表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
136/233

133 ジレンマ

2019/2/8 見直し済み


 なんだかんだと、文句を言っていた訳だが、裸の付き合いが与える威力は、つくづく半端ないと感じてしまった。

 もちろん、いやらしい意味ではなく、純粋に人の距離を縮めるという話だ。

 例の誤学習事件から数日しか経っていないというのに、拓哉の目の前には、長年の親友であるかのように接する少女達の存在があるからだ。


「タクヤ、今日の防御にタイムストップを使ったでしょ?」


「あ、こら! クラレ、口止めしたはずだぞ!」


「あっ、ごめんなさい」


 内緒だと言っておいたはずなのに、クラリッサが思いっきり暴露してしまった。

 しかし、拓哉はそれほど怒っていない。いや、どちらかというと笑顔を見せていた。

 それは、彼女の発言が、ここに居る者を仲間だと認めた証だと感じたからだ。

 溜息を吐きつつも、特に怒ることなく終わらせる。

 しかし、他の三人は、はいそうですかと頷くはずもない。


「ん? タイムストップってなんだ?」


 一番初めに言及したのは、対校戦の時に、そのタイムストップの能力で負けてしまったミルルカだ。


 ――さて、どうしたものか……この面子に対して、内緒というのも申し訳ないような気がするしな……


 ミルルカの質問にどう答えたものかと思案していると、クラリッサが横から口を挟んできた。


「ここのメンバーなら問題ないと思うわ だって、みんな嫁なのでしょ?」


 クラリッサは豊かな胸を揺らして肩を竦めた。

 拓哉としては、少し棘のある台詞に肝を冷やすが、一つ頷いてから三人に打ち明けることにした。そして、全てを話すと、ミルルカがまなじりを吊り上げて食いついてきた。


「それじゃ、私がやられたのは、そのタイムストップなのか。ズルいぞタクヤ」


「いやいや、ズルいって……」


 タイムストップの話を聞いたミルルカが、頬を膨らませて苦言を述べてくるのだが、それはおかしな話だ。

 なにしろ、タイムストップは拓哉の技能であり、サイキックを使うのと何ら変わらないのだ。

 そもそも、ズルいと言えば、特殊な機体を使っているミルルカの方だ。

 しかし、負けたミルルカは納得がいかないのだろう。浴槽の中で立ち上がると、拓哉に詰め寄った。

 ああ、この浴槽も、何の策略か、五人で入っても余裕があるサイズだ。

 ただ、深さは普通の風呂と変わらない。それ故に、立ち上がってしまえば、拓哉の眼前に、ミルルカの下半身がお目見えしてしまう。


 ――ぐはっ、そんな近くで見せるなよ。目のやりどころにこまるだろ。


 心中で文句を言いつつも、ついつい好奇心が勝って視線が外れない。

 そんな拓哉の顔に、膨れっ面のクラリッサがお湯をかけたかと思うと、ミルルカに負けじと立ち上がった。


「うわっ、クラレ、何を――」


 思わず拓哉がクレームを入れようとするのだが、クラリッサが立ち上がったことで、視線はやはり彼女の下半身に釘付けとなる。

 まあ、元気な年頃だし、未経験者の性というものだろう。


「ミルルだって、トトと融合していたのよね? それの方がズルいと思わない? タクヤは一人で戦っていたのよ?」


「ぬぐぐっ。というか、どこでその話を……」


「トトから聞いたわよ? というか、少しトトを蔑ろにし過ぎだと思うわ。もう少し優しくしてあげないと、逃げられるわよ」


「うぐっ……」


 クラリッサから痛い反論を食らって、ミルルカは苦々しげな表情で押し黙ってしまった。

 ただ、拓哉としては別の不満が募る。


 ――てか、二人とも立ち上がるのはやめろよ。恥ずかしくないのか!?


 なにしろ、ずっとお預けを食らったままなのだ。それなのに、ありのままの姿を見せつけられると、ムクムクとふしだらな感情が湧き起こっても仕方ない。

 ところが、拓哉の視線が気になったのか、キャスリンまでがお湯を散らして立ち上がった。


「ミルル、融合ってなんなのですか?」


 裸の付き合いですっかり馴染んだキャスリンも、いつの間にかミルルカを愛称で呼んでいた。

 それは良いのだが、キャスリンが参戦したことで、いよいよ拓哉の我慢も限界に近づく。


 ――マジでヤバいわ……


 そろそろ決壊しそうな精神を抑えつけるのだが、それと知らないミルルカはゴニョゴニョと誤魔化そうとする。

 その態度で、大きな胸が揺れる。プルンプルンと拓哉を誘う。

 しかし、クラリッサがトトから聞いたという話を説明しはじめて、拓哉の意識がそちらに引き付けられる。


「どうやら、妖精であるトトと融合すると、千里眼のような力を得ることができるみたいなの。それに感覚が鋭敏になって、人間以上の反射神経を持てるみたいね」


 ――おいおい、それって、完全にチートじゃないのか?


