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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
183/233

180 女達の想い

2019/3/3 見直し済み


 彼女にとって、それは衝撃な出会いだった。

 その姿を目にした時、キルカリアは我を忘れてしまった。

 しかし、同時に疑問を抱く。彼女が知る彼は、この世界に居ないはずなのだ。いや、彼女の知るところでは、この世界どころか、その存在が消滅したはずだった。

 そう、その者は、間違いなく葬られてしまったのだ。


「姫様、如何されたのですか? 我を忘れていたように見えましたが」


 ――ちぇ、ヒュームなのに蘭は鋭いのよね……


 作戦会議室でのことを突っ込まれて、キルカリアは答えに困ってしまう。いや、少しだけバツの悪い表情を見せた。


「な、何でもないの。彼が知り合いに似ていただけよ」


「姫様の知合い? まだ、生きておられる知り合いがいらっしゃるのですか?」


 その場しのぎの返事をしてみたのだが、空気の読めないヒューム――オーキッドから、痛いツッコミを受けてしまう。


 ――ううっ……言いにくいことをズバッと言うのよね。こういうところが、ヒュームの改善すべきところよね。まあいいわ。それよりも……


 心中で苦言を漏らしながらも、昔の事を思い出す。

 キルカリアは、事情があって隔離された存在だった。

 それを解放したのは、誰でもないヒュームだ。

 ただ、彼等が施設の人間を皆殺しにしたことで、彼女の知り合いは誰一人として生き残っていない。

 実際、彼女からすれば、それはそれで問題ない。

 なにしろ、その施設――研究所は、彼女の嫌いな人ばかりだったからだ。

 唯一、彼女が情を感じている生みの親は、既に他界していた。それもあって、研究所の者達が根絶やしにされたことは、彼女にとって些事でしかなかった。

 そして、彼女が申し訳なく思うのは、その生みの親に対してだけだ。


 ――お母さん……ごめんね……


 当時のことを思い出し、彼女は心中で母であるノルン博士に謝る。

 というのも、ノルンがこの世を去ったのは、キルカリアの暴走が原因だった。

 それ故に、彼女は自分が閉じ込められていたことを恨んでいない。いや、閉じ込められるべき存在だと感じていた。

 そして、閉じ込められていた部屋で、嫌というほど後悔した。

 どうして暴走してしまったか。どうして母親を巻き込んでしまったのかと。


 ――でも、もう暴走することはないわ。だって、もう彼は居ない。だから、大丈夫……


 彼女が暴走した原因は、最愛の伴侶を処分されてしまったことだ。

 今日、出会った拓哉から、彼女の伴侶だったライアットと同じ匂いを感じた。

 それ故に、我を忘れて、思わず拓哉の胸に飛び込みそうになった。

 思い留まることができたのは、彼が生きているはずがないという記憶。それに、当時のライアットが赤ちゃんだったが故に、大人になった姿が想像できなかったからだ。

 しかし、本能が拓哉を欲していた。


 ――困ったわ……どうしよう。堪らなく彼が欲しいわ……というか、彼が死んでしまったら暴走するかも。ああ、困ったわ……人類とヒュームを助けるって、死んだお母さんに誓ったのに……彼が居てくれたら何もいらないなんて思っちゃった。どうしよう……


