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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
187/233

184 蒼い機体

2019/3/5 見直し済み


 作戦会議室は、まさにお祭り騒ぎだった。

 しかし、素直に喜べない者も居た。


 くそっ! どんだけだよ!


 それが、拓哉の戦闘に対して、グエンが抱いた感想だった。

 しかし、周囲はといえば、誰もが抱き合って叫び声をあげるほど歓喜している。

 それも当然だろう。拓哉が単騎で七百もの敵を撃退したのだ。

 もちろん、七百の敵を撃墜した訳ではない。


「これは異常だな。黒き鬼神なんて眉唾まゆつばだと思ってたが、こんな現実を突きつけられると、ぐうの音も出んぞ」


 グエンの隣にいる相棒は、言葉とは裏腹に、とても楽しそうだ。

 少なからず、自分達の能力が酷く劣っている証となってしまったのだが、それでも敵が撤退したのは、心から喜べることだった。


 ――まあ、敵が退散したんだ。嬉しくない者なんて誰も居ないが……目標にするには桁が違い過ぎる……オレと何が違うというんだ?


 拓哉の戦いを見始めたころは、自分も強くなると誓ったのだが、桁外れの能力を目にして脱力してしまったのだ。

 その戦いは、凄い、異常だ、在り得ない、神の降臨、誰もがただただ感嘆した。

 グエンにとっても、その言葉はどれも間違っていない。

 実際、拓哉の戦いぶりは、凄いし、異常だし、在り得ないし、神の降臨とも思えた。

 しかし、自分も強くなりたいと考えて戦いを観察していると、その桁外れの強さを嫌というほどに思い知らされることになった。

 遠距離攻撃をしている時は、ただ単にサイキック量と装備の違いだと考えていた。

 ところが、中距離攻撃を開始して、それが間違いだったことに気付く。


 的確なポジションとタイミング。

 先を読んだ狙い。

 臨機応変な対応。

 判断の速さ。

 極めつけは、あの正確無比とも思える操作と射的だ。

 グエンには分かった。拓哉は完全に狙ったポイントに移動し、完全に狙ったポイントに攻撃を打ち込んでいる。

 黒鬼神は、狙いを一ミリも狂わず思い通りに動いていると感じた。

 周囲の者達は派手な攻撃に驚いているが、拓哉の凄いところがその操作性と判断力であることを悟ったのだ。


 ――あれは本当に人間か? 本当はヒュームなんじゃないのか?


