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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
12/233

09 格納庫

2018/12/26 見直し済み


 鬱陶うっとうしい外野と愉快な仲間に囲まれて複雑な気分で食事を終え、そそくさと自室に戻った拓哉は、まず始めにこの世界の一般常識を頭に叩き込むことにした。

 なにしろ、握手をしたら求愛を認めたことになるなんて、そんな風習を知らなければ、どれだけの相手に求婚することになるのか分ったものではないのだ。

 そこで、クラリッサに教えてもらったアクセス先の資料を読みあさることにした。


「ぐあっ! 同じコップで飲み物を飲むことが婚約の儀式って……気を付けねば」


 ――なんて恐ろしい世界なんだ……


「こりゃ、迂闊うかつに人に近づけんぞ」


 携帯端末で、『ティラローズにおける常識』という資料を読み解いているのだが、思わずぼやき声が漏れてしまう。

 それも仕方ないだろう。それほどに異なる風習を持っているのだ。


 ――異性のお尻を触ったら犯罪だとか、迂闊に近寄れないぞ! って、これは日本でも同じか……


 結局、二時間ほど常識や風習をつづった資料を読み、一通りの内容を頭に叩き込むと、今度は明日からの仕事に向けて、PBAサイキックバトルアーマーの資料に目を通す。

 こちらについては、この機動兵器を動かすのにサイキックが必要だということを知り、既に興味が失せてしまっているのだが、仕事をする上で必要となる知識なので、致し方なく頭に叩き込む。

 とはいっても、拓哉の頭脳は特殊な仕様ので、無理に覚えようとする必要はない。

 さらりと読むだけで脳内に刻み込まれ、必要な時には思い浮かぶのだ。

 まあ、これはチートといえばチートかも知れない。だが、これに付いては、まだ誰にも話していないし、これからも話すつもりはなかった。


 ――この能力が凄いという騒ぎになって、モルモットにされるなんて真っ平だからな。


 少しばかり身を震わせつつも、必要な情報の粗方を頭に詰め込むと、拓哉はベッドに転がってクラリッサのことを考えながら寝ることにした。

 ただ、そこで風呂に入るのを忘れていたのを思い出し、そそくさとバスルームに向かうのだった。







 翌朝、時間通りに目を覚ますと、クロートとトニーラが部屋まで迎えにきてくれた。


「おいっす!」


「おはよう」


 二人は軽い調子で挨拶をしてる。


「おはようございます」


 拓哉は気軽に挨拶を返す。

 ただ、クロートが二十二歳、トニーラが十八歳、二人とも拓哉よりも年上なので、一応は丁寧な言葉遣いを心掛ける。

 その途端、クロートが勢いよく拓哉の背中を叩いた。


「だから~、気軽にしろって!」


「わ、分りました。おはよう」


「そうそう! それでいいんだよ!」


 クロートに咎められて、ざっくばらんな挨拶に変える。

 それに満足したのか、クロートは和やかな表情で頷く。しかし、そこでトニーラが横から口を挟んだ。


「さっさと朝食に行きましょうか。遅刻すると班長から折檻せっかんを喰らいますよ」


 ――どうやら、ここの仕事は時間に厳しいみたいだな。てか、それが普通か……


 これまで真面に働いたことのない拓哉は、社会で働くことの責任について全く知らない。

 だが、それを知るクロートが端末で時間を確かめ、慌てた様子で急かしてきた。


「やべっ! 急いで飯を済ませるぞ!」


 こうして昨夜の夕食と同じ食堂で朝食を摂り、クロートに促されるままに急いで職場となる格納庫へと向かったのだが、その間も拓哉を見てはコソコソと話している輩がいる。

 その表情からすると、あまり愉快なものではなさそうなので、敢えて耳に入れないようにしながら脚を進め、目的地である兵器格納庫へと辿り着く。


「よし! 初日からの遅刻はないようだな! クロと違って大変宜しい」


 格納庫の前には、既にデクリロが立っており、和やかな表情で迎えてくれた。

 それを見て、思ったよりも脳筋ではなさそうだと感じてしまう。

 周囲を見渡すと、拓哉達以外の整備士も続々と現れ、班ごとに点呼を行っていた。

 ここで初めて知ったのだが、整備班も結構な数があるようで、いつの間にか百人以上の者が集まっていた。

 しかし、ここでもあざけりの視線を向けられる。


「無能者班に新人が入ったみたいだぞ」


「ああ、氷の女王が連れて来たという男だろ?」


「またなんで、無能者なんて連れて来るかね」


「噂では、氷の女王が手籠めにされた所為だとか言ってなかったか?」


「昨日は、デクリロに求愛したらしいぜ。くくくっ」


 周囲の者達はあることないこと、様々な噂話で盛り上がっている。

 憤慨ふんがいしたくなる気持ちを抑えながら、拓哉は心中で愚痴をこぼす。


 ――話のネタになってやってるんだ。少しくらい感謝しろよな!


 そんな拓哉の想いを余所に、デクリロはしかめ面で苦言を口にした。


「ララはどうした!?」


 ――ララ? 名前からしたら女みたいだけど……同じ整備班の仲間かな。まさか、ニュータイプじゃないよな?