「姫! 姫様! 大丈夫ですか?」


「えっ!? あっ、ええ、大丈夫よ」


「今日の姫様は本当におかしいですよ? 脈拍も上がってますし、本当に大丈夫ですか?」


 オーキッドが彼女の意識を現実に連れ戻す。

 実際、問題だらけだ。しかし、正直に答える訳にはいかない。


 ――これは拙いことになったわ……だって、私……彼に愛されたいんだもの……


 返事すらも忘れて、どうしようもない気持ちにさいなまされるキルカリアは、これからのことを考えて頭を悩ませることになった。









 黒鬼神の整備を終わらせた頃には、すっかり何時もの状態に戻っていた。

 その様子に安心したのか、クラリッサとルルカの表情も柔らかくなっていた。

 それを見て安堵した拓哉は、機体の整備を終わらせると、そそくさと与えられた居室に向かった。しかし、そこで驚くことになる。


「ここって……」


「叔父様ったら……」


「いくら大尉でも、これはちょっと……これじゃ、またバルガン少尉と……」


 顔を赤らめるクラリッサの隣では、ルルカが微妙な表情を浮かべている。

 彼女達の考えは、拓哉にとって直ぐに理解できることだった。いや、その光景を目にすれば、誰にでも容易に分かることだ。


 ――クラレ、バレバレだぞ? てか、ルルカ。覗くなよ。


 与えられた部屋にも、ルルカの発言にも、どちらにも溜息を吐きたくなる。

 というのも、与えられた部屋は、とても軍の宿舎とは思えない様相だったからだ。


「なあ、軍の宿舎ってこんなもんなのか? 俺の世界だと、二段ベッドで四人部屋とか、八人部屋とか、そんなのが普通だと思うんだが……」


 拓哉が自分の記憶から、地球の仕様を引き出す。

 もちろん、拓哉が軍の施設を知っている訳ではないが、映画などで見た光景を記憶しているのだ。そして、それは概ね間違いではない。


「この世界でも同じだと思うけど……そもそも、男女は別の宿舎よ。だから、今日は拓哉の部屋を見に来ただけなのだけど……これなら……だって、どこかで見た造りと似ているわ」


 肩を竦めつつも、クラリッサの表情は思いっきり緩んでいる。

 彼女の思考は、既に合体にまで至っているのだろう。


「一応、八人くらいは平気で居られそうですよね。というか、部屋の内部に個室が一、二、三、四、五、六、六部屋もありますよ? 六人部屋ですか?」


 クラリッサとは打って変わって、ルルカは恐ろしく不機嫌で、今にも舌打ちしそうなほどだ。

 彼女が言う通り、この部屋は、飛空船の六人部屋と同じ造りになっていた。

 当然ながら、この部屋を用意したのはキャリックであり、その思惑はとても簡単だ。間違いなく、小作りの促進だ。

 もちろん、拓哉にとっては願ったり叶ったりだが、それを素直に表に出すには、少しばかり恥ずかしがり屋であり、いつもの癖で鼻の頭を掻くことになる。

 そんなタイミングで、クラリッサの端末が震える。


「ん? メール? あっ、叔父様からだわ。なになに、部屋は広くしておいたから、ホンゴウ君と仲良くな……まあ、叔父様ったら気を使ってくれたのね?」


 ――おいおい軍隊! これでいいのか? こんな軍隊なんて、ありなのか? 他の兵が聞いたら暴れ出すぞ?


 軍の在り方について疑問を感じているのだが、どういう訳か、ルルカの表情が明るくなった。


「了解しました! 私もこの部屋で過ごします。はい! はい! 大丈夫です。連絡、ありがとうございます」


 やたらと笑みを浮かべるルルカが、端末を手にペコペコと頭を下げている。

 一応、モニターモードでも使用できる端末だが、今は電話としての機能しか使用していないので、頭を下げても相手に見えることはない。ただ、どういう心境か、最後は誰も居ない方向に向かって敬礼している。

