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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
127/233

124 危険信号

2019/2/4 見直し済み


 お代わりでやって来た部隊は、想像していたよりも手強かった。

 なにしろ、取って置きの精鋭部隊なのだ。これで弱かったら、精鋭という言葉が誤りということになる。


「ふむ。これくらいは、やってくれないとな。そう、こうでなくては面白くないというものだ。なあ、トト」


 ミルルカは口の端が吊り上がるのを感じつつ、トトに話しかける。ただ、予想に反して窘められることになる。


「恰好を付けている場合じゃないんちゃ。さっきから飛空艦が被弾してるんちゃ」


 トトが言う通り、精鋭部隊は飛空艦を標的にしていた。

 思いっきり、ミルルカはシカトされている。

 真面にやっても勝てないと判断して、目的を達成することに専念したようだ。


 ――うぐっ! 卑怯な奴等だ。私を狙わずに飛空艦ばかりを狙うとは……


 ミルルカは顔を顰めて心中で愚痴る。しかし、これは戦いであり、決して精鋭部隊が卑怯な訳ではない。


「うるさい。そんな文句は奴等に言え! それに飛空艦もこれくらいの攻撃じゃビクともせんだろ?」


「なに言ってるんちゃ! 飛空艦から煙が上がってるっちゃ。もっと本気でやらないと、戦ってる意味がなくなるんちゃ。飛空艦が沈むんちゃ」


「くそっ、なんてもろい飛空艦だ……」


 自分の事は棚上げして愚痴るのだが、別に飛空艦が脆いわけではない。

 そもそも、飛空艦の防御は、飛行している時のために考えられていて、着陸している状態での近距離攻撃なんて考慮の対象外だ。

 それに、ミルルカが託された役目は、敵の排除ではなく飛空艦の防衛だ。そう考えると、彼女の戦いは、完全に負けていると言っても良いだろう。


「さあ、さっさと片付けるんちゃ。あと八機も残ってるんちゃ」


「そうは言ってもな……奴等、逃げるのがやたらと得意だし、一機一機の能力は知れているが、連携がウザいんだ。くそっ! こんなことなら砲撃装備の方が良かったな……」


「もしそうなら、今頃、飛空艦も含めて、このあたり一帯が焼け野原になってるんちゃ」


 ――ぐはっ! 嫌なことを言いやがる……


 またまた的確なツッコミを食らって、ミルルカが顔を顰めが、敵の排除を怠ったりしない。


「ほら、これで残り七機だ!」


「あと、七機もおるんちゃ。威張ってないでさっさと倒すんちゃ」


「お前……やたらとうるさくなったな……」


「何のことなんちゃ? ウチはハチミツシロップが沢山塗られたホットケーキが目当てな訳じゃないんちゃ」


 ――おいおい、勝手にゲロ(じはく)ってるじゃないか……


 そう、ミルルカ達が駆け付けた時、飛空艦からの感謝と激励があったのだ。

 その感謝の言葉の中で、美味しいホットケーキを作っておくと言われ、トトの頭の中はそれで一杯になっていた。

 それ故に、さっさと敵を片付けて、ごちそうに在り付きたいと考えているのだ。


 ――まあ、飛空艦がやられたらホットケーキの話もなくなるしな。それで焦っているのか……現金な奴だ。


 確かに、トトにとっては死活問題――ではないが、かなり重要度の高い事案だった。

 それもあってか、彼女は強引な作戦を決断する。


「あっ、また砲撃を食らったんちゃ! ミルル、何をしてるん? 早く殲滅せんめつするんちゃ。いや、いっそ合体なんちゃ」


「ま、まて、直ぐに倒すから、合体だけはやめよう」


 トトの発言をマジだと受け止めたミルルカは、一気に焦りを募らせる。

 あのコスプレ衣装を思い出して、ミルルカは必死に頼み込む。

 なにしろ、変身した姿は、まさに美少女戦士なのだ。いや、それだけではない。とってもアダルティであり、ミニスカートは下着が見えそうなほどに短いし、上着も下乳が見えそうなほどなのだ。