 思わず、自分のことを棚上げして、拓哉が不満を抱くのだが、今度はカティーシャが立ちあがった。

 こうして四人が、拓哉の前で生まれたままの姿を晒すことになった。

 ただ、彼女の言葉は、拓哉の心から邪な部分を消し去る。


「それなら、タクとトトが組んだら最強なんじゃないのかな?」


「何を言ってるのよ! タクヤのナビは私よ!」


 カティーシャの意見は尤もだ。拓哉とトトが融合すれば、それこそスーパーチート人だ。

 しかし、クラリッサがすぐさま反発した。

 そのことで、拓哉の中に安堵が生まれる。


 ――良かった。クラレは俺のナビで居てくれるんだな。


 このところの彼女の不可解な行動に、不安を抱いていた。

 そう、自分のナビを辞めるつもりじゃないかと、内心で冷や冷やしていたのだ。

 それ故に、過剰な反応を示した彼女を見て、ホッと胸を撫でおろしてしまう。

 しかし、そんな拓哉を他所に、気が付くと、その話は思いのほか炎上していた。


「クラリッサの気持ちはわかるけど、最強になるなら、レナレやトトと組んだ方がいいんじゃない」


「そんなことはないわ。私が適任よ」


 カティーシャの意見に、クラリッサが食いさがる。

 ただ、クラリッサはかなりムキになっているが、カティーシャは至って冷静だった。


「だって、トトやレナレの方が有用性のある能力を持ってるよね。それに、タクもサイキックを使えるようになったんだし、特殊な能力を持っているナビの方が有利なんじゃない?」


「ぐっ……」


 反論できずに、クラリッサが押し黙る。

 すると、キャスリンが意味不明な意見を口にする。


「キャラも向こうの方が濃いですし……」


 ――いやいや、キャラが濃いのは戦闘に全く関係ないよな? てか、お前達は、薄すぎるんだって。丸見えじゃんか……


 場違いなツッコミに、拓哉も思わず場違いな感想を抱く。

 そんなところに、ミルルカが個人的な見解を告げる。


「だが、どちらもうるさいぞ!?」


 ――確かに……戦闘中にうるさいのもちょっと嫌だな~。


 それは、ミルルカの感情的な意見ではあったが、少なからず間違っていない。

 そんな調子で、拓哉のナビは誰が良いのかという議論になっていたのだが、レナレが出てきたところで、何かを思い出したのか、ミルルカがしかめ面を見せた。


「そういえば、ガルダルとレナレは、あの時、なにをやってたんだ?」


 それは、拓哉も気になっていた。ただ、ミルルカとのこともあり、すっかり忘れていたのだ。

 ただ、拓哉としては、あの二人が戦闘を放棄するようないい加減な人物に思えなかった。


「それは、みんなに説明があったわ」


 拓哉がミルルカから拉致されている間に説明があったのだ。

 ただ、クラリッサは、そこで嫌味というスパイスを利かせるのを忘れていなかった。

 チラリと、拓哉とミルルカに冷たい視線を向けた。


「タクヤがミルルカの胸の感触で鼻の下を伸ばしている時に、リカルラがやってきて話してくれたの。彼女が二人を引き止めたのだと言っていたわ」


 スパイスの効果で、拓哉が口を開けないでいると、ミルルカがその理由に言及する。


「どうして、リカルラ博士は、そんなことをしたんだ?」


 それは、拓哉も感じた疑問だ。

 ただ、リカルラが絡んでいるという時点で、もうどうでも良くなったというのが正直な気持ちだ。


 ――リカルラだろ? 何でも在りの女だよな……


 肩を竦める拓哉を他所に、クラリッサがその理由を話し始める。


「どうも、みんなの育成のためだって言っていたわ。ああ、保険で拓哉を残したのだけど、それが失敗だったとも言っていたわよ」


 ――もうその時点で全く意味不明だ。育成のためだというのは分かる。でも、それを行き成り実戦で行うリスクを考えないのだろうか。一歩間違えれば飛空艦撃沈なんてことも起こり得るのに……恐ろしい女だ。


