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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
18/233

15 仮想戦闘

2018/12/28 見直し済み


 強化駆動モーターの音が僅かに聞こえてくる。

 SBAのみならず、PBAの原動力は全てモーターで行われており、そのエネルギー源はレイチェル電池と呼ばれる特殊な蓄電システムから供給されている。

 このレイチェルという人が発明したエネルギーシステムは、超光充電と呼ばれる日光から充電するシステムと組み合わせることで、殆ど永久燃料とも言える代物だ。

 そして、このシステムのお蔭で、この世界は飛躍的に成長した。


「電力供給異常なし、駆動系摩擦熱温度規定値内、冷却システム正常、電装計器およびスキャンニングシステム正常作動。システム、オールクリア。メインモニター起動。タクヤ、いつでもいいわよ」


「ありがとう。さすがだね」


 クラリッサがナビとしての役割を果たすと、拓哉が感嘆と共に感謝の言葉を口にした。

 それがとても新鮮で、クラリッサは少しドキッとしてしまうが、それを誤魔化すために、どうでもいいツッコミをいれる。


「タクヤ。返事は、了解ラジャよ!」


「了解! じゃ、いくよ!」


 ――ふふふっ。なんだか、いい感じだわ。


 素直に返事を返してくる拓哉をモニターで見やり、クラリッサは思わずほっこりとする。

 それは、片手で数えられないほどのドライバーと組んだ彼女が、これまでに感じたことのない感覚だった。

 そして、問題ないと拓哉に答えようとするのだが、次の瞬間、息が止まった。


「うぐっ……」


 ――うっ、な、なにこの加速。身体がシートに押し付けられてしまうわ。


 拓哉としては、いつもの通りに機体を操作しただけだ。

 それなのに、彼女はこれまでに経験したことのない圧力を受けていた。

 その理由の一つは、サイキックによる保護がない所為だ。

 ただ、クラリッサはそれだけでないことに気付かされる。


 ――なにこれ、モニターに映る視界の流れが異常だわ。ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっとまって、こんなの聞いてないわ。このスピードは異常よ。


 彼女は息を吹き返した途端に、今度は思わず息を呑む。

 霞むようなモニターの映像に視線が釘付けとなる。

 そんな彼女に、拓哉がいつもの調子で話しかける。


「クラレ、大丈夫? 整備班のみんなはこうやって動かすと、倒れちゃんだよね」


 ――ちょっ、みんなが倒れるようなことを私にしたの? それには少し不満を感じるわ。


 実際、不満は少しではなかったのだが、彼女はそれを飲み込む。

 そう、彼女のプライドが決して口にするなと告げたのだ。


「も、も、問題ないわ。これくらい何時もの訓練で慣れてるもの……」


「そうだよね。良かった。じゃ、遠慮なく動かすからね」


 ――えええええええ!? 今のが全開じゃないの? ちょっ、ちょっと待ってちょうだい。


 見栄を張ったのが失敗だった。

 クラリッサがモニターで確かめると、拓哉は嬉しそうな顔をしている。


 ――マズったわ。まさか、タクヤがこれほど乗りこなすとは思ってもみなかったから、油断し過ぎたみたい。うぐっ! きっつ~い。


 焦りを感じているクラリッサに、更なる加速の負荷が襲い掛かる。


 ――加速圧力を受ける余計に受けるのは理解できるわ。サイキックシステムを使用しないものね。それにしても……ララカリアったら、恐ろしい機体を作ったものね。でも、それを操作できる者がいないと意味がないわ。って、ここに居るのね……


 モニター越しに見える拓哉の操作能力は、あの異世界で見たゲーム操作を思わせるものだった。

 拓哉にとっては、機体の操縦なんて、ゲームと全く変わらないのだと理解する。


 ――でも、なんでこの加速圧力でも普通に操作できるのかしら。もしかして、あの世界の人達って、見た目と違って骨太なのかしら……


 全く堪えることなく機体を操縦する拓哉をモニターで確認し、クラリッサはとんちんかんな疑問を抱くのだが、そんなことなどお構いなしに、機体は猛スピードで第三演習場へと辿り着いた。


