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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
118/233

115 愛の結界

2019/1/31 見直し済み


 四階の空気は、生温かった。

 恐ろしいほどに、異様に、凄まじく、生温い空気が流れている。

 実際は。空調がきちんと作動していて、適切な温度設定となっているはずだ。

 それでも、生温い空気と、それに相反して凍り付くような視線を感じた。

 どうやら、この生温い空気を作り出した原因は、拓哉にあるようだ。いや、この場合、クラリッサも同罪だろう。

 それに気づいたのは、どこからともなく聞こえてきた咳払いによるものだった。


「ごほんっ! ごほんっ!」


 熱い口付けを長々と交わし、温かい気持ちでクラリッサと見つめ合う。

 そこで彼女の瞳に映る情愛を感じ、燃え上がるような親愛の情を抱いた拓哉は、再び唇を交わそうとしていたのだが、そこで、いかにもわざとらしい咳払いが聞こえてきた。

 それに気付いて視線を背後に向けると、そこには様々な表情を浮かべた者達がいた。


「す、少し、空気を読んで欲しいんですけど……」


 かなり冷たい態度で、苦言を口にしたのは、顔を顰めたキャスリンだった。

 どうやら、トリガハッピータイムは終了したようだが、かなり機嫌が悪そうだ。


「まあ、ダメとは言わんが、場所と状況は考えて欲しいかな。どこでも盛るのは良くないぞ?」


 腕を組んだ状態まま、優しげな雰囲気で窘めてきたのはティートだ。

 彼女としては、あまり邪魔したくないという気持ちがあるのかもしれない。それが言葉と態度に表れていた。


「いいですね……幸せそうで……私も……」


 キラキラと瞳を輝かせて、ぼそぼそと独り言を口にしたのはカリナだったが、彼女も色々と思うところがあるようだ。責めるどころか、羨ましそうにしている。


「て、て、手は大丈夫か?」


 気まずそうな表情でほおを掻きながらリディアルが、拓哉の手を気にしていた。

 彼としては、自分達が邪魔ものだと感じている様子だ。明らかに、申し訳なさそうにしている。

 仲間から、様々な態度を向けられ、拓哉とクラリッサが作り上げたラブラブという結界が解かれる。


 ――あぅ……みんなが居たんだった……めっちゃ恥ずかしい……


 羞恥を感じたのは拓哉だけではなかった。クラリッサもゆっくりと拓哉の胸から離れると、思いっきり顔を赤らめていた。

 それを名残惜しく思いつつも、拓哉はこの場を打開する方法を考える。


 ――な、なんて言い訳をすればいいんだ? ちょっとした出来心だったんだ……って、それじゃまるで浮気現場を見つかった男みたいだし……


 周囲の目を気にした拓哉が色々と言い訳を考えるのだが、二人が作り上げた愛の結界について、誰も追及はなかった。いや、それよりも拓哉の状態が気になったようだ。

 それを真っ先に口にしたのは、転がるアームズを眺めるリディアルだった。


「なあ、タクヤ、さっきのって、サイキックなのか?」


「そ、そうよ。こんなに強烈なサイキックなんて、聞いたことがないわ」


「確かに、アームズを生身の人間がサイキックで倒すなんて、さすがに、そんなサイキッカーの話は耳にしたことがないな」


 リディアルに続き、キャスリン、ティートが驚いていた。

 しかし、拓哉は周囲に転がるアームズを眺めて息を呑んだ。

 というのも、その惨状が余りにも凄惨だったからだ。


 ――これを俺がやったのか……決意はしたが……


 誓いを立てたものの、やはりやるせなさは消せなかった。

 今更ながらに、その惨状を作り出したことに罪悪感を抱いていると、それをたしなめる声が耳に届いた。


「ダメよ。ここで同情なんて以ての外だわ。だって、彼等は私達を殺すつもりで攻撃してきたのだから。気を緩めれば、私達かああなるのよ?」


 真剣な表情を浮かべたクラリッサから窘められて、拓哉は自分の左手に視線を向けて、自分自身に言い聞かせる。


 ――そうだな。相手を倒すということは、自分が倒されることを覚悟する必要があるんだ。気を許せば、リディが死ぬかもしれない。キャスが死ぬかもしれない。ティトが死ぬかもしれない。クラレが……それはダメだ。だから、これで良いとは言わないが、俺達を殺すつもりで向かってくる者に、情けを掛けてはいけないんだ。でなければ、俺が、いや、俺の大切な者達がこうなってしまうんだ。


