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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
14/233

11 初動

2018/12/26 見直し済み


 微かなモーター音が室内に伝わってくる。

 取り立てて煩い音ではないが、震動となって身体に僅かながら感じられるのだ。

 両手で握っている操縦桿そうじゅうかんも想像以上にしっくりと手に馴染んでいた。

 唯でさえボタンの多い操縦桿だが、その雰囲気はゲームで使われるジョイスティックをやや複雑にしただけで、特に違和感を持つことはない。

 そんなことよりも、拓哉にとっては、踊る心を何とかする必要があるかもしれない。


『こら! 返事くらいしろ!』


「あっ! すみません」


 ヘッドシステムに取り付けられたスピーカから、ララカリアの叱責が届く。

 もちろん、ララカリアは離れた場所に居る。無線で話しかけているのだ。

 その声の雰囲気からして、彼女はかなりご立腹のようだ。

 浮かれてた拓哉は気付いていないが、彼女は何度も呼んでいたいのだ。


『それで、どうなんだ?』


「特に問題ありません。というか、最高です」


『はいはい。じゃ、演習場の真ん中まで移動しろ』


「了解しました」


 完全に舞い上がっている拓哉に対して、ララカリアはおざなりな返事を返す。

 それでも全く気にならないのか、拓哉は初級訓練用の機体を演習場の中央まで移動させる。

 このグランドは第三演習場であり、この訓練学校の施設の中では一番狭いグランドということもあって、あっという間に中央に到着してしまう。

 第三演習場は、拓哉達が働く倉庫――格納庫の裏手であり、そもそもが初級訓練機で使用する場所だ。そんな理由もあって、現在は誰も使っていない。


『よ~し! じゃ、まずは好きなように動かしてみろ』


「分りました」


 なんとも適当だな~と感じつつも、はやく動かしてみたいという興味の方が勝り、拓哉は敢えて追求することなく頷く。


「それじゃ、旋回系の動作から高速移動なんてやってみますか」


 向こう側で聞かれているとも忘れて独り言を口にすると、フットペダルと両手の操縦桿を操作する。


「おお、いい感じ! スゲ~っ、最高じゃん。よし。じゃ、これはどうだ?」


 始めは徐々に動かしながら、少しずつ複雑な動き試す。

 機体の動きは、前方を映す正面モニターの斜め下に重なるような感じで映し出されたサブモニターで確認できる。

 要は、本人視点と第三者視点を同時に確認できるようになっているのだ。

 二視点モニターを見ながら、拓哉は機体にありとあらゆる動きをさせる。

 そして、粗方動かしたところで、徐々に速度を上げていくのだが、この場合は静止動作も必要なので、強弱を付けて機体の操作を行う。

 なんといっても、止まれない動きほど最悪なものはない。

 止めたい場所から更に動くということは、その動きが想定外の動作であり、乗りこなしているとは言えない。

 下手をすると、周囲を破壊することになるのだ。


「きゃっほ~~~~! いい感じだ。思いのままに動くし、めっちゃ楽しいな~」


 夢心地とは、まさにこのことだろう。

 夢中になって機体を走らせてはしゃぎ回った。

 これまではゲームでしか動かせなかったロボットを、自分が実際に動かしているのだ。

 それを夢見ていた拓哉からすれば、これほど幸せなことはないだろう。


 ――でも……なんか……なにか足らなくないか?


