148 美少女戦士リターン
2019/2/15 見直し済み
世の中とは、本当に上手くいかないものだ。
純潔の絆によるディートへの攻撃。ミラルダを襲うべく向かってくるヒューム。
それを阻止するために、直ぐにでも出撃したい。
その想いが焦りとなっているのに、それとは裏腹に、ミリアルから足止めを食らい、ローレに猿扱いされる。そして、極めつけは、突然の襲撃者だ。
あまりのウザさに、憤りが込み上げてくるのを感じていた。
「おい、大丈夫か?」
ビルの上から見えない攻撃を受け、取り敢えず建物の中にと逃げ込もうとしたのだが、先頭で先を急いでいたキャスリンが、まるで何かにぶつかったかのように引っ繰り返ってしまった。
「いった~~~。なによ、いったい! 何かにぶつかったんだけど……」
カティーシャの手を借りて起き上がったキャスリンが、お尻と鼻を摩りながら文句タラタラとなっていた。
ただ、何かにぶつかったと聞いて、誰もが怪訝な表情を見せる。クラリッサもその一人だ。
「ぶつかった? 何も見えないけど……本当だわ。壁がある。これってシールド?」
苦言を聞いたクラリッサが、まるでパントマイムのように見えない壁に手を当てる。
しかし、トトからすれば、その存在を見破るのは造作もなかった。
「力の壁があるんちゃ。この力はサイキックなんちゃ」
拓哉達と違う視界を持つトトが、すぐさまその存在を見破るのだが、キャスリンが少しだけ不服そうな表情をみせた。
おそらく、分かるのなら先に教えろと言いたいのだろう。
「多分、クラリッサの言う通り、シールドの応用だろうな」
ミルルカが自分の考えを口にするが、解除や破壊の方法については言及しない。
間違いなく、何も思いつかないのだろう。そういう意味では、全く意味のない発言だ。
事実よりも対策を知りたい拓哉としては、肩を竦めるほかない。
そんなタイミングで、レナレが素っ頓狂な声を発した。
「ウニャ! 何ですかニャ?」
彼女は咄嗟に飛び退く。
野生の勘か、それとも本能か。まあ、猫娘であっても野生から来たわけではないので、間違いなく後者だろう。
ただ、飛び退く前の場所で、きらりと光が弾けた。
その光景から、彼女が本能的な行動で避けたのは、敵の攻撃だと悟る。
「サイキック弾を撃ち込んでるのでしょう。それもかなり小さいモノのようですね」
ガルダルも拓哉と同じ光の輝きを目にしたのだろう。すぐさま敵の攻撃について予想を立てた。
しかし、拓哉はそこで危機感に襲われる。
――見えない壁、見えない攻撃、見えない敵……見えるのはトトだけか……レナレは野生の勘で感じ取ってるようだが……どう戦う? これって、かなりヤバいんじゃないのか?
何もかもが見えない尽くめでピンチだと感じる。
なにしろ、見えない敵から見えない攻撃が放たれるのだ。どう考えても防ぎようがない。
ところが、トトはやたらと自慢げだった。
「ここは、やはり融合なんちゃ!」
「そうか!」
「いやだ!」
――トトと融合すれば相手が見えるのか。つ~か、ミルルが即座に拒否ってるし……
拓哉からすれば、トトの考えは画期的だった。というか、それしか手段がないとも思えた。
しかし、ミルルカはウンと言わない。それどころか、おろしほどの勢いで首を横に振っている。
「ミルル、何で嫌なんだ?」
「なんでもだ。理由なんてどうでもいい。嫌なんだ」
「いやいや、それじゃ分らんし」
「とにかく嫌なんだ」
「そうは言っても、トトとの融合は、ミルルしかできないんだろ?」
「それでも絶対に嫌なんだ!」
ミルルカは理由を説明しないどころか、頑として首を縦に振らない。
実際、選り好みをしている場合ではない。ここは、何とかして頷いてもらうしかないのだ。
ただ、今の様子からすると、何を言っても無駄だろう。
ミルルカの強情なところは、拓哉も知るところだ。
「じゃ、その作戦はダメか……」
「うむ」
やっと見つかった打開策だったが、ミルルカから完全に拒否されたことで振出しに戻る。
しかし、トトが憤慨する。
「敵がもう目の前まで来てるんちゃ! ミルル、我儘はダメっちゃ!」
「だ~れが、我儘を口にした! 私は正当な権利を行使しているだけだ」
何が正当な権利なのかは解らないが、梃子でも融合はしたくないらしい。
それよりも、この時も敵が向かってきている。それが問題だ。それこそ、直ぐに対処しないと、やられたい放題だ。
しかし、さすがに全滅は頂けない。最悪のケースを考えて、カティーシャとキャスリンに指示を出す。
