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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
15/233

12 トップガン

2018/12/27 見直し済み


 金属とプラスチックで造られた無機質な作業台。

 そこに特殊な作業端末を設置して、今まさに動作プログラムの更新を行っている。

 既にプログラム自体は完成している。あとは既存情報をバックアップし、新たなプログラムパッケージを投入するだけだ。

 本来ならもっと早く片付けられるはずだった。ところが、拓哉が旧プログラムを使用した機体の評価テストを行った結果、見直す部分が多く出てきたのだ。それにより、予定よりも大幅に遅れていた。


「タク、お前はもう戻って寝な」


「えっ!? でも、ララさんは?」


 ララカリアとしては、拓哉には明日も機体の評価に精を出して欲しいと考えていた。

 ところが、既に夕食の時間も過ぎていて、もう少しすれば今日という日が終わりを告げるのだ。

 それ故に、さっさと休んで欲しいところなのだが、拓哉が思ったよりも律儀で困っていた。


「お前は明日もやることがあるんから、四の五の言わずにさっさと休め。あたいは徹夜なんて何時ものことさ。てか、上司の言うことが聞けないのか?」


「うっ……わ、分りました……」


 結局、強く叱られてしまい、拓哉はションボリと項垂れる。


 ――あう……そんなつもりじゃなかったんだが……いや、これでいい。


 渋々と部屋に引き上げる拓哉の姿を見て、焦りを感じるララカリアだったが、これで良かったのだと思うことにしたようだ。


「さ~て、いっちょ、気合を入れてやるか」


 自分自身を鼓舞するように両手で両頬を叩き、気合を入れる。だが――


「いった~~~! 思いっきり叩き過ぎた……」


 ジンジンする頬を両手で擦りながら、自分の行為を少しだけ後悔するのだった。








 ララカリアは貧しい一般家庭に生まれた。

 両親は共働きで、兄妹きょうだいは二人。上には齢の離れた兄がいる。いや、居たと言うべきだろう。

 貧しくも幸せな家庭で過ごしたララカリアだったが、齢を追うごとに世間からの視線が鼻に付くようになった。

 そう、この世界ではサイキックを使えない者は無能者と呼ばれ、蔑みの対象となるからだ。

 建前上、公的には否定される行為だったが、現実は無能者に冷たい。まともな職に就けないなんて当たり前であり、酷い地域では奴隷のように扱われる。そして、彼女の家族も蔑みの対象だった。

 それでも彼女の両親は、真面な職に就けていた方だろう。貧しいながらも幸せな家庭生活を送っていたのは、その証だと言えるはずだ。

 そんな彼女の家庭に不幸が襲い掛かったのは、ヒュームの反乱が起こり始めた頃だった。当時の彼女は幼く、何が起こっているのかなんて全く理解していなかったが、暫くすると徴兵された父と兄が戦死した。

 それはとても悲しい出来事であり、彼女の心をズタズタに引き裂いた。それ故に、彼女は戦争を憎んだ。ヒュームを憎んだ。いつか必ず戦争やヒュームの消滅に関わってやると誓った。ただ、自分でそれを成すことができないことは理解していた。


 それが起ったのは、父と兄が戦死したと聞いてから暫く経ってからだった。

 母親が夜中に泣き崩れて、うわ言のように漏らした言葉を聞いてしまった。

 その時の彼女は、それを聞いたことを後悔した。それほどに衝撃的で、怒りと悲しみが収まらなかった。驚愕を通り過ぎて震えが止まらなくなるほどに。

 彼女の父と兄は、戦場でサイキック保持者たちの盾になって死んだのだ。それも、捨て駒のように殿しんがりを強制されて、まるで家畜のように蹴散らされて死んでいったのだ。

 どうやってそれを知ったのかは分からない。ただ、彼女の母は毎晩のように嘆き悲しみ、いつしか気が狂ってしまった。

 そして、彼女の母が己の命を絶つのに、それほど時を必要としなかった。

 ある日、学校から帰ったところで、彼女は血溜の中に横たわる母の姿を見た。

 彼女にとって、それはとても悲しい出来事だった。しかし、それほど驚くことでもなかった。いや、その時の彼女は、それで良かったのだと納得してしまった。

 なぜなら、こうなることは予測できていたし、それが母親の幸せに繋がるのだと思えたからだ。


 父と兄を戦場でなくし、母がその後を追った。そして、ララカリアは独りぼっちになった。

 ところが、事態が急変した。彼女にはサイキックの適性があり、一般的な者よりも勝っているとの結果が出たのだ。

 当時十歳に満たない彼女が、保護施設に預けられた時の結果でそれが解ると、一気に待遇が変わった。

 そのことに内心で憤りを覚えながらも、彼女は言われるがままにサイキック高等施設へと入ることになった。

 なぜなら、彼女には目標があったからだ。そう、戦争もヒュームも悪辣なサイキック保持者も全て消し去るという目標だ。

 強い想いを抱くララカリアは、サイキックではなく、プログラマとしての道を選んだ。それは己のサイキック能力では目標達成を成し得ないと感じたからだ。いや、サイキックを憎んでいたのかもしれない。

 それ故に、彼女は無能者が力を持つための開発に全力を注ぐことにした。

 そして、とうとう出会ってしまった。


 ――遂に、遂にきた。念願の時がきた。これが運命と言わずして何と言おうか。


 それは衝撃だった。本来ならば鈍足な初級機体が流れるように動き、時に俊敏な動作で演習場を駆けまわる。

 その様は、圧巻だった。これまで見たどのドライバをも超えた存在だと感じた。

 その結果は、シミュレーションを見たこともあり、ある程度は予想していた。だが、そうであるのにも拘わらず、驚愕という言葉では言い表せないほどに彼女を震撼させた。


 ――神の恵みだ。神が降ろしてくれた剣だ。タクこそが神器だ。


 拓哉が操る機体の動きを目にした時に感じたのだ。遂に自分の全力を受け止めてくれる存在が現れたのだと、自分の全てを注ぎ込んだプログラムを生かす存在に巡り合ったのだと。