 リカルラの考えは理解できなくもない。ただ、時と場合を選ぶべきだ。

 その強引なやり方にいきどおりを感じていたのだが、別の意味で憤りを感じた者も居た。


「それじゃ、私が残されたのは、育成が必要だからということか? 確かに拓哉には後れを取っているが、舞姫に負けるつもりはないぞ?」


「いや、負けてたし……」


 鼻息荒く不満を露わにするミルルカだったが、キャスリンから遠慮なく否定されていた。

 しかし、それでも納得がいかなかったのだろう。すぐさま噛みついた。

 その勢いで大きな胸が揺れる。


「どこがだ!」


「ブロック数」


 憤慨するミルルカだったが、カティーシャから簡単に論破されてしまう。

 悲しい現実を突き付けられたミルルカは、何を血迷ったのか、その憤りを拓哉に向けた。


「ぬぐぐっ! ダメだ! これじゃ眠れん! タクヤ、シミュレーター室へ行くぞ」


「おいおい、今、何時だと思ってるんだ? もう食事の時間だぞ」


 ミルルカの発言に呆れつつも、拓哉はなんとか彼女を宥めすかすことで、ようやく入浴が終わることになった。









 視界には、瓦礫がれきとなった街並みが広がっている。

 そんな虚しくはかない光景の中で、高速で向かってくる機体があった。

 それは、訓練校ではお目にかかれないほどの速さで攻撃を避け、素早く拓哉の後方に回り込もうとするが、そう簡単にやられる訳にはいかない。

 拓哉は機体の進行方向にエネルギー弾をぶち込み、相手の脚が止まったところで、逆に背後を取るべく高速移動を始める。

 すると、向こうの機体も背後を取られまいと必死に移動を始めるが、拓哉がその機体を誘導するかのようにエネルギー弾を連射すると、物の見事に思惑通りに嵌ってくれる。


「ミルルカ、動きが単調すぎる。トトと融合している時の癖だな。自分よりも速い者と戦う場合は、それじゃ駄目だ。それと、簡単に罠に嵌り過ぎだ。相手の攻撃の思惑を感じ取れ。馬鹿正直に戦い過ぎだ」


『ぬぐっ! 分かった。もう一回だ』


 ミルルカの機体の背後に立ち、近距離銃を突きつけた拓哉が容赦ようしゃなく叱責しっせきすると、彼女はうなりながらも、悔しそうな声で、お代わりだと告げてきた。

 そんな彼女の言葉を聞いた拓哉は思い悩む。


 ――このままシミュレーター戦を繰り返していて上達するのか? いや、俺も数をこなすことで上達したはずだ。だが、彼女にとって既にその段階を超えているような気もするし……では、どうすれば……


『どうしたんだ? もう一回頼む』


 拓哉が黙考していると、れたミルルカが催促さいそくしてくる。

 しかし、彼女には申し訳ないと思いながらも、シミュレーター戦をここまでにした。


「ミルルカ、ちょっと休もう。というか、このまま続けても、あまり効果があるとは思えないんだ」


『うぐっ、それじゃ、どうするんだ? 他に何かいい方法があるのか?』


 正直な考えを伝えると、ミルルカは少しトーンをあげた。

 彼女もあせっているのだ。

 拓哉との力の差を感じた上に、ガルダルの力をも見せ付けられているのだ。

 彼女としては、居ても立っても居られないだろう。

 ただ、その気持ちは理解しているのだが、今の拓哉には、最適な方法を見つけることができなかった。


「解からん。だから、ちょっと嫌だけど、リカルラさんとララさんに相談しようと思う。何かのヒントを見つけられるかも知れない」


『そうか……分かった』


 ミルルカはしばし沈黙していたが、成長したいという気持ちが強いのか、素直に拓哉の意見を聞き入れた。

 彼女も煮詰まっているのだ。そして、藁にも縋る思いなのだ。

 ミルルカが大人しく同意したこともあって、早速とばかりにリカルラのところに向かおうと思ったのだが、唐突に艦内放送が響き渡った。


『これから呼ばれる者は、速やかに第一作戦室に集合してください。タクヤ=ホンゴウ、クラリッサ=バルガン、ミルルカ=クアント、――』


 その声に、シミュレーターから降りていた拓哉とミルルカが顔を見合わせる。


「何が起こったんだ?」


「さあな。取り敢えず行くしかあるまい」


 拓哉が発した疑問の声に、ミルルカが即座に答えてくるが、その言葉に答えは含まれていない。

 それでも彼女の答えは尤もであり、共に第一作戦室に向かったのだが、そこで新たなる局面を突き付けられることになるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