 第三演習場は、三つある演習場の中で一番小さいのだが、それでも通常の学校のグランドくらいはある。

 それくらいの広さがないと、とてもではないがPBAの訓練なんてできないのだ。

 因みに、四角いグランドの二辺は高い障壁となり、残りの二辺には倉庫が建ち並んでいる。


『準備はいいか? 問題なければ、仮想戦闘プログラムを起動させるぞ』


 グランドの真ん中に辿り着いたところで、軍用車両で追い駆けてきたララカリアから無線連絡が入った。


 ――準備はいいかと言われても……というか、彼女が運転してきたのかしら? とてもペダルに足が届くと思えないけど。


「クラレ、始めても大丈夫か?」


「えっ!? ええ。だ、大丈夫よ」


 いまだ呼吸の整わないクラリッサは、ちっとも大丈夫ではないのだが、彼女のプライドが勝手に肯定する。

 プライドが見栄を張ると、拓哉が一つ頷いてララカリアに応答する。


「問題ないです。始めてください」


 途端に、スキャンシステムやレーダー、メインモニターに敵影が映し出された。

 直ぐにシミュレーションが始まったことを認識し、クラリッサは焦りを募らせる。


 ――拙いわ。落ち着かなきゃ。


 ララカリアが口にしていた仮想戦闘プログラムだが、それは3Dフォログラムを使用した仮想戦闘を行うシステムだ。ただ、見た目もセンサー検知も本物と全く変わらないほどの精度であり、周囲の障害物まで作りだされている。また、障害物に関しては用途に合わせて変更できることから、様々な作戦に適した訓練が可能となっている。

 しかし、実際は物理的に存在しないので、壊れたりすることはない。故に、実弾による射撃戦闘は行えない。

 なにしろ、敵のみならず障害物を実弾で撃ち抜くと、弾丸はフォログラムを突き抜け周囲に飛んでいくのだから、とんでもない被害が生まれてしまうのだ。


 必死に心と呼吸を落ち着かせ、モニターやレーダーに映し出された敵の数と場所を素早く確認し、その情報を拓哉へと伝え始める。ところが、彼はそれを聞きながら即座に機体を走らせた。


 ――えっ!? まだ、全てを告げてないわよ?


 敵の把握も出来ていないはずというクラリッサの疑問を置き去りにして、拓哉はまるで疾風の如く機体を走らせたかと思うと、一体目の敵をレーザーブレードで切り裂いた。


 ――うぐっ! ちょっ、なに、この速さ! このGジーはなんとかならないのかしら。とてもではないけど、肉体的にも精神的にも辛すぎるわ。って、もう二体目を切り裂いたの? ちょっと、待ってよ。こんなの……私なんて要らなくない?


 色々と不満を抱くクラリッサを余所に、拓哉は尋常ではない操作で、彼女が体験したことのない速度と動きを生み出している。


 ――ほんと、異常だわ。でも、そろそろ私の存在価値を主張しないと……


「右後方三十、距離二十」


「分った」


 いつも以上に汗を掻いているクラリッサが、後方から現れた敵の存在を伝えると、拓哉は瞬時に機体を反転させ、まるで自分の身体のように――自分の身体以上の動作で後方の機体を切り裂いた。

 拓哉が操る機体の動きは、この訓練校の一回生で断トツの首席だと言われているクラリッサですら理解できなもので、あまりに桁違いな操作能力を目の当たりにして、彼女は呆気に取られていた。


 ――どうやったら、サイキックシステムを使わずに、これだけの動きを生み出せるのかしら。いえ、サイキックを使ってもこれだけの動きは無理よ。だって、これほどの操作能力を持つ者は、この訓練校の一回生にいない。いえ、きっとこの訓練校で敵う者なんていないわ。間違いなく、彼こそが最高のドライバーなんだわ。そう、私が異世界に行ったことは、あの世界で拓哉と出会ったのは……


