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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
133/233

130 我こそは

2019/2/7 見直し済み


 いつの世も、どんな世界でも、空気の読めない者は存在するらしい。

 もしかしたら死ぬかもしれないというのに、ブリッジではメインモニターの隅にブロック数と撃墜数が表示され、クルーが発した喝采や感想が飛び交う。


『凄い! またレナレだ! これで十機目だぞ』


『やはり、あのアタックキャストを操るナビだけはあるな』


『こりゃ半端ないぞ。猫耳娘一人で片付けそうな勢いだぞ』


 レナレの攻撃能力を見たクルーが、口々にその攻撃力を称賛する。

 しかし、レナレの攻撃力ほどではないものの、目立って成果を上げている者がいた。


『おい! 氷の女王も負けてないぞ! これで五機目だ』


『それを言ったら、リディアルもだろ! これで四機撃墜だぞ。初めてとは思えん』


『でも、リディアルの攻撃は少し変わってるな』


『確かに、空中で接近戦をやってるみたいだ』


『もしかして、遠距離攻撃が全く当たらないという噂は本当なのかもな』


『こら! 口を慎め! 一応は正規のPBAドライバーだぞ』


 クラリッサが着実に戦果を挙げているようで、拓哉はホッと安堵の息を漏らす。

 リディアルに関しては、持ち上げられたり下げられたりといった状況だが、周囲からの評価は少し上がったようだ。

 そして、レッドエッグで敵を攻撃する者達の成果もあって、未だ飛空型PBAは攻撃に参加していないものの、戦闘機に関しては既に二十四機を撃墜していた。

 ただ、向こうも少し考えたようだ。残りの戦闘機は飛空型PBAと連携するつもりなのか、後方に下がってしまった。


「よし、少し休憩していいぞ」


 戦闘機が距離を取るのを見て、拓哉が臨戦態勢を解く指示を出すと、すかさずルーミーからのツッコミが入った。


『休憩って……オレ達、何もしてないぞ?』


 そう、敵の攻撃は、拓哉、ミルルカ、ガルダルの三人によって防がれていた。

 それ故に、局所強化を担当する者達は、誰もがただただモニターを眺めるだけだったのだ。

 そうなると、局所強化組から不満が出るのも当然だ。彼等彼女等もやる気満々だったのだ。何も貢献できていないと思うと、不満を抱くものが居ても仕方ない。


『なあ、タクヤ、総取りで楽しいか?』


『ん? なんで? 楽ちんやんか』


『凄いですね。一人で全ての防御をするのかと思いました』


『ボク達って要らない面子なのかな? みんなで休憩しにいこうか!?』


 トーマスがやっかむ。ただ、メイファに関しては、楽ができると言ってそれを否定した。

 素直に感嘆かんたんの声を上げるレスガルに、少し投げやりなカティーシャ。

 ただ、それは八つ当たりでしかない。


 ――いやいや、これって命を懸けた戦闘だからな? 何もない事が一番なんだぞ?


 局所強化組の台詞を耳にして、拓哉としては、何処かピントのズレた物言いに不満を抱くが、それを口にする前に、不満げなミルルカからの声が届いた。


『タクヤ、いい加減にしろよ! 私はちっとも楽しくないぞ』


「な、なにを言ってるんだ。これは戦闘だぞ!? 楽しんでる場合じゃないだろ!?」


 さすがに、面白くないという発言は、看過かんかできない。

 何かあれば大変な事態になるのだ。しかし、反論してみたものの、トトからの逆襲を食らう。


『タクヤだって、鼻歌混じりだったんちゃ』


 そう、拓哉は戦闘に集中し始めて気分が高揚してくると、鼻歌を披露する癖があった。

 これは、ゲームをやっている時からのもので、本人は全く意識していない。


 ――ぐはっ! そんなつもりはなかったんだが……てか、もしかして全員に聞こえていたのか?