 しかし、目の色を変えたトトは容赦なかった。


「そんなこと言ってる場合じゃないんちゃ。ウチのホットケーキが……さあ、合言葉!」


「ま、待てと言ってるだろ! こんな雑魚なんて合体しなくても大丈夫だ!」


 ミルルカが必死に抵抗を試みる。そんな時だった。トトが間の抜けた声を上げる。


「ふへ? どこからの攻撃なんちゃ?」


 何処からともなく放たれた砲撃が、残った七機の敵に突き刺さったのだ。


「ん? あれは……舞姫か!」


 その攻撃手段ではなく、モニターに映った機影で判断した。

 しかし、ガルダルが味方に付いたと知らない二人は、思わず首を傾げる。

 というのも、ガルダルが純潔の絆の傀儡となっていると知っていたからだ。


「なんで舞姫が奴等を倒したん?」


「そんなことを聞かれても知らんわ。というか、私の楽しみを奪いやがって!」


 トトの質問に投げやりな態度で応じるのだが、ミルルカの中では沸々と怒りが込み上げてくる。

 これからというところで獲物を横取りされたのだ。それも颯爽さっそうと格好良く。

 あのままだと、既に合体する羽目になっていたことすら棚上げして、ミルルカはクレームを入れようとする。

 しかし、ガルダルと話すには通信コードが不明であり、無線での連絡が取れない。

 もちろん、共通チャンネルなるものはあるが、それでは敵に察知されてしまう。

 仕方がないので、外部スピーカーモードで苦言を叩きつけることにした。


「おい! いったい、どういうつもりだ?」


「あっ、ごめんなさい。今は急いでいるの。あとは、よろしくお願いするわ」


 不満を露わに、クレームを入れたのだが、ガルダルはさっさと飛空艦に移動してしまった。

 その行動が、ミルルカに火をつける。


「な、な、なんて失礼な奴だ!」


 怒りの対象から無碍むげにされて、ミルルカの端整な眉が吊り上がった。

 しかし、トトが自分の知り得た情報を伝える。


「両手にダグラス将軍や鬼神が乗ってたっちゃ! 仕方ないんちゃ」


 ――そ、そうなのか……それは気付かなかった……だが……


 ガルダルは倒れた拓哉の容態を気にしていた。

 それ故に、ミルルカが憤慨すると知っても、呑気にしていられなかったのだ。


「それならそういえばいいものを……それに、自分が殲滅しておいて、あとは宜しくって、私に何をしろと? やることなんて、何も残ってないぞ?」


 苛立つミルルカはモニターを見やり、既に敵がいないことを確認する。

 しかし、トトには何をすべきかが理解できたようだ。


「この場合、滑走路の後片付けだと思うんちゃ。このままだと飛空艦が離陸できんちゃ」


「な、な、なんだと~~~! 私に後片付けをしろと言っているのか!」


 事実を知ったミルルカが怒りをあらわにすると、無情にも、トトが当たり前のツッコミを入れる。


「自分が散らかしたゴミは、自分で片付けるのが常識なんちゃ。ここを散らかしたのは、ミルルなんちゃ」


「何を言ってるんだ。最後の七機は舞姫だろうが!」


 憤りと不満の入り交ざった声を上げたのだが、結局のところ、誰もそれをやる者が居ないと知り、ミルルカは粛々《しゅくしゅく》と後片付けをすることになった。









 彼女の心は張りつめていた。

 今にも張り裂けそうな想いで、潰れてしまいそうだった。

 そんなクラリッサの前では、空気を読めない女が騒ぎ立てている。


「どういうつもりだ! 私に後片付けをさせるとは!」


 その煩い女は、彼女の下僕となったミルルカだ。

 そう、一人で飛空艦の周囲を片付けることになったミルルカは、憤怒の形相でガルダルに噛みついているのだ。


「あの場合は、仕方ないですよね? 私は救助した者を抱えていたし、鬼神……ホンゴウ君の状態も悪くて切迫してましたし……」


 全く以てガルダルの言う通りだ。

 正当な理由を聞かされるが、それでもミルルカは気が収まらないらしい。


「だったら、みんなを下ろした後に戻ってくればよかったじゃないか」


「ミルルカ。少し黙っていてください」


「な、なんだと!」


「まさか、賭けを忘れた訳ではないですよね? それとも反故ほごにする気かしら」


「ぬぐっ……それは……」


 賭けで勝ったクラリッサが、いつまでも騒ぎ立てるミルルカを窘める。

 その言動は、年上に対して失礼であり、傲慢かもしれない。ただ、今の彼女はそれどころではないのだ。拓哉のことが心配で、周りに気を配る余裕がないのだ。


 ――私が賭けで勝ったからには、いうことを利いてもらうわ。唯でさえタクヤのことで落ち着かないのに、少しは黙っていてくれないかしら。


 飛空艦に戻った後、表情を強張らせたクラリッサは、集中治療室の隣に設置された部屋でオロオロとしていた。

 そんなところに、カティーシャがやってきたのだが、なぜかミルルカとガルダルが一緒に付いてきたのだ。

 クラリッサとしては、色々と知りたいことはあったのだが、今はそれに思考を回す余裕がなかった。

