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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
120/233

117 問題だらけ

2019/2/1 見直し済み


 一時はどうなることかと冷や冷やした拓哉だったが、愛の結界について深堀されることはなかった。

 その代わりに、拓哉が使ったサイキックの話で盛り上がった。

 そのお陰で、何とか場を濁した訳だが、いつまでも呑気にしてはいられないということで、サイキックの話もなんとか終息させて、現在はダグラス将軍が閉じ込められている特別収監室に向かっている。

 ところが、どうやら拓哉の認識は誤りだったようだ。

 というのも、リディアル、キャスリン、ティートの三人は、未だにサイキックの話で盛り上がっていたからだ。


「でもさ、あのサイキックの威力は半端なかったぜ」


「あたしも、あんなのは初めて見たわ」


「いやいや、そうそうお目に掛れるものじゃないだろ!」


 リディアルが威力について述べると、キャスリンとティートが、それに続けて感嘆の声を上げた。

 すると、先行するクラリッサが、自慢げに胸を張る。


「なにを言っているの。この先、嫌というほど拝まされることになるわよ」


「まあ、そうだけどさ。タクヤを無能だと罵っている奴らに見せてやりたいな」


「あはは、きっと腰を抜かすわよ。土下座してくるんじゃない?」


「いや、それどころか消えてなくなるかもしれんな」


 クラリッサの言葉はサラリと流され、三人は訓練校で拓哉に蔑みの視線を向ける奴等のことをあげつらう。

 ただ、拓哉としては、あまり吹聴して欲しくないと思っていた。


 ――もういいんじゃないか? なんか、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるんだが……


 拓哉が眉をヒクヒクさせながら不満を抱くが、その途端、カリナの脚が止まった。


「ここですね」


 彼女はそういうと、扉に設置された認証設備に何かを打ち込み始めた。

 しかし、その行動を目にして、拓哉は思わず呆れてしまう。


 ――おいおいおい! 解除方法が分かってるのか? だったら、なんで階段を通って来たんだ? エレベーターだって使えたはずだろ?


 ここに至るまで、数カ所にエレベーターもあった。ただ、認証システムが設置されていて、使用できないと判断したのだ。

 ところが、ここにきて、カリナはいとも簡単に認証を解除してしまったのだ。不満を抱いて当然だろう。

 しかし、それを口にする前に、カリナは扉を開けたかと思いきや、サクッと中に入ってしまった。そう、入ったのだが――


「お待たせしましたダグラス将軍……失礼しました」


 先行して部屋に入ったカリナだったが、何故か直ぐに謝罪の言葉を口にした。

 彼女に続いて中に入ろうとした拓哉達だったが、彼女に押しやられてしまい、中で何が起こっているのかを知ることができなかった――訳がない。


「あ~ん。将軍! もっと~~その太い主砲で突いてください。もっと攻めてください」


「今、何か聞こえなかったか?」


「気のせいです。それよりも、もっと~~~」


「そうか、じゃ、私も頑張っちゃうぞ! そ~れ~~!」


「はい! 頑張ってください」


 中からダグラス将軍とアーガスらしき声が聞こえてきた。

 それも、思いっきり大人の情事の最中だった。


 ――いやいや、おっさん……頑張っちゃうぞって……気づけよ!