 焦りを感じて顔を引き攣らせるのだが、どうやら鼻歌は他の者達に届いていなかったようだ。


『えっ!? そんなの聞こえなかったわよ? でも、鼻歌交じりだったの? というか、そんな調子で、あれだけのブロック数を叩き出してるの? 化け物だわ……あっ、ごめんなさい。悪い意味じゃないのよ……凄いって意味だから……』


 ガルダルは驚きのあまりに、素直な気持ちを露呈させてしまう。

 しかし、自分の発した言葉が適切でないと感じて、すぐさま弁解を始めた。


 ――まあ、異常人物扱いはもう慣れたからいいんだが……俺の鼻歌が聞こえたのは、妖精の力なのかな? それの方が異常だと思うんだが……


 この世界にきてからというもの、いつも異常者扱いされてきた。それ故に、既に慣れていたし、彼女に悪気がないのも理解できていた。

 だいたい、同性愛者、ロリコン、変態、エロき鬼神に比べれば、化け物なんて大したものではない。


「別に気にしてないよ。それよりも、次に備えて少し休んだ方がいいぞ」


『じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら、正直、あのブロック数だと、私は必要ない気がするけど……』


 休憩を勧められたガルダルは、即座に応じてきたのだが、ぼそりと要らない子発言を残して、その場を後にした。そして、カティーシャも同じように感じていたようだ。


『まあ、トップがタクの二百八十五ブロックで、二位がガルダルの六十七ブロックじゃ、自信も無くなるよね。ミルルなんて三十四ブロックだし……』


 呆れた様子のカティーシャは、空気も読まずに事実を口にする。

 そうなると、ミルルカがブチ切れる。

 その内容を看過できなかったのだ。思いっきり憤慨する。


『う、うるさいぞ! た、偶々、私のところに攻撃が来なかっただけだ! た、タクヤ! 次はパートを交代しろ!』


 正直言って、憤慨するミルルカの台詞は八つ当たりでしかないが、少なからず事実も含んでいた。

 今回のパートは、拓哉が正面を担当し、ミルルカは右側面から背面、ガルダルが左側面から背面を担当していた。

 ところが、拓哉が正面で敵の攻撃を全て止めたところで、側面に回り込んだ敵機をレナレ、クラリッサ、リディアルの三人が撃ち落としていた。

 それ故に、側面を攻撃する敵の存在が少なかったのは事実だ。


「いいけど……大丈夫か? 今回は戦闘機だったから直線的な攻撃が多くて楽だったけど、飛空型PBAが登場すると、そうもいかなくなるぞ?」


 戦闘機と飛行型PBAの違いは大きい。

 速度こそ戦闘機が勝るが、機動性に関しては飛行型PBAに軍配があがる。

 そもそも、戦闘機は推進力によって突き進むだけだ。軌道を変更するにしても、その行動は限られている。

 それに比べ、飛行型PBAの場合は、空中での行動が自由自在だ。それ故に、変則的な行動も不可能ではない。

 ミルルカの要求を呑むのは構わない。ただ、さすがに被害がでると大変なので、一応は注意事項を伝えてみたのだ。


『ぬぐっ……』


『楽だったんだ……』


 拓哉の指摘は、ミルルカにとっても理解のできるものだったのだろう。彼女は悔しそうに押し黙った。

 しかし、その会話を聞いていたカティーシャが、思いっきり呆れていた。

 彼女からすると、戦闘機の攻撃は異様に速く、恐ろしいほどの数で飛来した。

 それなのに、楽なものだったと聞いて、黙ってはいられなかったのだ。


 ――まあ、それほど大変だと思わなかったし……でも、否定するのも変だしな~。まあ、静かになったから良しとするか。


 ミルルカが静かになったことに満足していると、エッグの扉が叩かれた。

 それに反応した拓哉が扉の開閉ボタンを押すと、開かれた扉の向こう側には、ビニール袋を持ったクラリッサが立っていた。


「タクヤも休憩したら?」


 彼女はビニール袋からパックに入ったドリンクを取り出し、拓哉の傍らに近寄ったかと思うと、無造作に膝の上に座ってしまった。

 ある程度の広さを持ったエッグとはいえ、さすがに二人が入るには狭すぎる。

 その所為で、彼女の豊かな胸が拓哉に押し付けられることになる。


「はい! どうぞ!」


 もはや身体が接することに違和感を持っていないのか、動揺する拓哉を他所に、彼女はパックにストローを刺して差し出した。


「あ、ああ、ありがとう」


 ――おいおい! どうしたんだ? 今日はやたらとデレじゃないか!?


