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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
184/233

181 ミラルダ防衛戦

2019/3/4 見直し済み


 昨夜は、拓哉にとって途轍とてつもない夜だった。

 それは、クラリッサの新たな一面を知った夜でもあった。

 彼女の新しい一面とは、いつもは凛として隙のない彼女が、弱々しくもありながら、攻め立てられても更に求め、辱められても快楽を感じている姿だった。そう、マゾヒスティックな一面だ。

 様々な攻めに、恍惚こうこつな表情を作り出した。そして、拓哉は自分の中にサディスティックな心があることに驚いた。

 弱々しく声を漏らす彼女を見て、更なる炎が燃え上がるのを感じて、自分の心におののいた。

 その内容に関しては過激すぎるので割愛かつあいするが、拓哉とクラリッサは己をさらけ出して、激しく愛し合う一夜を過ごしたのだ。


 他人には言えないような情事を繰り広げた二人だったが、予期せぬ問題も起こった。

 それが何かというと、隣室でスヤスヤと寝ているはずのルルカだ。

 それは、拓哉達が情事を終わらせて、シャワーを浴びるために部屋を出た時のことだった。


「これは、何だ?」


「見ての通りね。間違いなく覗いていたのでしょう」


「鍵を掛けなかったのかって……そうか、個室には鍵がないんだった……最悪の造りだな」


「この部屋で過ごす者に、境界線はないということね」


「さて、これは……クラレに任せていいか?」


「ええ。問題ないわ。それに、口止めが必要ね。私達のあんな姿を公言されては堪らないわ」


 ドアを開けたところに転がっているルルカは、幸せそうな表情で寝ていた。

 その寝顔に冷たい視線を向けながら、クラリッサは端末を取り出すとパシャパシャと彼女の有様を納めていった。

 フラッシュが焚かれる様子を見ながら、拓哉はルルカの有様に溜息を吐く。

 というのも、仰向けに転がる彼女の恰好は、胸がはだけていて、思いっきり両方の胸が露わになっている。そして、ズボンとなっているパジャマは膝まで降ろされているのだが、それと一緒に下着まで膝に引っ掛かっていた。それは、半裸というよりも、殆ど全裸といえる状態だ。