 拓哉にとって、ララというのが誰のことなのかは知らない。ただ、デクリロが発した名前であることを考えると、同じ整備班の面子だと察する。


 ――あれ? 昨晩の食事の時には居なかったよな?


 腕組をしたデクリロは顰め面のまま、クロートとトニーラに視線を向けるが、二人は黙って首を横に振っている。


「ちっ、今日もかよ! 本当に困った奴だ。まあいい。現場にいくぞ」


 デクリロは舌打ちをした後に愚痴を溢すと、目の前の格納庫ではない方向へと歩き始める。


 ――えっ!? どこに行くんだ? この格納庫じゃないのか?


 拓哉は思わず首を傾げてしまった。

 というのも、拓哉達は整備班のはずなのだが、デクリロが格納庫とは異なる方向に歩き始めたからだ。

 それでも、クロートやトニーラが不審がっていないが故に、拓哉は不思議に感じながらも彼等の後に続く。


 ――マジ? もしかして……


 暫く歩くと、先程の格納庫の三分の一くらいの建物が見えた。

 その有様は、格納庫というよりも倉庫と呼ぶのが相応しいほどにヨレヨレな印象だった。

 そんな建物の前に辿り着くと、デクリロは脚を止めて拓哉に視線を向ける。


「着いたぞ。ここがオレ達の職場だ」


 その言葉を聞いて、拓哉は愕然とする。

 というのも、目の前の建物が倉庫にしか見えないからだ。


「ここって、格納庫なんですか?」


 驚きの心情を抑えることができず、思わず声にしてしまったのだが、デクリロはコクリと頷くと、和やかな表情で説明を始めた。


「見てくれこそ良くないが、ここには最新鋭の設備が整ってるぞ。それにPBAは二十機もあるしな」


「PBAと言っても、初級訓練機体だけどな」


 デクリロの説明を補足するかのようにクロートが横から口を挟んだ。

 すると、デクリロがクロートの首根っこを掴みながら、叱責の声を上げる。


「バカ野郎! 初級訓練機体でも立派なPBAだぞ! 手を抜いたらシバクからな」


「りょ、了解であります! 隊長!」


「誰が隊長だ! 班長と呼べ! 班長と!」


 デクリロに捕まっているクロートが胸に握り拳を当てて軍隊用語で返答する。しかし、どうもデクリロは隊長という言葉が気に入らなかったようだ。


 ――う~ん、クロートがやってるアレがこの世界での敬礼なのかな? それよりも、なんで別の場所にあるんだ?


 彼等の説明を聞いた拓哉は、クロートの敬礼を気にしつつも、別の疑問を抱いた。


「どうして格納庫が別れてるんですか?」


 感じた疑問をそのまま口にすると、デクリロではなく、トニーラが説明してくれた。


「初級訓練機体はサイキックを使わなくても動く機体なんだよ。だから、整備もサイキック技術者ではなくて、僕達のような機械工技術に詳しい者が選ばれるんだけど……」


「機械工学を得意とする者ってのは、サイキックを使えない者が多いんだよ。だから、サイキック能力者からはさげすみの視線を向けられる。更に行き着くと、こういう待遇になるのさ」


 トニーラは説明の途中で押し黙ってしまったのだが、その原因についてはクロートが引き継いで説明してくれた。

 それは恐ろしくネガティブな話なのだが、拓哉の意識はトニーラの説明の始めのところで、既にぶっ飛んでいた。


 ――サイキックを使わなくても動く機体……マジか! マジか! マジか! キターーーーーー!


 そう、一時はがっくりと肩を落とした。サイキックを使えないとPBAを動かせないという話は、拓哉のやる気を根こそぎ削ぎ落した。ところが、サイキックが使えなくても動かせる機体があると聞いて、拓哉の心は既に此処に在らずといった状態だった。


「お~い! タクヤ! もどってこ~い」


「タクヤ君? 大丈夫?」


「タクヤ! どうした!? もしかして、初日から壊れたのか?」


 完全に別世界へと飛び立ってしまった拓哉に、クロート、トニーラ、デクリロ、三人が慌てて声を掛ける。

 しかし、拓哉の耳には全く以て届いていない。それどころか、完全に妄想の世界に突入していた。


 ――サイキックの要らないPBA……俺の手足、地を蹴り、宙を舞い、数々の敵を撃墜する……やべっ、きたわ、これ……


「おい、大丈夫か? 今になって後遺症がでたとか?」


 不安そうな表情を浮かべたデクリロが、クロートとトニーラに視線を向ける。

 しかし、二人は肩を竦めたまま首を横に振る。

 そんなタイミングだった。新たな声が放たれた。


「わり~わり~! 夜通しプログラムを組んでたら、寝過ごしちまった。ん? その呆けている奴だ誰だ?」


 小柄な少女が頭を掻きながら現れたのだが、トリップしている拓哉を目にして首を傾げる。

 やたらと男勝りな言葉を発した女性との出会い。それこそが拓哉の運命を決定づける出会いだった。


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