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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
116/233

113 お前は悪魔か!?

2019/1/30 見直し済み


 それは、とても不思議な現象だった。

 宙に舞うシリコン玉、その向こうに銃を持つ兵士達の姿が見えた。

 その者達の形相は、まるで恐怖そのものと出会ったかのように引き攣っていた。

 そんな兵士の腕や脚に、まるで光学照準オプティカルサイトのような表示が脳裏に描かれる。

 それを不思議に思いつつも、次の瞬間に、拓哉は念じた。兵士には申し訳ないが、拓哉達もここでやられる訳にはいかないのだ。


 ――行け! ぶち抜け!


 きっと、この強い想いが拙かったのだろう。

 宙に舞っていたシリコン玉が、まるでせいを得たかのように標的へ向かって放たれる。

 今度は自分の番だとでもいうように、シリコン玉が先を争うようにして、拓哉が脳裏に描かれた着弾ポイントにと吸い込まれていく。


「うぎゃ!」


「ぐおっ!」


「ぐはっ!」


 発せられる個々の声こそ違えども、どれもが苦痛を表す呻きとなって響き渡った。

 それと同時に、拓哉の視線の先では、赤い霧が吹き荒れる。


「こ、これは……」


 その光景を目にして、拓哉は思わず絶句する。

 拓哉の予想していたものと、全く異なっていたからだ。


 ――なぜだ。こんな話は聞いていないぞ……確かに、一度に二、三発で使用しろとは聞いていたが……こんなことになるなんて……


 自分のなした所業に動揺する。

 しかしながら、その光景に恐怖心を抱いたのは、拓哉だけだったようだ。


「さすがは、タクヤね。一瞬で殲滅せんめつだわ」


 誰一人として負傷していない兵士達を見やり、クラリッサがめ称えた。

 そう、先程まで銃を撃ち捲っていた兵士達は、まるで死屍累々(ししるいるい)といった様子で横たわっている。いや、それだけではなく、殆ども者が鮮血に濡れていた。

 それでも、拓哉以外の者達は、その光景を見て驚くことはあっても、恐怖することはないようだ。


「すげ~、瞬殺だぞ! タク、それは、いったい何なんだ?」


 未だに動揺から立ち直れない拓哉に向けて、ティートがシリコン玉に目を向けた。


「シリコン玉ですね」


 シリコン玉を掌に乗せたカリナが事実を告げる。

 ただ、そのシリコン玉は撃ち出す前と違い、赤色に見えたのは、拓哉の勘違いではないだろう。

 彼女は何らかのサイキックを使って、撃ち出したシリコン玉を回収したのだ。


「シリコン玉で、この威力なのか?」


 血が付着していることを全く気にしていないのか、リディアルが異なる感想を口にする。

 彼の表情には、威力に対する驚きこそ浮かんでいるが、血に対する拒絶はないようだった。


 ――リディもか。みんな、この惨劇に異常を感じないのか……いや、今は戦時下だ。これくらいで驚く俺が幸せ者なのかもしれないな……


 呆然と血塗れた兵士達を見やり、そんなことを考えていると、今度はトリガハッピー中のキャスリンが感嘆かんたんの声をもらす。


「おいおい、シリコン玉でぶち抜いたのか。凄すぎるだろ。最高にイカしてるぞ。アタイにも別のをぶち込んでくれよ」


 とんでもない発言を平然と口にするのだが、拓哉はそれすらも気にならないほどに動揺していた。

 もちろん、クラリッサが冷たい視線をキャスリンに向けたのは言うまでもないだろう。

 拓哉としては、そんなことよりも、この状況に目を背けることなく、普通に受け入れている彼女等の方が凄いと感じていた。


「タクヤのサイキックは、PBAのコックピットハッチをぶち破るのよ。これくらいは普通だわ。だって、水ですら高速で撃ち出せば凶器になるのだから……ただ、それよりも、キャスリン。あとで話があるわ」


 なぜか自慢げなクラリッサの言葉を聞き、確かにその通りだと感じる。ただ、それを自分が行ったと思うと寒気を抱く。ましてや、それを人に向けて撃ち放ったかと思うと、凍り付くような思いに駆られていた。

