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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
169/233

166 傍観者

2019/2/24 見直し済み


 その光景は、己が目を疑うものだった。

 それも仕方ない。なにしろ、PBAの一撃で小型戦闘艦が炎を噴き上げたのだ。

 それは、アルレストが西側の戦況を見ている時に起こった。

 実のところ、イノシシ男だと聞いていたドランガ将軍の作戦に感嘆していた。

 突出した人材の居る相手に、上手く立ち回っていると感じたからだ。

 ただ、今回の戦いが簡単に純潔派の勝利で終わってしまうかもしれないと、少し詰まらなさを感じていた。

 ところが、物凄い速さで登場したPBAが巨大な銃を撃ち放つと、いとも簡単に小型戦闘艦をぶち抜いたのだ。


「これほどの威力をどうやったら出せるのだ?」


「ありえない……」


 思わず疑問を口にしてしまったアルレストの横では、コレタルが狐につままれたような表情で立ち尽くしている。


 ――まあ、これを見れば、誰でもこうなるか……


 あんぐりと口を開けているコレタルから視線をモニターに戻す。


 ――威力もだが、あの正確無比なこと、連射が可能なこと、どれをとっても不可解だな。あれほどの技術がどこに埋もれていたんだ? これまで聞いたこともないぞ?


 打てば当たる。当たれば炎を吐き出す。三発も食らえば、間違いなく墜落する。

 まるで、質の悪い三流映画のようだった。


「なあ、コレタル。あれを再現させる技量が純潔側にあるか?」


 どれをとっても在り得ないと思えることばかりなのだ。だからといって、驚いてばかりもいられない。

 なにしろ、その黒いPBA――黒鬼神に対抗できる方法を考える必要があるからだ。


「戦艦級の武器を作ることは……論理的には可能でしょう。ただ、そのエネルギー源が問題です」


「だろうな。では、あの攻撃精度はどうだ?」


「不可能でしょう。これまでサイキック誘導弾を実現していたのは、火炎の鋼女だけですし、あの砲撃は誘導弾ではなさそうです」


「となると、あの精度はパイロットの技量か?」


「恐らく……」


 黒鬼神の黒い機体を見ただけで、それが鬼神と呼ばれたミラルダの訓練生だと予想できた。ただ、拓哉がそれほどのパイロットだとは思ってもみなかった。

 そう、彼等はまだまだ見誤っていたのだ。

 確かに、対校戦で見せた俊敏性に関しては常軌じょうきを逸していたが、遠距離攻撃にそれほど脅威を感じていなかった。

 その理由は、拓哉が中近距離の戦闘ばかりを行っていた所為だ。

 しかし、ここにきてやっと拓哉の実力を知ることになった。


「そうなると、奴に立ち向かえる者が思い浮かばないのだが……」


「おそらくですが、正攻法では無理かと……」


 ――やはりそうなるか……では、正攻法でない手段を選ぶしかあるまい。


 そうやって対抗策を考えている内に、西側の純潔側はあっという間に壊滅してしまった。いや、黒鬼神は燃え盛る艦隊を眺めることなく、戦闘を終えると直ぐに飛び立った。そして、その方向は、南側だった。


 ――南か……確か、火炎の鋼女が単騎で戦っているはずだな。ふむ。ミーファンは見捨てられたのかな。くくくっ、それだと面白いのだが……いや、それはいいのだ。それよりも、あのPBAを手に入れたいな。あの機体と武器を何とかして奪い取れないものだろうか……


「なあ、鬼神……確かホンゴウといったか、奴をこちらに寝返らせることはできないかな」


 機体だけを手に入れても意味がないかも知れない。ならばパイロットごと手中に収めた方が得策だと考える。

 しかし、コレタルは難しい表情で暫し考えた後に、ゆっくりと首を横に振った。


「おそらく無理でしょう。奴を繋ぎとめるために、氷の女王と呼ばれているクラリッサ=バルガンが婚約しているという話でした。あと、モルビス財閥も取り入っているようです」