 それ故に、彼女達の相手をする気にもなれず、どうしたのかと尋ねることすらしなかった。

 しかし、カティーシャの方から色々と話し始めた。

 それによると、トトという妖精はルーミーの作ったホットケーキに夢中になり、レナレという名の猫娘はカティーシャが用意した猫マンマをむさぼり食べているらしい。

 そんな二人を残して、ミルルカとガルダルがやって来た理由は簡単だ。これからについて話し合うためだ。

 しかし、未だ拓哉の容態が解からないこともあって、呼びに来た者達もここに留まっていた。

 というのも、クラリッサは、梃子てこでも動くつもりがないからだ。

 ただ、次の瞬間、クラリッサが勢いよく立ち上がる。集中治療室からリカルラが出てきたのだ。


「リカルラ博士。タ、タクヤはどうなんですか? 命に別状はないですよね?」


「まあまあ、落ち着きなさい」


「落ち着いてなんていられません。私達の所為でタクヤが……」


「大丈夫よ。命に別状なんてないわ」


「ほ、本当ですか?」


「嘘を言ってどうするのよ。安心しなさい。本当よ」


「よ、よかった……」


 リカルラから問題ないと聞かされ、クラリッサはその場にへたり込んでしまった。

 床に座り込んだまま安堵の息を吐くクラリッサを見やり、リカルラは肩を竦めて溜息を吐く。

 しかし、リカルラは直ぐに表情を険しくした。


「ただ、暫くは絶対安静よ。身体がかなり消耗しているわ。このままだと本当に動けなくなるわよ」


 絶対安静と聞いて、安堵していたクラリッサの息が止まった。

 一気に表情が強張り、愕然と佇んでいる。

 そんなクラリッサを横目に、カティーシャが容態について尋ねる。


「タクの容態って、そんなに酷いんですか?」


「ええ。ちょっと、急激に力を使い過ぎたのよ。というか、ここまで暴れるとは思ってなかったし……身体強化のサイキックの学習が甘かったようね。次はもっと上手に戦える学習をさせておくわ」


「な、なにを言ってるんですか。タクヤをこれ以上は酷使なんてさせません」


 クラリッサにとって、リカルラの物言いは頂けなかった。いや、腹立たしかった。

 まるで、モノでも扱うような発言に、彼女は憤りを露わにした。

 すると、顔を顰めたカティーシャも苦言をもらす。


「まるで物みたいな扱いは止めて欲しいんだけど。タクはボク達の仲間だし、ボク達と同じ人間なんだよ」


 彼女の言い分はもっともであり、クラリッサもそれに賛同する想いだった。

 しかし、そこで横から割り込む声があった。


「なあ、異世界人というのは分かるが、あれを人間と呼べるのか?」


 クラリッサはその声の主であるミルルカを睨みつける。

 ところが、ガルダルも同じようなことを言い始めた。


「あっ、気を悪くしないでね。別に差別するつもりはないの。ただ、彼を人間の範疇はんちゅうにするのはどうかと思うわ。だって、彼を人間だというなら、私達なんて原始人のようなものだわ」


 思わず反発したい気持ちになったのだが、思い当たるところが余りにも多くて、クラリッサは押し黙ってしまった。

 そんなタイミングで、リカルラが自分の考えを口にする。


「そもそも、人間の定義が曖昧あいまいなのだけど、今現在の定義からすると彼は間違いなく人間だわ。別に特殊な血液が流れている訳でもなければ、体の組織が違う訳でもないの。肉体的には、私達とどこも変わらないわよ?」


 リカルラの考えは尤もだ。

 この世界であっても、人間の定義は曖昧だ。魂の所在さえはっきりしていない。

 ただ、ヒュームとの違いは明確だ。というのも、彼等の行動は演算結果であり、そのよりどころは情報であり、それは学習と経験だ。決して魂がある訳ではない。

 しかし、ガルダルが信じられないという表情で、己の気持ちを吐露とろする。


「ほ、本当ですか? あれほどの……PBAと生身で戦えるほどの力を持つ人間なんて……」


 ガルダルの疑問も間違ってはいない。なぜなら、人間とは、自分達の力を遥かに凌駕する存在を同じだとは考えられないからだ。

 そして、それを理解しているリカルラは、笑顔で付け加える。


「ああ、そうは言っても、ただの人間でないのも事実だわ」


「それじゃ、どんな人間なんだ?」


 自信ありげなリカルラに向けて、厳めしい表情を見せたミルルカが詰め寄る。

 すると、リカルラは胸の大きさを争うかのように誇示した。そして、自慢げに告げた。


「そう、人類最強の人間よ。きっと素晴らしい遺伝子を持っているはずだわ」


 その台詞を耳にしたところで、クラリッサは背筋が凍り付くほどの寒気を感じてしまった。

 不審に思って視線を巡らせると、キラキラと瞳を輝かせるミルルカの姿があった。

 それを目にした途端、嫌な予感に襲われたクラリッサは、拓哉に近づけないための方法を考え始めた。


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