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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
13/233

10 天才

2019/12/26 見直し済み


 それは可愛らしい少女だった。

 どう見ても十歳児としか思えない少女だ。

 身長は百二十センチくらいだろうか。

 見目は可愛らしく、ポニーテールの良く似合う少女なのだが、いかにもガサツさがにじみ出ていた。

 それがとても残念であり、誰もが親の躾を疑いたくなるだろう。


「おっ、新人がはいったのか? それにしても、頭のネジが緩んでそうな奴だな」


 少女は拓哉に視線をむけると、端末とカバンを持った手を腰に当てて踏ん反り返った。

 その偉そうな態度が、更に残念なさを強調する。それについては、敢えて言及する必要もないだろう。

 えっ!? 知りたい? まあいい。どれだけ胸を張ろうと、全く以て膨らみがないのだ。成長期を迎える前の少女らしく、皆無と言っても良いだろう。


 ――なんで、こんなところに少女が?


 拓哉からすると、少女がここに居るのかが不思議だったが、そんな感想など知る由のないデクリロが怒りの声を発した。


「バカ野郎。昨日の夕食もすっぽかしやがって!」


「あ~、わるいわるい! 昨日はプログラムの終盤でな。ちょっと手が離せなかったんだ」


 デクリロの叱責に動じることなく、少女は苦笑いでそういうと、笑顔で話を続ける。


「てか、聞いてくれよ。デク! 遂に出来あがったぞ」


 デクというのは、デクリロの愛称なのだが、それを聞いた拓哉は微妙な表情を浮かべた。


 ――なんか、木偶の坊みたいに聞こえるんだが……


 それが聞こえるはずはないのだが、デクリロは怒りの表情を浮かべて、喜ぶ少女の言葉を一蹴する。


「バカ野郎! お前のプログラムでPBAを起動させたら、誰も操縦なんて出来ないんだよ!」


 叱責された途端、今度は少女が険しい表情を見せた。


「ちっ、さっきから、バカ野郎、バカ野郎って、あたいは女だよ! バカちん! それに、あたいは無能者でも動かせる機体を作るのが夢なんだ! それを否定するなら、こんなところ速攻で止めてやる!」


 ――なんだと! この少女、素晴らしい志を持ってるじゃないか! そういや、さっきララとか言ってたのは、この子のことか? マジでこの少女がプログラムを組んでるのか? いや、それよりも、口が悪すぎじゃないか?


 憤慨する少女の言葉を聞き、拓哉は心中で喝采の声をあげた。

 それに続き、少女がララであることを察する。

 ただ、少女だとは思っていなかっただけに驚いてしまう。

 オマケに、その口の悪さは最悪だと感じる。


「はぁ~、まあいい。こっちはタクヤだ。こいつはララカリアだ」


 呆れたデクリロが溜息を吐きつつ、ララカリアのことを紹介してくれた。


「本郷拓哉です。宜しくお願いします」


「あたいはララカリア、ララって呼んでくれ。それよりも、若いな……タクは幾つなんだ?」


 行き成りあだ名で呼ばれてしまい、拓哉は呆れてしまう。

 そして、彼女が人懐っこい性格だと判断する。

 ただ、彼女が口にした言葉に違和感を抱く。


 ――若いって……自分の方が子供じゃんか。


「十五だけど……」


「そ、そうか……若いっていいな……」


 不満を抱きながらも簡単な挨拶を済ませると、ララカリアが溜息を吐いた。


 ――おいおい、どう見てもお前の方が若いじゃんか。何言ってんだか……


 拓哉が抱いた不満と疑問は、そのまま表情に現れる。

 すると、クロートがニヤリと嫌らしい笑みを見せる。


「ああ、こう見えても、ララは二十も半ばだからな! くくくっ」


「えっ!?」


「要らんことを言うな!」


「いてっ!」


 クロートが暴露すると、ララカリアが思いっきり頭を叩く。

 それに不満を感じたのか、クロートが仏頂面でクレームをいれる。


「叩くなよ。ほんとのことじゃんか」


「クロ! あんた、逝かせるよ!」


「まずっ! た、隊長! た、助けてください」


「班長と呼べと言ってるだろ!」


 ララカリアの威圧に耐えかねたクロートがデクリロに泣き付くが、軽くあしらわれた。


 ――それにしても、この見た目で二十代半ばか……異世界って凄いな……


 実際、異世界は全く関係なく、単にララカリアが特殊なだけなのだが、拓哉は思いっきり感心してしまう。

 そんな拓哉をジロジロと眺めていたララカリアだが、何を思ったのか、ニヤリとした笑みを見せると、デクリロに宣言した。


挿絵(By みてみん)


