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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
188/233

185 英雄の凱旋

2019/3/6 見直し済み


 幾筋もの黒煙が昇っている。

 燃え上がる機体は、地を焼き焦がし、空を黒く汚す。

 蒼い機体を葬り去り、荒れ果てた大地に視線を向け、その惨状に心を痛めている。


 ――勝つのはいいけど、この有様は……


 ディートでも感じたが、戦闘の被害を目にして、拓哉は気分を落ち込ませる。

 それは、拓哉に拘わらず、戦いが起れば必ず生まれる光景だ。

 ただ、それと知っても、少しばかり遣る瀬無い気分になる。

 しかし、それが気にならないほどに歓喜する者達が居る。


『物凄かったです、大尉! あっ、お疲れさまです。 敵の撤退を確認しました。帰還してください』


 管制からの連絡は、かなり興奮している様子が伺える。

 そのノリに引きつつも、敵の撤退を知ることができて安堵する。


「ミラルダは……助かったのね。良かった……」


 感極まったのか、クラリッサはその綺麗な瞳に零れんばかりの涙を浮かべた。

 実際、敵は撤退しただけであり、進攻が終わった訳ではない。

 ただ、彼女からすれば、自分達が間に合った時点で、もはや解決しているのだろう。

 もちろん、拓哉としても、みすみすやられる気はない。


 ――良かった。クラレの幸せそうだし、俺も満足だ。ただ、問題はこの先だよな……


 嬉しそうにするクラレを目にして俺も込み上げてくるものがあったが、それとは別に不安も生まれてきた。

 一つの戦いが終わったのだが、これから先のことが気になり始める。

 人間とは面白いもので、目の前に集中することがあれば、他のことを考えないものだ。

 しかし、一つの問題が片付けば、新たな問題に目が向く。

 記憶力の優れた拓哉であっても、その例に漏れない。

 このところ攻められる事件が相次いでいたが、それが落ち着いたことで、自分の向かうべき目標と、その方法が定まっていないことに頭を悩ませ始めた。


 ――これは、一度、バルガン将軍と話し合った方がいいかもな。


「拓哉、戻りましょ。きっと基地は凄いことになってるわよ」


「そうだな。なんか腹も減って来たし、さっさと戻って休むか」


 頬を濡らす涙を拭ったクラリッサは、これまでにないほどの笑顔を見せた。

 彼女の表情で胸を熱くしつつも、拓哉は黒鬼神を空に舞いあげた。









 拓哉は驚いていた。いや、正直に言って、仕事を放置して何をしているのかと思ってしまう。

 というのも、格納庫の前はといえば、基地の人間が全て集まったのではないかと思う状況だった。


「英雄の凱旋がいせんね。タクヤに相応しい出迎えだわ」


 クラリッサとしては望むところなのだろう。

 全く怯んでいない。いや、それこそドヤ顔という奴だった。


「いやいや、クラレも戦ったんだから、俺だけが英雄扱いなのはおかしいだろ」


 拓哉の考えは尤もだ。

 彼女の攻撃が役に立っているのは間違いない。

 少なくとも、百機に近い撃墜を熟しているはずだ。

 ところが、彼女は肩を竦めた。


「あら、私なんてオマケよ! オ・マ・ケ。タクヤが居なかったら、私なんて無力だもの。そうでなければ、身の危険を冒してまで異世界に行ったりしないわ。そんなことよりも……悪い虫が付きそうな気がするわ。タクヤ、絶対に私から離れてはダメよ」


