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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
176/233

173 新たなる苦難

2019/2/28 見直し済み


 苦難と女難という言葉が、音の響きがよく似ている。

 拓哉はそんなことを考えていた。

 というか、女難には苦難が付いて回るものなのだろう。

 日本で暮らしていた時に、拓哉は全くモテた記憶がなく、まさか自分が女性問題で悩むなんて思ってもみなかった。

 これは、ある意味でPBAでの戦闘よりも苦戦している状態だ。いや、既に白旗を上げたい気分だった。

 なにゆえ、拓哉が苦難と女難について考えているかと言うと、その原因は目の前の状態にある。


「ですから、私は任務で大尉の側に居なければならないのです。それをバルガン少尉から不要だと言われても、ハイそうですかという訳にはいきません」


「上層部の人間が、何を考えて拓哉に側近を付けたのか、考えなくても解かります。お引き取り下さい」


 先程から、クラリッサとルルカ=マクアイア伍長が同じ遣り取りを延々と続けているのだ。

 ルルカ伍長から自己紹介があったあと、拓哉達は高速飛空艇に用意された部屋に案内された。

 そこは、小型飛空艇にしては割と広い室内であり、奥には大きなバスが設置されていた。そして、その極め付けは、大人四人が優に寝られそうな巨大なベッドだった。

 それを目にしたクラリッサは、一瞬だけ嬉しそうな表情をしていたのだが、彼女と一緒にそのベッドを眺めていたルルカ伍長の顔を見て、直ぐに眉間のしわを深くしたのだ。


 ――それにしても、なんの戦果も挙げてないのに大尉とはね……


 二人の争いに関わりたくないこともあって、拓哉は意識的に耳を塞いで、質素な任命書を眺めていた。


「少尉のいう上層部の考えとは、どういう意味ですか?」


「直ぐに解かることでしょ? あなた自身も、それが望みなのでは?」


 食い下がるルルカに対して、クラリッサが辛辣しんらつな言葉を投げかける。

 もちろん、ルルカも言わんとするところは理解している。

 ただ、クラリッサが上官だということもあって、先程から辛抱強く対応していたルルカだったが、さすがに聞き流せなかったのか、まなじりを吊り上げた。


「私は士官であって、娼婦ではありません。大尉が心休まるのなら考えなくもないですが、上層部に言われたからといって、身体を許したりはしません」


 ――いやいや、その台詞は思いっきり身体を許しているよな? 心休まるからと頼めば、癒してくれるんだよな?


 ルルカの反論になっていない抗議に、思わず溜息を漏らしそうになる。

 しかし、昨夜から癒され放題、癒し放題の状況だ。おまけに、クラリッサも一緒に居るのだ。他の人から癒してもらう必要はない。


 ――取り敢えず、間に合ってるな……


「はぁ、もういいわ。好きになさい。ただ、タクヤには、私を始めとした五人の妻が居ますから、あなたがタクヤを癒す機会はないわ。だって、いつも私達が癒しているもの」


 彼女の言葉に呆れたのか、クラリッサも溜息を吐く。

 しかし、その言葉には、語弊があると思う。


 ――何時もって……昨日の夜からだよな? てか、あまり大っぴらにすることじゃないだろ? だって、俺達はまだ未成年だぞ?


 やたらと自慢げに胸を張るクラリッサに、心中でツッコミを入れてしまう。

 ただ、これで終わりになるだろうと、安堵の息を吐いた。

 ところが、ルルカの締め括りは、少しばかり怪しげだ。


「ご、誤解されているようですが、さ、先程から申し上げているように、私は任務で側にいるだけです。下心なんて、これっぽっちもありません」


 ルルカは負けじとばかりに胸を張って締め括ったのだが、下心の辺りで瞳が怪しく輝いていた。


 ――お、おう。この大きさはミルルと張るかもな……いてっ!