「デク! この小僧はあたい専用にするよ! いいね! あたいが一から鍛えてやる」


「良い訳がねえだろ~! バカ野郎!」


 何を考えているのか、ララカリアは拓哉を引き取ると言い始めたのだ。しかし、デクリロは強気の姿勢でそれを拒絶する。

 ところが、どうやらその言葉がララカリアの逆鱗に触れたようだ。


「あっ! またバカ野郎って言ったな。ああ、分かった。あんたがエッチな本を見て、鼻の下をデレ~んと伸ばしていたことを女房に言いつけてやる!」


「い、いや、いや、まて、それをここで持ち出すのは卑怯だぞ!」


「あ~、奴は潔癖だからな~。きっと、離婚するとか騒ぎ出すだろうな~」


「ちょっ、な、何を言ってるんだ! やめるんだ! ララ」


 デクリロはこの見た目だけ少女ララカリアに、思いっきり弱みを握られていた。

 端末にデクリロがエロ本を見ている動画を映し出し、冷やかな眼差しを向けている。

 結局、ララカリアはそれを盾に拓哉を獲得した。

 ララカリアの専属として働くことになった拓哉は、デクリロの結末を見やり、彼女の目の届くところで迂闊なことはやめようと心に誓った。







 ララカリアに連れられて格納庫というよりも倉庫に近い建物に入ると、彼女は一番端の機体の前に荷物を降ろした。

 そんなララカリアの後に付いてきた拓哉は、既に彼女のことなど眼中になかった。

 目の前には、夢にまで見た巨大なロボットがあるのだ。

 その巨体は、全長が十二メートルで、二足歩行型の完全なロボットだ。

 ただ、ロボットと言っても、日本のアニメに出てくるような正義の味方風ではなく、架空兵器型の武骨な機動兵器だと言えるだろう。

 その姿は圧巻で、対戦型ロボットゲーマーなら誰でも息を呑むはずだ。

 その証明をするかのように、拓哉は呼吸することすら忘れて、その武骨な兵器を見入っている。いや、魅せられていると言った方が良いかもしれない。


「お~~~い!」


「……」


「お~~~~~~~い!」


「……」


「いい加減にしろ!」


「いって~~~~!」


 妄想の世界に足を踏み入れている拓哉は、思いっきり尻を蹴られた。

 だが、彼女の次の言葉で、その理由を知ることになる。


「何度呼んだと思ってるんだ。これから嫌ってほど触ることになるだ。いちいち感動するんじゃね~!」


 ――おっ、おうっ! どうやら、何度も呼ばれていたようだ。でも、蹴ることはないよな~。それに、その見た目に相反した口調もあんまりだ。


 口にするとまた蹴られそうなので、心中で愚痴をこぼす。

 彼女はといえば、気を取り直して話を続ける。


「タク、操縦経験は?」


「ないです」


「コックピットに座ったことは?」


「ないです」


「シミレーター経験は?」


「ないです」


「ちっ、だめじゃね~か~!」


 最終的にダメ出しを喰らってしまった。

 この世界に来てからまだ数日だ。経験がある方がおかしいのだが、ララカリアは頭を振りながら愚痴をこぼし始める。


「おかしいな~。なんかビビッと来たんだけど。あたいの勘が狂ってたのかな。焼きが回って来たってことか」


 見た目が幼女に近い少女だけに、そんな台詞を吐かれると違和感が半端ない。


「ちっ、まあいいや。こっちに来な!」


 彼女は舌打ちをすると、拓哉をうながして歩き始めた。

 仕方なく彼女の後を追って足を進めると、それに目を止めたデクリロが大声を張り上げる。


「おい! お前等、仕事を放ってどこに行くんだ!」


 ララカリアがチラリと振り向くと、指で耳を穿りながら答える。


「うっせ~な~! そんなに怒鳴らなくても聞こえるっての。ちょっと忘れ物を取りに行くだけだよ。直ぐに戻ってくるから、そんなに騒ぐなっての」


「なんだとーーーー!」


「ふんっ!」


 どうやら、エロ本の件を根に持っているのだろう。やたらとデクリロが憤慨している。ただ、ララカリアは一つ鼻を鳴らすと、彼に受け合うことなく足を進めた。







 ララカリアは途中で、あの男は小さいとか、うるさいとか、あたいの嫁か、とか愚痴を溢していたが、特に拓哉に被害が及ぶことなく目的地に辿り着いた。


「ここだよ」


 彼女はそう言って、唯のプレハブ倉庫の扉を開いた。

 その建物は、この世界が恐ろしく技術の発達しているとは、とても思えない代物だった。

 そして、建物の中は、さらに圧巻だった。


「どうやったら、これほど散らかせるんですか?」


 拓哉は思わず声にしてしまう。そう、このプレハブ倉庫はゴミ屋敷となっていたのだ。


「うっせ~な~。デクみたいなことを言うなよ! タク、お前、デクに似てきたぞ!」


 ――いやいや、似てるとか似てないじゃなくて、これじゃ、誰でも文句を言いたくなるだろ。


 その室内は、拓哉が顔を顰めてしまうほどに酷い有様なのだ。


「てか、ここは何処なんですか?」


「ん? あたいの部屋だけど?」


「えっ!? ここに住んでるんですか?」


「何か問題があるか?」


 壁にはコンピュータらしき設備がひしめき合い、床には脱ぎ捨てられた衣服、食べ残した食料、食器、ゴミが至る所に転がっている。

 まさに、足の踏み場もないとはこのことだろう。


「てか、これは?」


 つま先に引っ掛かった布を拾い上げて、両手で広げてみる。


「ぎゃーーーーー! 何するんだ! このエロガキ!」


 ララカリアは奇声を上げると、その三角形の布切れを拓哉の手から奪い取る。

 そう、それは彼女の使用済みパンツだった。

 何時から放置していたのかは知らないが、かなり汚れている様子で、全く以て色気も糞もない。

 拓哉にとっては、それ以前に幼女に近い少女の下着にムラムラしたり、汚れた使用済みパンツを好む性癖も無いので、全く慌てることもないのだが、彼女の動揺する姿を見て、少しだけバツの悪い想いが込み上げてくる。