 謙遜するクラリッサの意見も正しい。

 拓哉が居なければ、黒鬼神自体が存在しなかったはずだ。

 なにしろ、この機体を使えるのは拓哉だけなのだ。いや、拓哉が居るからこそ作られた機体だ。

 ただ、モニターを眺めていたクラリッサは、謙遜しつつも顔を顰めた。


 ――ん? どうしたんだ? 一気に機嫌を損ねたみたいだけど……


 ウインドウモニターに映る彼女の表情を見て、怪訝けげんに思う。

 しかし、それが気にならないほどには疲れていた。

 別に、戦闘で突かれた訳ではない。

 昨夜は遅くまで頑張ったのだ。疲れない方が嘘だろう。

 時間的には、未だ正午になっていないのだが、戦闘を終わらせた拓哉は、圧し掛かってくる疲れにぐったりとしていた。


「まあ、取り敢えずは、なんとかなったかな」


「そうね。ありがとう。これも、タクヤのおかげよ。ご褒美も用意しておかないとね」


 ミラルダに侵攻してきたヒュームを撃退し終えた拓哉は、格納庫に戻ってきたところでホッと息を吐いた。

 しかし、クラリッサの一言で、まだまだ疲れが溜まりそうだと感じて、少しだけ眉を動かした。


 ――う~ん。アレも嫌じゃないけど、いや、好きだけど、少しゆっくり休みたいな。


 以前は、別のモノが溜まって愚痴をこぼしていたのだが、それは改善されたものの、拓哉のない物ねだりは続く。

 しかし、もちろんノーとは言わない。

 ただ、モニターに映る様子からして、どちらもお預けになりそうだと感じる。


「それにしても……お祭りか?」


 誰もが黒鬼神に笑顔を向けて手を振っている。

 その気持ちは、拓哉にも分かる。ただ、その数が半端ない。思わず顔を引き攣らせることになった。


「何を言っているのよ! ディートでも同じだったでしょ。みんな、心からあなたに感謝しているのよ。さあ、英雄の凱旋と行きましょ」


 英雄の凱旋という言葉に疑問を抱きつつも、いつまでも飛んでいる訳にもいかないので、取り敢えず格納庫前の着底位置に黒鬼神を降下させる。

 その途端、物凄い歓声がコックピットの中に入ってきた。

 クラリッサが外部音声入力設定にしたのだ。


「うおっ! クラレ、急に外部音声を入れると驚くじゃないか!」


「あっ、ごめんなさい。聞こえた方が楽しいと思って、少し音を抑えるわね」


 鼓膜が破れそうなほどの音量に思わずドン引きする。

 クラリッサは謝罪するものの、全く悪く思っていなさそうだ。というか、やたらと嬉しそうにしている。


 ――ロボットで戦うことが楽しいし、クラレ達の笑顔が見られるだけで満足なんだよ。だから、こういう騒ぎは少し気が引けるんだよな……


 楽しそうなクラリッサとは裏腹に、拓哉は少し微妙な表情を作る。

 拓哉としては、のんびりしたいのだ。もちろん、その中には、クラリッサだけではなく、他の四人といちゃいちゃすることも含まれている。

 しかし、この様子からすると、周りが放っておいてくれないのだ。

 また、居心地の悪い状況になりそうだと感じて、頬を掻きながら黒鬼神を格納庫に移動させる。


「タクヤ、少しくらいサービスしてあげなさいよ!」


 まるで子供のようにはしゃぐクラリッサを微笑ましく思いつつも、そのサービスについては面倒だと思ってしまう。

 ただ、やらないとしつこく要求してくるはずだ。仕方なく神撃を持ったままの右腕を上げる。

 その途端、機体が揺れるのではないかと思うほどの歓声が上がるが、拓哉はさして感銘を受けることなく黒鬼神をピットに格納した。

 しかし、格納庫が例外的に静かな訳もなく、誰もが興奮した様子を見せている。


「さすがだぜ! タク! 黒鬼神のチェックは、オレッち達に任せて、お前は休め!」


「タクヤ君、最高でした。もう惚れ惚れとするほどの活躍で、失神するかと思いました。あっ、あとは僕達がやっておきます。ゆっくり休んでください」


「良くやったぞ! タク! これでミラルダも救われたし、万々歳だ。専属の整備士として鼻が高いぞ! さあ、今日はもう休んでろ!」


