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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
147/233

144 ゴレタ兄弟

2019/2/13 見直し済み


 それは、長閑のどかな風景だった。

 陽の光を浴びて黄金の如く輝く穂が、風に吹かれてキラキラと瞬く。

 きっと、誰もが美しいと感じる景色だ。いや、美しいだけではなく、人の糧となる素晴らしきモノなのだが、その価値を認めない者も居る。


「よくもこんな田舎に都市を作ろうと思ったな。本当に愚民の考えは分からんものだね」


「そうですね。見渡す限り麦畑ばかりで、これといって何もない風景ですね」


 ――コレタルの言う通りだ。なぜ、私がこんな片田舎まで出張らなければならないんだ?


 ディラッセンでの失敗を取り戻すためにここまで来たのだが、アルレストは思わず愚痴を零しそうになってしまう。

 少なからず考えがあって、ここまで出張ったのだが、未だに怒りが収まらない。

 それもこれも、あのバカ女とバカ猫の所為だと、心中で罵りの言葉を続ける。

 もちろん、バカ女とはガルダルであり、バカ猫はレナレのことだ。

 忌々しい二人の女を思い出し、心中で罵倒するのだが、全く気分は優れない。

 そんなアルレストに、コレタルが不安な表情を見せる。


「会長、本当に上手くいくでしょうか? 確か、あの女は対人戦闘でもAクラスですが……」


「何を言っているのかな? ゴレタ兄弟を差し向けたのだよ。奴等がその気になれば、あんな娘どもは、手も足も出んさ。それよりも、艦隊はどこまで来ている?」


 怖気づくコレタルに問題ないと告げる。それよりも、アルレストにとっては、艦隊の方が気になっていた。


「は、はい。現在、ディート北東四十キロの地点で集結中です」


 ――ふむ。予想よりも速かったな。まあ、向こうにはガルダルや鬼神がいるのだ。奴等も唯では済むまい。それはそうと……


「ところで、艦隊の指揮官は、誰だ?」


「確か……ドランガ将軍です」


「あのイノシシか……これは艦隊の被害も大きくなりそうだな」


「そうですね。ドランガ将軍と言えば、力押しでしか戦えない男ですから……ただ、どうやら、イストレ様も同行しているようです」


「はぁ?」


 ドランガ将軍と聞いて、よくぞそんな無能な奴に指揮官など任せたものだと呆れているのだが、続けて出てきたコレタルの情報を耳にして、アルレストは間抜けな表情を見せてしまった。


「あのバカが、のこのこやって来たのか? まさか、楽勝だと考えての行動ではあるまいな? いや、あのバカのことだ。十分あり得るか……ということは、手柄欲しさにやって来たのだな。本当に愚かな男だ……」


 アルレストにとって、イストレとは二番目の兄であり、思わずバカを連呼してしまうほどに嫌っている男だ。

 彼からすれば、蛆虫いかの存在であり、やることなすこと、何もかもが嫌悪の対象だった。


「どうやら、イストレ様は鬼神の実力をご存じないようですね」


 まさに火事場泥棒みたいな奴だと考えながら、その愚かな男に対する罵り声を上げると、コレタルがおずおずと自分の意見を述べてきた。

 現場で見ていたアルレストですら、直ぐには信じられなかったのだ。イストレ如きに理解できるはずもないと判断する。そして、胸の内から歓喜が込み上げてくるのを感じる。


「くくくっ、これは面白くなってきたな……今回に限っては鬼神に頑張ってもらいたいと思えてきたぞ。だが、残念なことだな。もう少しその情報を早く入手できていたら、ゴレタ兄弟を差し向けたりしなかったのに」


 あまりの毒に、コレタルは顔を青くして押し黙る。

 彼の立場では、そうですねと言う訳にもいかない。なにしろ、コレタルにとってのイストレは、遣える家の息子なのだ。


 ――まあいい。それはそうと、当のゴレタ兄弟はどうなっているのかな?