 その想いは、拓哉をいつまでも動揺させる。しかし、そこで、カリナが口を開いた。


「取り敢えず先を急ぎましょう。派手にやられているように見えますが、兵士達の傷は軽いものです。こうしている間にも、反撃される可能性があります」


 ――あんたもこの惨状の片棒を担いでるんだが……まあ、決断したのは俺だし、実行したのも俺だからな。責任転換するきはないが……


 全く気にすることなく脚を進めるカリナを見やり、拓哉は不満をぐっと飲み込んで、重い脚を動かし始めた。









 この基地は、なんとも珍妙ちんみょうな造りをしていた。

 なんといっても、一階から地下四階へまで降りられるエレベーターがないのだ。いや、もしかしたらあるのかもしれないのだが、拓哉達の行く先には、一階ずつしか移動できないエレベーターがあるだけだった。

 もちろん階段も同様で、直行できるルートがなかった。

 何を意図してこのような造りとしたのかは不明だが、全く以て利便性が悪いとしか言いようがない。

 ただ、逆に、拓哉達のような侵入者があった場合には、対処する時間が稼げるようにも思うので、全く無意味ではないのだろう。

 未だ動揺をしている拓哉は、違和感を抱きつつも脚を動かしているのだが、なぜか追手が現れることはなかった。

 結局のところ、地下三階では戦闘が行われなかった。

 それに安堵しつつ、拓哉達は階段を使って地下四階に降りた。しかし、その途端、事態が急変した。

 カリナが、分厚い鉄の扉を押し開けた時だった。


「拙いです。下がってください」


 慌てて扉を閉めたカリナが、焦った様子でそう告げてくる。

 彼女の声に反応して、誰もが急いで階段を上り始めると、地下四階に入る鉄の扉がひしゃげて吹き飛んだ。

 その分厚い扉は吹き飛ぶだけではなく、もの凄い勢いで拓哉達に向かってきた。


「くっ!」


 吹き飛んできた鉄の扉をサイキックの障壁でさえぎったクラリッサが、厳しい表情で苦悶の声を漏らす。

 扉が音を立てて転がるのを見やり、安堵した拓哉だったが、すぐさま地下四階の入り口に視線を向ける。

 というのも、階段を転がり落ちる分厚い鉄の扉が、まるで紙屑かみくずのようにクシャクシャになっていたからだ。


「どういうことだ?」


「おいおい、ここにきてアームズかよ……」


 鉄の扉の有様を目にして訝かしむ拓哉だったが、その言葉は、隣にいるリディアルの呻き声で掻き消された。


 ――アームズ? それって、なんだ?


 アームズを知らない拓哉は、リディアルの驚きを理解できない。しかし、扉のあった場所に突き出された腕を見て理解する。


 ――ああ、ロボットスーツか……


 そんな思いと同時に、扉のなくなった入り口から異様な影が伸びてきたかと思うと、人間よりも一回り大きい存在が姿を見せた。

 姿を現したのは、日本で言うところのパワードスーツやロボットスーツと呼ばれる類の戦闘兵器だ。


 ――ちっ、日本では介護用として活躍してるんだがな……さすがは異世界だ。戦闘用があるとは、思いもしなかったぞ。


 それは、日本で開発された介護用のロボットスーツとは、明らかに違っていた。

 それがどこだと問われると、全てだとしか答えようがない。

 脚、腕、胴、頭、全てにおいて装甲が取り付けられ、小型の人型ロボットのように見える。

 おまけに、しっかりと武装されている。


「あれの能力は?」


「最悪だわ」


 その小型ロボット風のパワードスーツについて問いかけると、クラリッサが厳しい表情のまま、答えにならない返事をしてきた。

 それだけで、拓哉は事態の深刻さを察する。

 ところが、気に掛けない者も居るようだ。


「かんけ~ないね! 食らえ! おらおら!」


 トリガハッピー発動中のキャスリンが、とても女性とは思えない堂々とした恰好で、サイキック銃を撃ち捲る。

 きっと、彼女はこの事実を思い出して、あとで涙することになるだろう。


「キャス、あとで泣くなよ。タクが見てるんだからな! ほれ! オレの弾も喰らいな」


 罵声と共に撃ち捲るキャスリンの隣に、呆れた様子のティートが並ぶ。

 彼女は忠告じみた言葉を吐きながら、両手にした銃でサイキック弾を放ち始める。

 しかし、すぐさまリディアルが愚痴をこぼす。


「ダメだ。ちっとも効かね~! ジェネレーター付きかよ。サイキックシールドも半端ないな」


 彼の言う通り、キャスリンとティートが放ったサイキック弾は、ものの見事に弾かれていた。

 ただ、障壁を維持するクラリッサが、リディアルにツッコミを入れる。


「はぁ? リディアル君の弾は、一発も当たってないわよ」


「うぐっ……」


 ――おいおい、この距離で当たらないのか? 幾らなんでもあんまりだろ!