 このところ、別行動も多かったし、キャスリンやミルルカのこともあって、ギクシャクとしていたのだが、今日のクラリッサはやたらと機嫌が良かった。

 柔らかな感触にドギマギしながらも、上機嫌な彼女の様子を覗っていると、彼女は首をコテンと傾げる。


「どうしたの?」


「いやいや、それは俺の台詞だ。いったいどうしたんだ?」


 いつもと違うクラリッサに疑問を感じる。すると、彼女は今の心境を伝えてきた。


「私には攻撃能力が足らないと思っていたから、ずっとナビでやっていくのだと思っていたのだけど、攻撃が当たると最高に気持ちがいいわ。まあ、相手が死んでいなければだけど……」


 彼女は浮かれているのだ。これまでに体験したことのない戦闘を熟し、それが思ったよりも上手くいったことで、気分が盛り上がっているのだ。


 ――なるほど、ある意味でトリガハッピーみたいなものか。それよりも、急に攻撃に参加した理由の方が気になる。


 拓哉としては、彼女に替わるナビは居ない。確かに、一人で戦うこともできるが、常に彼女とありたいと思っていた。それ故に、彼女と二人で戦うつもりでいたのだが、ここにきてナビ以外のことに興味を持っているように思えた。そして、その行動に不安を感じる。


「なあ、なんで急に攻撃側をやるとか言い出したんだ?」


「ん~、ないしょ! そのうち解かるわよ」


 彼女はニヤリと笑みを浮かべると、まるで恋人がするかのような意地悪をしてきた。

 ただ、拓哉としても、ここで無理やりに聞き出す気もない。


 ――ん~、全くわからん……何を考えてるんだ? 俺のナビを辞めるつもりなのか? 確かに、ミルルカとの対抗戦じゃ、彼女に辛い想いをさせてしまったし……


 彼女の気持ちを理解できずに色々と思い悩んでいると、敵の再来を告げる通達が飛び込んでくる。


『十二機の戦闘機と飛空型PBA十二機 距離二千。戦闘機は一旦引き上げた敵です。関係者は直ちに配置にいてください。繰り返します……』


 機械音声ではなく、オペレーターから情報が発せられ、拓哉は思わず顔を顰める。


 ――ちっ、大事な話をしている時にこれか……空気の読めない奴等だ。


「ねえ、タクヤ。攻撃のコツってあるの?」


 急な敵の再来に舌打ちをしそうになる。そんな拓哉の膝の上に座るクラリッサが、真剣な表情を向けてきた。

 その雰囲気からして、冗談ではなく真面目に助言が欲しいのだろう。

 ただ、拓哉にとって、人に教えるのはとても難しいことだった。

 なにしろ、自分は本能でやっているのだ。他人との感覚が違って当然だ。

 それでも、少しでも役に立てばと、自分の考えを伝える。


「コツと言われても、ひたすら実践じっせんあるのみだが……ん~、強いて上げるなら、相手がどう動くかを予測することだな」


「それって……難しいわ」


 クラリッサにとって、拓哉の助言は困難なことに思えた。しかし、本当にそれしかないし、感覚をそのまま伝える他ないのだ。


「それでも相手の向きや動きをよく観察すれば、おのずと次の動きが解かると思うんだ。特に空戦の場合は、慣性が働くから読み易いはずだ」


「まあ、何事も簡単であるはずがないものね。ありがとう。試してみるわ」


「ああ、頑張れよ!」


 にこやかな表情に戻ったクラリッサは、感謝の気持ちだと言わんばかりに、拓哉の頬に口付けをすると、そそくさとその場を後にした。ただ、その後ろ姿には、やる気が満ち溢れている。


 ――ほんとに、どうしたんだ?