 黒鬼神を専用のピットに入れ、何時ものようにコックピットから降りると、クロート、トニーラ、デクリロが嬉しそうに労ってきた。

 本来であれば、戦闘後のチェックを行う必要があるのだが、三人は自分達がやるから休めと言う。

 申し訳ないと思いつつも、いまはその言葉が嬉しかった。


「そうですね。短時間でしたが、少し疲れを感じるので休憩しますね」


「何を言ってるんだ。今のうちに寝ておいた方がいいぞ。多分、今夜は寝られないだろうからな」


 デクリロは意味深な言葉を残すと、そそくさと黒鬼神の整備に取り掛かった。

 勧められるがままに休もうと考えたのだが、デクリロの言葉が無性に気になり始める。


 ――どういうことだ? まさか、クラレとの情事のことじゃないよな?


 もちろん、情事が知れ渡っている訳ではないし、それが行われるのも彼女の中では決定事項だろう。いや、先程の様子からすると、昼間からというオチすらある。それほどに彼女の気分は高揚しているのだ。


「お疲れさまです。大尉! 少尉! ディートの映像も見ましたが、ここに鬼神ありと言わんばかりでしたね」


 疑問を抱く拓哉に、その情事を覗いていたルルカがおしぼりを差し出した。

 当然ながら、クラリッサにも手渡されている。

 その雰囲気からすると、今朝の落ち込みモードは終わったようだ。いつもの調子を取り戻していた。

 おしぼりを受け取りながら、彼女の労いに感謝の言葉を返そうとした時だった。予想外の声が耳に届いた。


「ホンゴウ君。ご苦労だった。いや、本当に助かったよ。感謝する」


 この基地の司令間であり、クラレの叔父であるキャリックだった。

 彼はにこやかな表情で、労いと感謝の言葉を口にすると、右手を差し出してきた。

 もちろん、握手したい訳ではない。


「叔父様! 指令室に居なくても平気なのですか?」


 拓哉が差し出されたキャリックの拳に、自分の拳を当てると、少女らしさを見せるクラリッサが割って入った。

 歓喜は、彼女を本来の姿に戻したようだ。


「ああ、奴等の撤退は迅速で、もうかなりの距離になったからな。それに、何かあればすぐに連絡が来るだろう。まあ、指令室に残った者達は、不満そうな顔をしていたが……」


 ヒュームの演算は、拓哉に敵わないという結果をはじき出したようだ。

 キャリックの様子から、直ぐに進攻が再開されることはないと判断する。

 それを教えてくれたキャリックは、姪であるクラリッサが楽しそうなのでご満悦のようだ。いつも以上に表情が柔らかい。


「叔父様、見ましたか? タクヤが居れば、ヒュームなんて遅るに足らずです」


「そうだな。さすがにここまでとは思っていなかったよ。まさにトップガンだ。だが、疲れただろう。少し休むといい。いや、しっかり休んでおいた方がいいぞ。きっと今夜は寝られないからな」


 ――ん? デクリロに続いて、将軍まで寝られない発言……まさか俺とクラレの情事が流出してる? もしかして、盗撮機が仕込まれていたのか?


 歓喜するクラリッサに、笑顔で応じるキャリックの言葉は、またまた拓哉の疑念を掻き立てる。

訝しげな表情を作った拓哉が考え込むと、直ぐに気付いたのだろう。クラリッサが腕を引っ張った。


「どうしたの? さっきから怪訝な顔をして」


「いや、あとでいい」


 チラリとキャリックを見やった拓哉は、自分の疑問を後回しにする。

 彼女に相談するにしても、ここでは拙いと考えたのだ。


「そう? それなら、部屋に戻りましょうか」


「そうだな。それでは、将軍、失礼します」


「ああ、ゆっくりと休んでくれ」


 キャリックに挨拶をしてその場を後にしたのだが、拓哉が自分に割り当てられた部屋に辿り着いたのは、結局のところ、一時間後だった。


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