 それを目にすれば、深く考えずとも、自ずと何をやっていたのか解るというものだ。


「じゃあ、頼むな」


 目を覚ました時に、自分が居るのは拙いと考えて、下半身に手を伸ばしたまま幸せそうに眠る彼女をクラリッサに任せて風呂に向かう。


「ええ、私も直ぐに行くわ」


 この後、拓哉とクラリッサは身体を清めてから、何事もなかったかのように就寝した。









 現在の拓哉は、朝早くから食堂で食事を摂っていた。

 朝早く。そう、とても早い。現在の時刻は、朝の五時だ。

 拓哉の出撃時間が、朝の七時になっていることから、この時間に食事を摂ることになったのだ。

 ただ、誰もが不可解に思うはずだ。進攻側なら分かるが、防衛側の出撃の時間が決まっているのは不自然だ。

 それには、簡単な理由がある。

 可笑しな話ではあるのだが、ヒュームとの戦いは時間が決まっているのだ。

 彼等の戦いは、サラリーマンの勤務と類似していた。

 朝は八時から活動し、十八時になると帰宅する。そして、二十時には充填システムに入るのだ。

 その詳細については、オーキッドという少女から聞かされていた。


「それはそうと、タクヤは作戦を覚えている? ずっと、心ここにあらずといった風だったけど」


「ああ、それは大丈夫だ。耳に入れば頭に残ってるからな。いつでも引き出せる」


「凄いものそうだけど、とても便利な頭ね」


 クラリッサが呆れた表情で腰を下ろす。その拍子に、少しだけ顔を顰める。そんな彼女から、称賛とも皮肉とも思える言葉をもらう。

 彼女が顔を顰めた理由は、ご想像にお任せする。昨夜は、アブノーマルだったとだけ伝えておこう。

 それでも、彼女は満足そうだ。余程、悦に入ったのだろう。しかし、向かいに座るルルカは、まるで通夜のような状態だった。

 昨夜のことがショックだったのか、沈痛な表情で料理の注文を入れていた。

 どうやら、一緒に風呂に入るのは良いが、独りエッチの現場を見られるのは、かなり堪えたようだ。

 もちろん、覗きがバレたことや、拓哉とクラリッサの過激な情事がショックだったことで、気を落としている訳ではない。


「あ、あの……大尉、昨夜は、すみませんでした」


 その謝罪は、拓哉達をオカズにしたことであって、間違っても、独りエッチしていた行為に対してではない。

 拓哉とすれば、彼女の独りエッチなんてどうでもよく、自分達がオカズにされたことが不満なのだ。


「覗きは犯罪だぞ? 次からは、すみませんじゃ済まさないぞ?」


「は、はい……」


 ――おっ、珍しくしおらしいじゃないか。いつもこれくらい大人しくしてくれると落ち着くんだが……


 これまでに見たことがないほど大人しくしているルルカは、まさに借りてきた猫だった。


「あ、あの……昨夜の出来事は……」


 本来であれば、「いや、見てない。知らない」と答えるべきだと思う。しかし、ここは釘を刺すところだと判断する。


「見たぞ? 何をしていたかも理解してる。でも、責任は取らないからな? こういうのを自業自得と言うんだぞ?」


「自業自得?」


「自分の行いの報いを自分自身が受けるということだ」


「あう……」


「それいい言葉ね。私も使うことにするわ」


 ルルカは意気消沈した。クラリッサは自業自得という言葉に感銘を受けたようだ。

 その後は、くっきりと明暗の別れたテーブルに料理が運ばれ、珍しく静かな朝食を続ける。そこに、男女の一組がやってきた。


 ――ん? あれ?