「はぁ? 女か? 女で釣ってるのか? 奴は女好きなのか? 確かにいつも女を複数連れていたようだが……」


「それは分かりませんが、あの男はクラリッサ=バルガンが異世界から連れてきた者です。完全にたらし込まれていると考えて間違いないでしょう」


「ふ~む。それほどイイ女とも思えなかったがな~」


「あのツンデレ風が良いのでは?」


「ツンデレ……死語だぞ?」


「失礼しました」


 コレタルの情報をもとに、どうもこちらに引き入れるのは難しいと考える。

 それなら機体だけでも、いや、最低でもあの武器だけでも入手したいと結論付けた。

 そんなことを考えている間に、コレタルが失礼しますと言いながらモニターの映像を南側に変えた。

 確かに、いつまでも燃え盛る味方機を眺めていても仕方ないのだ。


「どうも南の状態はかなり悪いですね」


 コレタルが言う通り、味方は空母が一隻残っているだけで、あとはPBAが三十機いるかというところだった。


「確か、奴も新機体だったな」


「はい。以前の機体とは、全く違っていましたから」


 ――くそっ! モルビス財閥め……口惜しい。あれほどの技術がうちにあれば……


「あっ! やった!」


 モルビス財閥の突出した技術力に歯噛みしていると、コレタルが歓喜の声を上げた。


 ――おお、空母の主砲が直撃か……って、味方機まで巻き添えにしてるじゃないか……愚かな司令官だな……


「えっ!? あれで生き残っているのか?」


 主砲の攻撃で巻き起こった土煙と爆発が収まると、そこには赤い機体が立っていた。

 とても残念なことに、爆散したのは味方機だった。

 しかし、なんの効果もなかった訳ではなかった。


 ――もう虫の息だな……かなりボロボロじゃないか。って、ここで装甲パージか……なんとも芸の多い奴だな。


 鋼女の芸達者に呆れていたのだが、主砲を受けた被害は思ったよりも大きかったらしく、目に見えて動きが悪い。


「しぶとい。虫の息なのに……」


 純潔側のPBAを討つ赤い機体を目にして、コレタルが歯噛みする。


 ――まあ、腐っても鯛という奴かな。機体がボロボロでも並みのパイロットでは歯が立たないという訳か……だが、これで終わりそうだな。


「どうやら、なんとか片付きそうですね」


 空母が再び主砲を放つ準備を進めているのを見て、コレタルが笑顔をつくった。

 ところが、モニターに黒い機影が映る。


「は、速すぎる。あの距離をこの時間で?」


 黒鬼神が、拓哉が遣ってきたのだ。


 ――どうも、これで終わりなのは空母の方らしいな。


 リトアラス家の息子であるアルレストにとっても、降伏という名の行為は認められない。

 彼等にとっては、勝つか負けるかしかないのだ。そして、勝敗を決めるのは、黒鬼神が持つ武器だと感じていた。


「確かに速いが、それほど驚くこともあるまい。あの攻撃力に比べれば、移動速度などたいしたことではないぞ」


「す、すみません」


 ――ふむ。こいつの素直なところは美点だと言えるな。言い訳の多い奴は使えないからな。


 コレタルが素直に謝罪しているうちに、空母は呆気なく沈む。


 ――まあ、予想通りだ。それで鬼神はどうするかな?


 黒鬼神の行動を注意深く観察していると、今度は北に向かって飛び立った。


 ――ふむ……残念。東側に行けばいいのに……


 飛び立った方向で、ガルダルを助けに行ったのだと考えた。

 それを残念に思いながらも、モニターの表示を北に切り替えさせる。


「くっ! まだ生き残っていたか。だが、こっちは更に虫の息だな。ご自慢のアタックキャストも沈黙しているようだし」


 北の状況を見た途端、コレタルが毒を撒き散らす。

 ディラッセンでのことを考えると、それも致し方ない事だろう。少なからず、アルレストも同じ気持ちだった。


「そこだ! いけ! やれ! 始末しろ!」


 まるで格闘戦でも観戦しているかのように、コレタルが騒ぎ立てる。

 それをしかるのも面倒なので、空のグラスを向ける。


「あっ、失礼しました。直ぐにお注ぎします」


 それまで騒いでいたコレタルは、空のグラスを目にして、即座にワインの用意をする。

 コレタルの気持ちは理解できる。しかし、騒がしいのは好ましくなかったのだ。

 空のグラスにワインが注がれるのを眺めながら、ガルダルの最後を楽しみにするのだが、彼女の奮戦も尋常ではなかった。

 しかし、そろそろ終わりだと感じる。残った小型戦闘艦がボロボロとなったガルダルの機体に主砲を向けると、群がっていたPBAが退避を始めたからだ。

 ただ、アルレストは考えを変える。


 ――あの移動速度だと、そろそろやって来るのかな。


 黒鬼神が現れる頃だと考えた途端、モニターに黒い機影が映った。


「くそっ! また来やがった。いったい、どんな飛行速度なんだ」


 確かに、その原理や技術を入手したいものだが……手に入らないのなら……


「あれ? 会長。小型戦闘艦から脱出ポッドが射出されてます」


 どういうことだ? 撤退するなら戦闘艦で逃げればよいものを……いったい何を考えているんだ?


