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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
181/233

178 運命の出会い

2019/3/2 見直し済み


 それを目にした時、稲妻のようだと感じた。

 まるで光の速度で移動するかのように、クラリッサは走り抜けた。

 その行動に目をいたのが、建物の入り口に立つ衛兵だ。


「何者だ!」


「し、失礼しました」


 二人の衛兵の内、入り口の右に立つ者が誰何の声を上げた。しかし、直ぐに左に居た者が敬礼する。


 ――ふむ。どうやら、クラレの階級章に気付いたんだな。まあ、見た目は少女でも少尉だし、あの二人もさぞ驚いただろうな。いや、あの階級章を傾けてしてしまうほどの豊かな胸に驚いたのかもしれん……


 真新しい制服に包まれたクラリッサの胸には、少尉を表す階級章の星が輝いていたのだが、それは胸の所為で傾斜していた。

 そう、ミクストルが本格的に活動を始めたこともあって、制服が用意されていた。

 無駄なようにも感じるが、規律のみならず、自分達の存在を知らしめるためには必要なことだ。

 そして、拓哉も否応なく制服に身を包むことになったのだが、着ているというよりも、どちらかと言えば着させられているといった雰囲気だ。


 クラリッサが疾風しっぷう、もとい、稲妻のような勢いで突入したのは、ミラルダ基地の指令室がある建物だ。

 そこまで言えば、誰もがお分かりだろう。

 彼女は居ても立っても居られなくて、高速飛空艇がミラルダに到着するや否や、駆け出してしまったのだ。

 拓哉としては、彼女の気持ちを理解しているので、それも已む無しと思うのだが、指令室のある建物を守る衛兵からすれば、警戒するなという方が無理だろう。


「大尉、どうぞ!」


「大尉、お疲れ様です」


「うっ……」


 クラリッサの後を普通に歩きながら入り口に辿り着くと、衛兵が敬礼で迎えてくれた。

 ただ、その言葉と態度にひるんでしまう。

 説明する必要もないかも知れないが、彼等の状態と言えば、直立不動で微動だにしない。


「お疲れ様です」


 ――おいおい、一ミリも動いてないんじゃないか?


 敬礼を前にして、焦ってぎこちない敬礼と丁寧な挨拶で返してしまった。


 それを目にした衛兵が、ニコリとする。


「何か可笑しかったですか?」


 衛兵の表情が気になった拓哉は、自分の姿に目を向ける。

 すると、二人の衛兵がまたまたビシッとした表情で敬礼する。


「し、失礼しました」


「も、申し訳ありません」


 ――うはっ! もしかして、嫌味に思われた? そういうつもりじゃなかったんだけど……


 謝ってくる衛兵の態度に、拓哉の方が恐縮してしまう。

 しかし、ここで誤解されたままなのも気持ち悪い。そう考えた拓哉は、きちんと説明することにした。


「あ、あの、別に嫌味じゃないですから、どうもこういうのは初めてで、自分がどこかおかしいのではと思ってしまうんですよ」


 どうやら、拓哉の受けた印象は間違っていなかったようだ。

 嫌味でないと知ると、衛兵が肩の力を抜いた。


「し、失礼なことなのですが、そういうことなら説明させて頂きます。その……大尉が新兵にありがちな雰囲気だったので、つい……」


「お、おい! 馬鹿正直にいう奴があるか! 黒き鬼神と呼ばれるほどの方だぞ」


「黒き……失礼しました。いまのは、失言でした。忘れてください」


 右にいた衛兵が正直な気持ちを露わにしたのだが、顔を引き攣らせた左の兵から叱責されると、慌てて直立不動に戻った。


「いえいえ、言われる通り新兵なので気にしないでください。俺も大尉だなんて聞いたばかりで……まったく柄じゃないんですよね……」


「おお、黒き鬼神って、良さそうな人だな」


「こら! 本人の前でいう奴があるか!」


 右の衛兵は、再び叱責される。

 ただ、叱責した衛兵は、直ぐに失礼ですが、と続けた。


「大尉、差し出がましいようですが、敬礼してみてもらえますか」


「えっ!? あ、はい。こうですか?」


 年配の衛兵が言うままに、拓哉は敬礼する。

 その衛兵が近寄ってきて、拓哉の腕の角度や手の向きを直してくれる。


「こんな感じです。とても凛々しいですよ。あと、優しいのも良いですが、大尉は自分達の誇りですから、やはり格好良く威厳のある方が良いですね。威張る必要はありませんが、大尉に相応しい振る舞いを身に着けた方が良いと思われます。ディートの件は聞き及んでます。素晴らしい戦果です。ミラルダ出身の大尉の行動と戦果のお陰で、自分達も鼻が高いです」