 天にも昇りそうなほどに浮かれていた拓哉だが、暫くすると物足りなさを覚え始めた。

 というのも、所詮は一人で遊んでいるだけだ。敵も出なければ、戦う相手も居ない。そんな状況に少しずつ冷静になってきたのだ。

 そうなると、違和感に気付くのは早かった。


「う~ん、これは……」


 始めのうちは嬉しさの所為で気にならなかったのだが、少しばかり落ち着き始めると、途端に機体の動きに不満を覚えはじめた。


「なんか、動きが鈍い?」


 拓哉が眉間に皺を寄せた理由は、機体の動作速度だった。

 反応速度、移行速度、停止速度、何もかもがワンテンポ、ツーテンポくらい遅れているように感じていた。


「動作も荒い……操作したイメージと結果の誤差が大きい。こんなので実戦に使えるのか?」


 冷静になって機体を評価してみる。そして、実際の戦いに使用するには、かなり怪しい代物だと判断した。

 そんな感想を抱いたところに、ララカリアからの無線が入る。


『よ~し、大体理解できたな。てか、こっちから見た感じだと、機体の限界まで稼働させいるように見えるが、まだ遣るか?』


「いえ、ある程度は問題点とか解ったんで、これ以上は必要ないと思います」


『解った。じゃ、戻ってプログラムの書き換えと、現状の機体評価をするぞ』


「分りました。倉庫……格納庫に戻ります」


 ララカリアの指示に従って機体を倉庫へと戻す。

 ただ、ナビゲータが居ない所為で、損耗チェックを疎かにしていたことに、全く以て気付いていなかった。







 専用ストレージに機体を戻し終えた拓哉は、格納庫に唯一設置されている会議室に向かう。

 一応は会議室いう名目だが、室内は真っ白な部屋であり、申し訳程度に簡素なテーブルと椅子が置かれてるだけだ。

 ただ、拓哉が室内に入ると、壁一面に第三演習場の映像が投写されていた。

 といっても、まだその映像は動いておらず、静止画像となっている。


「遅いぞ!」


「お前に言われると、タクヤも釈然としないだろ!」


 拓哉が会議室に入るや否や、ララカリアが苦言を述べるのだが、その発言に不満を持ったデクリロが横から茶々を入れる。

 デクリロからすれば、遅刻常習犯のお前が言うかという気持ちなのだろう。

 ただ、ララカリアという女は、その茶々を素直に受け入れるほど甘くなかった。


「相変わらずデクはうるせ~な~! 少し黙ってろよ!」


 腕を組んだララカリアが、片方の眉を吊り上げて毒を吐く。

 デクリロはこめかみに太い血管を浮かべ、頬をヒクヒクと引きらせる。


「な、なんだと! この野郎!」


 ――あ~、やっちまった! デクリロがまた禁句を口にしちまった。


 デクリロの台詞に、拓哉がヤバイと感じた途端、案の定、幼い顔を鬼の形相に変えたララカリアが激昂げっこうする。


「はぁ~~~~ん! また、野郎って言いやがったな! わかった。そんなにトップレスバーに行ったことを嫁に知らせて欲しいんだな。てか、デクの嫁だと仕方ないか……」


「あ、あ、それは……てか、てめ~が、オレの嫁を貧乳扱いか!」


「まあ、まあ、時間が勿体ないですよ」


 切れた二人がエキサイトしそうになった処で、真面目なトニーラが仲裁に入る。

 いつもの事とはいえ、このままだと全く話が進まないのだ。


 ――どうしてウチの班は、話がすんなり進まないんだ? 機体に戻ろうかな~。


 拓哉も機体の整備でもしていた方が有意義なのではないかと考え始める。

 そんな拓哉の気持ちを察した訳ではないとは思うが、デクリロが咳払いをすると先を促した。

 どうやら、自分が折れることで終わらせる気になったのだろう。

 すると、ララカリアは白い視線でデクリロ眺めていたが、気を取り直して拓哉に視線を向けた。


「ふんっ! それじゃ、タク。率直な感想をもらえるか?」


 ――ほんとにいいのかな~。でも、お世辞を言っても意味ないよな。


 拓哉はどうしたものかと悩んだ。なにしろ、初級訓練機で動作しているプログラムは、全てララカリアが手掛けたものだからだ。無碍にダメ出しすることを躊躇ためらうのも当然だろう。ただ、ここは正直に話すべきだと考えて、ぶっちゃけの本音をぶちまけることにした。