 そのルルカが、ニンマリとした笑みを拓哉に向けてきた。


「上層部からの通達がありました」


「なんて?」


 もはや尋ねる必要すらないのだが、敢えて確認してみた。

 クラリッサも嫌な予感に襲われたのだろう。赤らめていた表情を一瞬にして強張らせた。


「ま、まさか……」


 ――まさかな訳ないじゃんか……彼女の顔をみれば、一目瞭然だぞ。


「私もホンゴウ大尉と同室で過ごせとのことでした」


 ――ほらな……


 笑みを浮かべる理由が予想通りで、拓哉は肩を竦めて嘆息する。

 ただ、クラリッサはそう簡単に済ませる気はないようだ。


「やっぱり……叔父様に抗議するわ! 叔父様ですか! ルルカ伍長が同室とは、どういうことなんですか!」


 クレームを入れる速度、まさに神速の如し。

 瞬きよりも早くキャリックに問い合わせる。


「えっ!? は? 断れなかった? 私ばかりがズルいって? でも……あう……はい。はい。はい。分かりました……」


 物凄い勢いで抗議したクラリッサだったが、予想外の結末に項垂れる。まさに、意気消沈というやつだ。


「他の将軍たちから、お前が囲うのはズルいと言われたそうよ。だから、諦めろって……」


 落ち込むクラリッサとは対照的に、まるで鬼の首でも取ったかのように、ルルカが胸を張る。


「では、バルガン将軍の許可もありましたし、宜しくお願いします。あ、あと、お風呂では、背中を流すのが軍の習わしらしいので、是非とも……」


「な、なにを言っているのよ! それは同性の話よ! だいたい、妻の前でよくもそんなことが言えるわね」


 早くも暴走し始めるルルカに、まなじりを吊り上げたクラリッサが噛みつく。

 しかし、ルルカも負けてない。


「妻といっても、まだ届けも出してませんよね? それに、五人も六人も同じです」


 ――いやいや、五人と六人は違うから……体力が……


 ルルカは痛いところを突いてくる。しかし、拓哉としては大違いだ。下手をすると精子に……生死に拘わるかもしれない。

 クラリッサはといえば、言い返せなかったことが悔しいのか、即座に行動を起こす。


「ぬぬぬぬ! た、タクヤ、今から婚姻届けを出しに行くわよ!」


「少尉、それは無理です。今は役所に人なんて居ませんから」


 ルルカの発言は当然だ。役人たちはシェルターの中で不安に駆られているはずだ。婚姻届けなど処理している場合ではないだろう。

 そして、その皺寄しわよせは、当たり前のように拓哉に向けられる。


「た、タクヤも何か言ったらどうなのよ?」


 反論する言葉が見つからなかったのか、クラリッサが丸投げしてくる。

 拓哉としても、ここは男の威厳を知らしめるところだ。引き締めた表情で対処する。


「あのな、ルルカ伍長。確かに、俺には五人の相手がいる。それもあって、女癖の悪い男のように見えるが、五人の女性とは、ちゃんと愛し合ってるんだ。だから誰でも良い訳じゃないし、ルルカ伍長が裸で風呂に入って来たからといって、関係が生まれる訳じゃないからな。そう考えれば、裸を見られるだけ損だぞ? もっと自分を大切にした方がいい」


 ――ほら! 俺だって男らしい態度が取れるんだ。なんてったってノーと言える男だからな。


 拓哉は自慢げに胸を張る。ところが、クラリッサは顔をしかめていた。

 首を傾げそうになるが、彼女が眉間に皺を寄せる理由は直ぐに明らかになった。


「それじゃ、一緒に入ってもいいんですね。やった! べつに大尉なら見られても損じゃないです。あはっ!」


 ――ガクッ……なんで? あはっ! って……どういうことだ?


 疑問に思う拓哉に、クラリッサの冷たい視線が突き刺さる。


「タクヤ! 学習能力がないの? ガルは置いておくとしても、カティやキャス、ギルルの押しに負けたのを覚えてないのかしら。こういう時は、ダメだとハッキリ言うのよ」


 ――うぐっ! そうだった……カティ、キャス、ミルル、今はみんなと愛し合っているが、初めは押し売り状態だったんだ……つ~か、全部、リカルラの所為だ。


 クラリッサに怒られて、以前のことを思い出す。そして、全ての元凶がリカルラだったことに思い至る。

 しかし、男に二言があるとも言えない。

 そんな拓哉に向けて、ルルカが最高の笑みを浮かべて敬礼する。


「それでは、大尉! お湯を沸かしてまいります。ビシッ!」


 ――ビシッじゃね~よ! マジで一緒に入る気か? もう嫁は要らんからな。一緒に入ったって、嫁にはしないからな!


 そんな抗議の声を心中で叫ぶのだが、結局のところ、三人で入浴することになり、クラリッサから冷水を浴びせかけられることになるのだった。









 満面の笑みとは、こういう表情を言うのだろう。


「いいお湯でしたね。大尉。それに大尉の主砲も凄かったです。ぽっ!」


 ――ぽっ! じゃね~~~! 散々、触り捲りやがって! あんなに触れば主砲にもなるわ!