 その二人に視線を向けて、どちらも自分の知っている者だと気付く。

 一人は格納庫で暴れていたグエン。もう一人はキャリックの側近であるリスファアだ。

 朝から何のトラブルだと勘ぐってみたのだが、それは拓哉の勘違いだった。

 グエンはしょんぼりとしており、リスファアは申し訳なさそうな表情をしている。

 そんな二人の態度を疑問に感じていると、リスファアが先に開口した。


「おはようございます。あの、大尉、お食事中に申し訳ありません。少し宜しいですか?」


「ええ、構いませんよ」


 リスファアの申し出を快く受けると、途端に、彼女は頭を下げた。


「兄が大尉に失礼なことを言ったようで、本当に申し訳ありませんでした。ほら、兄さんも謝るのよ!」


 ――へぇ~、兄妹だったんだ……


 拓哉としては、全く失礼なことをされた記憶がない。

 それもあって、全く別の感想を抱く。

 しかし、彼女は頭を下げて謝罪すると、すぐさま隣の兄を睨みつけた。


「す、すまん。昨日は気が高ぶっていて……」


「そんな謝り方がありますか! 相手は上官なのよ」


 渋々と謝罪するグエンの態度が気に入らないのだろう。リスファアがまなじを吊り上げて叱責した。

 ただ、拓哉としては、どうでも良いことだった。グエンの反応は普通のもだと思えた。それに、悲しみで落ち込んでいたのだ。別に憤るような内容でもなかった。


「いえ、いいんですよ。大切な者を失えば、誰でも我を忘れるでしょうし」


 グエンを睨みつけるリスファアに肩を竦めてみせると、彼女は申し訳なさそうな表情で再び頭を下げてきた。


「不肖の兄で、本当にすみません。あとでよく言って聞かせますから」


「お、おい! オレは、お前の兄貴だぞ!」


「だったら、もう少し兄らしくしてください」


「うぐっ!」


 リスファアの言葉が気に入らなかったのか、グエンが不満をあらわにするのだが、逆に遣り込められてしまう。

 明らかに立場のないグエンだったが、溜息を一つ吐くと、真剣な表情を向けてきた。


「昨日、オレに言ったよな? 今日の戦いを見てろって、オレの仲間の仇を討つって」


 ――そういえば……俺の口が勝手に言っていたな……


 己の口でありながら、困ったものだと思いつつ頷く。


「ええ、言いましたよ」


「あれに、嘘偽りはないのか?」


「兄さん! 失礼よ!」


「う、うるさい! お前は黙ってろ」


 リスファアが凄い剣幕で詰め寄るが、グエンはそれを一蹴した。

 拓哉としては、自分の口が勝手に言ったことだが、もちろん無かったことにするつもりはないし、有言実行する気でいた。


「約束は違えませんよ。ただ、出来る限りですけど」


「そうか……わかった」


 グエンは満足したのか、きびすを返してその場を後にする。


「あっ! に、兄さん! こら! も、申し訳ありません、大尉! し、失礼します」


 リスファアは兄を呼び止めつつも、それが無理だと考えたのだろう。慌てて頭を下げたあと、すぐさま兄であるグエンの後を追った。

 その後ろ姿を眺めつつ、拓哉は今日の戦いのことを考える。


 ――今日の相手はヒュームだ。ディートの時のようにはいかないだろうな。勝手に口が言ったことだが、約束は約束だし、気合を入れる必要がありそうだ。


「昨日の格納庫もだけど、今のタクヤも、とても格好いいわ」


「さすがは、鬼神といった感じですよね」


 今日の戦いに向けて気合を入れる拓哉の向かいでは、クラリッサとルルカがウットリとしていた。









 冷たい感触が堪らなく心地よい。

 搭乗する度に、いつもそう感じていた。

 ここが自分の特等席なのだと。

 それが自分専用の機体であり、拓哉以外の誰も乗ることを許されていない機体だと考えれば、その高揚感も一入ひとしおだ。


「全て正常よ。いつでも出撃できるわ」


 クラリッサが手慣れた様子で、全ての計器チェックを終わらせた。


 ――ああ、この声も最高だ。夜のクラレも最高だけど、後部座席から機体の状態を逐一知らせてくる彼女の声はローレライもくやと思えてくるよな。


 クラレの声に感じ入っていると、直ぐに管制からの通信が入る。


『こちら、司令塔。コード黒鬼神。大尉、いつでも出撃できます』


了解(ラジャー)! こちら黒鬼神、出撃します」


『大尉! 頑張ってください。期待してます』


 その言葉は、習わしなのか、はたまた、純粋に期待しているのか、管制の女性は感情の籠った声で鼓舞してきた。


 ――多分、期待されてるんだろうな。ここはみんなを安心させるためにも大盤振る舞いといくか。あっと、あの衛兵さんに言われたっけ……じゃあ……


「任せろ。奴等をこのミラルダ地方から叩き出してやる」


 気を利かせた拓哉の一言で、指令室は沸きに沸いたらしいが、そこに居ない拓哉の知るところではない。


「出るぞ!」


「はい!」


 クラリッサが頷きと同時に、簡潔に応える。

 次の瞬間、凄まじい重圧が身体に掛かる。


「ん! これは……」


 黒鬼神が急加速する勢いを全身に受けて気付く。


「なんか、前よりも加速が良くないか?」


「そ、そうね。カタパルト射出に続いてレールガン射出されて慣れたつもりだったけど、この重圧もキツイわ。以前は、これほどではなかったと思うけど……」


 拓哉の疑問に、後部座席のクラレも同意する。


 ――どう考えても、前回よりも出力が上がってるよな? 一晩でプログラムを書き換えたのか?


 原理は定かではないが、機体を飛ばしているのはサイキックによるものだ。その性能は、サイキックシステムのプログラムが大きく関与している。

 そして、飛行性能の向上は、プログラムの書き換えなしでは在り得ない。


 ――さすがに、天才プログラマという訳か……ララさん、半端ないな。


 ララカリアの能力に感嘆している間に、恐ろしく過激な加速を発揮した黒鬼神は、予定位置である第二次防衛ラインの上空に辿り着いた。

 なにゆえ、第二次防衛ラインで待ち構えることにしたかというと、一つ目はヒュームが第三次防衛ラインまで退いたからだ。二つ目は、単機で戦うなら視界が開けている方が有利だと考えたからだ。

 なにしろ、ヒュームには遠距離攻撃オプションがないのだ。


「こちら黒鬼神、予定位置の上空に到着したぞ」


『速過ぎですよ、大尉! す、凄すぎます。戦闘機よりも速いじゃないですか』


 到着の連絡を入れると、管制官が驚きを露わにした。

 しかし、それを聞き流して確認を進める。


「攻撃指示は、そちらからだったよな? 頼むぞ」


『あっ、はい。攻撃指示はこちらから……えっ、あ、いえ、分りました』


 通信を受けた管制官が、意味不明な言葉を発する。

 それを不可解に思うのだが、その理由は直ぐに明らかとなった。


『失礼しました。えっと……バルガン将軍が、好きなようにやれとのことです』


 ――なるほどな。返事をしようとしたところで将軍から声が掛かったんだな。


「了解した。好きにやるぞ」


 通信を終わらせると、黒鬼神を第二次防衛ラインの向こう側に着陸させる。

 その理由は簡単だ。多数の敵を相手にするなら上からの攻撃よりも、地上からの攻撃の方が避け辛いからだ。

 黒鬼神の遠距離砲は高威力だ。それに対して、ヒュームの機体には飛行機能がない。精々、ジャンプするか、横にかわすしかける方法がない。

 地上からの攻撃の方が無駄弾も減るし、あわよくば大量殲滅も狙える。

 要は、線の攻撃か、点の攻撃か、そういう理屈だ。


 そんな旨い話を目論む拓哉がモニターに視線を向けると、そこには土煙を上げながら走り寄ってくる数えきれない機体が映し出されていた。


「時間通りだな」


「時間に正確なのは良いことよ。それにしても、凄い数ね」


「たしか、推定八百はいるんだっけ?」


「機体数が確認できたわよ。七百六十機もいるみたいよ」


「ふむ。まあ、予定通りということか。ならば、こちらも予定通りにやるとしようか」


「そうね。しばらくは、タクヤに任せるわ」


「ああ、任せられた」


 クラリッサの言葉に頷くと、黒鬼神の両手に装備された神撃を敵に向ける。


「さあ、悪いが引き返してもらうぞ!」


 ヒュームに聞こえるはずもない言葉を吐きながら、拓哉は操縦桿のアタックトリガを引き絞った。



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