 年配の衛兵は、嬉しそうに頷くと、にこやかに敬礼してきた。

 ただ、拓哉としては、特別なことをした記憶がない。


「いえ、そんな……当たり前のことをしただけですよ」


「その精神が素晴らしい。でも、こういう時は『うむ。そうか。ごくろう!』と言うのですよ」


 助言と称賛を受けた拓哉があたふたしていると、年配の衛兵はニコニコしながら、またまた助言してきた。


「そ、そうですか? で、では、うむ、ごくろう!」


「良く似合ってますよ。大尉! 明日からも頑張ってください。期待してます」


「そ、そうです……そ、そうだな。任せておけ!」


「そうです。それです!」


「大尉! 奴等に、目に物を見せてやってください」


 目上の者に対して生意気な言葉遣いをするのに抵抗を感じたが、期待に応えるつもりで頷くと、彼等は嬉しそうに手を振りながら見送ってくれた。









 珍しく拓哉を置いてけぼりにしたクラリッサだったが、一人で先にキャリックのところに向かうつもりはなかった。


「タクヤ、遅いわよ」


「あ、ああ、すまん。凄い勢いだったからな」


「す、すごい勢い……そ、そんなことないわよ」


 頬を膨らませることはなかったが、彼女はツッコミに対して、珍しく少女らしい仕草を見せた。

 そういう姿をみると、氷の女王と呼ばれたり、少尉の階級をもらったりしても、やはり年頃の少女だと感じて、微笑ましく思えた。


「な、なによ。ニヤニヤして」


「そ、そうか? 何でもないぞ。さあ、いこうか」


「う、うう……そうね。急ぎましょ」


 不服そうにするクラリッサを即し、呼び出されている作戦会議室に向かう。

 いつものように寄り添って歩く二人だが、時折、すれ違う兵士が立ち止まって敬礼をしてくる。


「なあ、上官見たら立ち止まって敬礼する必要があるのか?」


 すれ違う全ての兵士が敬礼してくる。十人目の敬礼に応じたところで、拓哉は眉を顰めた。

 しかし、そんなルールなんて存在しない。


「ないわよ?」


「じゃ、なんで、みんな止まって敬礼するんだ?」


「みんな、あなたが黒き鬼神だって知っているのよ」


「それって……もしかして期待されてる?」


「そうでしょうね。恐らくディートの情報は入ってきているでしょうから、明日からの戦いのことを考えると、彼等の態度は当然だと思うわ」


 ――う~ん、気が付かないうちに有名人になってしまったみたいだ……


 今更ながらに、人の目が気になり始めた拓哉だが、どうやらその態度はクラリッサに筒抜けだったようだ。


「もしかして、なんで、みんなが自分を知ってるんだ!? なんて思っているの? 今更だわ。対校戦に出る前から、あれだけ派手な戦いを繰り広げているのだもの。一般人ならまだしも、軍人で黒き鬼神を知らない人なんて居ないと思うわ」


「そ、そうか? 派手にやったつもりはないんだが……」


「何を言っているのよ。初めての対戦で五機もスクラップにしたでしょ? あれだけでも有名人よ」


「うぐっ」


「あっ、ここね」


 クラレの言葉に声を失う。しかし、彼女は気にした様子もなく足を止めたかと思うと、備え付けのインターホンのボタンを押した。


「ただいま到着しました。クラリッサ=バルガンです。タクヤ=ホンゴウ大尉もご一緒です」


『はいれ!』



 即座に聞き覚えのある声が入室を許可すると、クラリッサは一気に表情を明るくする。


 ――まあ、叔父の無事が分って安心したのだろうな。


 ディートを発ってからは、見せることのなかった最高の笑顔を目にして、拓哉も心底安堵する。


「失礼します。クラリッサ=バルガン少尉、ただいま戻りました」


「失礼します。タクヤ=ホンゴウ……」


 部屋に入って先に名乗ったクラリッサに続き、拓哉も自分の名前と階級を告げようとしたのだが、そこで凍り付いてしまった。


 ――な、なんだ……誰なんだ……この美しい女性は……いや、美しさが問題なんじゃない……なんだ? この感覚は……


 作戦会議室に入った途端、目にした女性に思考を奪われてしまった。

 その不思議な感覚に驚きながらも、時を忘れて彼女を見入ってしまう。タイムストップを使わずして、全ての時が止まったような気がしていた。

 ただ、それは、拓哉だけではなかったようだ。


「ら、ライア……」


 視線の先に居る美しき女性は勢いよく立ち上がると、何かを言い掛けて、そのまま固まってしまった。

 拓哉とその女性は、見つめ合ったまま無言の時の住人となる。


「タクヤ? どうしたの? タクヤ! タクヤ!」


 気が付くと、クラリッサが腕を引きながら名前を呼んでいた。

 その表情はとても不安そうであり、とても必死にも見えた。


「あ、ああ、すまない。タクヤ=ホンゴウ大尉、ただいま戻りました」


 止まった時の中から連れ戻され、拓哉は敬礼しつつ途中になっていた名乗りを続けた。

 すると、寸前の拓哉と同様に固まっていた女性が、元の席に腰かける。

 その表情はとても嬉しそうだが、とても悲しそうにも見えた。


 これが拓哉とキルカリア、二人の出会いであり、運命の歯車がまた一つ動き始めた。


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