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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
192/233

189 安らぎの朝

2019/3/8 見直し済み


 これまでの勝負を見学していた拓哉は、完全に理解していた。

 キルカリアと肉体や頭脳を使った勝負をしても絶対に勝てないと。

 そして、彼女と対戦して勝てる勝負を考えた。

 それは、運が必要になるゲームだ。


「やった! 勝った~~~~!」


 ルルカの歓喜が響き渡る。


「ぬっ! ルルカが一抜けとは……」


「申し訳ありません。私も終わりです」


 年甲斐もなく飛び跳ねるルルカを恨めしそうな表情で見ていたキルカリアに、オーキッドが追加の攻撃をお見舞いした。


「え~~っ! 蘭まで……」


「いいから、キルカ、さっさと引きなさいよ!」


 ガックリと項垂れるキルカリアに、クラリッサが両手で握った残る二枚のトランプを突き出す。


「ど、ど、どっちかな……」


「早く引きなさい。往生際おうじょうぎわが悪いわよ」


 キルカリアがこれまで全く以て見せることのなかった不安な表情を露わにしていた。

 クラリッサが手にする二枚のトランプのどちらを引くかと悩んでいるのだ。

 焦れたクラリッサが催促するが、その表情はどことなく明るい。


「もう! クラレはうるさいわ! え~い! これよ!」


「きゃは! キルカがババァね! ババァだわ」


「え~~っ! なんでババァなんて引くの!? ズルいわよ。クラレ! タクヤ、ちょっと待って!」


 ジョーカーを引いてしまったキルカリアが、両手を背中に隠してトランプをる。

 二枚しかないので、何の意味もない行為だ。それを子供がやるのなら理解できるのだが、ヒュームに頭脳勝負で勝ってしまう彼女がやっていると、少しばかり滑稽に思えてしまう。