「えっと、正直に言って、ダメですね……」


「えっ!? あっ……うっ……そんなにダメか?」


 思いっきりダメ出しされたララカリアは唖然とした表情を見せる。しかし、直ぐに正気を取り戻すと、真剣な表情で再度たずねた。


「はい。動きが荒すぎますよ」


「あたいの目から見ると、物凄くいい感じに見えたんだが、あれでは駄目なのか?」


 再びのダメ出しを聞いても、ララカリアはしつこく食い下がってきた。

 そこで拓哉が容赦なく引導を渡す。


「ええ。あれを実用化なんてしたら、関係ない人を巻き込んだりとか、意識せずに事故が起きたりとか、そんな想定外の問題が多々生まれると思いますよ。それに、ハッキリ言って動きが鈍いです。あんなもので戦場に出たら、唯の的ですね」


「うぐっ……鈍い……唯の的……」


 使い物にならないと聞かされて、さすがのララカリアもガックリと項垂れた。


 ――うはっ、言い過ぎたかも……


「ラ、ララさん――」


 今にも白い灰になりそうなララカリアを見やり、拓哉は焦りを感じてフォローしようとする。

 ところが、暫くブツブツ言いながら床に人差し指を立てていたララカリアが、突如として勢いよく立ち上がった。


 ――おおっ、復帰した?


 水素ガスを込められた風船のように、勢いよく立ち上がったララカリアを目にして、拓哉は思わず後退る。

 しかし、彼女は気にすることなく、その薄い胸を逸らした。


「あれは古いプログラムだからな。この後の作業で新しいプログラムをインストールするから、そっちは大丈夫だ。ま、間違いなく大丈夫なはずだ。でもまあ、プログラムを入れ替えるのには時間が掛かるから、テストは明日になると思う。だが、一応、何がダメなのか、映像と照らし合わせてみるか」


 この後、撮影した映像を見ながら、逐一そのポイントを説明することになる。

 その度に、ララカリアは顔を引き攣らせつつ、問題ないと言い続けるのだった。







 現状の機体評価の報告を終わらて会議室を出たところで、拓哉は驚きのあまりに後退ることになった。

 というのも、興奮したトニーラが抱き着かんばかりに迫ってきたのだ。


「タクヤ君、タクヤ君。マジで凄いよ! あんなに自由に機体を動かせるなんて、もう大興奮だよ」


「だよな~! あれだと、訓練生が乗るPBAなんて、軽く凌駕してんじゃね~のか? てか、機体に乗るのは、ほんとにこれが初めてなのか?」


 興奮するトニーラに続いて、クロートも感嘆の声を上げている。


「ええ、この世界に来て間もないですし、俺がいた世界には存在しない物ですからね」


 正直なところをクロートに答えると、後ろからデクリロの声が聞えてきた。


「あの操作能力は異常だ。あれじゃ、訓練生なんて比較対象にならんぞ。恐らく正規兵レベルの動きだな」


「もしかしたらトップガンになれるかも……いや、あたいが絶対にタクをトップガンにする」


 以前は最前線で勤務していたというデクリロがやや大袈裟に話すと、その更に後ろから現れたララカリアが、まるで自分の夢を語るかのように断言してみせた。


 ――いやいや、戦場になんて行きたくないんだけど……


 拓哉が首を横に振りたがるのも当然だろう。戦争のない時分ならまだしも、今は戦時の真っただ中だ。

 トップガンになんてなろうものなら、いったい何を遣らされるか分かったものではない。


 ――つ~か、ここの仕事って、初級訓練機の整備じゃなかったのか?


 気が付けば、いつの間にか整備班が開発班のようなノリになっているのだが、誰もそれを指摘しないことに疑問を感じながらも、拓哉は新プログラムでの機動テストを心待ちにするのだった。


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