 そんな考えを持ってしまうほどに、拓哉の戦闘は常軌じょうきを逸していた。

 どれだけのサイキック量があろうと、どれだけ優れた機体に乗ろうと、操作能力と判断力が優れていなければ、あれほどの戦闘は行えないだろう。


 ――本物なんだな……それで、オレは……偽物なんだな……餓狼なんて呼ばれていたが、それこそ誇張こちょうだったんだな……


 あまりの違いに意気消沈していると、今直ぐに戦勝祝いでもやらかしかねないと感じていた者達が、状況が変わったことに騒ぎ始めた。


「お、おい。逃げたんじゃないのか?」


「関係ないさ! また黒き鬼神がパパッと片付けてくれるさ!」


「そうだな。あの強さなら問題ないだろ」


「いや、今度の敵はなんか雰囲気が違うぞ」


「ほんとだ。機体も違うし、速くねぇ~か?」


「てか、銃も装備してるように見えるぞ」


 新たな敵の出現に、初めは直ぐに鬼神が片付けてくれると考えていた者達も、敵の様子が違うことに気付いて不安な表情を作り始める。


 ――ほんとに……こいつらときたら、まるで風見鶏だな。


 コロコロと顔色を変える仲間の様子を見て、グエンは呆れて肩を竦めた。









 メインモニターには、敵影とそれに関する情報が表示されていた。

 それからすると、敵の数は二十機であり編隊を組んで進んできている。


「蒼色? 違うのね……赤くないわ」


 クラリッサがとても残念そうにする。

 朱い死神を期待していたのに、それが違ったことで気落ちしているのだろう。

 しかし、敵であることには変わりない。


「クラレ! 気を緩めるなよ! 敵が何であれ、倒すべき相手に変わりないんだぞ!」


「そ、そうね。ごめんなさい」


 窘められたクラリッサは、すぐさま表情を引き締める。

 なにしろ、ここは戦場だ。対校戦のように、被害判定で終わるような甘い世界ではないのだ。


 ――さっきの奴等と機体が違うな。銃らしき物も装備してるし、今度の相手は厄介かも知れんぞ。


「さて、これでどんな反応するかな」


 蒼い色をした機体の分析結果を頭に叩き込みながら、拓哉は様子見も含めて先制攻撃を放つことにした。

 ところが、神撃を向けた途端、二十機の敵が散開する。


 ――ほう~! この距離だと避けられるのか……やはり、一味違うようだな。むっ!


 散開する敵に感心しつつも、拓哉はすぐさま黒鬼神を高速移動させる。

 次の瞬間、空気を突き破るような炸裂音が聞こえてきた。


「遠距離攻撃だな。というか、どんな攻撃だ?」


 蒼い機体が放った遠距離攻撃をかわしつつ、その攻撃の解析を始める。

 しかし、その必要はなかった。すぐさま、クラリッサが自分の役割を果す。


「レールガンね。プラズマ砲とも呼ばれているみたいだけど……人類側では既に武器として使わなくなった代物だけど、サイキックを使えない奴等には、格好の武器という訳ね。射程は長いし、発射される弾の速度も、その威力も、申し分ないわ』


「ふむ。レールガンか、じゃあ、弾が必要だな?」


「そうね。それが欠点かしら。他だと……エネルギーの消費が多いわね」


「そうすると、あまり連射は利かないかもしれないな……どうりで散発な訳だ」


 頷く拓哉は、何時もと同じ要領で敵の攻撃を躱しつつ、神撃のトリガーを引き絞る。


「一機目!」


「二機目は私がもらったわ」


 拓哉が神撃で一機目を片付けると、クラリッサも負けじとアタックキャストで蒼い機体を仕留めた。


 ――やるな。クラレ! 俺も負けて居られないな。


 クラリッサの攻撃能力に感嘆するが、それは拓哉の意欲を掻き立てる。

 しかし、モニターに映る彼女は、顔を顰めていた。


「こいつら、やるわね。一機を倒した途端、当たらなくなったわ」


「まさか、一回でアタックキャストの攻撃で、見切れるようになった訳じゃないよな?」


「解らないわ。ただ、オーキッドが言っていたわよね。能力も人間を超えるけど、学習能力が半端ないって。もしかしたら、一度見た攻撃は回避できるとか?」


「ふむ。じゃあ、俺の攻撃にも慣れたかな?」


 拓哉が不敵な笑みを浮かべる。

 言葉とは裏腹に、不安よりも負けん気が上回っているのだ。

 そして、神撃を叩き込む。

 その攻撃で、見事に三機目を撃墜する。


「ん? 避けられないみたいだぞ?」


「だ、だって、タクヤは予測連射しているでしょ!? ズルいわよ!」


 敵の機体が爆散するのを目にして、クラリッサは少しだけ不貞腐れたような表情を見せた。

 ただ、彼女の反論は、拓哉としては心外だった。


 ――それも含めて避けられるかと思ったんだがな……てか、クラレもやればいいだけじゃないのか?


「あっ、今、私も予測連射すればいいと思ったでしょ!」


 ――なんて鋭い女だ……俺の表情から気持ちを読みやがった。それこそ読心術でも使ってるんじゃないのか?