 ジッと自分の左手を見詰めていた拓哉が、ゆっくりと顔を上げる。


「すまない。でも、もう大丈夫だ」


 再び落ち込んでいた拓哉は、自分の中でその問題の決着をつけて頭を下げる。

 すると、クラリッサが少し寂しそうな表情で、コクリと頷いた。


「それなら良かったわ……さっきも言ったけど、あなたが罪悪感を抱く必要はないのよ。全ては、私の所為なんだから」


 クラリッサからすれば、何もかもが自分の所為だと感じている。

 ドライバーの件のみならず、戦いに巻き込んだのは、自分だと考えていた。

 しかし、拓哉は違うと感じてしまう。


「いや、それは違うぞ。切っ掛けこそ、クラレに関係があるけど、俺の為すことは自分自身の責任だ。お前が背負い込むことじゃない。クラレこそ自分を責めるのを止めてくれ」


「でも……」


 クラリッサが俯いたまま逡巡する。

 それでも、全ては自分の責任だという彼女の考えが気に入らない。


「ダメだぞ! 約束してくれ。そんな考えは止めると。俺は自分の意思で行動しているんだ。周りの所為にするような情けない男にさせないでくれ」


「わ、分かったわ。でも、本当にごめんなさい」


 クラリッサは不満そうにしながらも、直ぐに笑顔を作って頷くと、再び拓哉の胸に顔を埋めようとした。

 拓哉も条件反射の如く、それを受け止めようとしたのだが、そこで再び咳払いが聞こえてくる。


「うほん! うほん!」


 ――ぬぬ……そうだった。みんなが居たんだ……また結界を作り出してしまうところだった……


 拓哉としては、それを拙いと感じたのだが、クラリッサは違ったようで、まなじを吊り上げて、不機嫌な表情を作り出した。

 おそらく、私達の幸せな一時ひとときに茶々をいれるなと、言いたいのだろう。

 その気持ちは同じなのだが、キャスリンの空気を読めという視線も解からなくもない。

 それ故に、拓哉は直ぐに話を戻すことにした。


「あれはサイキックだ。今なら解かる。あれはリカルラが睡眠学習で、強制的に植え付けたサイキックの使用方法なんだ」


「さすがは、リカルラ先生……恐ろしいものを植え付けますね」


 カリナが納得の表情で頷いているが、確かにその通りだ。

 使用した拓哉自身がおののくほどの力なのだから。

 しかし、クラリッサがすかさずカリナの意見を否定する。


「違います。植え付けたサイキックが凄いのではなくて。使用するタクヤのサイキック能力が凄いのです」


「確かにそうだろうな。オレ達にあれを教えられても……絶対に、あんな威力は出せないだろうし、いや、サイキックの枯渇でぶっ倒れるかもな」


 否定の声に、ティートが同意する。

 納得の表情で、何度も頷いていた。

 すると、キャスリンがそれに賛同する。


「そうよね。あたし達なら、あのアームズを浮かすことすらできないわよね」


 ――どうだろう。クラレなら使えるかもしれないけど……


 疑問を抱きつつ、生きているのかも定かではないアームズに視線を向ける。

 その眼差しから何を感じ取ったのか、カリナが状況を口にする。


「これくらいの怪我なら問題なく元通りになりますよ。恐らく死んだりしていないでしょう。アームズはこう見えても、かなり丈夫ですからね」


「そうよ。タクヤの世界とは医療技術が段違いなのよ。だから、タクヤや私の傷なんて、一瞬で元に戻るわよ。だから、気にしなくていいわよ。綺麗な体のまま、あなたのものになるわ」


 カリナの言葉に便乗するかのように、クラリッサがフォローするのだが、その内容は些か場違いかもしれない。

 そんなカリナやクラリッサが口にした言葉は、拓哉を安堵させるための台詞だった。

 ただ、それを聞いたリディアルが、今更ながらに感心する。


「ま、まあ、誰のものになるかは良いとして、その丈夫なアームズがこのざまか……リカルラ博士が言っていた最強という台詞は、冗談じゃなかったみたいだな」


 リディアルとしては、自分が目にしたことで、初めてそれに気付いたようだが、それが面白くなかったようだ。クラリッサが即座に食らいついた。


「何を言っているの? そんなことは、初めから分かっていることだわ。タクヤは人類最強のサイキッカーであり、この世界最強のPBAドライバーなのよ」


 ――おいおい、持ち上げ過ぎだ。幾ら公認の仲とはいえ、それは言いすぎだろ。いや、そういう仲だからこそ気を付けないと……


「バカップルだな!」


 拓哉が懸念けねんしていた言葉を、呆れた様子のティートが口にした。

 しかし、それもクラリッサが否定する。


「な、なにがバカップルよ! 事実を口にしただけよ。だって、タクヤに勝てる者などいないのだから」


「く、クラレ、も、もういいから、もう分かったからな。な! いや、こんなことをしてる場合じゃないだろ?」


 これ以上は、ティートの発言を確固たる事実に変えてしまうだけだ。

 そう考えた拓哉は、直ぐに話を変えることにした。

 すると、ティートが隣のキャスリンに、ぼそぼそと何かを告げる。

 ただ、サイキックの使用方法を理解した拓哉は、無意識にその会話を全て聞き取ることになる。


「キャス、お前、あのバカップルに割り込めるのか?」


「あぅ……どんどん自信がなくなる……でも、負けないわ」


 その会話の内容が何を意味するのか、さすがに鈍感な拓哉でも分かろうというものだ。

 しかし、拓哉は敢えて無かったことにする。


 ――聞かなかったことにしよう……今の俺には荷が重い……


 彼女達の話の内容を把握した拓哉は、取り敢えず敵前逃亡を決断した。そして、ダグラス将軍の居る特別収監室に向かうことにした。


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