「さあ、タクヤ。引きなさい!」


 拓哉の前にトランプを突き出すと、彼女は必死な表情で告げるのだが、連敗している理由に気付いていないらしい。


 ――キルカ、顔に出てるぞ! これだな。


「え~~~! なんでババァを持って行かないのよ! タクヤの意地悪!」


「意地悪って……それに、ババァ言うなよ。本当はクイーンを抜くから、行き遅れの女王でババ抜きなんだけど、ジョーカーを入れてるから、実はババはないんだぞ」


「そんなウンチクなんてどうでもいいのよ! さあ、カードを出して、タクヤ!」


 悔しがるキルカリアに、ババ抜きの根拠を説明するが、待ちきれなくなったクラリッサが早くカードを出せと急かしてくる。

 とはいったものの、拓哉の残りカードは一枚だ。

 ということは、既に勝負は決まっている。

 そう、キルカリアの手にジョーカーが一枚だけ残った時点で終了だ。

 もはや、残ったカードをクラリッサが引く必要もないのだが、どうやら最後までやらないと気が済まないのだろう。


「やったわ! 私もアガリよ!」


「え~~っ! また私がババァ~~!」


 キルカリアが悲痛な声を上げている。

 ただ、彼女はババァというには、若くて美し過ぎる。

 それを感じて、拓哉は肩を竦めた。


 拓哉達は散々と人生ゲームに付き合わされた挙句、それだけでは満足できなかったらしいキルカリアに、トランプを出したのだが、これがツボにはまってしまう。

 もちろん、トランプに関しても、拓哉がモルビス財閥から奪い取られたゲームの一つだ。


「もう一回! もう一回やりましょ!」


 人生ゲームとトランプで負け続けているキルカリアとしては、このままでは終われないのだろう。

 ただ、何度やってもキルカリアに限っては同じ結果になるだろう。人生ゲームはまだしも、ババ抜きに関しては、顔に出るキルカリアが勝てるはずもない。


「もういい時間よ。今日は終わりにしましょ」


「そうですね。キルカリア様、そろそろ戻りましょう」


「えっ~~! つまんな~~~い」


 クラリッサのみならず、オーキッドからも終わりにしようと告げられて、キルカリアがむくれる。ただ、そろそろ深夜になろうかという時間だ。いい加減に拓哉も疲れていた。


「別に、そんなに焦る必要はないだろ? いつでもできるんだから」


「えっ!? いいの? また来てもいいの?」


 どうやら、未だに気付いていないらしい。

 とっくの昔に、クラリッサと愛称で呼び合っているし、すっかり友達になったように見える。

 クラリッサも気付いていなかったのだろう。少し驚いた表情を見せる。

 しかし、目的を忘れてしまったのは、彼女自身の落ち度だ。それを理解してるのか、彼女は大きな溜息を吐くと、譲歩の姿勢を見せた。


「二人きりの時間はあげられないけど、私が居る時ならいいわよ」


「ほ、ほんと? それなら、また来るわね」


 完全に目的が変わったようだが、すっかりゲームを気に入ったキルカリアは、クラリッサの言葉に大はしゃぎする。

 こうしてクラリッサとキルカリアの波乱が終わった訳だが、拓哉としては、なぜか釈然としない気分だった。









 久しぶりにゆっくりと眠ったような気がした。

 その理由は解らない。もちろん、クラリッサとの愛を確かめ合うことも辞めていない。

 昨夜も熱く過激に燃え上がったのは言うまでもない。

 しかし、やたらと心身ともに癒されているような気がした。

 確かに、ここ最近は色々と騒がしかったのも事実だが、今もそれほど落ち着いた状況ではない。

 それでも、ゆっくりと休むことができたのは、とてもありがたい話だった。

 そんな安らかな睡眠から意識を覚醒させる。そして、目が覚めるにつれて柔らかな感触と心地よい温もりが伝わってくるのを感じる。


 ――相変わらずクラレの身体は柔らかくて気持ちがいいな。それに、人の温もりって安心できるんだよな。もしかしたら、この安らかな眠りは、クラレのお陰かもしれないな。まあ、ある意味、クラレのお陰で疲れ切って眠りに就けたから、それもあるのかもな……


 またまた恥ずかしくも激しい行為にふけったことを思い出す。

 ただそこで、心地よい感触が片方だけではないことに気が付く。


 ――あれ? 誰かディートから来たのか? いや、そんなはずはない。それなら声を掛けてくるはずだし……まさか……ルルカが!?


 覗きだけでは飽き足らず、とうとうベッドにまで忍び込んできたのかと思い、慌てて左隣を見る。

 理由は簡単だ。クラレが必ず右側で寝るからだ。


 ――はぁ? なんで? どこから? どうして?


 左隣の存在を目にした途端、拓哉の頭の中では疑問符が量産されていた。

 それもそのはず、左隣でスヤスヤと寝ているのは、なんとキルカリアだった。


「ちょ、ちょ、ちょっと、キルカ! なんで、ここで寝てるんだ?」


「ん、ん~~、あっ! おはよう、タクヤ!」


 目を覚ましたキルカリアが朝の挨拶をしてくるのだが、拓哉としてはそれどころではない。いや、そもそも何か間違っている。


「おはようじゃないぞ! どうして、ここに居るんだ? いや、何時、どうやって、入って来たんだ?」


「あ~、細かいことは気にしないのよ」


 ――いやいや、全然、ちっとも、少しも、細かくないからな!