「あの兄弟は、どこにいる?」


 直ぐに思考を切り替えたアルレストは、青ざめた表情で突っ立っているコレタルに、ゴレタ兄弟の状況を確認する。


「先程、連絡がありましたが、既にディートの街に侵入してます」


「ふむ。上々。奴等には出撃前にやれと伝えてあるのだろ?」


「はい。艦隊との戦いが始まるまでに、始末しろと伝えてあります」


「うむ。それなら致し方あるまい」


「えっ?」


 ついつい遊び心が芽生えてしまった。そう、大嫌いな二番目の兄――イストレの情けない顔を拝みたいと感じたのだ。

 しかし、それと知らないコレタルが、驚いた表情を作っている。


「くくくっ。すまん、すまん。気にするな。ちょっとした出来心だ。問題ない。そのまま進めてくれ」


「分かりました」


 鳩が豆鉄砲でも食らったかのようなコレタルの醜態を目にして、思わず笑いが込み上げてくる。


 ――まあ、奴に私の気持ちは分かるまい。そう、ゴレタ兄弟を撤収させて、艦隊全滅を考えていたなんて、恐らく夢にも思っていないだろうな。まあいい。それよりも例の奴等だな……


「コレタル、例の奴等はどうなっている?」


 そう尋ねると、コレタルが少し話し辛そうにする。

 それは、アルレストが考える二つ目の策に関するものだったが、コレタルの様子から、邪魔が入っているのだと察する。


 ――ふむ。恐らく、誰かが邪魔をしているのだろう。あの艦隊にいる愚か者だと思うけどな。


 事情を勝手に先読みしていると、答えに困窮していたコレタルが、仕方がないといった様子で口を開いた。


「どうも、他の任務に就いているらしく、直ぐには来られないとのことでした。恐らく、二、三週間は時間が必要だと思います」


 その返答で、自分の考えが正しかったと判断する。

 そう、アルレストには敵が多いのだ。それを重々承知しているが故に、簡単に予測できることだった。


 ――やはりな。あの愚か者が裏で手を引いているのだろう。まあいい。取り敢えず、今回はこのままで作戦を遂行するとしよう。仮に上手くいかなかったとしても、それはそれで面白いかもしれんな。


 ハンカチで汗を拭っているコレタルを眺め、今回の作戦が失敗した時の事を考える。


 ――あのバカ次男が戦死なんてオチになるなら、ゴレタ兄弟の失敗を望みたくなってくるというものだ。そう考えると、結果はどちらでも構わないのだから気楽なものだ。さあ、どんな結末となるかな。


 未だに、落ち着きをなくしたままのコレタルを他所に、アルレストはゆったりとしたソファに身体を預けると、血のような色合いのワインで喉を潤した。









 ディートの街は、活気どころか恐怖が漂っていた。

 誰もが顔を青くし、やたらと落ち着きのない者達で溢れていた。

 そんな光景を眺めて、一人の男が舌打ちする。


「ちっ、つまんね~」


「だよね。折角の街なのに、どの店も閉まってるしさ~」


「まあ、それも仕方ないですね。今から戦場になろうかというのだから、商売どころじゃないでしょ。この作戦が終わったら、他の街で美味しい物でも食べましょう」


 ――というか、お前等はもうちょっと緊張感をもてや! これから手強い相手との戦いなんだぞ?


 三男のミラトがぼやくと、四男のカトルがぶつくさと文句を垂れる。そんな二人を次男のリトアが宥めているのだが、長男のキトルとしては、この緊張感のない弟たちを見て呆れてしまう。

 なにしろ、ここには任務できているのだ。いつもの軽い調子はやめて欲しいと感じてしまうのも当然だろう。

 その想いは、思いっきり表情に現れる。すると、いつもの如く次男が溜息を吐いた。


「兄さんも、そんな不景気な顔なんてしてると嫁が来ませんよ?」


 ――いやいや、今はそれどころじゃないんだって! てか、お前等が居る限り、嫁なんてもらえないだろ!? ぜって~嫌がらせだろ? 自分が二枚目でモテるから、オレを揶揄からかってるんだろ?