 拓哉の技量を素直に受け入れた時、クラリッサはあの地球に転送されたことを運命だと感じた。

 それが例え偶然だったとしても、心の底から求めていた願いが叶ったのだ。


「後方五十、距離六十五」


「えっ!?」


 拓哉との出会いを今更ながらに感動する。それでも、今はシミュレーションの最中だ。気を抜くわけにはいかない。クラリッサは胸が熱くなるのを感じながらも、すぐさま敵の存在を知らせた。しかし、拓哉から驚きの声が上がった。


 ――あっ、涙の所為で間違えてしまったわ。


 拓哉はその間違いに気付いたのだろう。だが、クラリッサの指示通りに操作していた。

 次の瞬間、衝撃で身体が激しく揺さぶられる。


「うわっ!」


「きゃっ!」



 それも当然だろう。二人が乗った機体は、障壁に突撃して吹き飛んだのだ。

 そう、クラリッサが伝えた敵の位置は、訓練校を囲う障壁の向こう側だった。


「ごめんなさい」


『なにやっとんじゃ~~~~! 始末書じゃ済まんぞ!』


 引っ繰り返る機体の中で、クラリッサは即座に謝るのだが、それと同時に、無線連絡でララカリアの絶叫が聞えてきた。


 ――やっぱり、そうなるわよね。始末書どころではないわよね……


 ララカリアから叱責されたクラリッサは、先程まで感じていた胸の熱さを一気に冷却させ、この先の展開を考えてガックリと肩を落とした。








 それはそれは、怒られたというものではない。

 叔父である校長は難しい顔をしていたし、副校長が恐ろしいほどの剣幕で怒鳴り散らしていた。


「まあまあ、ラッセル君。そうムキになるな。ララカリアからはプログラムバグだと連絡が入ってるんだ。生徒達を責めるのは筋違いだぞ」


「しかし、バルガン将軍。これは由々しき事態ですよ。そもそも、整備士が仮想戦闘プログラムをやること自体が問題です」


 キャリックからラッセルと呼ばれたのは、この訓練校の副校長をしているラッセル=ボーアン少佐だ。

 クラリッサから言わせれば、この副校長はとにかく細かく、その眼差しが嫌らしいとのことだ。

 それ故に、彼女はこの副校長を嫌っていた。


「ラッセル君、ここで将軍は拙いよ。あと、仮想戦闘プログラムに関してもララカリアの試験だというなら仕方ないだろう。上層部からはララカリアの開発を後押しするように言われているのだから」


 顔を真っ赤にしてムキになるラッセルをキャリックが上手く宥める。

 さすがに怒り心頭のラッセルも、将軍に口答えするのを控えたのだろう。口をつぐんだ。


「こ、校長がそう言うのであれば……」


 もちろん、ララカリアの報告はでたらめだ。少しでも拓哉とクラリッサの立場が良くなるように考慮した結果だ。いや、もしかすると、クラリッサはオマケかもしれない。

 結局、ラッセルは借りてきた猫のように大人しくなってしまった。

 ただ、眉間に皺を寄せたまま、拓哉とクラリッサを睨んでいる。

 キャリックはそんなラッセルをチラリと見やるが、直ぐに肩を竦めて話を続けた。


「それで、戦闘プログラムの結果データを見て驚いているのだが、SBAとやらはどうなんだ? サイキックがなくても動かせる機体だと聞いているが――」


 相手がクラリッサであるだけに、キャリックの表情は叔父ではなく校長のものであるのだが、それでも隠せない優しさが滲み出ている。

 それを感じ取り、クラリッサは安心して自分の思ったところを口にすることができた。


「少し確認したいことがあります。ですから、機体についての報告は後日にさせて頂けませんでしょうか」


 キャリックはその言葉にゆっくりと頷くと、納得したような表情で言葉を返す。


「分った。報告の結果を楽しみにしているよ。あっ、それとホンゴウ君、これからもララカリアのお守りを頼むよ。以上、では行って宜しい」


 キャリックはそういうと、ボーアン副校長から見えないように、クラリッサと拓哉にウインクしてみせた。恐らく、後は任せろということなのだろう。


 ――本当に最高な叔父だわ。


 結局、クラリッサと拓哉は、後日、機体の報告をすることにはなったものの、それ以外のお咎めなしということで、そそくさと校長室を退室することになった。


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