「うほん! うほん!」


 せっかく助けに来たのに、そこで秘書的な女性士官とネンゴロしているダグラス将軍を看過できなかったのか、クラリッサがわざとらしい咳払いで妨害する。

 彼女からすれば、ここに至るまで大変な苦労だったはずだ。いや、それどころか怪我までしているのだ。気分を害して当然だろう。


「きゃっ! だれっ!」


「誰だ!」


 ――誰だじゃね~よ。危険な目に遭ってまで助けにきたのに、よろしくやり過ぎだろ。なんか、阿保らしくなってきたぞ……


 これまでの苦労が水の泡になるような気がして、些か不機嫌になってしまったのだが、クラリッサが赤い顔で拓哉の袖を引っ張った。


「あ、あの、た、タクヤ、帰ったら私達も……」


 どうやら、先程のラブラブがあった所為か、彼女もかなりボルテージを上げているようだ。

 おそろしく前向きな姿勢を見せた。

 そうなると、もちろん拓哉が断る理由はない。なんてったって、貯まりに貯まっているのだ。それこそ、願ったり叶ったりというやつだ。


「あ、ああ、クラレさえ良ければ、俺は何時でもオーケーだぞ」


「ダメです。ダメなんです」


 晴れ晴れとした表情で、幸せいっぱいの拓哉が、即座にOKを出すと、クラリッサの表情も華やいだ。

 ところが、そこに待ったが入った。

 その途端、クラリッサの眦が吊り上がる。


「ちょ、ちょっ、ちょっと、なんでキャスリンがダメ出しをするのよ。カティならまだしも、あなたは関係ないでしょ」


「か、かん、関係ないけど、ダメなものはダメなんです。不潔です。不純です。エッチです」


「関係ないなら、否定させないわ」


「ダメなんです。嫌なんです」


「嫌と言われても、私と拓哉は婚約者なのだから問題ないわ。あなたに拒否権はないはずよ」


 ひたすら嫌がるキャスリンに、クラリッサが正論で対抗する。

 この世界でも、未だ成人になっていないことを考えると、クラリッサの台詞も正論とは言えないのだが、保護者が推奨していることもあって、やたらと強気だ。


 ――ん~、婚前交渉ってのは、少し問題あると思うけど……まあ、合意の上なら問題ないのかな?


 拓哉としても、欲望に勝るものなしであり、多少の問題には目を瞑るつもりだ。

 それ故に、クラリッサに賛同したいのだが、キャスリンの気持ちを知ってしまったこともあり、口を挟むことに躊躇してしまう。

 しかし、それが拙かったのだろう。キャスリンの表情が一気に変貌した。いや、かなり思い詰めている様子だ。


 ――なんか、嫌な予感がする……


 彼女の表情を見た途端、拓哉の勘が働くのだが、それは少しばかり手遅れだったようだ。

 何を考えたのか、キャスリンが壊れた。壊れてしまった。


「だったら、あたしもタクヤくんと婚約します」


「なっ、なにを言っているの!? あなた、自分が何を言っているのか理解しているの?」


 キャスリンの壊れ振りに、クラリッサがおののく。

 それを見ていたティートは、感心した様子で手を叩いている。

 リディアルに至っては、やっちまったと言わんばかりに、片手で顔を覆っていた。


 ――はぁ~嫌な予感が当たっちまった……まさか、この段階で、こういうことになるとは……俺って、エッチの運がないのかな~。


 ついさっきまで幸せな気分いっぱいだった拓哉が、一気に萎れる。まるで花が枯れるようすを早送りで見ているかのようだ。

 しかし、悪夢はまだまだ続く。なにしろ、キャスリンの壊れ振りは半端なかった。


「あたしも、だったら、あたしも一緒にエッチします。沢山ご奉仕します」


 ――おいおいおい! 不潔で不純だったんじゃなかったのか? 自分も参加できれば問題ない訳か? でも、ご奉仕は……魅力的な言葉だ……やば、バレた……いてーーーーーーー!


 ダブルスタンダードに呆れるのだが、彼女の言葉に少しだけ魅力を感じてしまう。

 ところが、瞬時にクラリッサから見透かされてしまい、思いっきりお尻をつねられてしまった。


「タクヤ! なに鼻の下を伸ばしているの! というか、ダメに決まっているでしょ」


 憤慨するクラリッサは、まさに般若の如くだった。


 ――は、鼻の下なんて伸びないって……


 否定しながらも己の鼻の下を確かめてみる。


 ――大丈夫、大丈夫。伸びてないよな?


 愚かにも鼻の下が伸びてないことに安堵したのだが、そもそも、そんな問題ではないのだ。

 なにしろ、今も二人の少女が戦っているのだ。

 それは、拓哉にとって、対校戦よりも恐ろしい光景だった。


「どうしてダメなんですか? それをクラリッサが言うのはおかしいです」


「どうしてって、普通に考えれば分かるでしょ。私という婚約者がいるのだから、他の女性が割り込むのは常識外れよ」


「それも聞きました。でも、クラリッサが押しかけて、勝手に言ってるだけですよね? だったら、あたしにもその権利があるはずです。早い者勝ちなんてズルいです」


「ぬっ、か、カティね……早い者勝ちではないわ。見ていたでしょ? 私と拓哉は愛し合っているの。いまさら横槍は止めて欲しいわ」


「た、確かに……誰にも近寄れない愛の結界は見ましたけど……でも、それなら……」


 あまりの剣幕に、拓哉はただただオロオロするしかなかったが、普通に考えればクラリッサの言う通りだろう。恋愛なんて早い者勝ちなのだ。うかうかしていると、優良物件はあっという間に売れてしまうのだ。