 思わず文句を言いそうになったが、幸せそうなルルカの表情を見て胸に留める。

 そう、クラリッサと先を競い合うように、拓哉の身体を洗いまくったのだ。

 その有様は、数か月前のクラリッサとカティーシャが繰り広げた争いを思い起こさせた。


「それじゃ、風呂上りにマッサージしましょうね。明日は大事な戦いですし、疲れを残さないようにしないと」


 ――いやいや、お前のマッサージを受けたら、間違いなく疲れの残る展開になるよな?


 疑問を抱く拓哉だが、それは間違っている。

 というのも、それを回避しても、間違いなくクラリッサと合体することになるのだ。どのみち、疲れる展開しか用意されていない。


「それはダメ! それは許せないわ。私達は、きちんと拓哉と誓い合ったもの。あなたも拓哉を惚れさせない限りは、絶対に許可できないわ」


 さすがに、クラリッサの意見は正論だ。それは、拓哉も頷くところだ。

 ルルカが恨めしそうな表情を浮かべるが、一線を引くべきだ。


「そ、そうだな。これはクラレの言う通りだと思う。だから、寝室は共にできないし、そうなりそうな展開もNGだ」


 拓哉から拒絶されたことで、それまでの笑顔を一気に曇らせて、ルルカはトボトボと自分の部屋に歩いていった。

 時折、名残惜しそうにチラチラと視線を向けられ、とても罪悪感を持ってしまう。


「なんか、俺が虐めたように見えるのは、なぜだ?」


「気にしてはダメよ。あれは彼女の作戦なのだから、ここで情に流されたら、パクリと食べられるわよ。もちろん、物理的に」


 ――女って、ヒュームよりも怖いかも……うわっ、クラレ……


 今更ながらに、女性というものに戦慄してしまう。

 というのも、ルルカの誘いを躱したと思いきや、有無も言わせない勢いで、クラリッサによって寝室に連れ込まれてしまったのだ。

 ただ、今日の彼女がどこか変だと思い始める。そして、その理由は直ぐに明らかになった。


「タクヤ! あの女はダメ」


「ん? ルルカのことか?」


「違う。あれは放って置いてもいいわ。そうじゃないの。あのキルカリアという女だけはダメ。あれはあなたをダメにするわ。どれだけ女を作ってもいいの。でも、あのキルカリアという女だけはダメよ。私だけを見てなんて言わない。だけど、あの女には近寄らないで!」


 クラリッサは気付いていた。そして、拓哉の心を掴んだキルカリアに恐怖を感じていたのだ。

 しかし、皮肉なことに、その台詞で彼女のことを思い出してしまう。

 それを感じ取ったのか、クラリッサが力強く抱き着いてくる。そして、強引に唇を重ねる。


「私なら何でもするわ。だから、あの女はあきらめて! ねっ、タクヤ! さあ、私をあなたの思うようにして、何でも言って、さあ! 何がいい?」


 唇を離すと、クラリッサは真摯な想いを告げると、必死に拓哉の気を引こうとした。

 しかし、彼女が言葉を重ねれば重ねるほど、卑屈ひくつに思えてくる。

 そう感じた時、自分自身に怒りを感じてしまう。


 ――クラレをこんな風にしたのは俺だ。全て俺の態度が悪かったんだ……俺は最低だ……


「すまん。大丈夫だ。俺はお前を愛している。だから、そんなに卑屈ひくつになる必要はないんだ」


「ううん! 大丈夫。あなたから無茶苦茶にしてもらいたいの。今はそんな気分なの。ねえ、明日の戦いがあるけど……今日は……激しく……乱暴にしてほしい……あなたに蹂躙されたいの……あっ、怪我はダメよ」


 己に怒りを感じた拓哉が謝罪するのだが、彼女は首を横に振ると、少し恥ずかしそうに強請ねだってきた。

 その仕草は、拓哉の心に火を点ける。いつも凛とした彼女とのギャップが、彼を燃え上がらせたのだ。


「わ、分った。でも、痛かったり嫌だったら言えよ?」


「うん。愛しているわ。タクヤ」


「クラレ、俺も愛してるぞ」


 こうして拓哉とクラレは、ルルカから覗かれていることすら忘れて、これまでにないほどの激しい夜を過ごした。


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