「カティ、キャス、二人とも隠形サイキックで身を隠せ!」
「ボク達だけ?」
「あたしとカティだけ?」
「仕方ないだろう。少しでも被害を小さくしたいんだ」
「分かったよ……」
「分かりました……」
自分達だけが身を隠すことに不満を持った二人が、不服そうにするのだが、理由を告げるとしぶしぶ隠形スキルを発動させようとする。
ところが、二人の表情が曇る。いや、困惑しているようだ。
「あれ? 出来ない」
「えっ!? なんで?」
二人が隠形を発動させることなく不思議そうにする。ただ、シールドを展開しようとしていたクラリッサが、状況を把握した。
「シールドも展開できないわ。さっきまでは使えたのに……これってサイキックアンチフィールド?」
「何だって!?」
クラリッサは攻撃を受けていると知って、即座に障壁を張ろうとした。しかし、それが上手くいかないことで気付いたのだ。
「野外でアンチフィールドなんて、聞いたことがないわ」
「それでも、これが現実だと受け入れるしかなさそうだね」
キャスリンが表情を強張らせると、カティーシャは全く残念そうに見えない表情で肩を竦めた。
自分達だけが隠れるという不名誉が回避されて安堵したのだ。
ただ、拓哉としては、全く喜べない。少しでも助かる方法を取りたかったのだが、この状況では仕方ないと判断する。そして、ミルルカに視線を向ける。
「ミルル! 融合しろ!」
「やだ! 嫌だって言ったろ?」
「駄目だ! ここはお前に掛かってるんだ」
「嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!」
好き嫌いよりも、いまは命の方が大切だ。
そう考えて、ここはミルルカの意見を無視することにした。
ミルルカに融合を強制すると、まるで駄々っ子のように騒ぎ始めたので、トトに頼ることにしたのだ。
「トト、お前から強制的に融合する訳にはいかないのか?」
「それは無理なんちゃ。合言葉を唱えないと融合できないんちゃ」
「くそっ! それじゃ駄目だな……」
無理矢理に融合させようと画策したのだが、残念ながら諦めることになる。
ところが、トトは諦めていなかった。いや、嫌らしい笑みを浮かべた。
「誰かがミルルの手を握って、合言葉を唱えればいいんちゃ」
「嫌だ~~~~~~~~~~~! やめろーーーーーーー!」
どうやら裏技があったようだ。トトがそれを告げた途端、ミルルカが後退りしはじめた。
しかし、彼女には残念なことだが、拓哉は決めたのだ。
「ミルル諦めろ! みんなミルルを押さえつけろ。合言葉は俺が唱える」
覚悟を決めた拓哉の言葉に誰もが頷く。クラリッサ、カティーシャ、キャスリン、ガルダル、レナレ、五人がミルルカを抑えつけた。
「後生だ! タクヤ。後生だ! 勘弁してくれ! お願いだ!」
抵抗できなくなったミルルカが必死に懇願する。しかし、拓哉は完全に耳を塞いだ。
「じゃ、トト、合言葉を教えてくれ」
「了解なんちゃ。合言葉は『ラブラブラブリン。あなたと私の心を一つにするんちゃ~! ラブリーハートミ~~ックス!』なんちゃ!」
「や、やっぱり、止めていいか?」
合言葉を聞いた拓哉が顔を引き攣らせる。そして、少なからずこの合言葉がミルルカの嫌がる理由の一つだと考えた。
しかし、トトは拒否を許さなかった。
「何を言ってるんちゃ! 覚悟を決めるんちゃ!」
――しかしな~。さすがに恥ずかしすぎるぞ。
覚悟が決まらない拓哉を焚きつけるかのように、トトが敵の接近を知らせる。
「敵がもう目の前まで来てるんちゃ!」
「え~い、くそっ! やったら~~~~~~~! じゃあ、合言葉いくぞ」
なんだかんだ言っても、やはり命の方が大切だ。
ここは恥じることなく、合言葉を唱えるべきだ。
腹を括ることにした拓哉は、即座にミルルの手を取った。
その途端、トトがニヤリとする。
「くふふふっ、それじゃ~、いくんちゃ!」
「やめろ! やめろ! 止めるんだ! 嫌だ! 絶対に嫌だ~~~~~!」
「「ラブラブラブリン。あなたと私の心を一つにするんちゃ~! ラブリーハートミ~~ックス!」」
「やめろ~~~~~~~~~~~~!」
ミルルが拒絶の怒号を上げる中、恥も外聞もなく拓哉は合言葉を口にした。
次の瞬間、拓哉は光に包まれていた。
別に拓哉自身が発光している訳ではない。ただ、光り輝く世界に居るように感じた。