 それ故に、ララカリアは妥協しない。今夜も徹夜になろうが、毎日徹夜になろうが構わない。


 ――奴が「凄い!」と唸るほどの機体を作ってみせる。


 彼女はそんな熱い想いを胸に、プログラム入れ替え作業を続けた。








 ――う~む。誰だ、あたいの幸せな眠りを妨げる奴は……


「ララさん、こんな所で寝てたら風邪ひきますよ」


 その声は、ここ最近になって毎日聞いているのもだった。


「ああ、タクか……」


「タクか、じゃないですよ! さあ、プレハブに戻りましょう」


 未だに眠気から抜け出せないララカリアに、拓哉が少し強い口調で話しかける。


「いや、会議室で休むとしよう。作業は終了したが、評価テストがあるからな」


「ですが……分りました。でも、こんなことをしていると身体を壊しますよ」


 ――ほんと、こいつも細かい奴だな……まるで、嫁みたいだ……


 溜息を吐きつつも椅子から降りたのだが、寝起きで身体に力が入らずヨロめいてしまう。


「ほら、言わんこっちゃない。昨日の昼から何も食べてないでしょ」


「あっ、わ、わるい」


 ヨロめいたララカリアを、拓哉は軽々と支えながら叱責した。

 彼女は謝りつつも、肩を竦めて最後に食べた食事のことを思い出そうとする。


 ――そういえば、作業に夢中になって何も食べてなかったんだっけ……うおっ!


 全く食事を摂っていなかったことに思い至ったところで、突如として彼女は浮遊感に襲われる。

 拓哉に軽々と抱え上げられてしまったのだ。そう、お姫様抱っこという奴だ。


「あ、あ、あれ?」


 未だにしっかり覚醒していないこともあって、不覚にも間抜けな声を上げてしまう。


 ……これって……お、お姫様抱っこ……というやつか!?


 ややと表現するには、かなり焦っているのだが、意識が朦朧としてることもあって態度には出ていない。

 それ故に、軽々と抱き上げたタクは全く気にした様子もなく、そそくさと会議室に移動すると、ララカリアを長椅子に横たえた。

 挙句に、何処から持ってきたのか、会議室には常備されていないはずの毛布をララカリアに被せた。


「こんなことだろうと思ったんですよ。朝食はテーブルの上に置いてありますから、目が覚めたら食べてください」


「あ、ああ……」


 ――何とも用意周到というか、できた嫁だ。てか、あたいは何を考えてるんだ! タクをあたいの女房になんて……あっ、女房ではなく、旦那か……いやいや、どちらも違うんだ。本当に違うんだ。でも、散々と恥ずかしい物も見られてしまったし……まあ、パンツはいいだろう。別にビキニパンツとか、ヒモパンツとか、割れパンツなんて高尚な代物を穿いている訳じゃないし……でも、かなり汚れていたし……いや、パンツはいいんだ。問題は興味本位で買ってしまった必要のないブラだ。あれは、流石に超絶恥ずかしかった。う~む。こうなったら責任を取ってもらうか。でも、やつには氷の女王がいるしな……うっ、ね、眠くなってきた……


 ララカリアは十歳も年下の男のことを考えながら、胸をドキドキさせていたのだが、どうやら睡魔のパワーはそれ以上だったようだ。

 どこからか聞こえてきた拓哉の「おやすみなさい」という声を最後に、ぷっつりと意識がなくなった。








 初級機体のテスト時も驚いたが、もはや全てがララカリアの想像を超えていた。

 彼女からすると、拓哉の操作能力は、完全に機体を上回っていると思えた。

 何といっても、今回のプログラム変更で、これまでの機体とは別物になっているはずなのに、まるで己が手足のように操っている。

 それこそ、あの武骨な機体の動くさまが、恰も人間であるかのように錯覚するほどなのだ。


「どうだ?」


 ララカリアは尋常ではない機体の動きに見惚れていたのだが、ハッと我に返って機動テストの様子を尋ねてみる。すると、ヘッドホン越しに拓哉の声が聞えてきた。


『悪くないですね。前回よりもはるかにいい』


 ――悪くないだと! こいつは異常だ。とことん異常だ。今回入れ替えたプログラムは、以前のものに比べ遙に繊細な操作が求められるはずなのに……


 戦闘力だけで言っても、二十パーセント向上させるつもりで作り上げたのだが、それを悪くないの一言で終わらせてしまった。

 その口振りからして、まだ不満があるようだ。


 ――これでも足らないのか? 不満だというのか? 恐ろしい奴だな……


 拓哉の言動におののいていると、デクの声が彼女の耳に届いた。


「こりゃ、トップガンも満更冗談ではなさそうだな」


 ――何をトンチンカンな事を言ってるんだコイツは……これはもうトップガンなんてレベルじゃない。それなりの機体を与えてやれば、一個連隊すら一人で片付けてしまうかもしれん。それほどの能力だ。というか、劣勢となっているヒュームとの戦いにおける希望になるかもしれんというのに……いや、それには機体が要る。奴の手足となる最高の機体が……


 その能力に恐れを抱きながらも、拓哉に合った機体をどうやって作るかと悩みながら、ララカリアは未だ終わることのない機動兵器の演武をニヤケた顔で見守るのだった。


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