 余計なお世話を焼く次男にジト目をむけながら、ぼそぼそと愚痴をこぼす。

 しかし、その台詞は、弟たちに聞こえてしまったようだ。

 その証拠に、三男と四男がすかさずキトルを揶揄いはじめる。


「キトル兄貴、そんな大きな声で独り言を口にすると、丸聞こえだよ?」


「そうだよ。キトル兄ちゃん。丸聞こえ~! てか、今の独り言だったの?」


 そう、キトルは声が大きかった。意識して小声で話して人並なのだが、その自覚も欠落しているので、独り言を口にしても、直ぐにバレてしまうのだ。


「少しではないですよ。避難していた女性が横を通り過ぎながらクスクスと笑っていましたよ? 兄さんは声が大きいんだから、独り言を口にしてはダメですよ」


 ――くそっ、どうしてオレばかりが責められるんだ? 兄弟の中で一番真面なはずなのに……


 独り言がNGなので、仕方なく心中で悪態をつくのだが、それも賢い次男にはお見通しらしい。


「兄さんは真面目すぎるんですよ。早くお金を稼いで、この稼業を止めましょう。それでお嫁さんをもらって、のんびりと暮らした方が良いですよ」


 実際、キトルとしてもそうしたい。しかし、そうもいかない事情があるのだ。

 それを知っている癖に、簡単にそう言って退ける次男に異議を唱える。


「お前等が一人前にならないと、嫁をもらう訳にもいかないだろ?」


「どうしてだよ! キトル兄貴」


「どうして? ねえ、どうして? キトル兄ちゃん」


 十ニ歳の三男ミラトと七歳の四男カトルが不思議そうにする。


「何を言ってるんだ! リトアはまだしも、お前等が成人するまでは、オレが面倒をみるしかないだろ? 親父おやじもおふくろも、夫婦仲よくあの世でいちゃついてるんだ。オレが頑張るしかないじゃないか」


 両親が他界して、長男であるキトルが、この呑気な弟たちを一人前にすると決めたのだ。それくらいは理解して欲しいと思う。

 そして、当たり前だと言わんばかりに、その理由を告げたのだが、弟達は別の考えを持っていた。


「兄さんが結婚しても、この悪童の面倒は、私がみますから大丈夫ですよ。だから、早く嫁を見つけてください」


「誰が悪童だよ。てか、リトア兄貴に面倒を見てもらうなんて真っ平だ。おいらは独りでも生きていけるからな」


「ぼ、僕は、みんな一緒がいいな~」


 次男は自分が弟たちの面倒をみるから、さっさと結婚しろと口にする。三男は真っ平だと鼻を鳴らし、四男は少し寂しそうに全員で居るのが良いと答えた。


 ――やはり、カトルは可愛いな~。


 年の離れた末の弟だけあって、四男のカトルは目に入れても痛くないと思えるほどに可愛い存在だった。それに、両親が早くに他界した所為で、とても不憫だと感じていた。それもあってか、キトルはついつい甘やかしてしまう。


「心配するな。お前等が成人しても、オレはまだ二十代後半だ。結婚はそれからでも遅くない。それよりも、仕事だ」


 弟たちに気を使わせまいとして、意味もなく胸を張って答えると、次男のリトアが溜息を吐く。


「はぁ~、まあ、そうですね。そうしましょうか。それでは、仕事に向かいますよ」


 リトアとしては、自分達の所為で兄が無理をするのが嫌だった。それ故に、何度も好きにしていいと進言するのだが、キトラは頑として受け入れないのだ。

 それもあって、思わず溜息を吐いてしまったのだが、下の二人は全く別の思考回路があるようだ。


「りょう~かい! さっさと終わらせて美味い物でも食べに行こうぜ」


「そうだね。でも、ミラト兄ちゃん。この街ではお店がやってないから、美味しい物は暫く食べられないよ?」


 賢い四男坊が、元気だけが取り柄の三男にツッコミを入れた。

 それでも、三男坊は気にすることなく言って退けた。


「何を言ってるんだ? みんなが避難してるってことは、店の中は食べ物が沢山あるはずだぞ?」


 ――おいおい、それは盗人だろ? オレ達は殺し屋であって盗人じゃないぞ? てか、盗人の方が真面な稼業だな……リトアではないが、さっさと稼いで、こんな稼業からは足を洗うべきだな。


 そんな想いを実現するために、キトラ達――ゴレタ兄弟は、恐ろしい二つ名を持つ奴等を始末すべく、ディートの街中を突き進むのだった。


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