 ルルカの大きな胸に見とれていると、いつもの肘鉄が飛んでくる。

 ただ、それよりも気になるのが、言葉と共に見せた「これっぽっち」のゼスチャだ。

 ルルカが見せたのは、人差し指と親指で表現したゼスチャだったのだが、その指の間隔は恐ろしく広く、全く以て、これっぽっちを感じさせないものだった。

 それもあってか、クラリッサが威圧するようなオーラで鋭い視線を拓哉に向けた。

 その眼差しは、間違いなくたぶらかされるなよと語っている。

 そんなクラリッサのオーラに怯む拓哉は、ただただ無言でカクカクと頷いた。







 色々と問題のあるルルカだったが、能力に関しては確かだった。

 彼女の報告内容がとても分かり易く、適切にまとめられていた。

 事実と分析、それに対する予測と憶測がきちんと整理された報告内容だった。


「そうなると、明後日には第一次防衛ラインで戦闘が行われる可能性があるのね」


「はい。バルガン将軍は遠距離攻撃オプションを各防衛ラインに配置して、PBAでの戦いよりも、集中砲火で侵攻してくるヒュームを迎え撃つ考えのようです。敵の特性や能力を考えれば、とても有効な対処だと考えられます」


 バルガン将軍――キャリックの執った対策は、ルルカにとっても素晴らしいと思えたようだ。


「というか、なんで校長が指揮してるんだ?」


「あら、叔父様が指揮官では不満なの?」


「い、いや、そういう意味じゃなくて……訓練校の校長が総指揮官というのに疑問を感じただけなんだ。だから、そんな目で見るなよ」


 拓哉の疑問は誰でも感じることだが、クラリッサとしては特に違和感を抱かなかったようだ。

 それは、クラリッサの身内びいきが影響しているだけで、実際は異例の事態だ。


「それはですね。基地のお偉方がみんな逃げ出したのです。それで残った士官が、バルガン将軍なら何とかしてくれると考えてお願いしたらしいのです」


「守るべき市民を置いて逃げ出すなんて最低だわ。アタックキャストで撃ち抜いてやりたいわ」


「バルガン将軍を引っ張り出すことは正解だと思うけど、軍人が逃げ出して首にならないのか?」


 ルルカの説明を聞いた途端、クラリッサは眉間に皺を寄せて、逃げ出した者達への罵りを吐き出した。

 彼女の過激な発言に、少し焦りつつも拓哉は肩を竦めた。


「それが首にならないのです。逃げ出した士官たちは純潔派の人間で、逃げ出すための理由を用意してましたから。そういう訳で、ミラルダ基地では反純潔派で溢れかえってます」


「ということは、純潔派はもういないの? でも、ミラルダ基地の軍人全員が、ミクストルのメンバーという訳ではないわよね?」


「いえ、今は全員がミクストルに移行しました。というか、そもそも半分の人間はミクストルのメンバーでしたし、今回の逃亡の件があったので、誰もが快く参入したようです」


 ルルカがミラルダ基地の状況をスラスラと答えてくれるだが、拓哉は訓練校のことを思い出す。


「そういえば、訓練校はなくなったと聞いているけど、訓練生どうなってるんだ? シェルターに避難したのか?」


「いえ、直接的な戦闘は出来ませんが、基地での仕事は山ほどありますから、訓練生は基地に居るはずです。ああ、当然ながら、純潔派の息の掛った者は逃げ出しましたが」


 ――なるほど、それなら良かった。


 残っている訓練生に対して、特に親しみを感じている訳ではないが、少なくとも顔を知っている者が悲惨な目に遭うのは気分が良くない。

 しかし、クラリッサはまるで気にしていないようだ。直ぐに戦闘について話題を戻した。


「明日には、第一次防衛ラインが戦場になるのね。この高速飛空艇が向こうに到着するのはいつ頃になるの? それと、敵の規模はPBAが千五百機だと言っていたけど、その情報は確かなの?」


「殺人射出でかなり時間を稼ぎましたが、早くて明日の夕方になると思います。敵の戦力に関しては、間違いないと思います。というのも輸送艦のサイズと隻数から簡単に算出できます。なんといっても、ヒュームの軍事設備は原始的ですから」


「そう……間に合わないね」


 ルルカの説明に、クラレは落胆の姿を見せる。

 そんな彼女の肩に手を置きながらも、拓哉は別の事を考えていた。


 ――ヒュームって最先端の象徴だと思うんだけど、その存在が原始的な設備を使用しているとか、なんか滑稽こっけいな話だよな。まあ、その理由はミルルから散々と聞かされたから今更聞く必要もないし、今は少し休みたいかな。