しかし、その輝きは直ぐに収束し、視界が次第に回復してくる。いや、新たな視界が生まれたといった方が良いのかもしれない。
それほどに、世界が鮮明に見て取れた。
ただ、そのことで、ふと疑問に思う。
「あれ? 俺にも効果が出てるのか?」
疑問を投げかけるのだが、既にトトの姿はなくなっていた。
仕方なく視線をミルルカに向けたのだが、そこで驚愕する。
「あれ? いつの間に着替えたんだ? てか、なんで美少女戦士風の恰好なんだ? いや、どちらかというと、美少女戦士風俗の格好じゃね~か」
拓哉が驚くのも当然だ。なにしろ、そこにはまるでセーラー戦士のようなクラリッサ、カティーシャ、キャスリン、ミルルカ、ガルダル、レナレが居たからだ。おまけに、やたらとエロい。胸のボリュームが足らないカティーシャ、キャスリン、レナレ、三人はそうでもないが、クラリッサ、ミルルカ、ガルダルの三人は、思いっきり下乳が露出している。さらには、いまにもパンツが見えそうなほどにスカートが短い。
――これって、誰の趣味だ? まあ、俺的には、大好物だが……
「だ、だ、だから嫌だったんだ~~~~~~~~~~~~~!」
思わず見入る拓哉を他所に、ミルルカの叫び声が轟く。そして、彼女が嫌がっていた理由を察した。
「見るな! タクヤ! 見るな! 私を見るな!」
しゃがみこんで身体を隠そうとしているミルルカが必死に懇願するが、拓哉としてはその衣裳がとてもナイスに思えた。
「何を恥ずかしがってるんだ? ちょっとアレだけど、似合ってるし、可愛いと思うぞ? ちょっとエロいんで、他の男には見せたくないけどな」
「えっ!? 可愛い? マジで? 揶揄ってるだけだろ?」
拓哉の素直な感想に、ミルルカはキツネにつままれたような表情で困惑する。
どうやら、素直に受け入れられないようだ。いや、彼女からすれば、信じられないのだろう。
しかし、拓哉は現在の状況すら忘れて褒め称える。
「クラレも、カティも、キャスも、ミルルも、ガルダルも、レナレも、みんな良く似合ってるぞ」
「さすがに、これはないわ。ギルルが嫌がる理由が分かったわ。恥ずかしすぎるもの。でも、拓哉がそう言ってくれるなら……」
「ボクも久しぶりに女の子の恰好で、かなり恥ずかしいかな。それに、お腹が寒いし……」
「本当に似合ってます? もしそうなら嬉しいです……」
「ほ、本当か? いい齢をして恥ずかしい奴だとか思ってないか?」
「あの~。これ、ヤバ過ぎない? 動くと胸が見えそうだし……」
「やったですニャ~! こんなの着てみたかったのですニャ!」
クラリッサ、カティーシャ、キャスリン、ミルルカ、ガルダル、レナレ、全員が自分の気持ちを拓哉に伝える。
ただ、ガルダルが言うように、胸の大きい組はかなりヤバイ状態だった。
「う~ん。クラレとミルルカ、それにガルダルは、あまり動かない方がいいかもな。てか、他の男に見られたくないし」
実際はそういう訳にもいかないのだが、拓哉が独占欲を発揮すると、三人は恥じらいながらも、やたらと嬉しそうにする。
「ふふふっ。そうね。私はタクヤだけのものよ」
「私も、タクヤ以外には見せたくないな」
「恥ずかしいけど、たっくんがそう言ってくれるのは、とても嬉しい……」
クラリッサがニヤリとし、ミルルカが少しだけ自慢げにする。ガルダルは頬を染めて身を捩っていた。
ただ、そうなると、不満を抱くも者がいる。
「ねぇ、タク、それってどういうことかな?」
「やっぱり、巨乳なんて死ねばいいのよ」
不満を露わにするカティーシャはまだしも、キャスリンはドロドロとした恨み言を口にしていた。しかし、今は内戦を勃発させている場合ではない。
「おいおい、今は身内で揉めている場合じゃな――なーーーーーーーーーーー!」
ジト目を向けてくるカティーシャと地縛霊のようなキャスリンを窘めるのだが、そこで自分の状態に気付いた。
「た、タクヤも可愛いわ……よ?」
「それはそれで、イケてるのかな?」
「なでなでしたい気分になりますね」
「動きづらくないか?」
「どうして、たっくんだけ?」
「その着ぐるみも着てみたいですニャ!」
クラリッサ、カティーシャ、キャスリン、ミルルカ、ガルダル、レナレ、六人がと拓哉の姿を見て感想を述べた。
そう、拓哉は黒猫の着ぐるみを纏っていたのだ。
「トト! ここはタキシード仮面だろ! なんでルナなんだ~~~!」
敵が間近に迫る中、女性陣が美少女戦士に変身したのだが、なぜか自分だけ黒猫の着ぐるみ姿となっていることに、拓哉は不平の声をあげたのだった。