 実際、拓哉の顔には何もかもが映し出されている。周囲の者からすれば、とても読みやすいのだが、本人は全く気付いていない。

 しかし、彼女はそれに触れず、拓哉の得意とする予測連射について言及する。


「タクヤは当たり前のようにやっているけど、難しいのよ! あれ」


 少し頬が膨れているところからすると、拓哉の発言が不満なのだろう。

 ウインドウモニターに映る不服そうなクラリッサを目にして、拓哉は肩を竦める。


 ――別に難しいと思わないけどな……


 拓哉の射的は、必ず二発から三発の連射で構成されている。

 一撃目は普通に敵を狙ったものであり、二発目、三発目はそれから少しずらし、相手の回避しそうなポイントに撃ち込んでいる。

 相手の能力を読んで、単発攻撃と連射攻撃を使い分けているので、これまではあまり使う機会がなかった。

 というのも、対校戦では大抵の者がサイキックシールド頼みとなっていることもあり、連射をしなくても当てることは難しくなかったからだ。


 ――のこり十七機か、変に学習されるのも嫌だし、一気に片付けた方が良さそうだな。


 レーダーに映る敵の位置を頭に入れ直しながら、アタックトリガーを引き絞る。

 その行為で神撃が火を噴く。いや、実際は、サイキックを使用したエネルギー波なので、炎が上がることも硝煙しょうえんが上がることもない。


 ――それにしても、このサイキックエネルギーって、いったい何なんだ? サイキック自体も不可思議だが、それをエネルギー波に変るとか、どんだけ発想が突き抜けてるんだ? まあ、リカルラだし、何でもありなんだろうが……


 敵機がスクラップに変わるのをモニターで確認しながら、リカルラの異常性について考える。

 そこに、敵の攻撃が放たれる。


「むっ! 集中放火か!」


 素早く操縦桿を操作し、黒鬼神を疾風の神の如く攻撃をかわしていく。


「厄介な敵だけど、これはいい訓練になるわ。うっ、と、特に、この加圧の中での攻撃は、一番の訓練ね……」


 耐圧性能の高いパイロットスーツを身に着け、更には耐圧のサイキックを使用しても、身体が押し潰されるような感覚に襲われる。

 それを堪えながら、クラリッサはアタックキャストを操作する。

 彼女からすれば、この状況で使いこなせなければ意味がないのだ。

 そして、黒鬼神のハイスピードに馴れていない彼女は、この時とばかりに学習するつもりだった。

 ただ、拓哉としては、本意ではなかった。


 ――耐圧のサイキックを強化した方がいいかもしれんな。


 リカルラによって脳に直接的に知識をぶち込まれた拓哉は、結局のところ、それ以上の鍛錬を行っていない。

 鍛錬といえば、ミルルカに教えてもらった体術系のサイキックくらいだ。


 ――つ~か、加速が強化しても、保護システムは強化されてないんだな……さすがは、ララさんということか……使用する者のことを全く考慮してないし……


 殺人的な思考の持ち主であるララカリアに呆れつつも、休まずトリガーを引き絞り続ける。


「確かに撤退した奴等よりはかなりやるが、戦闘が正直すぎるよな。これくらいでは、やられる訳にはいかんな」


 その判断力、操作能力、機体の性能、どれを取っても、敗走したヒュームよりは格段に上なのだが、その戦い方が正攻法過ぎて、容易く予測できる。

 それ故に、現時点で自分の脅威となる敵ではないと思えた。

 こうなると、もはや拓哉の独壇場だ。淡々と敵を撃ち抜いていく。

 蒼い機体は、接近戦の距離に近づけない。そうなると、弾切れになった時点で、ジ・エンドだ。


 ――まさか、ヒュームが歯噛みしているとは思えんが、いい加減に諦めて撤退すればいいものを……これは人間よりも、かなり質が悪いな。命よりも命令遵守めいれいじゅんしゅの方が優先的に判断されるんだろう。これじゃ、全てを葬るしかなくなるぞ? 本当に厄介な奴等だ。


 蒼い機体を駆る敵を倒しながら、ヒュームとの戦いで生まれる結末を考えて、拓哉は少しばかりウンザリした。


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