 ルルカが口にした殺人射出による疲労もあって、拓哉は話を打ち切ることにした。


「情報はだいたい分かったし、俺は少し疲れたんで休むことにするよ。何かあったら教えてくれ」


「そうね。私もまだ気分が優れないし、少し休みたいわ」


「了解しました。では、私は暫く情報整理をします」


 休息を執ることを告げると、クラリッサがそれに賛同した。

 それを見てまさかと思ったが、その疑問をここで口にする訳にもいかず、黙って彼女の言葉に頷いていると、ルルカが立ち上がって敬礼すると、拓哉の居室を後にした。

 そう、この居室は、間違っても拓哉とクラリッサの居室ではなく、飽く迄も拓哉に用意されたものだ。

 しかし、クラリッサは自分に与えられた部屋であるかのように振る舞う。いや、その振る舞いは、恐ろしく怪しい。

 というのも、彼女はスッと立ち上がると、座っている拓哉の背後に回り込み、両腕を首に回してきからだ。


 ――まさかな……昨夜に続き、今朝もしたばかりだし、ここでしたいとは言ってこないよな?


「ど、どうしたんだ? 抱き着いてきたりして」


「少し疲れたからベッドで休みたいんだけど、歩けそうにないの」


 とてもとても怪しいクラリッサから意味不明な返事がもたらされる。


 ――おいおい、俺の後ろまで歩いてきたじゃないか! てか、歩けないからどうしろと言ってるんだ? もしかしてお姫様抱っこでベッドに連れて行けと? それって……そのままベッドイン、いや、ベッドどころかクラレにインすることになりそうなんだが……


「それに、サイキックの訓練にもなるでしょ?」


 色々と思うところがある拓哉だが、クラリッサは全く気にしていないようだ。甘えた様子で、取って付けたような理由を用意した。

 なにしろ、その程度の訓練なら、既に必要ないほどに身につけているからだ。


 ――それは、サイキックで身体強化して連れて行けということか? それとも、身体強化した状態で情事を行えと?


 少し目眩を覚える拓哉だったが、何を言っても無駄だと判断して、彼女をお姫様だっこで寝室に連れて行く。そして、そっとベッドに横たえたのだが、予想違わず他にも要求があった。


「射出の衝撃で腕が上がらないわ。タクヤ。服も脱がせてほしいの」


 ――いやいや、ついさっき俺の首に両腕を回したよな? てか、この状況をカティやミルルが知ったら発狂するぞ?


 怒り狂うカティーシャやミルルカを思い浮かべる。しかし、拓哉も別に嫌ではない。いや、男なら誰もノーとは言わないだろう。

 彼女の要求通りに服を脱がす。もちろん、下着に手を掛けたりはしない。

 それは、行為の楽しみでもあるからだ。

 そんな訳で、クラレを下着姿にしてしまったのだが、彼女は上がらないといったはずの腕を伸ばす。拓哉を引き寄せるように両腕を広げた。


「寒いわ。タクヤ、温めて」


 ――やはりな……


 予想通りの展開を前にして、拓哉も服を脱ぐと、彼女の上に重なるように乗り掛かる。

 こうなると、拓哉も俄然やるきだ。いや、クラリッサが休息に賛同した時点で、既に決定事項だ。一気に気分が高揚し、二人の世界に入り込む。

 ところが、その途端、拓哉がずっと疑問に感じていた寝室の扉が開かれた。


「大尉、こっちは私の部屋なので、御用の際は何時でもお呼びください。って、お呼びじゃないですよね? お邪魔しました……」


 その扉から現れたのは、居室をあとにしたルルカだった。

 ただ、彼女は二人の状態を目の当たりにして、コソコソと消えていった。


 ――ずっと疑問に思ってたんだが、あの扉の向こうって、ルルカ伍長の部屋だったのか……


「寝室から別の部屋に続く扉があるから、きっと私の部屋だと思ったのだけど、ルルカ伍長の部屋だったのね……もうっ! あとで上層部にクレームを入れるわ」


 どうやらクラリッサは部屋の存在を認識していたようだ。

 そこから出てきたルルカを目にして、彼女はいきどおりを露にした。しかし、中断されたものの行為をやめる気はなかった。

 結局、カティーシャの予言通り、拓哉は昼間からクラリッサと情事に勤しむことになった。


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