 しかし、その正論を振りかざし、キャスリンを追い詰めたのが拙かった。

 何を血迷ったのか、キャスリンが行き成り拓哉に抱き着いたかと思うと、強引に唇を重ねた。


 ――ちょ、ちょっ、キャスリン……ぬお~~~~! 気持ちいい~~! いやいや、ここは断固として拒絶すべきだ……が……気持ちいい~~~~。


 人間の快楽とは恐ろしいものだ。

 拓哉は必死に抵抗しようと試みるのだが、なぜか身体は何の反応しない。いや、それどころか、条件反射で背に腕を回してしまった。


「ちょっ、ちょっと、何をしているの! た、タクヤもなんで抱きしめているのよ!」


「おお~キャス、大胆だな。だが、それこそが雑草魂だ! もっとやれ! 舌を入れろ!」


「タクヤ……ご愁傷様……死ぬなよ」


 クラリッサが凄い剣幕でキャスリンを引き剥がそうとする。

 ところが、ティートが喝采の声をあげ、さらにキャスリンを煽り立てる。

 そんな状況をながめているリディアルは、まるで死者を送り出すかのような表情を浮かべていた。


「こ、これで、あたしもタクヤくんの女です。婚約者です」


 唇を離したキャスリンが自慢げに薄い胸を張る。

 ただ、これで婚約者になるのなら、世の中、婚約者だらけだろう。


「な、なにを勝手に! それは強盗と同じだわ!」


 当然なら、憤慨するクラリッサが無効だと論じる。それは、ごく当たり前の発想だが、壊れたキャスリンには通用しない。


「それは、タクヤくんが決めることです」


 理不尽ながらも、クラリッサとキャスリンが鋭い視線を向ける。

 その矛先は、当然ながら拓哉だ。


 ――おいおい、なんでこんなことになったんだ? そもそもは、空気を読まずに収監室でエッチなことをいていたダグラス将軍が悪いんだ。なんで、俺にまでとばっちりが……


 この修羅場をどう切り抜けるか思考するのだが、拓哉の思考は、完全に責任回避の言葉で埋まっていた。

 そして、何とかしろと言わんばかりに、根本原因に視線を向ける。

 すると、さすがに、その自覚があったのか、張本人が割って入った。


「いや~すまん、すまん。閉じ込められて、することが何もなくてな」


 何とか衣服を身に着けたダグラスが頭を掻きながら謝るのだが、隣に立つアーガスは借りてきた猫のように縮こまっていた。


 ――いやいや、やることがなかったらエッチするんかい! 他に考えることがあるだろう! だいたい、あんたの所為で、俺がこんな目に遭ってるんだぞ!


 思わず不平が漏れそうになるが、先にカリナが口を開いた。


「遅くなって申し訳ありません。お迎えに参りました」


「うむ。それで、この後はどうする予定だ?」


 カリナの言葉を聞いたダグラスが、真面目な表情で問いかける。

 その表情は、つい先程まで秘書たる女士官とネンゴロしていたとは思えないものだった。


「ミラルダの飛空艦で脱出してもらいたいのです」


「ん~、さすがに、それは出来んな」


 カリナの願いを、ダグラスは即答で断る。

 しかし、カリナもはいそうですかと頷かない。


何故なにゆえでしょうか」


「この基地に居る味方を見捨てる訳にはいかんからな」


 どうやら、ダグラスにも、色々と思うところがあるようだ。

 ところが、その言葉を聞いたカリナは、笑みを浮かべて頷いた。


「それなら大丈夫です。味方に関しては脱出作戦を進めています。殆どの者は、ミラルダの飛空艦に収容することになっています」


「ちょっと、うちの飛空艦は包囲されているのですが……どうやって?」


「それなら大丈夫です。今頃は、赤い機体が暴れまわっているはずですから」


 すぐさまクラリッサが割って入るが、その懸案にも対策が執られていたようだ。

 ただ、赤い機体と聞いて、拓哉は別の意味で不安を抱く。


 ――鋼女か……飛空艦……大丈夫かな~。


 ミルルカが出動したと聞いて、思わず帰る先が無くなるのではないかと思ったのだが、幾ら彼女の攻撃力が破壊的だとはいえ、そんな本末転倒なことはしないだろうと考える。

 ところが、ダグラス将軍が顔を青くした。


「そうか……それは早く戻らんと、飛空艦が危険だな」


 ――おいおい、あんたの姪だろ! てか、どんな育ち方をしたんだ?


 せっかく助けに来てみれば、女性士官と宜しくやっているダグラス。空気を読まずに恋人宣言を実行するキャスリン。守るべきものをぶっ壊しそうなミルルカ。拓哉は問題だらけのミクストルという組織に、こんなことで大丈夫なのだろうかと不安を抱くのだった。


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