 女らしいクラリッサの後姿を眺めながら、拓哉は胸中をモヤモヤとさせた。









 通達を聞いたクラリッサが赤いラインの入ったエッグに入るのを見届け、拓哉はエッグの扉を閉めた。

 その途端、問題が発生した。

 といっても、拓哉の居るエッグにトラブルがあった訳ではない。

 そのことを伝えるキャスリンの声が無線で届いたのだ。


『ねえ、レナレが戻ってきてないんだけど……』


『まさか、あの時間で寝た訳じゃないよな?』


 リディアルがジョークをぶっ放すが、誰も笑うものは居なかった。

 というのも、彼女は速攻で寝るのが特技なのだ。

 既に、それは周知の事実だった。それ故に、誰もジョークとして受け止められなかったのだ。


 ――まさか、寝ているとは思えんが……主戦力のレナレが居ないのは拙いな……


 クラリッサとリディアルの二人は、予想外の収穫だった。しかし、二人の力だけでは心もとない。況してや、今度は飛行型PBAも居るのだ。翼にダメージを与えれば墜落してくれる戦闘機とは違うのだ。多少のダメージを受けても攻撃してくるはずだ。それに、回避に関しても戦闘機の非ではないだろう。


「俺が攻撃にまわろう」


 拓哉としては、自分が攻撃に回ることが一番の良策だと考えたのだが、即座にカティーシャがそれを否定してきた。


『それは拙いよ』


「なんでだ?」


 相手の撃墜を早くすれば、受ける攻撃も減ると考えたのだが、カティーシャは違う意見を持っていた。いや、異なる事実を認識していたのだ。


『ガルダルも戻ってないんだよ』


「なんだって!?」


『ちっ! 何をやってるんだ! まったく、あのズルい女らしいな。まあいい。だったら私一人で大丈夫だ。タクヤはレッドエッグに回ってくれ』


 ガルダルが戻っていないというのは、拓哉にとっても大きな誤算だった。

 なんだかんだ言っても、彼女の防御は鉄壁だ。前回の戦いでは、拓哉が活躍したことで表面化していないが、彼女は自分の守備範囲を完璧に防御していた、

 それ故に、ミルルカの言葉に頷くことができない。

 それどころか、彼女の意見に反発する者が現れる。


『ミルルだけじゃ、心配なんちゃ! 飛空艦が蜂の巣にされかねないんっちゃ!』


『なんだと! トト、それはどういうことだ!?』


 彼女の相棒であるはずのトトが、先陣切って反対してきたのだ。

 もちろん、ミルルカが憤慨の声で騒ぎ立てるが、拓哉としても不安が残る。

 そんなタイミングで、我こそがという主張が割って入った。


『大丈夫よ。私に任せて。だから、タクヤは、今のまま防御に徹して欲しいわ』


 何を考えたのか、我に任せよと告げてきたのはクラリッサだった。


 ――大丈夫なのか? いや、俺が頑張って攻撃を防ぎさえすれば……よし、それでいこう。


 クラレの考えは分からない。ただ、何とかなりそうだと目算を付けた拓哉は、即座に判断した。


「分かった。クラレ、任すぞ!」


『ありがとう。タクヤ。あなたならそう言ってくれると思ったわ。さすがは、私の旦那様ね』


 彼女は嬉しそうな声色で、拓哉が赤面してしまいそうな返事をしてくるのだが、直ぐに空気を読めと言わんばかりに、複数の声が割り込んでくる。


『ぬぐっ! わ、私の夫でもあるからな!』


『あたしの旦那様でもあります』


『今更だけど、ボクも居るからね』


 ミルルカ、キャスリン、カティーシャ、三人がすぐさま異を唱える。

 またまた諍いが始まるのではないかと、拓哉は冷や冷やするのだが、そこで悲しそうな声色が聞こえてきた。


『あのさ~。オレも頑張ってるんだけどな……忘れないでくれよ……』


 クラリッサに次いで撃墜数ナンバースリーのリディアルが、自分が話題にのぼらないことを寂しげに伝えてきた。


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