと思える。

 好きな時に戦って、嫌なら戦わないと言っているようなものなのだ。

 しかし、キャリックは不満に思っていないようだった。


「そうだな。君にとってこの世界で守りたいと思えるものは多くないだろう。そんな中で戦うには、君の言う通り、目的、いや、正義が必要なはずだ。正義なき戦いは、ただの殺戮さつりくでしかない。しかし、その正義は千差万別だ。個人や立場の違いで大きく変わるだろう。実際、ミクストル自体も人類とヒュームの共存という目的はあれども、その方法や純潔の絆に対する対応も決まっていない。申し訳ないが、君が見て聞いて決めるしかない。だから、君には重要な取り決めを行う場に参加してもらいたいと思っている。今回の会合参加も、その考えに基づくものだし、今後も参加して欲しい。それと、ワシの勝手な考えだが、君には戦闘の参加拒否権を与えたいと考えている。言われるがまま戦う者にはなって欲しくないのだ。君の力は強大だ。それこそ、この世界を簡単に塗り替えるほどだと断言できる。それ故に、正義を見誤って欲しくないのだ。答えになっていないかも知れないが、現在のワシが言えることは、それだけだ」


 ――要は、自分で決めろということか……そうだな。俺も押し付けられた目的や正義のために戦うのには抵抗があるし、バルガン将軍の気持ちは嬉しい。だが、この目的や正義を決めるのは、かなり難しそうだな……ある意味、言われたままに戦う方が楽だもんな……


 キャリックの考えは、拓哉にとって納得できることだった。

 それと同時に、キャリックの優しさを感じて、拓哉は心から感謝した。ただ、目的を決めることの困難さに、少しばかり思い悩むことになってしまった。


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