 その不可解な行動について考えるのだが、その理由が全く分からない。

 ただ分かったことがある。それは、全ての兵が逃げた訳ではなく、今まさに主砲が放たれようとしているということだ。

 しかし、アルレストの考えでは、既にチェックメイトだった。もちろん、味方の負けで終了だ。


 ――もはや無意味だ。あれが来たからには艦隊は全滅だろう。


 ところが、黒い機体は主砲が放たれようとしているのに全く逃げる様子を見せずに、そこに仁王立ちしていた。


「どういうつもりですかね?」


 黒鬼神の行動に疑問に感じたコレタルが首を傾げるが、アルレストからすると愚問だった。


「あの性能だ。戦艦の主砲ぐらいでは、壊れないのではないか?」


「ま、まさか……いくら何でも……」


 コレタルは信じられないといった表情でモニターを凝視する。

 そこでは五隻の戦艦が黒鬼神とガルダルの機体に向けて主砲を一斉掃射していたのだが、物の見事に弾かれる光景が映し出される。


「ほらな。私の言ったとおりだろ?」


 アルレストは、それ見た事かと自慢げな表情を浮かべる。

 途端に、コレタルが低頭する。


「申し訳ありません」


「構わんよ。さすがに、誰でも信じられないだろうからね」


 したり顔で告げたものの、かくいう彼自身も半信半疑だった。

 それもあって、特にコレタルを責めたりはしない。それよりも、いまは対策の方が重要だった。


「しかし、どうやらモルビス財閥は、ホンゴウとやらにとんでもないプレゼントをしたようだね。どうやって、あれを倒せばいいのだ?」


「そうですね。速さといい、攻撃力といい、防御力といい、全てが桁違いですから……」


 口惜しそうにするコレタルには、なにも思い浮かばなかったようだ。

 ただ、それを責める訳にもいかない。アルレスト自身が思案している最中だからだ。


 ――さて、どうしたものか。奴があの機体に乗れば、もはや無敵だと言っても過言ではないだろう。それこそ、真面に戦えるのは、朱い死神くらいかもしれない。そんな奴をどうやって倒す?


 別に拓哉を倒すことが目的ではない。しかし、拓哉がいる限り、純潔派に安住の時は訪れないと思えた。

 そうなると、拓哉を始末することが必須条件になる。


「なあ、コレタル。あの機体と武器を盗んでこれないか?」


「残念ですが、現状の戦力では難しいかと……」


「そうか……」


 無理だというコレタルを叱るつもりはない。

 なにしろ、アルレストにやれと言われても、無理だと思えるからだ。

 そうなると、取り得る策が限られてくる。


 ――はぁ~、仕方あるまい……とても残念だが……


 アルレストは溜息を一つ吐くと、それを気にするコレタルに空いたワイングラスを向けた。そして、思いついた対策の実行を命じる。


「爆破しろ!」


「はぁ?」


「はぁじゃない。ガルダルの機体を爆破しろ」


「も、申し訳ありません。今すぐ準備します」


 何とか助かったことで、ガルダルは最高に幸せな気分になっているはずだと思えた。

 それなら、爆破するのは今しかないと考える。その序に、黒い機体も壊れてもらうことにしたのだ。


 叱責されたコレタルは、あたふたしながら起爆スイッチを持ち出すと、直ぐに起爆させようとする。しかし、そこで待ったを掛ける。


「コレタル。待て! タイミングを見誤るなよ」


「は、はい」


 アルレストはモニターに映るガルダルの機体と黒鬼神を注視する。

 すると、黒鬼神がガルダルの機体を抱えて飛び立とうとする。


 ――よし! ここだ!


「いまだ! 押せ!」


「はい! 死ね! ガルダル!」


 コレタルが呪詛の如き毒を吐き出しながら、起爆スイッチを押す。

 これで、万事終了。全てが丸く収まるはずだった。

 ところが、モニターは何も変わることのない戦場を映し出している。


「何も起きないが?」


「あれ? 死ね! 死ね! 死ね!」


 何も起きないのを見て、コレタルに視線を向ける。焦ったコレタルは、何度もスイッチを押し続けていた。


「自爆装置のヘルスチェックは出来ているんだろ?」


「はい。異常は検知されてません。このランプが青いままになってますので、間違いなく自爆装置は撤去されていないはずです」


「では、なぜだ?」


「さあ、何か細工をされたのでしょうか」


「わからん。ちっ、つまらん……でも、まあ、面白い余興だったし……」


 いまさら、あれやこれやと考えても、結果は同じだ。

 無駄な考え休むに似たりと言わんばかりに、アルレストは肩を竦めて終わらせる。

 なにしろ、これは悪い結果ではないのだ。当初から望んでいた結末の一つなのだ。そう思うと、自然と笑いが込み上げてきそうだった。


 ――艦隊は全滅だし、これでイストレの奴も失脚さ。くくくっ。それだけでも成果はあったか。


「もういい。戻るぞ! あと、例の奴等を呼び出せ。今度は問題なく呼び出せるはずだ」


「は、はい。了解しました」


 まるでサウナ風呂にでも入ったかのように、汗をダラダラと流すコレタルを他所に、アルレストは爆破が失敗したことを残念に思いつつも、兄であるイストレの失態を考えて、とても面白い戦いだったと満足するのだった。


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