 ツッコミを受けて愕然がくぜんとするリディアル。

 拓哉もさすがにフォローできない。

 しかし、いまは、そんなことを言っている場合ではない。


 ――ダメだ。ここは、一旦退くしかない。


 すぐさまそれを口にしようとしたのだが、再びカリナがスッと、拓哉の前にやってきた。


 ――ぐはっ! 嫌な予感しかしね~ぞ!


 彼女は、拓哉から分捕ぶんどった袋を持ち出したのだ。

 こうなると、次の展開は、火を見るよりも明らかだ。

 しかし、相手がパワードスーツとなると、勝手が違う。


 ――いやいや、いくら何でもシリコン玉であの装甲は貫ぬけね~よ。何を考えてるんだこの人……


 ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべるカリナに、冷やかな視線を向けながら、必死に首を横に振ってみせるのだが、彼女は「さあ、どうぞ」と言い放ちながら右手を振り上げた。

 その行為で、宙にはシリコン玉がバラ撒かれる。


 ――くそっ、ダメでも文句言うなよ!


 相手が生身ではなく、装甲を持つ兵器であることで、先程まで抱いていた罪悪感がいくらか和らいでいた。

 さっきと同じ要領でシリコン玉を撃ち出す。但し、狙い目は腕や脚ではなく、その関節だ。


「ぶち抜け!」


 ――あっ、また言っちまった……でも、今度は装甲があるし、さっきみたいなことはないよな。


 なんて考えた拓哉が甘かったようだった。

 そう、アームズと呼ばれるパワードスーツの腕や脚が、拓哉の放ったシリコン玉の着弾と同時に吹き飛んでいったのだ。


「マジかよ……」


「「「はぁ!?」」」


 その結果は、さすがに予想外だったのか、誰もが呆気に取られる。

 サイキック銃で全くダメージがなかったというのに、拓哉が放ったシリコン玉は見事に効果を発揮した。

 その有様を目の当たりにして、あまりの驚きに、拓哉は声すらなくしてしまう。

 その横では、そんな拓哉の背後では、リディアル、キャスリン、ティート、三人が凍り付いていた。

 ところが、まるで当たり前だと言わんばかりの声が聞こえてくる。


「さすがだわ。そう、私の相方は最強よ」


「そうね。さすがですね」


 その声に視線を向けると、自慢げなクラリッサが無意味に胸を張り、カリナが納得の表情で頷いていた。


 ――いやいや、ちょっとまて~い! どう考えても、シリコン玉でパワードスーツの腕や脚が吹き飛ぶのはおかしいだろ! あれじゃ、中に乗っている奴の腕や脚も吹き飛んでる……あう……


 思わずツッコミを入れそうになったのだが、自分の仕出かしたことを考えてドップリと落ち込む。

 そんな拓哉の前で、カリナが袋から手を出して、そこに乗せられた物をジャラジャラと言わせた。


 ――おいっ! それシリコンじゃないぞ! いつの間に入れ替えたんだ! どこの手品師だ! いや、どこの詐欺師だ!


「ごめんなさい。ちょっと、ウォルフラムの玉に変えさせてもらいました」


 カリナは、恰もテヘペロしそうな雰囲気で暴露する。

 当然ながら、それに不満を抱かない訳がない。


 ――おいおい、ウォルフラムって、地球で言うタングステンじゃね~か! そんなものをぶち込ませるなよ。お前は悪魔か!


 思わず苦言を口にしようとしたのだが、性懲しょうこりもなくアームズと呼ばれるパワードスーツを装着した兵士がゾロゾロと現れ、その話は、一旦、棚上げされることになった。


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