「はぁ~、少し片付けませんか?」


「いや、今日は忙しいからダメだ。また今度にしよう」


 溜息を吐きつつも、さすがにあまりの散らかりように見兼ねて進言してみたが、彼女から否定されてしまった。


「しかし……」


「うるさい! 今日はそんなことのために来たんじゃない。さっさと、あれに座れ!」


 顔を真っ赤にさせたララカリアが、黒い箱のようなものを指差す。

 それは、見た目は人が一人入るくらいのサイズで、例えるなら体感筐体型のアーケードゲームのような代物だった。

 彼女はその箱の扉を開くと、さっさと入れと急かしてくるが、拓哉はその物体に疑問を持ち、思わず尋ねてしまう。


「これは?」


「シミュレーターだ。新しいプログラムのバグ取で使っている奴だから、今インストールされているプログラムは、これから機体にインストールするものだ」


 彼女の説明を聞き、この箱の役割に納得した拓哉は、箱の中に設置された椅子に座る。

 そして、おののくことになった。なぜなら、それはまるでゲームのコントローラーと同じようなシステムだったからだ。


 ――おおお、これって、オヤジの会社で造っているジョイスティックとよく似てる。


 左右に取り付けられたジョイスティックの握りを確かめながら、そんな感想を抱いていると、ララカリアから声が掛かる。


「操縦方法は従来型と殆ど変わらないけど、操作方法は分るよな?」


「ええ、それに関してはマニュアルを読んだので大丈夫だと思います」


「マニュアル……まあいいや、じゃ、始めるぞ!」


 彼女は拓哉の言葉に嘆息しつつも、扉を開けたままシミュレーターの電源を投入し、勝手にシミュレーションをスタートさせた。


「すげ~、効果音付かよ」


 拓哉は感動しつつも、脳内にあるマニュアルの内容通りに操作を開始する。

 当初は、初見ということもあって、操作を誤るようなこともあったが、暫くすると全く違和感を持つことなく操作する事が出来るようになった。


 ――なかなか、いいじゃんか。てか、シナリオが少し単純じゃね?


 シミュレーションの内容は簡単で、建物の陰から出てくる敵を倒すだけだ。

 拓哉にとって、こんなものは日本にあったゲームよりも容易いものだった。


「さ~、じゃんじゃん来いよ! サクッと片付けてやるぜ」


 この世界にきて始めて心が踊る出来事に、拓哉は有頂天になってシミュレーションを熟していく。

 ただ熱中するが故に、ララカリアが凍り付いていることにすら気付かない。

 そう、彼女は声を発するのが困難なほどに驚いていた。


「ま……じ……か……」


 それもそのはず。始めのミスを除けば、恐らくパーフェクトな出来だった。

 拓哉といえば、それに気分を良くして、敵を殲滅していたのだが、突然、終了画面が現れた。

 恐らくは、右上にあったカウントがゼロになったからだろう。

 時間にして二十分くらいだろうか。数日振りのゲームで気分が高揚していた所為か、あっという間のひと時だったように感じる。


「ふっ~」


 気分よくシミュレーションを終わらせた拓哉が、無言のララカリアへと視線を向けると、彼女はいまだ石像のように固まったままだった。


「ララさん、ララさん、どうしたんですか? 大丈夫ですか?」


 硬直する彼女に声を掛けると、暫くして現世に復帰した。

 ただ、彼女は震える声で言葉を発しながら、箱から出てきた拓哉の肩に手を置いた。


「タク、あんた、何者だい?」


 彼女が驚きの表情で発したその言葉に、拓哉は何か拙かったのだろうかと顔を引き攣らせる。


「なあ、これをやったのは、今日が初めてだろ?」


「はい。俺は異世界から来たので、この世界の物は殆どが初めてですが」


「そうか……くくく……くくくくっ……あはははははは! こんな所に原石があったなんて……良かった! 研究所の仕事を蹴って、こんなところに来た甲斐があったというものだ。本当に最高だ! 最高だぞ、タク!」


 拓哉が有りの侭を伝えると、ララカリアは壊れたように笑い始めたかと思うと、喝采の声を上げた。

 何がどうなったのか分からない拓哉だったが、どうやら彼女に気に入ってもらえたのだと察して、安堵の息を吐いた。


 こうして、何も知らない拓哉と、この世界最高峰と呼ばれる天才プログラマ――ララカリアとの関係が始まることになった。


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