「ん、ん? どうしたの? 朝から騒がしいわね。って、な、なにをしているのよ。キルカ!  ちょ、ちょっと!」


 寝ぼけまなこのキルカリアを問い質していると、その騒がしさでクラリッサが目を覚ました。

 当然ながら、拓哉の左側の存在に気付いて飛び起きる。

 その拍子に、大きな胸が揺れる。いや、胸に見惚れている場合でもない。


「いいじゃない! クラレだけタクヤと寝るのはズルいわ」


 キルカリアの言い分は、全く以て正当性が含まれていない。単なる感情論だ。


 ――いやいや、全然ズルくないから。クラレは恋人だし、将来を誓った仲だから問題ないが、キルカは問題大ありだ。


「何を言っているのよ! 直ぐに出なさ……なんで素っ裸なのよ! 何をするつもりだったの!?」


 キルカリアが居ることを知ると、クラリッサは自分が裸であることも忘れて、即座に掛け布団をぎ取った。すると、キルカリアの姿が露わになる。それも、素っ裸だ。

 もちろん、それを見て落ち着いていられるはずもない。

 キルカリアが生まれたままの姿であることを知って発狂する。

 ところが、当の本人はあっけらかんとしていた。というか、愚問だと言いたげだ。


「何をって、添い寝よ? 添い寝! それよりも、クラレは朝から騒がしいわね」


 全く動じないキルカリアはどこ吹く風といった様子だ。

 激怒するクラリッサの苦言をサラリとかわすどころか、逆にクレームを入れた。

 唯でさえ不法侵入なのだが、それに加えて素っ裸で拓哉の隣に居るのだ。クラレのいきどおりが収まるはずもない。


「や、約束が違うわ。契約違反よ」


「えっ!? 約束を破ってないわよ? だって、沢山勝ったじゃない」


 取り決めを破ったと言いたいクラリッサは、簡単に論破されてしまう。

 確かに、人生ゲームとトランプを始めるまでは、クラリッサの勝ちは乏しい。いや、オセロの一回目だけだ。

 それを思い出したのか、クラリッサは悔しそうに歯噛みする。

 それでも、約束の内容を思い出したのだろう。クラリッサはベッドの上に立ち上がる。


 ――おいおい、立ち上がったら丸見えだって……


 行き成り眼前にクラリッサの下半身を突きつけられた拓哉は、目のやりどころに困る。もちろん、困った結果は、誰もが知るところだ。そう、ガン見だ。

 しかし、クラリッサは全く気にしていない。


「そ、それは……でも、勝ったらタクヤと話をするという約束だったはずよ。裸でベッドにもぐり込むなんてあり得ないわ」


 散々と負けてしまったクラリッサは、どうやら約束の内容と違うことに焦点を向けたらしい。

 彼女の言う通り、これはやり過ぎだろう。飽くまでも約束は拓哉と二人きりで話をするというものだった。

 裸で添い寝するなんて条件は含まれていない。

 ところが、キルカリアにとって、それは問題ではないらしい。いや、宇宙人系の言い訳を用意していた。


「だって、三十回は勝ったわ。お話の件は一回目の勝利で獲得したし、二回目の勝利以降は、何をして良いのかなんて決めてないわよ?」


 ――まさか、それを狙っていたのか? だが、さすがに、その考えは都合が良すぎるだろ?


 勝ち続けるキルカリアが権利を主張しないことを疑問に思っていたのだが、こんな狙いがあるとは思っても見なかった。

 ただ、クラリッサが負け続けたのは事実だ。


「そ、それにしても、いきなり素っ裸でベッドに潜り込むなんて非常識よ! ババァの癖に! ずっとババァだったくせに!」


「ババァじゃないからな……ばばだからな……」


「タクヤは黙ってなさい。いえ、何か言いなさいよ!」


 クラリッサとしては、自分が沢山負けている所為で完全に拒否できない。

 混乱している所為か、彼女は思考が偏っていた。公序良俗に反すると論破してしまえば良いのだ。

 そもそも、拓哉自身は許可を出していないのだ。キルカリアの行為を否定するのは簡単だ。

 しかし、真面目な性格が災いしていた。負け続けた事実が、思考を低下させている。

 そんなクラリッサは罵声で応じる他なくなるのだが、それに横槍をいれたのが拙かった。

 すぐさま、八つ当たりとも言える要求を叩きつけられた。


 ――ぬぬっ、藪蛇だったか……俺に何か言えと? ん~。


 普通であれば、即座に拒否の姿勢を示すのだが、相手がキルカリアである所為か、断るのに抵抗を感じてしまう。

 すると、キルカリアが暴挙に出る。

 何を血迷ったのか、拓哉の首に両手を回した。


「ねえ、タクヤ、エッチしましょ。私、あなたのことが欲しいの」


「そうか。わかった」


「ちょ、ちょっ! な、なに即答しているのよ! タクヤ。しっかりしなさい。キルカも離れなさい!」


 ――うはっ、今のはなしだ。本能が勝手に……


 何故か無意識に了解してしまった拓哉を見て、鬼の形相を作ったクラリッサが暴れ始めた。

 結局、発狂するクラリッサと大きな胸を押し付けてくるキルカリアの二人を交互に見ながら、拓哉はただただどうしたものかと頭を悩ませるだけだった。


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